1.人手不足が深刻化する中小企業の現状
採用難が常態化する背景とは
多くの中小企業が直面している課題のひとつが「人手不足」です。特に若年層の労働力が減少するなか、採用活動を行っても応募が集まらず、長期にわたり欠員が埋まらないケースも珍しくありません。
この背景には、少子高齢化による労働人口の減少があります。厚生労働省の調査によると、日本の15〜64歳の生産年齢人口は、1995年をピークに年々減少しており、2030年には全人口の59.4%まで縮小する見込みです(※出典:総務省「令和4年版 高齢社会白書」)。
加えて、都市部への人口集中や若者の職業観の変化により、地方や中小企業への応募はますます減少傾向にあります。求人広告を出しても「誰も来ない」状態が、今や当たり前となりつつあるのです。
若年層だけに頼るリスク
採用活動において「若い人材を採りたい」というニーズは根強くありますが、若年層に限定した戦略はもはや限界です。競争率が高いだけでなく、入社後すぐに離職するリスクも高いため、採用コストや教育コストが無駄になることも。
一方で、ミドル・シニア層は転職市場においても安定志向が強く、勤務態度や責任感も高い傾向にあります。年齢にとらわれずに、実力や意欲で判断する採用戦略への転換が求められているのです。
2.なぜ今、高齢者採用が注目されているのか
就業意欲が高まる高齢者層の実態
近年、定年後も「働きたい」と考える高齢者が増加しています。内閣府の調査(※出典:「高齢者の経済生活に関する調査(令和3年)」)によると、60代後半の約6割が「仕事を続けたい」と回答。理由は「健康維持」や「生活費の補填」だけでなく、「社会とつながりたい」という前向きな動機が多数を占めています。
こうした背景から、高齢者は「意欲ある労働力」として注目されています。従来は引退対象だった年齢層が、今では企業にとって頼れる戦力となり得るのです。
政府の支援制度と追い風になる法改正
政府もこうした流れを後押ししています。2021年4月には「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、企業に対して70歳までの就業確保措置を努力義務とするよう求めています。さらに、「65歳超雇用推進助成金」など、高齢者を採用・雇用する企業に対する補助金制度も整備されています。
これらの制度を活用すれば、企業はコストを抑えながら高齢者採用を進めることができ、人手不足解消にもつながる好循環が生まれます。
3.高齢者を採用することで得られる3つのメリット
業務効率化を考えるきっかけになる
高齢者の採用は、企業にとって業務の見直しや効率化を促す良い機会になります。なぜなら、シニア層は体力やスピードに制限がある場合も多く、「誰でもできる・属人化しない業務設計」を意識せざるを得ないからです。
たとえば、倉庫業や清掃業では、重いものを持たずに済む仕組みや、作業手順の標準化を進める企業が増えています。これにより、若手にとっても働きやすく、離職防止にもつながるという副次的効果も生まれています。
また、業務分解(タスクの細分化)によって、簡易な業務をシニアが担い、専門性の高い仕事を若手や中堅に集中させることも可能です。これは「人的資源の最適配置」にもなり、組織全体の生産性向上に寄与します。
職場の多様化につながり、組織が活性化する
高齢者が職場に加わることで、年齢・世代の異なる価値観や経験が融合し、組織に新たな視点と学びが生まれます。これは、いわゆる「ダイバーシティ経営」の一環でもあり、企業文化を柔軟かつ成熟したものへと進化させる力を持っています。
特に注目したいのは、若手社員との相互作用です。高齢者の豊富な経験から得られる助言や支援は、若手社員の成長を加速させる要素になります。一方で、若手がシニアにデジタルツールの使い方を教えるような場面もあり、双方向の学びが発生します。
こうした「多世代共創」の職場は、社員同士の理解が深まり、社内コミュニケーションの質が向上するという副次的な効果も期待できます。結果として、職場全体の雰囲気が良くなり、従業員満足度の向上にもつながります。
定着率の高さで採用コスト削減につながる
高齢者の大きな特長のひとつが「定着率の高さ」です。定年後に再就職を希望するシニア層は、生活リズムや価値観が安定しており、一つの職場で腰を据えて働く傾向があります。
一般的に若年層の離職率が高く、採用コストや教育コストが無駄になりがちなのに対し、高齢者の方が長く続けてもらえる確率が高く、結果としてコスト効率のよい採用になります。
また、仕事に対する責任感やまじめさも評価されるポイントです。週2〜3日の短時間勤務でも戦力として計算でき、ピンポイントの時間帯に人手がほしい企業には非常に相性の良い人材層といえるでしょう。
4.高齢者採用を成功させるための実践ポイント
仕事内容と勤務条件の工夫
高齢者にとって無理のない働き方を設計することが、採用成功の第一歩です。たとえば、「週2日勤務」「午前中だけ」などのシフトを用意すれば、応募のハードルが下がります。加えて、「座り仕事」「力仕事なし」といった条件を明示することで、安心して応募してもらえます。
また、職種によっては「見守り」「案内」「受付」「清掃」「監視」など、身体的負担が少なく、経験を活かせる仕事が多く存在します。こうした仕事に特化して求人を出すのも有効です。
社内での受け入れ体制と意識改革
高齢者採用を成功させるには、既存社員の理解と協力が欠かせません。「年齢が高いから教えるのが大変そう」「デジタルが苦手では?」といった先入観を払拭するためにも、事前の説明会や意識づけの場を設けると効果的です。
また、シニア向けのマニュアルやOJT制度を整備することで、受け入れ後のギャップも減らせます。定期的な面談などを通じて、コミュニケーションを密にすることで、双方の信頼関係を築いていくことが可能です。
活用できる求人手法と支援制度
高齢者採用に強い媒体や支援制度を活用することで、効率的に採用活動を進められます。たとえば、ハローワークの「生涯現役支援求人」や、シニア向け求人サイト(例:キャリア65)では、年齢に配慮した求人掲載が可能です。
また、「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」や「65歳超雇用推進助成金」などの公的支援制度も活用できます。これらの制度を利用することで、採用から定着までのコストを抑えることができ、企業にとっても大きなメリットになります。
5.まとめ:高齢者採用は中長期の戦略として有効
組織の多様性と持続的成長の実現
少子高齢化が進む今、高齢者採用は単なる“応急処置”ではなく、持続可能な採用戦略の一環です。年齢や性別、バックグラウンドを超えた人材が共に働く職場は、柔軟性があり、変化に強い組織へと進化していきます。
まずは一歩踏み出すためにできること
「いきなりは難しい」と感じる企業でも、まずは1人、週2日勤務の高齢者を採用してみる。そんな小さな一歩が大きな変化を生み出します。自社に合った仕事の切り出しや、受け入れ準備を整えつつ、専用の求人媒体を使って募集をかけてみることをおすすめします。
経験豊富なシニア人材をお探しなら、無料で求人掲載できるシニア専門の求人サイト「キャリア65」をぜひご活用ください。