1. 暑さ指数(WBGT)とは?|熱中症リスクを“見える化”する指標
「今日は暑いな」と感じる日があっても、実際にどれだけ体に負担がかかっているのかを判断するのは難しいものです。特にシニア世代にとって、暑さは思った以上に身体に負担をかけます。そんな時に役立つのが、「暑さ指数(WBGT)」です。
WBGTとは「Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)」の略で、単なる気温だけでなく、湿度・日射・風の強さ・地面からの照り返しといった要素を加味して算出されます。つまり、「体が感じる暑さ」や「熱中症の危険度」をより正確に示してくれる数値なのです。
日本では、環境省がWBGTの数値に基づいて熱中症警戒情報を発信しており、全国の暑さ指数をリアルタイムで確認できる「熱中症予防情報サイト」も公開されています(出典:環境省熱中症予防情報サイト https://www.wbgt.env.go.jp/)。
この暑さ指数は以下のように5段階でリスクレベルが設定されています。
WBGT(暑さ指数) | 危険度の目安 | 推奨される対応例 |
---|---|---|
31℃以上 | 危険 | 外出・運動は原則中止 |
28〜31℃未満 | 厳重警戒 | 激しい運動は中止、こまめな休憩と水分補給 |
25〜28℃未満 | 警戒 | 激しい運動は避け、定期的な水分補給を |
21〜25℃未満 | 注意 | 暑さに慣れていない人は要注意 |
21℃未満 | 安全 | 通常の活動が可能 |
このように、気温だけではわからない「隠れた危険」も可視化できるのが暑さ指数の特徴です。特にシニア世代は、汗をかきにくくなったり、喉の渇きを感じにくくなったりするため、数字に頼って対策を取ることが重要です。
2. なぜシニア世代は暑さに弱いのか?|加齢と暑熱順化の関係
「昔は夏でも平気だったのに、最近はすぐにバテるようになった」と感じたことはありませんか? この変化には、年齢とともに進行する身体機能の変化が深く関係しています。
● 加齢による“暑さセンサー”の低下
シニア世代が暑さに弱くなる大きな理由の一つが、「体温調節機能の低下」です。人間の体は、暑さを感じると汗をかいたり血管を広げたりして体温を下げようとします。しかし、高齢になるとこの調整機能が鈍くなり、汗をかきにくくなる・皮膚の血流が減る・喉の渇きを感じにくくなるといった変化が起きます。
その結果、体に熱がこもりやすくなり、熱中症リスクが一気に高まるのです。
● 暑熱順化がしにくい体に
「暑熱順化(しょねつじゅんか)」とは、暑い環境に慣れていくことで、体が適応する反応のことをいいます。若い人は徐々に暑くなる季節の中で自然と順化できますが、高齢者ではこの順化が遅れたり、うまく働かないことがわかっています(出典:環境省『熱中症環境保健マニュアル2022』)。
そのため、急に気温が上昇した日や梅雨明けの直後などは、特に注意が必要です。
● 基礎疾患や薬の影響も
また、高血圧・糖尿病・心疾患といった基礎疾患を抱える人や、利尿剤・降圧剤・睡眠薬などを服用している方は、暑さによる体調変化がさらに激しくなることがあります。これも、高齢者が暑さに対してリスクを抱えやすい背景の一つです。
このように、年齢を重ねることで体の“暑さに対する防御機能”は確実に低下していきます。では、そんな体を守るために、私たちは日常生活の中で何ができるのでしょうか?
次は、暑さ指数を活用した体調管理の方法を見ていきましょう。
3. 暑さ指数のチェック方法|日常でできる“気温以上”の体調管理
熱中症対策において、「今日は何度?」という気温だけでは不十分です。特にシニア世代は、自覚症状が出にくいため、暑さ指数(WBGT)を日常的にチェックする習慣を持つことが、健康を守る第一歩になります。
● 暑さ指数はどこで確認できる?
もっとも手軽な方法は、環境省が提供する「熱中症予防情報サイト」を利用することです。全国の地域ごとの暑さ指数(WBGT)を、1時間単位で確認できます。スマートフォンやパソコンが使える方は、ブックマークしておくと便利です。
また、自治体によっては暑さ指数メール通知サービスを提供している場合もあります。住んでいる地域の役所や市のホームページをチェックしてみましょう。
スマホが苦手という方には、温湿度計付きの暑さ指数チェッカー(1,000円〜3,000円程度)も市販されています。キッチンタイマーのような見た目で、数字とランプの色で「安全」「注意」「警戒」「厳重警戒」「危険」を知らせてくれるので、視覚的にわかりやすいのが特徴です。
● チェックするタイミングと注意点
以下のような場面で、WBGTのチェックを習慣にすると効果的です。
・朝の出勤前(特に屋外作業がある方)
・午後の気温が上がる時間帯前(13〜15時がピーク)
・屋外活動前(買い物・散歩・家庭菜園など)
特に、暑さ指数が「警戒(25〜28℃)」以上の日には、日陰で休む・こまめに水分を取る・無理をしないといった判断が必要です。
● 体調管理のサインにも注目を
数値だけでなく、自分の体のサインにも敏感になることが大切です。たとえば:
・めまい、立ちくらみ
・汗を全くかかなくなる
・手足のしびれや吐き気
こうした症状が出た時には、「ちょっと休めば治るだろう」と我慢せず、すぐに涼しい場所へ移動し、水分と塩分を補給してください。
日々のちょっとした確認が、熱中症の予防につながります。では、実際に仕事現場ではどのように暑さ指数を活用できるのでしょうか?次で詳しくご紹介します。
4. 仕事現場での熱中症対策|暑さ指数を活用した働き方の工夫
高齢者が働く現場では、体調管理だけでなく作業環境やスケジュールの工夫も重要です。特に夏場は、暑さ指数を意識することで、無理なく安全に働く方法が見えてきます。
● 暑さ指数で「働く時間帯」を調整する
暑さ指数が高くなるのは、日差しが強く、風のない午後1〜3時ごろ。外作業がある場合は、できるだけ午前中の涼しい時間帯に作業を集中させるのが効果的です。
例えば:
・草むしり、掃除、荷物運び → 朝9時までに終える
・配達や移動 → 夕方17時以降に回す
・室内作業 → 日中の暑い時間帯に行う
パートタイムの仕事でも、「時間帯を調整できる職場」を選ぶ意識が、安全な働き方に直結します。
● 水分補給は“のどが渇く前”に
高齢になると、喉の渇きを感じにくくなります。暑さ指数が「警戒(WBGT 25〜28℃)」を超える日は、30〜60分に1回、コップ一杯(150〜250ml)の水分補給を目安にしましょう。
さらに、塩分補給も忘れずに。スポーツドリンク、塩タブレット、みそ汁など、無理なく摂取できるものを準備しておくと安心です。
● 職場でも「暑さ指数を見える化」しよう
一部の事業所では、暑さ指数を毎朝掲示板やホワイトボードに書き出す取り組みが始まっています。これにより、職場全体での注意喚起がしやすくなり、「今日は厳重警戒だから作業を軽減しよう」といった判断がスムーズになります。
特に、シニアが多く働く以下のような職場では、暑さ対策を日常化するのがおすすめです。
・マンション管理、清掃現場
・配送補助や新聞配達
・駐車場、交通誘導などの警備業務
・公園や公共施設の軽作業
● 勇気を持って「休憩する」選択も大切
暑さ指数が「31℃以上(危険)」の日には、無理に働かず、休憩することが最善策です。高齢者にとっての熱中症は命に関わるリスクがあるため、働き方を柔軟に調整できる職場環境を探すことも、夏を乗り切るポイントになります。
5. 実際の活用例|暑さ指数を意識して変えた働き方のビフォーアフター
実際に暑さ指数を取り入れたことで、健康を守りながら無理なく働けるようになったシニアの方々がいます。ここでは、2名のビフォーアフター事例をご紹介します。
● 事例①:マンション清掃(72歳女性)
Before|炎天下でも毎日同じ時間に作業
Aさんはマンションの共用部清掃のパートをしており、午前10時から午後2時の間に屋外のゴミ集め・床清掃をしていました。真夏になると毎年のように「立ちくらみ」「頭痛」「動悸」があり、それでも「仕事だから」と我慢して作業を続けていたといいます。
After|暑さ指数を基に“時間割”を変更
管理会社からWBGTの掲示が始まり、Aさんは暑さ指数が「28℃以上(厳重警戒)」の日は朝7時台から屋外清掃をスタートし、日中は日陰のごみ集積場や屋内階段の作業に切り替え。「無理をせずに、元気なまま家に帰れるようになった」と笑顔を見せています。
● 事例②:交通誘導警備(68歳男性)
Before|日中シフトが中心で体力がもたず…
Bさんは再雇用で警備の仕事をしていましたが、夏は日中のシフトが中心で体調を崩す日も増加。「水分を取っていても、午後になると体がだるく、集中力が切れる」と感じていたそうです。
After|WBGTを見ながらシフト調整&水分タイムの導入
暑さ指数が高い日は、シフトを夕方〜夜間に変更。また、同僚と声を掛け合って1時間に1回の「水分休憩タイム」を設けたことで、体調の維持と仕事のパフォーマンス向上を両立できるようになりました。
● ポイント:働き方は自分で“選べる”時代に
これらの事例に共通するのは、「暑さ指数を意識して、働く時間や作業内容を調整した」ことです。特にシニア世代にとっては、無理をしない働き方を見つけることが、長く健康に働き続けるコツになります。
6. まとめ|暑さ指数を味方に、無理せず健康に働こう
夏の暑さは年々厳しさを増しており、特にシニア世代にとっては「命に関わるリスク」と言っても過言ではありません。しかし、暑さ指数(WBGT)という“見える指標”を活用することで、自分の体を守りながら、健康的に働き続けることが可能になります。
この記事では、暑さ指数の基本知識から、体が暑さに弱くなる理由、そして実際の活用例までをご紹介しました。ここで改めて、重要なポイントを振り返っておきましょう。
■ 本記事のポイントまとめ
・暑さ指数(WBGT)は、気温だけでなく湿度や日射などを加味した「熱中症リスクの見える化」指標
・高齢者は、体温調節機能や喉の渇き感覚が鈍るため、暑さに気づきにくく、熱中症リスクが高い
・毎朝の暑さ指数チェックと、時間帯・作業内容の調整が、健康維持のカギ
・働く現場でもWBGTを意識した対策が進んでおり、無理をしない働き方の選択が重要
・働き方を変えるだけで、体調も働きやすさも大きく改善する可能性がある
暑さ指数は、決して専門的な人だけが使うものではありません。70代のあなたでも、毎日の生活の中に簡単に取り入れられるツールです。
日々の安全と健康を守るために、まずは「今日はどのくらい暑いのか?」を知ることから始めてみましょう。
そして、無理なく健康に働ける仕事や、暑い時間帯を避けて働ける柔軟な職場環境を選ぶことも、長く元気に活躍し続けるための知恵です。
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