採用コストは増、応募は減…そんな企業に「高齢者採用」が選ばれ始めた理由

【企業様向け】シニア採用

1.採用難の現実 ― 増えるコスト、減る応募

人材獲得競争の激化と採用単価の上昇

近年、多くの企業が「採用しても応募が集まらない」「費用ばかりかかる」という課題に直面しています。特に中小企業では、大手と比べて知名度や待遇面で不利な立場にあるため、採用活動に苦戦するケースが少なくありません。

リクルートの「中途採用実態調査(2023年)」によると、1人あたりの中途採用コストの平均は約110万円と年々上昇傾向にあり、人材紹介会社や求人広告への出稿が経営を圧迫する事例も増えています。さらに、広告を出しても応募数が伸びず、結果的に採用単価がさらに上がるという悪循環に陥るケースも見られます。


求職者のニーズ変化とミスマッチの拡大

採用活動の難化の背景には、求職者側の価値観の変化もあります。若手世代は「給与」や「安定性」だけでなく、「働きがい」「柔軟な働き方」「リモート対応」などを重視する傾向が強まっています。そのため、従来のような「フルタイム・固定シフト前提」の求人では、そもそも応募対象から外れてしまうことも。

一方で、企業側は長く勤められるフルタイム人材を求めがちで、結果的にニーズのミスマッチが拡大しています。このような採用市場の構造的な変化が、従来型の採用戦略を根本から見直すタイミングを示していると言えるでしょう。


2.なぜ今「高齢者採用」が注目されているのか

業務分解・効率化の視点が生まれ、組織改善の契機に

高齢者を新たに採用する際、多くの企業がまず直面するのが「どの業務を任せられるか」の見直しです。体力的な配慮や就業時間の柔軟性を考慮する必要があるため、現場では「高齢者でも無理なく対応できる業務」を切り出す作業が求められます。この“業務分解”こそが、今、企業の生産性を見直す大きなきっかけとなっています。

具体的には、フルタイム社員が行っていた業務の中から、定型的で時間単位で切り出せる業務(例:書類整理、来客対応、簡易的な清掃、軽作業など)を抽出することで、現場の業務全体が可視化されます。これにより、業務の属人化が防がれ、マニュアル化やIT化も進みやすくなるという副次的なメリットも期待できます。

さらに、こうした業務の切り分けは、若手社員の時間的な余裕を生み出すことにもつながります。高齢者に任せられる部分を分離することで、若手には企画や提案、改善業務などの“考える仕事”に集中してもらえる体制を構築できるようになるのです。

このように、高齢者採用は単なる人材補充ではなく、「働き方改革」や「業務効率化」を実現する突破口になり得ます。人手不足の解決と同時に、職場の生産性そのものを底上げする取り組みとして、多くの企業が注目し始めているのです。


採用後の定着率が高く、教育コストも軽減

高齢者採用の大きなメリットの一つに「定着率の高さ」があります。厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告(令和5年)」によれば、60歳以上の就業者のうち、実に約7割が「できる限り働き続けたい」と回答しており、就労意欲は非常に高いことがわかります。

シニア層は、転職を繰り返す傾向が低く、「仕事があること」や「人の役に立てること」に価値を見出しているため、一度就職すると長く勤めてくれる傾向があります。結果として、企業側は頻繁な採用活動を繰り返す必要がなくなり、コストと時間の両面でメリットが生まれます。

さらに、シニア層は業務に対して真摯な姿勢を持つ人が多く、基本的なビジネスマナーが備わっているケースも少なくありません。新卒や若手層に比べて、導入研修や基礎教育にかける工数が少なくて済み、即戦力としての活躍が期待できます。とくに、単純作業や顧客対応などのルーティン業務においては、安定的なパフォーマンスを発揮する傾向があります。

このように、採用から定着・活躍までを含めた“トータルコスト”で見たとき、高齢者人材は非常に費用対効果の高い存在であり、採用効率を重視する企業にとって理想的な選択肢となっているのです。


3.組織に安定感と多様性をもたらす存在

高齢者の採用は、人手不足の解消だけでなく、組織そのものに“安定感”と“多様性”という付加価値をもたらします。企業にとって、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が共存することは、リスク分散とイノベーションの両立を実現するうえで重要な要素です。

たとえば、シニア層は人生経験や職業経験が豊富であり、困難な場面にも落ち着いて対応する力があります。現場でのクレーム対応や新人のフォローといった場面でも、冷静な判断と柔らかなコミュニケーションで周囲を支えてくれる存在になることが多く、職場の「潤滑油」としての役割を果たしてくれます。

また、若手社員との年齢や価値観の違いは、最初こそギャップになることもありますが、適切な役割分担と相互理解が進めば、非常に良いチームワークが育まれます。年上の社員がいることで、若手が「相談できる相手」「見本とする働き方」を持つことができ、社内の教育・定着環境の質も向上します。

さらに、ダイバーシティ経営の観点からも、年齢にとらわれない採用を実現することで、企業の社会的評価やESG対応にもプラスになります。CSR(企業の社会的責任)を重視する顧客や取引先にとっても、シニア雇用を推進する企業は好印象を与えることができます。

このように、高齢者の雇用は「戦力確保」の枠を超えて、組織文化や企業価値の向上にも寄与する重要な施策となっているのです。


4.高齢者を採用する際の実務ポイント

法的な留意点と就業条件の整備

高齢者を雇用する際には、年齢に起因する法的な留意点や、就業条件の見直しが必要です。まず重要なのが、高年齢者雇用安定法への対応です。2021年の法改正により、企業には65歳までの雇用確保が義務化され、70歳までの就業機会確保が「努力義務」となりました。これは、定年後の再雇用や雇用延長だけでなく、業務委託や社会貢献事業など幅広い働き方の選択肢を認める方向に制度がシフトしていることを示しています。

また、年齢に基づく差別は禁止されています。求人票や面接時に「年齢制限あり」と明記したり、健康状態を過度に理由にした選考を行ったりすることは原則NGです(厚生労働省「年齢にかかわりない採用の実現に向けて」より)。

加えて、高齢者には体力や持病などの個別事情がある場合も多いため、就業条件の柔軟な設計が求められます。たとえば、「週3日、1日4時間から可能」「短時間正社員制度の活用」「段差のない作業環境整備」など、年齢に応じた働き方への配慮が定着・活躍を後押しします。

さらに、雇用契約書には定年後再雇用や有期雇用の場合の契約更新条件などを明確に記載しておくことが望ましいです。万が一、雇止めなどのトラブルが発生した場合にも、明文化されたルールがあることで法的リスクを軽減できます。

シニア雇用は「人道的」な取り組みであるだけでなく、法的にも適切な運用が求められる“戦略的施策”です。制度面の理解を深め、事前に整備することが、企業としての信頼性向上にもつながります。


活用できる助成金・支援制度

高齢者の採用を検討する企業にとって、見逃せないのが「助成金・支援制度」の活用です。国や自治体は、シニア人材の雇用を後押しするために、さまざまな支援策を用意しています。これらを活用すれば、人件費の一部を補填でき、採用に踏み切るハードルを大きく下げることが可能です。

代表的な制度が、65歳超雇用推進助成金です。これは、企業が65歳以上でも働ける制度を導入した場合に支給されるもので、「定年の廃止」「継続雇用制度の導入」「希望者全員の70歳までの雇用確保」などの取り組み内容に応じて、最大160万円(2024年度時点)が支給されます。

また、特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)も注目されています。これは、60歳以上の高齢者をハローワーク経由で新たに雇い入れた企業に対して、最大60万円(中小企業の場合)が支給される制度です。初めてシニア人材を採用する企業にとっては、費用負担を軽減する有効な手段となります。

さらに、各自治体でも独自の支援制度を設けている場合があります。たとえば、東京都では「高齢者就業促進モデル事業」として、企業へのコンサルティング支援やマッチングサポートを実施しており、他県でも同様の取り組みが広がっています。

助成金は「知らなければ使えない制度」でもあるため、採用検討時には必ずハローワークや労働局、または社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。制度を活用することで、経済的負担を抑えながら、持続可能なシニア採用を実現することができます。


5.働きやすい職場環境づくりのコツ

高齢者が安心して長く働ける職場をつくるには、「環境整備」と「コミュニケーション」が鍵を握ります。身体的な負担への配慮や、心理的な安心感を与える取り組みは、シニア人材の定着・活躍に直結します。

まず重要なのは物理的な職場環境の見直しです。たとえば、段差の解消、滑りにくい床材の使用、座って作業できる椅子の配置、十分な明るさの照明など、高齢者にとって安全で快適な作業空間を整えることが基本です。また、空調の温度管理やトイレのバリアフリー化なども、小さなようでいて非常に重要な要素です。

次に大切なのが柔軟なシフト設計や勤務条件の調整です。シニア層は「フルタイムで毎日働きたい」という人ばかりではなく、「週2~3日」「午前のみ」「短時間勤務」などの希望が多く見られます。そうしたニーズに合わせて勤務体系を設計することで、応募のハードルが下がり、結果として人材確保につながります。

さらに、社内の受け入れ体制や意識の醸成も見逃せません。高齢者が職場で疎外感を抱かないよう、周囲の若手社員にも「シニア人材との接し方」や「お互いを尊重する姿勢」について研修やオリエンテーションを行うと良いでしょう。年代を超えたコミュニケーションを促進する機会(雑談タイム・交流イベントなど)も有効です。

また、仕事の内容を限定せずに成長の余地を残しておくことも、やりがいの面で重要です。単純作業だけでなく、指導係や品質チェック、業務改善提案など、経験を活かせる業務を任せることで、モチベーションを保ちながら活躍してもらえます。

こうした取り組みを積み重ねることで、シニア層は「自分が必要とされている」と実感し、結果として長期定着・戦力化につながっていくのです。


6.高齢者採用を成功させた企業の実例

業務の分解と役割設計で活躍の場を創出

ある中堅製造業では、深刻な人手不足をきっかけに高齢者の採用を始めました。しかし、最初は「どの業務を任せられるのか」がわからず、現場の混乱も懸念されていました。そこで企業が行ったのが、業務内容の徹底的な“見える化”です。

業務ごとに「頻度」「スキル要件」「身体的負担」「緊急性」といった視点で棚卸しを行い、全体を細かく分解。その結果、毎日決まった時間に行う部品チェックや清掃、在庫棚卸し、梱包作業など、マニュアル化しやすい定型業務が明確になりました。

これらの業務を「高齢者専用タスク」として再設計し、定年後の再雇用者や新たに採用したシニア人材に担当してもらう体制を構築したのです。現場では、業務内容が明確になったことで新人の教育工数も減り、全体の作業効率も改善。若手社員はより専門性の高い仕事に集中できるようになりました。

この事例では、「シニアのために仕事を創る」のではなく、「業務を最適化した結果、シニアが活躍できる余地が生まれた」という順序で設計が進んだ点が、成功の大きな要因となっています。


若手社員との協働で生まれた相乗効果

高齢者人材の採用が、若手社員の育成や職場環境の改善に貢献した事例も増えています。ある小売業の現場では、レジ業務や商品補充などを担う高齢者スタッフと若手社員が協働することで、職場の雰囲気や教育体制が大きく変わりました。

高齢スタッフは、長年の接客経験を活かしてお客様との対応やトラブル処理に落ち着いて対応し、若手社員はその様子を間近で学ぶことができます。特にコミュニケーション力やマナー面では、マニュアルでは得られない“実践的な学び”が生まれると好評です。

また、企業側はあえて「ベテラン×若手」のペアを組ませることで、お互いが得意な分野を補い合う体制を整えました。高齢スタッフは商品の補充や接客に集中し、若手はシステム操作や在庫管理などのデジタル業務を担当。年齢やスキルの違いを逆に活かす組み合わせにしたことで、効率も上がり、チームとしての一体感も強まりました。

こうした世代間の協働は、互いに尊重し合う文化の醸成にもつながります。若手社員にとっては「経験豊富な先輩と一緒に働ける安心感」があり、高齢者にとっても「若い人から学べる刺激」があります。結果として、どの世代にも“働きがい”が生まれ、定着率の向上にも寄与する好循環が実現したのです。


まとめ:採用戦略を転換し、未来を切り拓く

高齢者採用は「攻め」の人材戦略

これまで高齢者採用は、「人手不足の苦肉の策」や「CSRの一環」として捉えられることが多くありました。しかし今、採用の現場ではその認識が大きく変わりつつあります。業務分解による効率化、組織の多様性強化、定着率の向上といった“実利”が見えてきたことで、高齢者採用は「戦略的な選択肢」として再評価されているのです。

また、少子高齢化による労働力人口の減少が続くなかで、働く意欲の高いシニア層を無視することはもはやできません。むしろ、先んじて受け入れ体制を整えた企業こそが、今後の採用競争を優位に進められると言えるでしょう。


まずは小さく始めて実感するのがおすすめ

高齢者採用を始めるにあたって、最初から大規模に導入する必要はありません。「週2日・短時間のパートタイム採用」や「定年退職者の再雇用からスタート」といった、小さな一歩からでも十分に効果を実感できます。

業務の棚卸しや環境整備、制度設計など、取り組むべきことはありますが、それ以上に得られるメリットは大きく、職場全体の働き方や意識までもが変わっていきます。

今こそ、採用戦略の視点を“若年層偏重”から“多様な世代の活用”へと広げるタイミングです。企業の持続可能性と成長性を高めるうえで、「高齢者採用」は新たな突破口となるはずです。

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