はじめに|熱中症と認知症リスク、どちらも大切だからこそ知っておきたいこと
夏の暑さが厳しくなると、「熱中症が怖いから、外に出るのはやめよう」と考える方も多いのではないでしょうか。特に高齢者にとっては、熱中症のリスクは命に関わる深刻な問題です。しかし、家に閉じこもる生活が長引くことで、思わぬ“別のリスク”が忍び寄ってきます――それが「認知症のリスク」です。
実は、外出や人との関わりが減ることで、脳への刺激や身体活動が大きく減り、認知機能の低下につながると指摘されています。
本記事では、「暑さ対策としての外出自粛」が、どのようにして認知症のリスクを高めてしまうのかを解説し、暑い夏でもできる“脳と心を守る”過ごし方をご紹介します。
1.暑さによる外出自粛が続くと、なぜ認知症リスクが高まるのか?
外出を控える生活は、一見すると安全で健康的に思えるかもしれません。しかし、それが長期化すると「身体を動かさない」「人と話さない」「日々の刺激が少ない」といった状態に陥り、認知機能の低下を引き起こすリスクが高まります。
● 身体活動の低下が脳にも影響
脳は“使わないと衰える”器官です。歩行や買い物などの日常的な活動には、バランスを取る、信号を見る、周囲の音を聞くなど多くの脳の働きが関与しています。つまり、「体を動かす」ことは「脳を働かせる」ことでもあるのです。
そのため、暑さを理由に外出を避け続けると、運動不足だけでなく、脳への刺激が極端に減り、結果として脳機能の低下を招きます。
● 社会的交流の減少が心と脳にブレーキをかける
人との会話や外とのつながりは、脳の前頭前野(思考・判断・感情コントロールに関係)の活性化に深く関わっています。
しかし、家に閉じこもって一人で過ごす時間が増えると、会話の機会が減り、思考や感情のやり取りも減少。これは「社会的孤立」に近い状態で、認知症発症の大きなリスク要因として知られています。
● 生活リズムが乱れることで、認知症を進行させることも
外出機会が減ると、昼夜逆転や過眠・不眠など生活リズムの乱れが生じやすくなります。特に高齢者は環境の変化に敏感なため、こうしたズレが積み重なると心身に悪影響を与え、認知症の初期症状を助長してしまうこともあります。
2.高齢者の“引きこもり生活”がもたらす実際のデータとリスク
新型コロナウイルスの流行以降、多くの高齢者が外出を控えるようになり、「引きこもり生活」が社会的課題として浮き彫りになりました。その影響は、心と身体の両面に大きく現れています。夏場においても、同様の「外出自粛」が長引けば、健康リスクはさらに高まります。
● 引きこもり状態の高齢者は、認知症発症リスクが2倍以上に
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」や各種研究によると、外出頻度が週1回以下の高齢者は、週4回以上外出する高齢者に比べて、要介護や認知症のリスクが2倍以上高いとされています(出典:厚生労働省「高齢者の健康づくり」報告書 2021年)。
また、JAGES(日本老年学的評価研究)プロジェクトでは、社会参加の頻度が少ない高齢者ほど、認知機能が低下しやすいという傾向が明らかになっています。
● “フレイル”への移行も見逃せない
「フレイル」とは、健康と要介護の中間に位置する状態で、身体的な衰えだけでなく、精神・社会面の活力も含めて低下した状態を指します。暑さによる外出自粛で運動量が減り、人との交流が減ると、短期間でフレイルへと進行する危険性が高まります。
2020年の調査(東京都健康長寿医療センター)では、1日あたりの歩数が平均2000歩未満だった高齢者のうち、1年以内にフレイルに移行した割合が25%以上にのぼったという報告もあります。
● 孤立がうつ・認知症を引き起こすリスクも
引きこもり生活は、社会とのつながりを失うことにもつながります。これは単なる寂しさにとどまらず、孤独感がうつ病や認知症の引き金となるケースも少なくありません。
特に一人暮らしの高齢者や、配偶者と死別した方は、外出や人との交流が“心の支え”にもなるため、その喪失は大きな心理的ダメージをもたらします。
3.暑さに負けずに脳を刺激する!おすすめの夏の過ごし方5選
「熱中症が心配だから」と外出を控えるのは理解できますが、ずっと家にこもっていると心身の衰えにつながります。そこで、暑い夏でも無理なく実践できる「脳を刺激し、認知症リスクを減らす」5つの方法をご紹介します。ポイントは、無理なく・楽しく・人との関わりを持つことです。
1.朝夕の「クーラー散歩」で涼しく運動
気温が比較的低い朝や夕方の時間帯に、エアコンの効いたショッピングモールや駅ビルなどをゆっくり歩く「クーラー散歩」は、暑さ対策と運動の両立ができます。
歩くことで血流が良くなり、脳も活性化。買い物や立ち話など、小さな刺激の積み重ねが脳への良いトレーニングになります。
2.冷房の効いた公共施設で「図書館脳活」
近年、高齢者の“脳トレ空間”として注目されているのが図書館です。静かで快適な空間で読書をしたり、新聞を読んだり、時にはイベントや講座に参加することも。
JAGES(日本老年学的評価研究)によると、図書館の利用頻度が高い人ほど、認知症発症リスクが低い傾向も見られています(※参考:「JAGES研究2020」より)。
3.地域のボランティアや仕事で“役割”を持つ
暑さ対策をしながら、地域のボランティア活動やパートタイムの仕事をするのも効果的です。
たとえば、屋内で行う配膳、見守り、電話対応などの軽作業や、自治体が募集する地域支援ボランティアなどが挙げられます。
「役割を持つこと」は、自尊心や生活リズムを保つうえでも非常に重要で、認知機能の維持に強い効果を持つとされています。
お金を稼ぐことが目的でなくても、社会とつながることが脳の刺激につながります。
4.地域の教室やイベントで“ちょこっと外出&交流”を
暑さが厳しい時期でも、地域の公民館や福祉センターなどで開催される室内イベントや教室なら、無理なく外出と人との交流ができます。
たとえば、健康体操教室、趣味のサークル(囲碁・手芸・カラオケ)、栄養講座や認知症予防セミナーなど、参加者同士が顔を合わせて話す場があるものがおすすめです。
自治体の広報誌や地域包括支援センターの掲示板には、シニア向けの無料・低額イベントの情報が掲載されていることが多く、「ちょっと行ってみようかな」という気軽な気持ちで参加できます。
人と会って話すことで、脳も心も大きく刺激されます。涼しい室内でできる“ちょこっと外出”は、暑い時期の理想的な脳活スタイルです。
5.手軽に楽しめる“脳トレ系”趣味を取り入れる
クロスワード、数独、ぬり絵、写経、料理レシピの新規挑戦など、「考える+手を動かす」趣味もおすすめです。
特に「初めてやること」にチャレンジすると、新しい神経回路が形成され、脳が若返るといわれています。
暑い時期だからこそ、自宅で気軽に楽しめる“脳の体操”を日課にしてみましょう。
4.外出だけじゃない!「会話」と「役割」が脳に効く理由
「外出は控えているけど、家では元気にしているから大丈夫」と思っていても、“会話の少なさ”と“自分の役割の喪失”が続くことで、脳は少しずつ静かに衰えていきます。
実は、外に出ること以上に、“人と話すこと”や“自分の役割を持つこと”が、認知機能の維持に強く影響していることが、多くの研究で明らかになっています。
● 会話は「脳のエクササイズ」
人と話す行為は、思っている以上に脳を使っています。話題を考える、言葉を選ぶ、相手の表情を読む、聞いたことに返す――こうした一連のプロセスが、前頭前野、側頭葉、海馬など、記憶や判断、感情の処理に関わる複数の脳領域を刺激します。
国立長寿医療研究センターの調査でも、会話の頻度が高い高齢者ほど、認知症の発症率が有意に低いという結果が出ています(出典:「長寿科学研究開発事業」2022年度報告より)。
特にポイントとなるのが、「雑談」のような日常的なやりとり。内容が重要なのではなく、会話の“頻度”と“やり取り”が、脳に良い刺激を与えるのです。
● 「誰かの役に立っている」という実感が、脳と心を元気にする
家族内での家事や地域活動、パートタイムの仕事など、小さな“役割”を持つことも脳に大きな影響を与えます。
役割を持つことで、生活にメリハリが生まれ、脳は「今日もやることがある」と活性化します。これは、“生きがいホルモン”とも呼ばれるドーパミンの分泌にも関係しており、意欲や記憶力の維持に直結するのです。
また、「自分にはまだ必要とされている場がある」と感じられることで、精神的にも安定し、孤独や不安の軽減にもつながります。
● 「話す」と「役立つ」は、外出せずとも実現できる
暑くて外出が難しい時期でも、電話で友人と話す、家族の買い物をメモにまとめる、地域の配布物を封入する手伝いをするなど、“自宅でできる会話と役割”は意外と多くあります。
外に出ることだけが認知症予防ではありません。「人とのやり取り」と「誰かの役に立つ」という感覚を、生活の中にどう取り入れるかが鍵となります。
まとめ|“動く・話す・関わる”が夏の健康と脳を守る
高齢者にとって「熱中症を防ぐこと」はとても大切なことですが、だからといって長期間の外出自粛が続いてしまうと、今度は認知症という“見えにくいリスク”が忍び寄ってきます。
暑い時期でも、少しの工夫と意識で、体と心、そして脳に刺激を与えることは可能です。
キーワードは、「動く・話す・関わる」。
・少しでも身体を動かすこと(たとえば、朝夕の短い散歩や軽い家事)
・会話を習慣づけること(電話やオンラインでの交流も含む)
・自分にできる“役割”を持つこと(仕事やボランティア、家族の中での役割も含む)
これらは、どれもすぐに始められて、特別なお金も道具も必要ありません。
むしろ、生活に小さな「変化」と「刺激」を与えることが、認知機能の維持には非常に重要なのです。
「暑いからこそ、家で何もしない」のではなく、
「暑い中でも、自分に合った“動き方”を見つける」。
そうした意識が、健康寿命を延ばし、毎日をいきいきと過ごすための第一歩になるのではないでしょうか。
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