将来が不安な独居シニアへ。成年後見制度で“もしも”に備える方法とは?

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1.成年後見制度とは?独居老人にこそ必要な制度の基本

成年後見制度の概要と仕組み

成年後見制度とは、判断能力が低下した人(認知症、高齢による衰え、知的障害など)が、財産管理や契約手続きなどを自力で行うのが難しくなったときに、本人の代わりに支援者(後見人)がそれらを行う制度です。
この制度は、2000年から施行された「成年後見制度(民法・成年後見制度に関する法律)」 によって定められ、主に家庭裁判所が監督を行います。

後見人は、本人に代わって以下のようなことを行います。

・預貯金の管理、生活費の支払い
・不動産の契約や解約
・介護サービスの契約や医療機関との手続き
?詐欺などの被害から本人を守るための法的対応

特に独居老人にとっては、自分の意思を正しく伝えられなくなったときに備える保険のような役割を果たします。


なぜ独居高齢者にとって重要なのか

現在、日本の高齢者のうち一人暮らしの割合は増加傾向にあり、2020年の総務省データによると約700万人が独居状態と報告されています。高齢になれば、認知症や身体機能の低下により、金銭的・契約的なトラブルが起きやすくなります。

家族がそばにいれば代わりに判断してくれることも、独居であればそうはいきません。こうした中で成年後見制度は、「判断が難しくなったときに備えて、自分を守ってくれる仕組みを先に整えておく」という選択肢として注目されています。

また、金銭管理や不動産の売買なども後見人が代行できるため、詐欺や悪徳商法などの被害から自分の資産を守る防波堤にもなります。


2.成年後見人の種類と役割の違いを知ろう

法定後見と任意後見の違い

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つのタイプがあります。それぞれの違いを知っておくことで、自分の状況に合った制度を選ぶことができます。

種類開始のタイミング手続き方法後見人の選び方特徴
法定後見判断能力が低下した後家庭裁判所に申立て裁判所が選任すぐに保護が必要な場合に使える
任意後見判断能力があるうちに公正証書で契約本人が自由に選べる将来に備えて準備できるのが特徴

法定後見は、すでに認知症などで判断能力が不十分になってから申請されるケースが多く、緊急時の保護に向いています。
一方、任意後見は、まだしっかりしているうちに「この人に将来のことを託したい」と決めておくことができるため、計画的に準備したい独居高齢者に適しています。


実際に成年後見人が行うこととは?

成年後見人は、本人の生活を支えるために幅広い支援を行います。主な役割は以下の3つに分類されます。

1.財産管理
 預貯金や年金の出納、不動産の管理、必要な支出の計画など。悪徳業者にだまされないよう、支払い内容もチェックします。

2.身上監護(しんじょうかんご)
 介護サービスや医療機関の契約、施設入所の手続き、生活環境の整備など、日常の暮らしに必要なサポート。

3.法律行為の代理
 例えば、訪問販売の契約解除や、重要な契約への代理署名などを行うことで、本人の法的権利を守ります。

    これらの支援は、家族がいない独居老人にとっては命綱となります。「信頼できる誰か」が後見人としてそばにいることで、将来への不安を大きく軽減することができます。


    3.成年後見制度の利用方法と手続きの流れ

    家庭裁判所への申立て手順

    成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に対して「後見開始の申立て」を行う必要があります。以下が基本的な流れです。

    1.申立人の決定
     申立てをできるのは、本人・配偶者・4親等内の親族・市町村長など。独居の方で親族がいない場合は、市区町村が申立人になることもあります。

    2.必要書類の準備
     申立書、医師の診断書、本人の戸籍謄本や住民票、財産目録などが必要になります。診断書は制度専用の様式を使います。

    3.家庭裁判所へ提出・面談
     書類提出後、裁判所での調査官との面談や医師の鑑定が行われることがあります。本人の判断能力の程度を確認するためです。

    4.後見人の選任と審判
     裁判所が適任者を選び、後見開始の審判を下します。およそ1〜2か月で決定されるのが一般的です。

    5.登記と後見開始
     法務局の「後見登記簿」に登録され、正式に後見人の活動が始まります。

      なお、申立てや手続きには「司法書士」「弁護士」などの専門家のサポートを受けることも可能です。複雑な書類準備や申立てに不安がある場合は、早めに相談しておくとスムーズです。


      費用はどれくらい?利用前に知っておくべきこと

      成年後見制度の利用には、以下のような費用がかかることがあります。

      費用項目おおよその金額
      医師の診断書約10,000〜30,000円
      申立書類作成(専門家委託)約50,000〜150,000円
      裁判所の鑑定費用(必要な場合)約50,000〜100,000円
      登記手数料2,600円
      後見人の報酬(月額)約20,000〜50,000円(資産額による)

      費用は一見高く感じられるかもしれませんが、後見人の報酬などは家庭裁判所の判断で決まるため、低所得者の場合は配慮されるケースもあります。

      また、任意後見制度では公正証書作成費用(2〜5万円前後)や、将来の見守り契約費用(月数千円〜)がかかることもあります。

      費用面に不安がある方は、市区町村の無料相談窓口や社会福祉協議会を活用すると良いでしょう。


      4.相続と成年後見制度の関係とは?

      後見人は遺産の相続手続きに関与できる?

      成年後見人は、本人の財産管理や法律行為の代理を行いますが、相続に関する手続きには厳格な制限があります。理由は、「相続」は利益相反の可能性が高く、後見人の立場では公正な判断が難しくなるからです。

      具体的には以下のようなルールがあります。

      後見人は、本人の代理として遺産分割協議に参加できない(家庭裁判所の許可が必要)
      相続放棄や特別受益の主張など、重要な判断は後見人単独では不可
      利益相反の関係にある場合(たとえば後見人が相続人)には、特別代理人の選任が必要

      つまり、本人が亡くなるまでの財産管理は後見人が行えますが、亡くなった後の相続手続きについては、別途の法的対応が必要になります。
      相続トラブルを避けるには、後見制度と並行して遺言書の作成や家族との話し合いが大切です。


      遺言書と成年後見の併用でトラブルを防ぐ方法

      独居高齢者にとって、「自分が亡くなった後の財産をどうしたいか」を明確にしておくことも重要です。
      そのために効果的なのが、遺言書の作成です。成年後見制度と併用することで、以下のようなメリットがあります。

      【併用のメリット】
      ・生前は後見制度で財産を安全に管理
      ・死後は遺言書により、相続人間の争いを予防
      ・自分の希望を文書にすることで、意思を尊重してもらえる

      特におすすめされるのが、公正証書遺言です。公証人が作成し、原本は公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配がありません。作成費用は数万円程度で済み、家庭裁判所の検認も不要です。

      成年後見制度と遺言を併せて活用することで、「生前も死後も安心」な備えが可能になります。
      将来に不安がある方こそ、元気なうちにこれらの準備をしておくことが大切です。


      5.成年後見制度のメリット・デメリットとは?

      安心できるポイント

      成年後見制度を利用することで得られる安心は、特に独居高齢者にとって大きな意味を持ちます。主なメリットは以下の通りです。

      1. 財産の適正な管理が可能になる
      預金の使い込みや詐欺被害を防ぎ、生活費・医療費・介護費の支払いが安定します。悪質商法への契約防止なども、後見人の役割の一つです。

      2. 身の回りの契約・手続きを代理してもらえる
      施設への入所手続きや医療機関との連携、公共料金の支払いなど、本人が難しい手続きを代行してもらえます。

      3. 一人でも安心して生活できる体制が整う
      判断力が落ちた後でも、信頼できる第三者がサポートしてくれる環境が用意できるのは、独居の方にとって大きな安心材料です。

      4. 家族や親族の負担軽減にもつながる
      「高齢の親が遠方に住んでいて心配…」というご家族にとっても、後見制度を利用することで精神的・実務的な負担を大きく減らせます。


      制度を使う前に気をつけたい注意点

      一方で、制度には注意しておきたい点もあります。下記のようなポイントは事前に理解しておきましょう。

      1. 一度始まると、簡単にはやめられない
      法定後見制度では、一度後見開始の審判が出ると、本人の判断能力が回復しない限り終了できません。長期的に後見人がつく状態が続くことになります。

      2. 後見人には報酬がかかる場合がある
      特に専門職(司法書士・弁護士など)が選任されると、月額2〜5万円程度の報酬が発生することがあります。財産規模によっては金銭的な負担がある点に注意です。

      3. 選任される後見人は本人の希望通りとは限らない
      法定後見では、家庭裁判所が後見人を選ぶため、親族でなく専門職が選ばれるケースも多く、意にそぐわない人物が入る可能性もあります。

      4. 後見人でもできないことがある
      前の章でも触れたように、相続の分割協議や、身分行為(結婚・離婚など)には関与できないという制限もあります。


      制度には「安心できる仕組み」である一方で、「自由が制限される」側面もあります。
      だからこそ、元気なうちに制度の特徴をよく理解し、任意後見や遺言書と組み合わせることが、後悔のない選択につながります。


      6.成年後見制度を支える地域の相談窓口とサポート

      市区町村の窓口・地域包括支援センター

      成年後見制度について不安や疑問がある場合は、まず自治体の窓口や地域包括支援センターに相談するのがおすすめです。
      これらの機関は、主に以下のようなサポートを提供しています。

      ● 成年後見制度の説明と利用方法の案内
      制度の仕組みや申立ての手順、必要書類について、無料で丁寧に解説してくれます。

      ● 家庭裁判所への申立て支援
      本人や家族が高齢で手続きが困難な場合、申立書の作成や提出サポートをしてくれるケースもあります(※一部地域では市区町村が申立人になる「申立て支援制度」あり)。

      ● 任意後見契約や遺言に関する相談
      公証人との手続きや契約内容の相談も、連携する専門職(弁護士・司法書士)とつなげてくれる場合があります。

      特に、地域包括支援センターは、介護や医療・生活支援といった高齢者に関わるさまざまな相談を一括して受け付けているため、「どこに相談すればよいかわからない」という方の最初の窓口として非常に頼りになります。


      無料相談を活用しよう

      成年後見制度は法律や制度の知識が必要な分、一人で悩んでいるとハードルが高く感じてしまうかもしれません。
      しかし、以下のような場所で無料相談を受けることができます。

      相談先主な内容利用方法
      市役所・区役所の高齢福祉課制度全般の説明、書類案内など予約制・平日日中に受付
      地域包括支援センター成年後見以外の生活相談も可能各市区町村に1〜数か所設置
      法テラス(日本司法支援センター)法律相談(収入要件あり)電話・オンライン予約
      社会福祉協議会福祉サービスや専門家紹介一部地域で見守り活動も提供

      相談は無料・予約不要のケースもあるため、「まだ制度を使う予定はないけど話だけ聞きたい」という段階でも、気軽に利用できます。


      成年後見制度は、一人で備えるには難しい内容も多い制度です。
      だからこそ、地域の支援機関とつながり、相談できる場所を持っておくことが、安心できる老後への第一歩になります。


      7.まとめ:制度を知ることが安心の第一歩。自分らしい老後のために

      独居の高齢者にとって、将来の不安は「もし判断力が落ちたらどうしよう」「誰が財産を管理してくれるのか」「相続のトラブルは避けられるか」といった具体的な悩みとして現れます。
      そうした不安に備える選択肢の一つが、今回ご紹介した成年後見制度です。

      成年後見制度を活用することで、

      ・認知症などによる判断力の低下に備えられる
      ・財産を安全に管理できる
      ・医療や介護、施設入所の手続きを安心して任せられる
      ・相続や遺言とあわせて準備することでトラブルを回避できる

      といった “見えない安心” を具体的な形に変えることが可能になります。

      また、地域には市区町村や包括支援センター、法テラスなど頼れる窓口が多数あります。
      「まだ元気だから大丈夫」と思っていても、“元気な今”こそが備えどきです。
      成年後見制度を自分ごととして理解し、行動することが、将来の安心と自由を守る大きな力となるでしょう。

      「安心の暮らし」を支えるもう一歩。シニア向けの求人情報は「キャリア65」からチェックしてみてください。

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