1.【老後資金の基本】なぜ必要なのかを知ろう
老後資金とは、退職後に安定して生活を続けるために必要なお金のことです。現役時代は給与収入で生活費をまかなえますが、定年退職後は主な収入源が年金となり、その金額だけでは生活に不安を感じる人も少なくありません。特に近年は「老後2000万円問題」と呼ばれるように、年金だけでは不足する可能性があると指摘され、改めて老後資金の重要性が注目されています。
老後資金が必要な理由は大きく3つあります。
1つ目は 長寿化 です。日本は世界でも有数の長寿国であり、厚生労働省「令和5年簡易生命表」によれば、女性の平均寿命は87.09歳、男性は81.05歳となっています。定年後の生活が20年以上続くことも珍しくなく、その間の生活費を確保する必要があります。
2つ目は 医療・介護費の増加 です。高齢になるにつれて医療機関を利用する頻度が増え、介護サービスを必要とするケースもあります。公的保険である程度はカバーされますが、自己負担やサービスの追加利用分は家計に直結します。
3つ目は 年金収入の不安定さ です。制度改正や将来的な給付額の調整などにより、「今の生活費を年金でまかなえるかどうか」という不安が常につきまといます。
こうした背景から、老後資金をあらかじめ把握し、自分に合った準備をすることが大切です。計算方法を知ることで「どのくらい不足するのか」「どのように補うか」が明確になり、安心したセカンドライフにつながります。
2.【老後資金の内訳】生活費・医療費・介護費を整理
老後資金を考える際には、まず「どんな支出が必要になるのか」を明確にしておくことが大切です。大きく分けると、生活費・医療費・介護費 の3つが中心になります。
1. 生活費
総務省「家計調査(2023年)」によると、高齢夫婦無職世帯の1か月の消費支出は約23万円、単身無職世帯では約13万円となっています。食費や住居費、光熱費、通信費など、毎月欠かせない支出が中心です。生活費は地域やライフスタイルによって差がありますので、自分に合った水準を把握することが重要です。
2. 医療費
厚生労働省「国民医療費の概況(2022年度)」によると、1人当たりの医療費は75歳以上で約98万円に達しています。高齢になるほど通院や治療の機会が増えるため、自己負担分を考慮して資金計画に含める必要があります。特に入院時は1日あたり2〜3万円程度かかるケースもあり、急な出費に備えておくことが安心につながります。
3. 介護費
介護が必要になった場合の費用は長期的に家計を圧迫する可能性があります。生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2021年度)」では、介護にかかった費用の平均は約690万円、月額費用は平均約8.3万円と報告されています。公的介護保険を利用しても、自己負担分や施設入居費用などが発生します。
このように、老後資金の内訳を把握しておくことで「自分の生活にどのくらい必要か」を具体的に考えやすくなります。次に取り組むべきは、自分自身の毎月の生活費を見積もることです。
3.【計算のステップ①】毎月の生活費を見積もる
老後資金を計算する第一歩は、「自分が老後にどれくらいの生活費を使うのか」を具体的に見積もることです。一般的な統計データも参考になりますが、最終的には自分のライフスタイルに合わせて計算することが大切です。
1. 生活費の項目を洗い出す
生活費には、食費・住居費・水道光熱費・通信費・交通費・日用品・娯楽・交際費など、さまざまな支出が含まれます。まずは現在の家計簿や銀行の引き落とし履歴を参考にして、「毎月平均していくら使っているか」を整理しましょう。
2. 老後に減る費用・増える費用を考える
退職後は通勤費や仕事関係の交際費などが減る一方で、趣味や旅行に使うお金が増えることもあります。また、高齢になるにつれて医療費が増える傾向があります。例えば総務省「家計調査(2023年)」によれば、60代後半の単身世帯の食費は月約3.7万円ですが、医療費は月約0.9万円と、年齢とともに比率が高まっていきます。
3. 将来の生活イメージを数値化する
「毎月20万円あれば安心」「旅行を楽しみたいので25万円は必要」など、自分の希望する生活スタイルを具体的にお金に換算しましょう。これが老後資金の基準となります。
例えば、毎月22万円の生活費が必要と見積もった場合、年間では264万円、20年間生きると仮定すれば5,280万円が必要となります。この金額から年金収入などを差し引いて、不足分をどのように補うかを考えていきます。
4.【計算のステップ②】年金収入や退職金を確認する
老後の生活費を見積もったら、次に「どのくらいの収入があるか」を把握することが必要です。主な収入源は 公的年金 と 退職金や企業年金 です。
1. 公的年金の確認方法
公的年金は老後の生活を支える基盤です。日本年金機構から毎年届く「ねんきん定期便」や、インターネットで利用できる「ねんきんネット」で将来の受給見込み額を確認できます。
例えば、厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、夫婦2人(夫:厚生年金40年加入、妻:国民年金40年加入)の平均受給額は月約22万円前後、単身世帯の国民年金のみの場合は月約5〜6万円程度となっています。
2. 退職金・企業年金
会社勤めをしていた人は、退職金や企業年金も老後資金の重要な柱となります。厚生労働省「就労条件総合調査(2022年)」によると、大企業の退職金平均は約1,500〜2,000万円、中小企業では500〜1,000万円と幅があります。勤務先の退職金規程や確定拠出年金(DC)、確定給付年金(DB)の内容を確認しておきましょう。
3. その他の収入
パート収入や不動産収入、投資による配当なども含めて整理します。特にパート勤務は、生活費の不足分を補うだけでなく、社会とのつながりを維持できるというメリットもあります。
ここで重要なのは「収入の全体像を把握すること」です。年金や退職金の金額を具体的に知ることで、老後の生活にどの程度の安心感が得られるかが見えてきます。次のステップでは、この収入をもとに不足分を計算していきます。
5.【計算のステップ③】不足分を計算して必要額を導き出す
老後資金を計算する際に大切なのは、「生活費の総額」と「収入の総額」を比較して、不足分を明らかにすることです。ここまでのステップで見積もった生活費と、年金や退職金などの収入を突き合わせてみましょう。
1. 年間の必要生活費を算出
STEP①で試算した毎月の生活費を基準にします。たとえば「毎月22万円が必要」と見積もった場合、年間では264万円が必要となります。
2. 年間の収入を整理
STEP②で確認した年金額やその他収入を合計します。仮に年金月額が16万円、年間で192万円だとすれば、生活費に対して72万円が不足します。
3. 老後期間を想定
一般的には「65歳から85歳までの20年間」を目安にするケースが多いですが、平均寿命を考えると90歳以上まで備えておくと安心です。上記の例で不足分が年間72万円であれば、20年間では1,440万円、25年間では1,800万円が必要となります。
4. 不足分を補う方法を考える
不足額が明確になったら、その金額をどのようにカバーするかを検討します。
・貯蓄を取り崩す
・資産運用で補う
・パート勤務などで収入を得る
特に「働いて補う」という選択は、経済的な面だけでなく、社会的つながりや健康維持にもつながるため、シニア世代にとって大きなメリットがあります。
このように、不足分を数値で把握することで「どのくらい準備が必要か」が明確になります。次は具体的なシミュレーション例を見て、より現実的な老後資金のイメージをつかみましょう。
6.【シミュレーション例】夫婦・単身それぞれの必要資金
老後資金は世帯の形態によって大きく異なります。ここでは、夫婦世帯 と 単身世帯 の2つのケースでシミュレーションを行い、それぞれどの程度の資金が必要になるのかを確認してみましょう。
1. 夫婦世帯の場合
総務省「家計調査(2023年)」によれば、夫婦高齢無職世帯の消費支出は月約23万円。ここに予備費(医療費や突発的な支出)を加えて月25万円とすると、年間300万円が必要になります。
一方、厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、夫婦2人世帯の平均年金収入は月約22万円(年間約264万円)。年間で36万円不足する計算です。
20年間で約720万円、25年間で900万円が不足します。
2. 単身世帯の場合
単身高齢無職世帯の消費支出は月約13万円。予備費を含めて月15万円と見積もると、年間180万円が必要です。
国民年金のみの場合、平均受給額は月約5.5万円(年間約66万円)とされており、大きな不足が発生します。年間で114万円、20年間で2,280万円、25年間で2,850万円の不足です。
3. シミュレーションから分かること
・夫婦世帯は年金である程度まかなえるが、数百万円規模の不足が生じる
・単身世帯は不足額が大きく、老後資金の備えがより重要になる
このように具体的にシミュレーションすると、「どれくらい貯蓄や収入が必要か」が見えてきます。次のステップでは、不足分を補う方法について解説します。
7.【不足分を補う方法】働き方や資産運用の工夫
老後資金の不足分が明確になったら、それをどのように補うかを考えることが大切です。代表的な方法は「働く」「資産運用を行う」「支出を見直す」の3つです。
1. 働き方を工夫する
パートタイムや短時間勤務、在宅ワークなど、シニア世代でも無理なく続けられる働き方が増えています。例えば週3日勤務で月5万円を稼げば、年間で60万円、20年間で1,200万円の不足を補える計算になります。経済的メリットに加えて、社会とのつながりを持てることや、生活リズムを整えられることも大きな利点です。
2. 資産運用で備える
預貯金だけでなく、投資信託や個人年金保険などを活用するのも選択肢の一つです。低リスクの分散投資を行えば、インフレに備えながら資産を維持できます。例えば「つみたてNISA」や「iDeCo」など、税制優遇がある制度を利用すると効率的に資産形成が可能です。ただし、投資にはリスクが伴うため、専門家に相談しながら無理のない範囲で行うことが重要です。
3. 支出を見直す
不足分を補うためには収入を増やすだけでなく、支出の削減も効果的です。たとえば、固定費(通信費・保険料・サブスク契約など)を見直すことで、年間数万円〜十数万円を節約できる場合があります。また、住居費が大きな負担になっている場合は、賃貸から持ち家への住み替えやシニア向け住宅の利用を検討するのも一つの方法です。
不足分を補う手段は一つに絞る必要はなく、「働きながら少し投資」「支出も抑える」といった複合的なアプローチが効果的です。次に、記事全体を振り返りつつ、老後資金の考え方をまとめます。
8.まとめ|必要な老後資金を知り、安心できるセカンドライフへ
老後資金は「どのくらい必要か」を明確にしなければ、安心して第二の人生を送ることはできません。本記事で紹介したステップを振り返ると、次のようになります。
1.老後資金の基本を理解する
長寿化や医療費・介護費の増加、年金の不安定さから、老後資金は欠かせない備えであることを知る。
2.支出の内訳を整理する
生活費・医療費・介護費を具体的に分けて見積もり、自分に必要な金額を把握する。
3.生活費を見積もり、収入を確認する
自分の希望するライフスタイルに基づいて生活費を計算し、年金や退職金を照らし合わせる。
4.不足分を計算する
収入と支出を比較して不足額を明らかにし、その金額が20年、25年でどのくらいになるかを把握する。
5.不足分を補う方法を考える
働き方の工夫、資産運用、支出の見直しを組み合わせることで、安心できる老後資金を準備できる。
老後資金の準備は、単に「お金をためる」ことにとどまらず、生き方や働き方を見直すきっかけにもなります。特にシニア世代にとって「働くこと」は、収入の補填だけでなく、社会とのつながりや健康維持にも大きく貢献します。
安心できる老後を迎えるために、まずは自分の生活費を具体的に見積もり、年金や収入と照らし合わせることから始めてみましょう。それが「お金の不安から解放され、充実したセカンドライフを送る」第一歩となります。
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