1. なぜ今、記憶力チェックが注目されているのか?
年齢を重ねるにつれ、「あれ、名前が思い出せない」「うっかり約束を忘れてしまった」など、ちょっとした“もの忘れ”が増えるのは自然なことです。特に70代を超えると、脳の働きの一部である記憶力に変化が出やすくなります。
とはいえ、日常生活に支障をきたすほどの記憶力低下は、加齢による自然な変化ではなく、認知機能の衰えのサインかもしれません。そのため、早めに気づき、対策をとることが大切です。
●「早期発見」がカギになる時代へ
厚生労働省によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると言われています(※出典:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」)。しかし、その一方で「早期に気づいて、適切な生活習慣を取り入れれば進行を遅らせることができる」という研究結果も増えています。
●日常の気づきが、健康寿命を伸ばす
記憶力チェックは、単に脳年齢を測るためのものではありません。「今の自分の状態を知る」ことで、生活を見直すきっかけになるのです。
・栄養は足りているか?
・運動や人との会話はできているか?
・睡眠の質は落ちていないか?
こうした日常の要素が、記憶力や脳の健康に大きく関わってきます。
「ちょっと気になるかも」と思った今こそ、自分の記憶力をチェックしてみることが大切なのです。
2. 3分でできる!自宅で簡単な記憶力セルフチェック法
「最近、もの忘れが気になるけれど、病院に行くほどでもない」――
そんな方におすすめなのが、自宅でできる記憶力セルフチェックです。時間も手間もかからず、たった3分で自分の“脳年齢の目安”を知ることができます。
ここでは、専門機関が紹介している2つの簡単チェック法をご紹介します。
【方法①】3語記憶テスト(厚労省「認知症チェックリスト」より)
やり方:
1.3つの単語(例:「さくら」「テレビ」「バス」)を覚える
2.1分程度、他の会話や簡単な計算をして注意をそらす
3.先ほどの3単語を思い出す
結果の目安:
・3つすべて思い出せた → 記憶力は良好
・1~2個しか思い出せない → 軽度の記憶低下がある可能性
・1つも思い出せない → 一度、専門医への相談を検討しても◎
※引用元:厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」に基づく簡易チェック
【方法②】時計描画テスト(日本認知症学会推奨)
やり方:
・「時計の絵を描いてください」と言われたと仮定し、
・丸を書いて、任意の時間(例:11時10分)をアナログで描く
チェックポイント:
・文字盤の数字が正しく並んでいるか
・指定された時間を正確に描けているか
・短針と長針の区別がついているか
結果の目安:
・時計の絵が正常に描ければ、空間認識や計画力に問題なし
・数字がずれていたり、針の位置が極端におかしい場合、認知機能の低下の可能性あり
※引用元:一般社団法人 日本認知症学会「認知症予防の手引き(2023年度版)」
【方法③】数字の逆唱テスト(WMS-Rより)
やり方:
1.「4、1、7」など、3〜5桁の数字を口頭で読み上げる(または誰かに読んでもらう)
2.それを逆の順番で復唱する(例:「7、1、4」)
難易度を少しずつ上げていきましょう(例:4桁→5桁など)
チェックポイント:
・逆に言えるのは短期記憶と注意力の維持ができている証拠
・間違えやすくなってきたら注意サイン
※引用元:Wechsler Memory Scale-Revised(WMS-R)に基づくテスト形式
※日本でも高齢者認知機能検査でよく用いられる
【方法④】カテゴリーフルエンシーテスト(動物しりとり)
やり方:
1.1分間で「動物の名前」をできるだけ多く挙げる(犬、猫、ゾウ…など)
2.書き出すか、家族に数えてもらう
目安:
・12個以上 → 良好
・8〜11個 → やや注意
・7個以下 → 認知機能の低下が疑われる
※引用元:日本神経心理学会誌・藤田保健衛生大学の研究報告(2016)
※カテゴリーフルエンシーテストは前頭葉の働きを測るため広く使用されている
【方法⑤】カテゴリー・フルエンシー・テスト(言葉の流暢性テスト)
やり方:
・「1分間で○○をいくつ言えるか」という方法で、語彙力・記憶力・集中力を測る。
おすすめのテーマ例:
・「動物の名前」
・「食べ物の名前」
・「趣味に関する単語」など
評価の目安(例:動物の名前)
・15個以上:非常に良好
・10~14個:平均的
・9個以下:語想起力の低下がある可能性
※引用元:Lezak M.D. (1995). Neuropsychological Assessment. Oxford University Press.
【方法⑥】漢字再生テスト(国立長寿医療研究センターの研究より)
やり方:
1.画面や紙で4つ程度の漢字(例:海、空、林、花)を数秒間見せる
2.30秒~1分後に、記憶している漢字をすべて書き出す
ポイント:
・見てすぐに再生 → 短期記憶
・少し時間をおいて再生 → 遅延記憶(長期記憶の入口)
※引用元:国立長寿医療研究センター「記憶障害と認知症の早期発見に関する研究」(2022)
【方法⑦】買い物リスト記憶テスト(実生活連動型)
やり方:
1.「買い物リスト」を5~7品、頭の中で覚える(例:牛乳、卵、パン、りんご、ヨーグルト
2.5分後に、紙に思い出せるだけ書き出す
チェックポイント:
・覚えていた数が多いほど記憶力が保たれている
・2~3個しか思い出せない場合、記憶保持力が落ちてきている可能性も
※引用元:東京都健康長寿医療センター監修「生活機能チェックシート(記憶編)」
テスト名 | 主な機能 | 実施時間 | 出典/監修機関 |
---|---|---|---|
3語記憶テスト | 短期記憶 | 約2分 | 厚労省(新オレンジプラン) |
時計描画テスト | 認知機能全般 | 約3分 | 日本認知症学会 |
数字の逆唱テスト | 注意・短期記憶 | 約1分 | WMS-R |
カテゴリーフルエンシーテスト | 語想起・記憶力 | 約1分 | Neuropsychological Assessment |
漢字再生テスト | 視覚記憶 | 約3分 | 国立長寿医療研究センター |
買い物リスト記憶テスト | 実用記憶 | 約5分 | 東京都健康長寿医療センター |
●ポイント:テストは「定期的に」行うことが重要
1回だけで結果を判断するのではなく、月に1回の目安で定期的にセルフチェックするのが理想的です。もし「前より忘れやすくなった」「描いた時計が乱れてきた」と感じたら、それが変化のサインかもしれません。
3. 脳年齢が気になる方へ|結果の見方と判断基準
記憶力チェックの結果は、“できた・できなかった”だけで一喜一憂するものではありません。
大切なのは「自分の脳の状態を把握し、生活改善につなげる」という視点です。
●「脳年齢」とは?
“脳年齢”とは、脳の働きがどの程度保たれているかを年齢に換算した目安のこと。
特に記憶力、注意力、判断力などを測定するチェックで、その推定値が示されることがあります。
たとえば、50代の方でも「脳年齢が70代」と判定されることもあれば、70代の方でも「脳年齢が60代」と若く出るケースもあります。
●結果の見方のポイント
各チェック方法の結果はあくまで「傾向」です。
以下に、一般的な判断基準をまとめました:
結果のパターン | 判断の目安 |
---|---|
多くの項目で基準値以上 | 脳の健康状態は良好。今後も維持が重要 |
一部の項目で基準値を下回る | 注意が必要。生活習慣や睡眠の見直しを検討 |
ほとんどの項目で基準値以下 | 専門医に相談を。より詳しい認知機能検査を推奨 |
●「脳年齢=認知症」ではない
重要なことは、「脳年齢が高く出た=認知症」というわけではない点です。
脳年齢はあくまで記憶力や注意力の機能の状態を数値化した目安にすぎず、一時的なストレス・睡眠不足・栄養不足でもパフォーマンスは低下します。
●何度か測って、推移をチェックする
人間の脳の調子は、体調や気分に左右されるもの。
1回の結果にとらわれず、定期的にチェックして“変化の傾向”を見ることが最も重要です。
●注意すべき兆候とは?
以下のような状態が複数あてはまる場合は、一度専門機関に相談することをおすすめします。
・最近、同じ話を何度もしてしまうと指摘された
・薬の飲み忘れが頻繁にある
・電車やバスの乗り間違いが増えた
・計算や段取りが苦手になってきた
これらは加齢では説明できない認知機能の低下の可能性があるため、放置せず行動に移すことが大切です。
4. 記憶力の低下を感じたら?今日から始めたい脳のトレーニング
記憶力の衰えを感じたとき、すぐに「年だから仕方ない」とあきらめていませんか?
実は脳も筋肉と同じように、適切なトレーニングを重ねれば、機能を維持・改善することが可能です。
ここでは、シニア世代でも無理なく取り組める「脳トレ法」をご紹介します。
●① 計算・漢字パズル|基本の“脳ストレッチ”
脳を刺激する王道の方法が、「簡単な計算」や「漢字の書き取り」。特に前頭葉と側頭葉(記憶や思考を司る領域)に刺激が入ります。
・100マス計算
・漢字クロスワード
・熟語しりとり など
1日5分でOK。継続することが大切です。
※参考:川島隆太教授(東北大学)による脳科学研究「簡単な計算や読み書きが脳機能を活性化する」(2005年)
●② 音読や会話|声に出すことが脳を活性化
黙読よりも音読や会話のほうが脳が活性化するという研究があります。これは「言語野」だけでなく、「感情」や「記憶」をつかさどる領域にも作用するためです。
・毎日新聞記事を1つ音読する
・誰かに今日の出来事を話す
・俳句や詩を読み上げる
こうした“話す・聞く・考える”の連動が、記憶力アップにつながります。
※出典:国立長寿医療研究センター「オーラルフレイル予防と認知機能維持の関係」(2020)
●③ ウォーキング+α|「ながら運動」が効果的
体を動かしながら軽い課題をこなす「デュアルタスク運動」も、脳トレに有効です。
特にウォーキング中に簡単な計算をしたり、道中で見たものを思い出すことで、運動と認知刺激の両方を一度に取り入れられます。
例:
・「今日は何曜日?」を歩きながら口に出す
・「昨日の晩ごはんに何を食べたか」を思い出しながら歩く
※引用元:東京都健康長寿医療センター「認知症予防のための運動プログラム」(2021)
●④ 好奇心を刺激する「新しい経験」も脳トレ
脳は“新しいこと”に出会うことで活性化します。たとえ簡単なことであっても、「いつもと違うことをする」だけで脳は刺激を受けます。
・新しい趣味にチャレンジ
・地域のサークルに参加
・行ったことのない場所へ出かける
「非日常」の体験が、記憶力維持のスイッチになるのです。
5. 記憶力を保つための生活習慣と環境づくり
記憶力の低下を防ぐには、日々の暮らしの中で“脳にやさしい生活習慣”を意識することが欠かせません。
特別な機材やトレーニングがなくても、食事・睡眠・人との交流などを見直すことで、脳の健康を長く保つことができます。
●① 食事|脳を支える栄養をしっかりと
脳のエネルギー源は「ブドウ糖」ですが、神経細胞の維持にはビタミンB群・DHA・抗酸化物質が重要です。
・青魚(サバ/イワシ):DHA・EPAが豊富で、認知機能の維持に◎
・緑黄色野菜/ナッツ類:ビタミンE、抗酸化物質が豊富
・卵/大豆製品:記憶や集中力を高めるコリンを含む
※参考:農林水産省「スマート・ライフ・プロジェクト」健康寿命の延伸に向けた食生活ガイド(2021)
●② 睡眠|「記憶の整理時間」を確保する
質のよい睡眠は、記憶の定着に欠かせません。睡眠中に脳は記憶を整理・固定すると言われています。
・毎日同じ時間に寝る/起きる
・寝る前1時間はスマホやテレビを控える
・昼寝は20分以内にとどめる
睡眠障害や夜間頻尿がある場合は、かかりつけ医に相談することも大切です。
※出典:日本睡眠学会「高齢者のための睡眠と健康」パンフレット(2022)
●③ 人とのつながり|会話が“記憶力”の刺激に
高齢者における孤立は、記憶力や認知機能の低下と深く関係しています。
地域活動や趣味のサークルに参加したり、家族や友人と「会話する機会」を意識的につくることが、記憶力維持に有効です。
・地域のボランティアや趣味サロン
・オンライン通話での定期的な交流
・孫や子どもとのコミュニケーション
※引用元:JAGES(日本老年学的評価研究機構)「高齢者の社会参加と認知症予防に関する研究」(2021年)
●④ 整理整頓された生活環境
物の場所が分からなくなる、探し物が多い…そんな環境は記憶にも悪影響です。
シンプルで整った暮らしは、脳のストレスを減らし、集中力・記憶力の維持に役立ちます。
・毎日のルーティンを作る
・よく使う物は定位置に置く
・貼り紙やメモなどの「見える化」も有効
6. まとめ|記憶力のセルフチェックは“気づき”の第一歩
記憶力の低下は、ある日突然やってくるものではありません。
「なんとなく最近忘れっぽいかも…」という小さなサインの積み重ねが、大きな変化の兆しであることも。
しかし、早めに気づいて行動すれば、記憶力や脳の健康は維持できるということが、近年の研究でわかってきました。
●記憶力チェックの意義は「安心」と「予防」
3分でできる簡単なチェックでも、自分の脳の状態を客観的に見つめることができます。
・うまくできた → 今の生活習慣を続ける安心材料に
・少し気になる結果 → 脳トレや生活改善のきっかけに
・複数項目で不安 → 早めに専門家に相談するサイン
こうした小さなアクションが、“健康寿命”の延伸につながります。
●「気づいた今」がベストタイミング
何歳であっても、「今の自分を知り、動き出す」ことが記憶力維持の第一歩です。
特に70代の方にとっては、記憶力を保つことが「生きがい」や「社会参加」にも直結します。
・働くこと
・人と話すこと
・新しいことを学ぶこと
それらすべてが、記憶力や認知機能の“最高のトレーニング”なのです。
●次の一歩を踏み出そう
「まだ働きたいけれど、自信がない」「記憶力が心配で応募をためらっている」
そんな方こそ、まずは自分を知ることから始めてみてください。
そしてもし、体も心も動かしたいと思えたなら――
無理のない範囲で、もう一度「社会」とつながる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
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