1．なぜ今、採用コストが問題になっているのか
求人広告の出稿費が高騰している背景
近年、多くの企業が採用活動において大きな課題を抱えているのが「採用コストの増加」です。かつては新聞広告や求人誌が主流だった時代に比べ、現在ではインターネットを中心とした求人広告が主流となっていますが、1件あたり数万円〜数十万円にもなる掲載料がネックとなっています。
たとえば、大手求人メディアでは、正社員募集で1ヶ月掲載するだけでも20万〜40万円程度の費用が必要です。また、有料オプションを使って検索結果の上位に表示させる「スポンサー枠」も多くの企業が活用しており、結果として中小企業や地方の企業にとっては価格競争の激化に巻き込まれる構図になっています。
人材確保にかかるコストが年々増加
さらに問題なのは、広告費だけでなく、採用後の早期離職によるコストの再発生です。せっかく採用しても、すぐに辞めてしまうことで、採用・研修にかけた時間と費用が無駄になるケースが少なくありません。
厚生労働省の「令和4年雇用動向調査結果の概況」によれば、全体の離職率は14.3%。特に若年層では1年以内の離職が目立っており、企業側は繰り返し採用・育成を行わなければならない状況です。
このような背景から、「高いコストをかけても人が定着しない」「広告を出しても応募が来ない」といった悩みが深刻化し、採用戦略の見直しが急務となっています。
2．採用コストを抑えるなら“高齢者採用”に注目
高齢者は費用対効果が高い人材層
高齢者の採用は、近年注目されているコスト削減型の採用戦略のひとつです。理由は明快で、募集コストをかけずに、実績のある安定した人材を確保できる可能性が高いからです。
高齢者層はすでに子育てを終え、働く目的が「安定した収入」「健康維持」「社会参加」などにシフトしています。そのため、若手のように短期間で転職を繰り返すことが少なく、定着率が高いのが特徴です。厚労省「高年齢者雇用状況等報告」（令和5年）によると、シニアの再就職後1年以上働き続ける割合は60代前半で7割近くに達しています。
定着率・業務効率化・多様化の3拍子がそろう
高齢者採用の最大の魅力は、以下の3点が揃っていることです。
１．定着率の高さ
人生経験豊富な高齢者は、会社の方針や業務内容にも柔軟に対応でき、環境適応力があります。また、職場に落ち着きをもたらす存在としても評価されています。
２．業務効率化のヒントをもたらす
多くの高齢者は現場経験を持っており、「こうすれば効率が上がる」といった具体的な提案ができることも少なくありません。業務の“見える化”やマニュアル化のきっかけとなる場面も多く、若手が気づかない改善点を指摘してくれることがあります。
３．組織の多様化と活性化
シニア世代の価値観や経験が加わることで、若手社員との意見交換が生まれやすくなり、組織に多様性と学びの風土が根付きます。ダイバーシティ経営に取り組む企業にとっても、年齢多様性の実現はESGやSDGsの観点からも評価されるポイントとなっています。
これらの理由から、企業は「単なるコスト削減のための人材」ではなく、組織を支える戦力としてシニア層を捉える視点を持つべき時代になっているのです。
3．採用コスト0円で高齢者人材を集める方法
無料の求人掲載サービスを活用する
高齢者を対象にした採用で、まず検討すべきは無料で利用できる求人掲載サービスの活用です。代表的な例として、以下のような媒体があります。
・ハローワーク（公共職業安定所）：求人票の提出・掲載・紹介まですべて無料。特に60歳以上の求職者を対象とした「生涯現役支援窓口」など、年代別支援にも力を入れています。
・シルバー人材センター（各自治体運営）：会員登録した高齢者に対して、軽作業や短期業務のマッチングを行ってくれる地域密着型の仕組み。
・高齢者特化型求人サイト（例：キャリア65など）：年齢制限がネックにならない設計で、応募ハードルを下げられる。
これらのサービスは、求人原稿の作成サポートや職業相談員によるマッチング支援も受けられる点が魅力です。特に中小企業にとっては、広告費をかけずに母集団形成ができる手段として活用価値が非常に高いと言えるでしょう。
自治体やシルバー人材センターとの連携
地方自治体も、高齢者の社会参加・雇用促進を支援する動きを強めています。例えば、東京都や大阪府などでは「シニア就業支援セミナー」や「マッチング交流会」が開催されており、企業と高齢者が直接出会える場として活用されています。
また、各市区町村が運営するシルバー人材センターは、軽作業・清掃・受付などに適した高齢人材が多数登録されており、年間契約や短期派遣などの柔軟な形で業務を依頼できます。料金も良心的で、時給1,000円前後から依頼可能な場合も多く、採用コストだけでなく人件費の見直しにもつながります。
社内紹介制度や口コミを活かす手も
もうひとつ忘れてはならないのが、社内ネットワークを活用した採用です。たとえば現役社員やパートスタッフの家族・知人に「定年後でも働きたい」という人がいれば、その紹介を通じてゼロ円で優良な人材を確保することが可能です。
高齢者は求人サイトでの応募よりも、知人や元同僚からの声がけで働き始めるケースが多いため、社内掲示板や社内報を使った呼びかけは意外な成果を生むことがあります。
4．なぜ“高齢者向け”に求人内容を変えると応募が増えるのか？
高齢者の採用に成功している企業に共通するポイントは、「高齢者にとって分かりやすく、安心して応募できる求人情報」を出していることです。若年層向けの求人票をそのまま流用しても、シニア層には響かないケースが多いのが実情です。ここでは、高齢者が応募しやすい求人にするための工夫を具体的に紹介します。
仕事内容を「具体的かつシンプル」に書く
高齢者は、「何をどこまでやるのか」が曖昧な求人には応募しづらい傾向があります。たとえば「清掃業務」とだけ書くよりも、「共用部の掃き掃除・モップ掛け、ゴミ回収など」といったように具体的な作業内容を箇条書きで表記することで、不安が軽減されます。
また、「未経験OK」と併記していても、「本当に教えてもらえるのか」と感じる方もいるため、「初日は必ずマンツーマンで指導」など、研修体制があることも明記しましょう。
働く日数・時間は“柔軟に”をアピール
高齢者はフルタイム勤務を望む人もいれば、「週2日だけ」「午前中だけ働きたい」というニーズもあります。そのため、求人票には「週2日〜OK」「午前のみ歓迎」など、柔軟な働き方ができることを前面に出すことが重要です。
また、通院や家庭の事情で急な休みが必要になる場合もあるため、「急な休みにも柔軟対応」といった一文があるだけで、安心して応募しやすくなります。
文字サイズや言葉選びにも配慮を
オンライン求人で高齢者層に多いのは、スマートフォンでの閲覧が不慣れというケース。文字が小さすぎる、カタカナ用語が多すぎる、といった理由で離脱されることもあります。
「エントリー」「インセンティブ」「ジョブローテーション」などの専門用語は避け、日常的で分かりやすい日本語表現を使うことがポイントです。加えて、見出しや改行をしっかり使い、読みやすさにも気を配りましょう。
年齢制限がないことを明記する
シニア層が応募を迷う最大の理由の一つが「自分の年齢でも応募できるのか？」という不安です。求人票に「年齢不問」「70代も活躍中」など、自分も対象であることが明示されているかどうかで応募率が大きく変わります。
たとえば実際にキャリア65などの高齢者専門求人サイトでは、「年齢制限なし」「60代・70代歓迎」といった文言のある求人の方が2〜3倍のクリック率を記録しているという事例もあります。
まとめ：高齢者採用は“安くて効果的”な戦略である
人手不足が深刻化する中、多くの企業が「採用活動のコスト」に頭を悩ませています。しかし、求人広告に多額の費用を投じたとしても、必ずしも質の高い応募が得られるとは限らず、早期離職によって再び採用を繰り返すという悪循環に陥ってしまう企業も少なくありません。
こうした状況下で注目されるのが、高齢者を積極的に採用するという戦略です。高齢者採用には、採用コストがほとんどかからず、定着率が高く、組織の業務効率化や多様化にも貢献できるというメリットがあります。
しかも、求人掲載に費用をかけずとも、ハローワークやシルバー人材センター、無料の高齢者向け求人サイトを活用することで、十分な母集団形成が可能です。加えて、求人の出し方を「高齢者向け」に少し工夫するだけで、応募数やマッチング精度も大きく向上します。
企業にとって重要なのは、「高齢者だから無理だろう」という先入観を捨てること。実際には、週2日勤務や軽作業、定型業務など、シニア世代が無理なく取り組める業務は数多く存在しています。そして、それらの業務を担ってもらうことで、若手社員がコア業務に集中できる環境づくりにもつながります。
採用コストを抑えながら、安定した労働力を確保したい。そんな課題を抱える企業にとって、高齢者採用は“選ばれた企業”だけが知っている、最も効果的な人材戦略の一つと言えるでしょう。
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