1. 採用ブランディングとは?|注目される背景と企業にとっての重要性
採用ブランディングとは、企業が「働きたい」と思われるブランドイメージを意図的に構築し、求職者に伝える活動のことです。商品やサービスにおける「ブランド戦略」と同じように、人材市場において「自社はどんな企業で、どんな価値を提供できるのか」を発信していくことで、応募者の心を惹きつけます。
従来の採用活動は「求人票を出す」「人材紹介を利用する」といった短期的な施策が中心でした。しかし、少子高齢化と人手不足が進む中で、単なる求人広告では十分に人材を確保できなくなっています。実際、厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」(2024年)によれば、有効求人倍率は全国平均で1.2倍を超えており、特に介護・運輸・建設などの業界では人材不足が深刻です。
こうした背景から、企業は「選ばれる立場」として、求職者から見て魅力的な存在であることを示す必要性が高まっています。つまり「採用=買い手市場」ではなく「売り手市場」になっており、いかに自社の魅力をブランディングできるか が、採用成果を左右する時代になっているのです。
採用ブランディングはまた、単なる外向けの発信だけでなく、社内の従業員満足度やエンゲージメントの向上にも寄与します。自社のビジョンや価値観を再整理し、社員一人ひとりに浸透させるプロセスは「社内広報」や「人材定着策」にも直結するからです。
2. 採用ブランディングの具体的なメリット|応募者・社員・企業への効果
採用ブランディングを強化すると、単に応募数が増えるだけでなく、応募者・社員・企業それぞれに多面的なメリットが生まれます。ここでは主な効果を整理してみましょう。
応募者にとってのメリット
採用ブランディングがしっかりできている企業は、求人票やWebサイトを見るだけで「どんな人が働いているのか」「社風はどのようなものか」がイメージしやすくなります。応募前からミスマッチを減らせるため、求職者は安心してエントリーできるのです。結果として「応募の質」が高まり、採用プロセス全体が効率化されます。
社員にとってのメリット
採用ブランディングは社内へのメッセージでもあります。企業の理念や価値観を外部に発信する過程で、社員自身も「自分がどんな会社で働いているのか」を再確認できます。その結果、エンゲージメント(働きがい)が向上し、離職率の低下や社内の一体感強化につながります。実際、米国の調査会社Gallupによる「State of the Global Workplace 2022」でも、エンゲージメントの高い企業はそうでない企業に比べて離職率が43%低いと報告されています。
企業にとってのメリット
採用活動の効率が上がることに加え、長期的なコスト削減 という効果も見逃せません。ミスマッチによる早期退職を防ぐことで、追加採用や教育にかかるコストを抑えられるからです。また、「働きやすい会社」という評判は自然と口コミやSNSを通じて広がり、企業イメージの向上につながります。これは採用だけでなく、取引先や顧客に対してもプラスに作用する副次的効果を持っています。
さらに、近年注目されている「多様性(ダイバーシティ)経営」とも親和性が高いのが採用ブランディングです。高齢者や女性、外国人など、多様な人材が安心して働ける環境をアピールできれば、企業の競争力そのものが強化されます。
3. 成功する採用ブランディングの実践ステップ
採用ブランディングは単発の施策ではなく、企業文化や採用戦略を一貫して伝える「継続的な活動」です。ここでは、人事担当者が実際に進めやすいプロセスを、より詳しく解説します。
ステップ1:自社の魅力を棚卸しする
採用ブランディングの第一歩は、まず「自社の強み」を整理することです。給与や福利厚生といった条件面だけでなく、働きがい・人間関係・社会貢献 といった「情緒的価値」も重要な要素です。
・例:社員の平均勤続年数が長い → 「安心して働ける環境」
・例:地域ボランティア活動を実施 → 「社会に貢献できる会社」
社内アンケートを実施すると、経営層が把握していない意外な魅力が浮かび上がります。PwCの調査(2023年「The Future of Recruiting」)でも、採用ブランディングの成否を分ける要因として「従業員からのフィードバック活用」が挙げられています。
ステップ2:ターゲット人材を定義する
次に「誰に響かせたいか」を明確にします。新卒、ミドル、シニア、専門職など、層ごとに重視するポイントが違うためです。
・新卒 → 成長機会、教育制度、キャリアアップ
・ミドル層 → 安定性、裁量権、働きやすさ
・シニア層 → 健康配慮、やりがい、柔軟な勤務形態
ターゲットを定義することで、情報発信に無駄がなくなり、メッセージがより刺さりやすくなります。
ステップ3:発信チャネルを選定する
魅力を伝える媒体を選ぶことも重要です。
・公式採用サイト:会社の理念や社員インタビューを充実させる
・求人媒体:ターゲットが利用するサイトを選ぶ(若年層ならSNS、シニア層なら地域紙やハローワークなど)
・動画コンテンツ:現場社員の声をリアルに伝える
LinkedInの調査(2022年「Global Talent Trends」)では、求職者の約75%が「企業の文化や価値観を調べてから応募を決める」と回答しており、チャネル選びと情報の一貫性が欠かせません。
ステップ4:一貫性あるメッセージを設計する
採用ブランディングの効果を高めるには、「企業のアイデンティティ」を一貫して打ち出すことが不可欠です。
例えば、
・「地域社会に根差す企業」
・「社員の健康第一」
・「挑戦する人を応援する会社」
といったキャッチフレーズを設定し、採用ページ、SNS、説明会資料など、あらゆる接点で繰り返し伝えることで、応募者の記憶に強く残ります。
ステップ5:効果を検証し改善する
最後に、定期的な検証を行います。
KPIとしては、
・応募数
・内定承諾率
・定着率
・採用単価
などが代表的です。例えば、採用ブランディングに力を入れた企業の多くは、応募者の質が向上し、結果として採用単価が削減される傾向が見られます。
検証→改善を繰り返すことで、自社に最適化されたブランディング手法が確立され、長期的な採用力強化につながります。
4. 高齢者採用における採用ブランディング活用法
少子高齢化に伴い、企業にとってシニア人材の活用は避けて通れない課題となっています。厚生労働省「高年齢者の雇用状況」(2024年)によると、65歳以上で働く人は900万人を超え、過去最多を更新しました。こうした背景から、採用ブランディングにおいて「高齢者にどう響くか」を意識することが極めて重要です。
高齢者に響くメッセージとは
若手向けの「キャリアアップ」「スピード成長」といった訴求は、シニア層には必ずしも響きません。むしろ以下のようなメッセージが効果的です。
・健康に配慮した職場環境(短時間勤務や座り作業など)
・社会に貢献できるやりがい(地域貢献や後進育成など)
・人間関係の安心感(チームの一員として受け入れられる雰囲気)
例えば求人ページに「健康診断の充実」や「柔軟な勤務時間制度」を明示するだけでも、安心感が大きく変わります。
具体的な施策例
1.社員インタビューにシニアを登場させる
実際に働くシニア社員の声を紹介すると、応募者は自分を重ねやすくなります。
2.研修やサポート制度を可視化する
「未経験歓迎」「定年後も安心して働ける研修あり」と明記することで、応募ハードルを下げられます。
3.社会的意義を強調する
企業の社会貢献活動とリンクさせ、「地域や社会の役に立つ」ことを強調すると、シニア層のモチベーションに直結します。
社内への波及効果
シニア採用を積極的に打ち出すことは、単に応募者を増やすだけではありません。若手社員にとっては「多様性のある職場で学べる」環境が整い、企業全体のブランド力向上につながります。さらに「社会課題に取り組む企業」というポジティブなイメージが社外にも広がり、CSR(企業の社会的責任)の観点からも評価が高まります。
5. 採用ブランディングを広げる露出方法|オンラインからオフラインまで
採用ブランディングの効果を最大化するためには、メッセージをどのように「露出」させるかが重要です。せっかく魅力的なブランドを設計しても、ターゲットに届かなければ意味がありません。ここではオンラインとオフラインの両面から有効な方法を解説します。
オンラインでの露出方法
1.採用サイトの強化
自社公式の採用ページは、ブランドの“母艦”とも言える存在です。企業理念、社員インタビュー、働き方の特徴を写真や動画で発信することで、応募者の共感を呼びやすくなります。
2.SNSの活用
X(旧Twitter)、Instagram、LinkedInなどでの発信は、若年層だけでなく中高年層にもリーチできます。最近ではFacebookがシニア層への訴求に有効なケースも多く報告されています。
3.動画コンテンツ
YouTubeでの会社紹介動画や「1日の仕事風景」を公開すると、文字情報よりも直感的に職場を理解してもらえます。Indeed Japanの調査(2022年)でも、動画を含む求人はクリック率が約30%高いと報告されています。
オフラインでの露出方法
1.会社説明会・合同面接会
特に地域に根ざした企業では、対面イベントで直接雰囲気を伝えることがブランド形成に効果的です。
2.地域メディアとの連携
地域新聞やフリーペーパーに企業活動を紹介してもらうと、シニア層を含む幅広い世代にアプローチできます。
3.社内外イベント
地域のボランティア活動やスポーツ大会などに協賛し、社員の参加風景を発信することで「社会とつながる企業」という印象を強められます。
一貫性がカギ
複数のチャネルを活用する際に重要なのは「一貫性」です。メディアによって発信する言葉やデザインがバラバラだと、応募者に混乱を与えかねません。常に「自社の軸となるメッセージ」に沿って露出を重ねることで、ブランドイメージが定着しやすくなります。
6. まとめ|採用ブランディングで企業の未来を強くする
採用ブランディングは「求人広告を出す」だけの従来型採用とは異なり、企業の価値や文化を発信し続ける長期的な取り組みです。人材不足が常態化する今の時代、応募者に「ここで働きたい」と思ってもらえるブランドを築けるかどうかが、採用成功の分かれ道となります。
本記事で紹介したように、まずは自社の魅力を棚卸しし、ターゲットに合わせたメッセージを設計し、一貫性を持って発信していくことが基本です。さらに、オンライン・オフラインを組み合わせて露出を広げることで、より多くの人に自社の魅力を届けられます。
特にシニア人材の採用においては、「健康配慮」「やりがい」「社会貢献」といった価値を前面に出すことで、経験豊富な人材を惹きつけやすくなります。それは単なる採用の成功にとどまらず、若手社員への教育や社内の多様性向上、さらには企業イメージ全体の向上にも直結します。
採用ブランディングを強化することは、単に人を集める施策ではなく、企業の未来を強くする経営戦略 そのものです。今こそ「選ばれる企業」への第一歩を踏み出し、持続的な人材確保と組織力強化につなげていきましょう。
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