「静かな退職」を防ぐカギはシニア採用にあり!高齢人材を活かす3つの成功法

【企業向け】シニア採用

1.「静かな退職」とは?見えない離職リスクの正体

近年、企業の人事部門で注目を集めている言葉の一つに「静かな退職(Quiet Quitting)」があります。これは、従業員が表立って辞職するわけではないものの、必要最低限の業務しか行わず、組織へのエンゲージメント(貢献意欲)や責任感を失ってしまっている状態を指します。言い換えれば、「出勤はしているが、心は職場にいない」状態です。

こうした現象は、特定の年代に限らず広がりを見せていますが、特にシニア層においても注意が必要です。シニア社員の中には、「どうせもう出世はない」「意見しても若手に押し切られる」と感じ、自発性を失っていくケースがあります。本人の口から「辞めたい」とは出ないため、上司や人事が気づいたときには、すでにモチベーションが著しく低下しており、部署全体のパフォーマンスにも影響している――そんな事態も珍しくありません。

静かな退職が起こる要因は、主に以下のようなものが挙げられます。

・業務への達成感や意味づけの欠如
・人間関係や職場環境への不満
・評価されない、必要とされていないと感じること
・過度なルーティン業務による自己成長機会の喪失

実際、米Gallup社の2022年調査では、従業員の50%以上が「仕事への情熱や関与を失っている状態」にあると報告されています【※参考:Gallup State of the Global Workplace 2022】。この中には高齢層も多く含まれており、日本企業においても他人事ではありません。

静かな退職は、目立たないが確実に組織の活力を削いでいく“見えない離職”。このリスクに早期に気づき、対策を打つことが、人材難の時代において重要な戦略となっています。


2.なぜシニア採用が「静かな退職」対策になるのか

「静かな退職」は、単なる個人のモチベーション低下にとどまらず、職場の空気やチーム全体の生産性にまで悪影響を及ぼす厄介な問題です。これに対して、近年注目されているのが「シニア人材の積極採用」です。単なる人手補充ではなく、組織の活性化という意味でも、シニア採用は“静かな退職”への有効なカウンターになり得ます。

経験豊富な人材が職場に好影響を与える

シニア人材には、長年の業務経験や対人スキル、業界への知見など、若手にはない価値があります。そうした人材が職場に加わることで、若手社員にとっては「学べる存在」が身近にでき、組織内に新たな“つながり”が生まれます。

「どうせ言っても無駄だ」と感じていた既存社員も、経験豊富なシニアが現場で堂々と意見を出し、信頼を築いている姿を見て、再び自分の役割に意味を見出すことがあります。つまり、シニアの姿勢そのものが、周囲に刺激を与える「静かな活性化剤」となるのです。


キャリアの「折り返し組」が与える心理的安心感

さらに、シニア採用が静かな退職対策として機能する理由のひとつに、“過度な競争意識”を抑える効果も挙げられます。ミドル層社員の中には、出世競争や評価へのストレスがモチベーション低下の要因となっている人もいます。そこに、昇進よりも「誰かの役に立つこと」「やりがい」を重視して働くシニアが加わると、「年齢を重ねても働ける」「肩の力を抜いて働いてもいい」という雰囲気が生まれ、職場全体の心理的安全性が高まるのです。


多様性がもたらす組織の再活性化

多様な世代が共に働く職場では、価値観の違いによって一時的な摩擦が生まれることもありますが、それを超えていけば“視野の広がり”という大きな財産になります。年齢や背景の異なる人材が交じることで、組織内の対話や創造性が促進され、静かな退職を防ぐ「多層的な関与」が生まれます。


3.シニア社員を“静かな退職”にさせないために人事ができること

高齢者雇用が進む中、採用したシニア社員が「静かな退職」状態に陥ってしまえば、本来期待された経験や貢献力が発揮されず、組織としても大きな損失となります。では、人事担当者はどのような工夫でシニア人材の“心の離職”を防ぐことができるのでしょうか。

1.“役割の明確化”と“期待の言語化”をセットで伝える

シニア社員にとって「自分の経験がどう役立つのか」「職場で何を期待されているのか」が不明確なままだと、自らの存在意義を見失いがちです。新たな職場に迎え入れた際には、「○○の経験を活かして、若手の○○をサポートしてほしい」といった形で、具体的に“期待されている役割”を明示しましょう。

重要なのは、業務内容だけでなく、「なぜその人が必要なのか」という“存在価値”を言葉で伝えることです。これは本人のモチベーションを維持し、職場へのエンゲージメントを高める基本になります。


2.年齢に応じた“働きやすさ”の整備

シニア社員は、体力面やライフスタイルの変化など、年齢特有の課題を抱えることも少なくありません。たとえば「勤務日数の調整」「週に数回の在宅勤務」「通院時間の確保」など、柔軟な働き方への配慮を行うことで、「長く働きたい」という気持ちを支える土壌ができます。

さらに、「職場でシニアが活躍して当たり前」という雰囲気づくりも大切です。年齢に関する偏見や無意識の年齢差別(エイジズム)を防ぐために、職場内の意識改革もセットで行いましょう。


3.定期的な面談で“静かな兆候”をキャッチする

「静かな退職」は、本人が何も言わずにフェードアウトしていく形で進行します。そのため、通常の勤怠や成果だけを見ていても見逃されやすい傾向があります。そこで有効なのが、定期的な1on1面談やフォロー面談です。

面談では、業務の進捗確認だけでなく、「仕事にやりがいを感じていますか?」「何か困っていることはありますか?」といったソフトな質問を通じて、モチベーションの低下や孤立感などの兆候を早期に把握しましょう。特に、採用から数ヶ月間のフォローは、定着率にも大きく影響します。


4.実践したい!高齢者採用で失敗しないための3つの工夫

シニア人材の採用は、人手不足の解消だけでなく、組織に新たな知見や安定感をもたらすチャンスでもあります。しかし一方で、適切な採用や受け入れの仕組みが整っていなければ、早期離職や“静かな退職”につながるリスクも。ここでは、高齢者採用で失敗しないために人事担当者が取り組むべき3つの工夫を紹介します。

1.「業務分解」で活躍フィールドを設計する

多くの企業が見落としがちなのが、“業務設計の柔軟性”です。若手社員と同じ職務内容をそのままシニアに当てはめると、体力的・技術的なギャップからミスマッチが起きやすくなります。
そこで有効なのが、「業務分解」です。たとえば、総務職であれば「資料作成」「来客対応」「備品管理」など、業務を細かく分け、その中からシニアの経験が活かせるものや負担の少ない作業を切り出して担当してもらうようにします。

このような形で“得意な業務だけを担ってもらう”スタイルにすることで、本人のパフォーマンスも最大限に引き出せます。


2.「年齢に合わせた面接設計」でミスマッチを防ぐ

高齢者の中には、長年のブランクがあったり、面接経験が少なかったりする方もいます。若年層と同じ評価基準では、その人の本当の魅力を引き出せない可能性も。

たとえば「体力は大丈夫ですか?」といったNG質問(年齢差別につながる質問)を避けるのは当然として、「これまで培ってきた経験で、どんな場面で周囲を助けたことがありますか?」など、“人間性”や“周囲との協働経験”を問う設問が効果的です。あわせて、柔軟な勤務条件や希望職務についても丁寧にヒアリングしましょう。


3.「配属後のサポート体制」で早期フェードアウトを防ぐ

採用して終わりではなく、配属後のフォローが極めて重要です。特に「静かな退職」の兆候は、最初の3ヶ月に現れやすい傾向があります。OJTの担当を明確に決めたり、月1回の面談で小さな不安や悩みをすくい上げたりと、孤立を防ぐ工夫が求められます。

また、チーム内での「年上の部下」への対応に不安がある若手社員に対しても、マネジメントのポイントを共有しておくと、互いにストレスなく協働が進みます。


5.シニア人材の活用で成功した企業の事例

高齢者採用に取り組む企業は年々増加しており、その中には“静かな退職”の予防だけでなく、組織の活性化や若手育成にも成功している事例が多数あります。ここでは、実際にシニア人材をうまく活用している企業の取り組みを紹介します。

事例①:小売業A社|店舗の“縁の下”を支える70代スタッフ

全国に多数の店舗を持つ小売業A社では、70歳以上のスタッフも積極的に採用しています。店舗内の清掃やカート整理、バックヤード作業などを中心に、地域密着で働く高齢者を雇用。
若手社員やアルバイトと役割を分担することで、業務効率が上がり、「いつも店内がきれい」「困った時に声をかけやすい」など、顧客満足度の向上にも貢献しています。

また、こうしたシニア社員は店舗全体の雰囲気づくりにも貢献しており、職場の“お手本”として若手からの信頼も厚いといいます。


事例②:大手製造業B社|技術の継承と若手育成を両立

某大手製造業では、定年退職後の技術者を“指導役”として再雇用。現場での実務は若手社員が担いながらも、製品検査やトラブル時の対応などでシニア社員がサポートする体制を構築しています。

この取り組みによって、ベテラン社員のノウハウが若手にスムーズに継承されるようになり、業務品質の安定化と人材育成の加速という二重の成果を実現。若手からも「わからないことを聞ける安心感がある」との声が多く、離職率の低下にも寄与しています。


事例③:中小企業のITベンチャーC社|多様性の中で再定義される“貢献”

IT人材の若年化が進む中、60代の元エンジニアをパートタイムで採用したC社では、若手エンジニアのコードレビューやテスト工程の品質管理を任せる形で活躍を促進しています。

技術だけでなく、働き方や価値観の“違い”があることで、若手社員たちの気づきや視点も広がり、「ベテランと若手の共存」によって社内コミュニケーションの質も向上。異世代間の協働が、社内の心理的安全性を生み出し、“静かな退職”の予防につながっています。


6.定着率アップのカギは「居場所づくり」と「役割設計」

シニア人材を採用したあと、もっとも重要なのは「定着」です。特に“静かな退職”を未然に防ぐには、ただ仕事を与えるだけでなく、その人が“居ていい理由”と“果たすべき役割”を明確に設計することがカギになります。ここでは、定着率を高めるための2つの観点をご紹介します。

1.居場所づくり:心理的安全性と「存在価値」の可視化

シニア人材が「この職場にいていいのだろうか」と不安を感じている状態では、モチベーションは上がらず、静かに職場との距離が開いていきます。そのため、「歓迎されている」「期待されている」と実感できるような仕掛けが必要です。

たとえば、

・配属初日に、チーム全体で歓迎のミーティングを行う
・名札や名刺に「○○アドバイザー」など、役割を表す肩書をつける
・社内報やミーティングで、貢献を言語化して共有する

といった工夫により、“存在が認められている感覚”を育てることができます。これは年齢にかかわらず、あらゆる社員に共通する心理的欲求ですが、特に異世代で入社したシニア層にとっては大きな意味を持ちます。


2.役割設計:「主力でなくても“必要な人”」という立ち位置

若手と違い、シニア社員にとってのキャリアは“積み上げるもの”ではなく、“活かすもの”です。そのため、「重要なポジション」や「生産性の高い役割」に必ずしも配置する必要はありません。それよりも、「この人がいてくれると全体が回る」「誰かが困った時の頼りになる」といった“潤滑油的な存在”としての役割が、本人の納得感や定着につながります。

一例として、

・業務マニュアルの見直しや教育係
・忙しい時間帯の補助要員(短時間シフトなど)
・若手の相談役、雑談役としての「余白」的ポジション

などを用意することで、成果を数値で示すのが難しい役割でも、組織にとって必要不可欠な“縁の下の力持ち”として居場所を築いていくことができます。


7.「静かな退職」対策はシニア活用から始まる

人材不足が常態化するなかで、企業が見逃せないのが「静かな退職」という“目に見えない離職”です。エンゲージメントの低下は、生産性だけでなく組織全体の雰囲気やチーム力にも影響を及ぼします。

そんな時代において、シニア人材の活用は単なる労働力補填にとどまらず、職場に新しい風を吹き込むチャンスでもあります。
経験豊富なシニアの存在は、若手やミドル世代の働き方にも良い影響を与え、心理的安全性や多様性を高める役割を果たします。

もちろん、採用すればすべてがうまくいくわけではありません。重要なのは、

・業務設計や役割の明確化
・採用時の丁寧な対話と配慮
・配属後のフォローや居場所づくり

といった、一人ひとりに合わせた“関わり方のデザイン”です。

静かな退職を防ぐための特効薬はありません。しかし、「多様な働き方や価値観が交わる組織づくり」に挑戦し続けることこそが、離職を防ぎ、社員が長く安心して働ける職場を育てていく道です。そしてその第一歩として、シニア人材の活用と定着支援は極めて有効なアプローチなのです。

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