はじめに｜変わりゆくシニアの暮らしと住まいの選択肢
「老後は静かに一人暮らし」──そんなイメージが変わりつつあります。現代のシニア世代は、かつてよりも健康で活動的。趣味や仕事、地域活動に積極的に関わる人も多くなっています。一方で、年金だけでは生活費が足りず、住宅コストや孤独感、将来の不安を抱えている方も少なくありません。
こうした背景の中で、今注目されているのが「異世代ホームシェア」です。これは、シニアと若者が同じ住まいを共有し、お互いの強みを活かしながら暮らす新しい住まい方。シニアの「空き部屋がもったいない」「誰かと話したい」という思いと、若者の「家賃を抑えたい」「地域でのつながりを感じたい」というニーズがマッチする、まさに“共生”のスタイルです。
これまでの「施設に入る」「家族と同居する」といった選択肢だけでなく、自分らしい暮らし方を主体的に選ぶシニアが増えている今、「異世代ホームシェア」はその可能性を広げてくれる存在として注目されています。
本記事では、この仕組みやメリット、実際の事例、始め方まで、シニア世代に役立つ情報をわかりやすくご紹介します。
1．異世代ホームシェアとは？基本のしくみと注目される背景
「異世代ホームシェア」とは、文字通り“異なる世代同士が一つの住まいを共有する”暮らし方のことです。主に、部屋や家に余裕があるシニアと、住居費を抑えたい若者が一緒に暮らすスタイルが主流です。
この仕組みは、フランスやイギリスなど欧米諸国では以前から導入されており、孤立しがちな高齢者と、住まいに困る学生や若者との「ウィンウィンの関係」として定着しています。日本では、2010年代からNPOや自治体などが一部で導入を始め、2020年代に入り高齢化や空き家の増加を背景に、その関心が一気に高まりました。
基本的なルールとしては、住まいを提供する側（多くはシニア）が家賃や光熱費を一部免除する代わりに、同居する若者が日常の見守りや会話、簡単な家事などで貢献します。介護ではなく「お互いの暮らしを支え合うパートナー」という位置づけです。
また、単に「家賃が安い」だけでなく、以下のような理由から注目されています。
・社会的孤立の防止：高齢者の一人暮らしが増加する中で、日常の会話やつながりを持てる機会が自然に生まれる
・空き家問題への対応：空き部屋や空き家の活用方法としても有効
・多世代交流の促進：世代間の価値観や文化の違いを知り、お互いに学び合える
・地域コミュニティの再構築：家庭内の協力から地域活動へと広がるケースも
異世代ホームシェアは、住まいという「生活の場」を共有することで、単なる同居以上の関係性を築ける点が、従来の賃貸契約や下宿とは大きく異なります。高齢化社会が進む日本において、これからますます注目されていく住まい方と言えるでしょう。
2．シニアにとってのメリット｜経済面・健康・孤独感の軽減など
異世代ホームシェアは、住まいを提供するシニアにとって、単なる空き部屋活用にとどまらず、多くのメリットをもたらします。ここでは、特に注目すべき「経済」「健康」「精神的なつながり」という3つの側面から見ていきましょう。
経済的メリット｜家計の負担を軽減できる
年金収入だけでは生活が不安というシニア世代にとって、異世代ホームシェアは家計を助ける強力な手段となります。
住居をシェアすることで、以下のような経済的効果が期待できます。
・空き部屋を貸し出すことで、若者から一定の生活費負担（光熱費や共益費）を受け取れる
・家賃収入まではいかなくても、電気・水道・ガス代を折半できるため、光熱費の節約になる
・若者が簡単な家事を担う場合、ヘルパーや家事代行を頼む費用が不要になることも
高齢期の不安のひとつである「生活費の不足」に対して、無理のない形で補填できる点は非常に大きな利点です。
健康への好影響｜誰かと一緒に暮らす安心感
人との交流がある生活は、健康維持にもつながります。実際、内閣府の調査（※）によれば、「人と関わる機会が多い高齢者ほど、要介護状態になりにくい傾向がある」とされています。
※参考：内閣府「高齢社会白書（令和5年版）」
異世代ホームシェアでは、若者との日常的な会話や見守りが自然に発生します。定期的なやり取りがあることで、体調の異変に早く気づいてもらえる安心感や、緊急時にすぐに頼れる人がそばにいるという精神的安定感も得られます。
孤独感の軽減｜誰かと暮らすだけで心が前向きに
高齢者の孤独は、うつ傾向や認知症リスクの上昇とも関係しています。特に、一人暮らしでテレビだけが話し相手という状況では、気持ちが沈みがちになりやすいもの。
異世代ホームシェアでは、年代や価値観の異なる若者と日々の交流があり、ふとした雑談や食事の時間が「小さな楽しみ」になります。これが、生活のリズムを整えるきっかけとなり、「今日も誰かがいてくれる」という安心感を生み出します。
このように、異世代ホームシェアは、シニアにとって“暮らしの質”を高める新しい手段です。年齢を重ねても「社会とつながる」「誰かと助け合う」ことは、生きがいや健康維持にも大きく貢献してくれるのです。
3．若者にとってのメリット｜家賃の安さだけじゃない共生の価値
異世代ホームシェアは、シニアだけでなく若者にも多くのメリットをもたらします。特に都市部での生活に不安を感じている学生や新社会人にとって、この仕組みは「安さ以上の価値」を提供するものです。
経済的メリット｜住居費の軽減
まず、もっとも分かりやすい利点は「家賃の安さ」です。異世代ホームシェアでは、家賃を割安に設定しているケースが多く、場合によっては無料、または光熱費や食費の一部負担のみという条件もあります。
これは、提供者であるシニア側が「家賃収入目的」ではなく、「交流や見守りを求めている」ためです。たとえば、週に数回の食事の付き合いや、ちょっとした買い物の代行などを条件に、家賃を大幅に割引するスタイルが多く見られます。
安心できる住環境｜信頼関係のある暮らし
異世代ホームシェアは、基本的にNPO団体や自治体、マッチング事業者が仲介に入ることが多いため、トラブル防止や契約上のルールもしっかり整っています。シェア相手となるシニアも、審査や面談を経て選ばれるケースが多く、安心して住むことができます。
また、見守られる側である高齢者と暮らすことで、防犯面の安心感が高まるという声もあります。仕事や学校で留守にする時間が長い若者にとって、「誰かが家にいてくれる」ことが、心の安定にもつながります。
人間関係の広がりと学び｜異世代から得る刺激と経験
若者にとって、異世代との共同生活は「暮らすこと自体が学び」になります。生活習慣や考え方の違いに戸惑うこともありますが、シニア世代の経験や知恵に触れることで、視野が広がり、思わぬ価値観に気づくことも。
たとえば、元教師や元職人、店舗経営をしていた方など、豊かな人生経験を持つシニアと出会うことで、「社会人として大切なこと」や「生き方の多様性」などを、日常の会話から自然に学べるのです。
また、異世代のつながりがきっかけで、地域イベントやボランティア活動に参加するようになる若者も少なくありません。住まいを共有することで、暮らしだけでなく人間関係も豊かになっていく──それが、異世代ホームシェアの本当の魅力です。
4．実際の事例に学ぶ！成功する異世代ホームシェアのポイント
異世代ホームシェアは、「ただ同じ家に住む」だけでは成功しません。双方の信頼関係やルール設定、日々のコミュニケーションがあってこそ、安心で心地よい暮らしが実現します。ここでは、実際の取り組み事例をもとに、成功の秘訣をご紹介します。
【事例1】70代女性×20代大学生｜互いの生活リズムを尊重し合う関係
東京都内で一人暮らしをしていた70代のKさんは、子どもが独立して空き部屋ができたことをきっかけに、NPOを通じてホームシェアを開始。マッチングされたのは、地方から上京したばかりの大学生Aさんでした。
二人は最初に「生活ルール表」を作成し、共有スペースの使い方や、会話のタイミング、外出時の連絡方法などを明確に決めてスタート。Kさんは「まるで孫と暮らしているような楽しさ」と語り、Aさんは「毎日の食卓での会話に癒やされる」と話します。
ポイントは、事前のルール設定と相手への配慮。暮らしの中で起こりがちな小さなストレスも、最初から話し合っておくことで防げます。
【事例2】元看護師×新人社会人｜生活サポートと会話の価値
大阪市で実施されている「異世代共生型住まい支援」では、元看護師の80代女性と、就職して間もない若手社会人のBさんがマッチング。Bさんは週に2回ほど簡単な買い物やゴミ出しを手伝い、夕食は週3回一緒にとるルールに。
Bさんは「仕事の悩みを自然に話せる相手がいることで、気持ちがラクになった」と言い、女性側も「若い人の話を聞くのが刺激になる」と笑顔で答えています。
この事例から見えてくるのは、「一方通行」ではなく「双方向の交流」が成功の鍵だということです。暮らしの中で少しずつ信頼が育まれる関係性が、異世代ホームシェアの醍醐味です。
成功のためのポイントまとめ
・最初に生活ルールや役割分担を明確にする
・過度な干渉を避け、程よい距離感を大切にする
・お互いの違いを楽しみ、歩み寄る気持ちを持つ
・定期的に“話し合いの場”を設ける
こうした工夫があることで、世代の違いを超えた「新しい家族のかたち」が実現できます。
5．どう始める？異世代ホームシェアの探し方・準備・注意点
「異世代ホームシェア、興味はあるけどどうやって始めるの？」──そんな疑問を持つ方のために、ここでは探し方から契約、実際の生活を始める際のポイントまで、わかりやすく解説します。
1．まずは情報収集から｜信頼できるマッチングサービスを活用
異世代ホームシェアを始めるには、個人間でのやりとりよりも、NPO法人や専門のマッチングサービスを利用するのが安心です。たとえば、以下のような団体があります。
・NPO法人リブアンドリブ：異世代の暮らしをサポートする老舗団体
・地方自治体による共生型住宅支援：京都市、横浜市、大阪市などがモデル事業を実施中
これらの団体では、住まいの提供者・希望者双方の面談やマッチングのサポート、契約時のアドバイスなどが受けられます。
2．契約・ルール設定は慎重に
ホームシェアといっても、きちんとした契約書の作成や生活ルールの明文化は不可欠です。
・賃料や光熱費、生活費の分担方法
・掃除／料理などの役割分担
・来客や外泊時の連絡ルール
・トラブルが起きたときの対応方法
などをあらかじめ決めておくことで、誤解やストレスを防ぐことができます。第三者（NPO等）を交えて作成することで、より安心です。
3．準備しておきたい生活環境と心構え
提供する側（シニア）の立場で考えると、以下のような準備も必要になります。
・部屋の清掃／家具の整備：使いやすい個室と共有スペースを整える
・プライバシーの配慮：音の配慮や生活リズムのすり合わせを意識する
・受け入れの柔軟性：異なる価値観を受け止める心の余裕を持つ
また、いきなり「完璧な関係」を目指すよりも、少しずつ関係を築く意識が大切です。
4．注意点｜「合わなかったら？」に備えておく
どれだけ準備をしても、人間関係に“相性”はつきもの。だからこそ、短期間の「お試し同居」期間を設けるなど、途中で見直せる仕組みを取り入れると安心です。
また、健康面や防災対策、セキュリティ面で不安がある場合は、事前に相談・確認をしておくことも忘れずに。万が一のトラブルを防ぐ意味でも、第三者がサポートしてくれる体制がある団体を選ぶことをおすすめします。
「始めてみたいけれど少し不安…」という方も、信頼できる団体と一緒なら、無理なく第一歩を踏み出せます。
大切なのは、「支え合う暮らし」への前向きな気持ちです。
まとめ｜新しい暮らし方で、シニアも若者ももっと元気に
異世代ホームシェアは、単なる住まいの提供ではなく、「支え合い」と「つながり」を育む新しい暮らしのかたちです。
シニアにとっては、空き部屋の有効活用や孤独感の軽減、経済的な安心につながり、若者にとっては、住居費の軽減や人生の先輩との交流によって豊かな経験を得ることができます。
現代社会では、核家族化や高齢化が進み、人とのつながりが希薄になりがちです。そんな中で、異世代ホームシェアは「家族とは違うけれど、温かな関係性」を生むチャンスでもあります。
もちろん、生活習慣の違いや価値観のズレなど、乗り越えるべき壁はあるかもしれません。しかし、だからこそ、話し合いやルールづくりを通じて、お互いを思いやる力が育まれるのです。
これからの時代、「住まい」はただの居場所ではなく、「自分らしく生きるための土台」。
異世代ホームシェアは、人生の後半戦をよりいきいきと過ごしたいシニア世代にとって、非常に有望な選択肢です。
まずは情報収集から始めて、一歩踏み出してみませんか？
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