1. そろばんが“脳にいい”と言われる理由とは?|科学的に見たその効果
そろばんは単なる計算道具ではなく、「指を動かしながら頭を使う」という特性から、現代では“脳トレ”としても注目されています。特にシニア世代にとっては、認知機能の低下を防ぎ、脳の活性化を促す手軽な方法として再評価されているのです。
実際、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授らの研究によると、「暗算」や「読み書き」のような“前頭前野”を刺激する活動が、認知機能の維持・向上に効果的であるとされています。そろばんを使った計算は、この前頭前野だけでなく、視覚や聴覚、手指の動きも連動して刺激されるため、複数の脳領域を同時に使う高度な脳トレになるのです。
また、珠をはじくという動作は、指先の細かな動きを伴い、脳の「運動野」や「感覚野」を活性化させます。いわば“全脳型”のトレーニング。これにより、集中力や記憶力、注意力などが鍛えられるとされています。
加えて、そろばんには「達成感」を得やすいという利点もあります。問題を解けたときの満足感は、脳内の報酬系を刺激し、モチベーションの維持にも効果的です。続けやすく、楽しい脳トレとして、そろばんはシニア世代にぴったりの健康習慣といえるでしょう。
2. シニア世代にそろばんが再注目されている背景
かつては小学校の授業や習い事として広く普及していた「そろばん」。しかし、電卓やパソコンの登場により一時は下火となりました。ところが近年、再び注目を集めているのが“脳トレ”という新たな価値が見直されたからです。
特にシニア世代にとって、そろばんは「なじみのある道具」。かつて習っていた記憶や、子どもの頃に身につけた技術が呼び起こされ、再開への心理的ハードルが低い点も再注目の理由のひとつです。70代の方でも「昔とった杵柄」を活かせる場として、そろばんに親しむ人が増えています。
また、社会全体として高齢者の健康寿命を延ばすことが求められており、「認知症予防」「社会参加」「フレイル対策」などの観点からも、そろばんが高く評価されています。たとえば、自治体の高齢者教室や地域包括支援センターが主催する“そろばん脳トレ講座”などもその一環です。
加えて、そろばんは一人でもできるうえに、教室に通えば他者との交流も生まれます。仲間と一緒に問題を解いたり、競い合ったりする中で自然な会話が生まれ、孤立の防止にも役立っています。
こうした背景から、そろばんは「脳を鍛える道具」から「地域とつながるツール」へと進化を遂げつつあります。自宅で静かに楽しむこともできる一方、教室やサークルで社会と関わることもできる、柔軟で親しみやすい選択肢として支持を集めているのです。
3. そろばん脳トレの具体的なやり方と続けるコツ
そろばん脳トレの基本は、そろばんを使って「足し算・引き算・かけ算・わり算」を行うこと。といっても、難しく考える必要はありません。簡単な一桁の足し算からスタートして、徐々にステップアップしていくことが脳への良い刺激になります。
◆ まずは「1日5分」から始めよう
継続のコツは、最初から頑張りすぎないこと。1日5分、好きな時間に取り組むだけでも脳への刺激は十分です。朝の頭を目覚めさせたい時間帯や、夕食後のリラックスタイムに取り入れるのもおすすめです。
◆ 計算プリントやアプリを活用してみよう
最近では、そろばん用の無料プリントやスマホアプリも多数公開されています。印刷して使う紙教材や、画面上で珠をはじく感覚が再現されたデジタル教材もあるため、ご自身のスタイルに合わせて選ぶと続けやすくなります。
◆ イメージそろばんで“脳力”アップ
実際にそろばんを使わなくても、頭の中に珠を思い浮かべて計算する「イメージそろばん」も非常に効果的です。脳内でそろばんを操作することで、視覚イメージ力やワーキングメモリが鍛えられます。通勤や外出の待ち時間など、いつでもどこでも脳トレができる手軽さが魅力です。
◆ モチベーションを保つには「できた」体験が大切
難しい問題に挑戦するよりも、「今日はこの問題を10問解けた!」という達成感が、継続の最大の原動力になります。カレンダーに○をつけたり、時間を計ったりと、目に見える成果を記録することで習慣化しやすくなります。
◆ 教室やサークルに通うのも一つの手
地域のそろばん教室や高齢者向け講座では、同世代の仲間と一緒に学べる環境が整っています。「今日は誰々さんに会えるから行こう」といった人間関係のつながりが、長続きするポイントになることも多いのです。
4. 脳トレ以外にも嬉しい効果!そろばんがもたらす健康メリット
そろばんは脳の活性化だけでなく、シニア世代の生活全般に良い影響を与える“総合的な健康習慣”として注目されています。以下では、そろばんがもたらすさまざまな健康メリットについて詳しくご紹介します。
◆ 指先の運動が認知症予防に効果的
そろばんは、片手あるいは両手の指先を細かく動かす作業です。こうした「巧緻性(こうちせい)」の高い動作は、脳の前頭葉を刺激し、特に記憶や注意力を司る領域の活性化に寄与すると言われています。加齢により低下しやすい認知機能を守る手段として、そろばんは効果的なのです。
◆ 姿勢が良くなることで体にも好影響
そろばんを弾くときは自然と姿勢が整い、背筋を伸ばして座ることになります。この「良い姿勢を保つ時間」が、腰痛や肩こりの予防にもつながります。姿勢を意識することで呼吸も深くなり、自律神経のバランスが整うという副次的効果も期待できます。
◆ ストレス軽減・気分転換にも
そろばんをパチパチとはじく音にはリズムがあり、心地よい集中状態「フロー」に入りやすいとも言われています。何かに没頭することで余計な不安や雑念が薄れ、気分転換やストレス解消にもつながるのです。日々の不安や孤独を感じがちな方にとって、そろばんは心の健康を守る大きな味方になるかもしれません。
◆ コミュニケーションのきっかけに
教室や地域サークルなど、そろばんを通じたつながりも重要な健康資源です。「共通の話題がある」「同じ目標に向かっている」といった関係性は、人との関わりが希薄になりがちな高齢期において非常に貴重なもの。孤立を防ぎ、社会的な自尊感情を保つうえでも、そろばんは有効な手段になります。
◆ 習慣化しやすく、長く続けやすい
そろばんは初期費用が安く、場所も取らず、年齢に関係なく取り組めるという点で、非常にハードルが低い健康習慣です。無理のない範囲で、生活の一部として取り入れやすいため、「やらなきゃ」ではなく「自然と続けていた」と感じる方が多いのも特徴です。
5. そろばんを生活に取り入れるには?無理なく始める工夫とヒント
そろばんに興味はあるけれど、「どうやって始めたらいいの?」「長続きするか心配…」という方も多いのではないでしょうか。ここでは、そろばん脳トレを日常生活に無理なく取り入れるための工夫やヒントをご紹介します。
◆ まずは身近な環境からスタート
特別な準備は必要ありません。そろばんが手元にない場合でも、1000円前後で購入可能なそろばんが多く市販されています。また、通販や100円ショップでも取り扱いがあるため、気軽に手に入れることができます。机の片隅に置いておけば、いつでも始められる環境が整います。
◆ ルーティンの一部に組み込むのがコツ
たとえば「朝のコーヒーを飲んだ後に5分だけ」「昼食後に1ページだけ問題を解く」など、すでにある習慣とセットでそろばんを行うことで、習慣化しやすくなります。タイマーやアラームを活用して“時間を決める”のも効果的です。
◆ 見える形で記録すると達成感がアップ
日々の練習の記録をカレンダーに残したり、ノートに「今日できたこと」を書き出すと、目に見える成果が積み重なり、モチベーションの維持につながります。「三日坊主にならないかな…」という不安も、こうした小さな積み重ねで解消できます。
◆ 家族や友人と一緒に始めてみる
家族と一緒に取り組むことで、自然と会話が増え、続けるモチベーションにもなります。「今日はこの問題できたよ」「タイム縮んだよ」といったちょっとした共有が、楽しい時間を生んでくれるでしょう。お孫さんとの世代間コミュニケーションにも最適です。
◆ 教室・講座・サークルを活用するのもおすすめ
各地の生涯学習センターや公民館、福祉センターなどでは、シニア向けのそろばん講座が開かれていることがあります。初心者歓迎の内容も多く、仲間と一緒に学べることで楽しさも倍増。市区町村の広報誌や地域掲示板をチェックしてみるのも一案です。
◆ 続けるポイントは「完璧を求めない」こと
最初から間違えずに解こうと思わず、「ミスしても大丈夫」「できたことを喜ぶ」気持ちで取り組みましょう。大切なのは“脳を動かし続けること”です。失敗も含めて楽しい経験にすることが、続ける一番の秘訣です。
6. そろばん経験が“仕事”につながる可能性も?
そろばんは脳トレや趣味として楽しむだけでなく、スキルとして活かす道もあります。実際に、シニア世代の中には、そろばんの経験や知識を仕事に活かしている方も少なくありません。ここでは、そろばんを通じて広がる“働く”可能性についてご紹介します。
◆ そろばん教室のサポートスタッフとして働く
地域のそろばん教室や子ども向けの学習塾では、「補助講師」「アシスタント」として経験者を募集していることがあります。教える立場といっても、難しい内容を教える必要はなく、「生徒の横について見守る」「丸付けをする」などの補助的な役割が中心です。
とくに70代の方にとっては、自身の経験を活かしながら、無理のない範囲で子どもたちと関われるこの仕事は、やりがいと社会参加の両立ができる貴重な選択肢といえるでしょう。
◆ 地域のボランティア講師として活躍する道も
自治体や公民館で開かれている「シニア向け脳トレ講座」などで、そろばんを教える機会も増えています。資格が必須ではないケースも多く、これまでの経験ややる気があれば十分。人に教えることは、自分の脳にも大きな刺激となり、学びの深化にもつながります。
◆ 数字に強いことが評価される仕事も
そろばん経験者は、暗算や計算の正確さに自信がある人も多いです。こうしたスキルは、レジ業務、事務補助、棚卸し作業など、「数字を扱うパートタイムの仕事」で評価されることがあります。「手計算できるから、ミスが少ない」と頼られる場面も少なくありません。
◆ そろばん検定にチャレンジすることで信頼度UP
日本珠算連盟が主催する「珠算検定」や「暗算検定」などは、再挑戦するシニア世代も増加中。履歴書に書ける資格として、シンプルながら説得力のあるアピール材料になります。とくに、教育や事務補助の仕事を希望する場合には、面接時の会話のきっかけにもなります。
7. まとめ|昔ながらの知恵で脳と人生をもっと豊かに
「そろばん」と聞くと、一見すると昔ながらの計算道具という印象を持たれるかもしれません。しかし、今やその役割は「脳を活性化するツール」として、再び注目を集めています。
指先を動かしながら集中して計算するそろばんの動作は、脳全体を刺激し、認知機能の維持に効果的であると科学的にも証明されています。それだけでなく、姿勢が良くなる、ストレスが減る、人との交流が生まれるといった、健康面・精神面・社会面にまで好影響をもたらすのが大きな魅力です。
始め方もとてもシンプルで、道具さえあれば自宅で今日から取り組めます。さらに、教室や地域の講座を活用すれば、仲間と楽しみながら習慣化できる環境も整っています。仕事につなげたい方にとっては、そろばん教室でのアシスタントや、数字に強いことを活かした業務で新たな可能性を見出すこともできるでしょう。
60代・70代になっても、新しい習慣を取り入れることで、日々の暮らしにリズムと活気が生まれます。
そろばんという“昔ながらの知恵”を、これからの人生をもっと豊かにする“新しい力”として、取り入れてみてはいかがでしょうか。
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