1. はじめに|なぜ役割分担が重要か
企業の採用活動は、単に求人を出して応募者を面接し、採用通知を出すだけの単純な流れではありません。実際には「計画」「候補者の探索」「事務的オペレーション」「評価」「入社クロージング」といった複数のステップがあり、それぞれに異なる専門性が求められます。そこで登場するのが「採用担当者」「リクルーター」「オペレーター」「アセッサー」「クローザー」という5つの役割です。
特にシニア人材採用においては、一般的な新卒・中途採用と比べて求められる配慮が増えます。勤務時間の柔軟性、体力面への理解、スキルの再評価、そして社会的役割としての活躍機会の提供など、多角的な視点が必要です。役割をきちんと分担することで、こうしたシニア特有のニーズに対応でき、採用プロセス全体の質も高まります。
もっとも、すべての企業が十分な人員体制を整えられるわけではありません。特に中小企業や採用担当者が少ない組織では、1人が複数の役割を兼務するケースも珍しくありません。例えば、採用担当者がリクルーターとクローザーを兼ねたり、現場のマネージャーがアセッサーを担ったりすることも現実的な運用です。重要なのは「役割が存在することを理解し、誰がそれを担うのかを明確にする」ことです。
この考え方を取り入れることで、採用活動の抜け漏れを防ぎ、結果的にシニア人材を含む幅広い人材を効果的に採用できるようになります。
2. 採用担当者とは?|全体を統括する“司令塔”
採用担当者は、採用活動全体を統括する“司令塔”の役割を担います。最初に採用計画を立案し、どのポジションにどんな人材を、いつまでに何人採用するのかを明確にします。採用予算の策定や求人媒体の選定、社内の関係部署との調整も含め、全体を俯瞰して動く立場です。
具体的な業務としては、以下が挙げられます。
・採用計画/予算の立案
・求人票の作成と公開先の選定
・選考フローの設計と進捗管理
・面接官のアサインや評価基準の共有
・採用結果の振り返りと改善
特にシニア人材採用では、年齢やキャリアに応じた柔軟な職務設計や勤務体系の調整が求められるため、採用担当者の判断力と調整力が非常に重要です。たとえば「週3日勤務でも即戦力として貢献可能か」「安全や健康面でどんな配慮が必要か」といった視点を、現場と人事の間で橋渡しする役割を果たします。
兼務のポイント:採用担当者+クローザーの相性
実際の現場では、採用担当者がクローザーを兼任するケースが多く見られます。採用全体を把握している担当者だからこそ、候補者に最終的な条件提示や入社交渉を行うのは自然な流れです。候補者から見ても、初めから関わってきた担当者が最後まで責任を持つことで安心感が生まれやすいという利点もあります。
ただし、交渉や説得に必要なスキルは「調整」よりも「共感」「説得」「条件提示の巧みさ」が重視されるため、担当者自身がその資質を持っているかを見極める必要があります。小規模組織では兼務が現実的ですが、大規模組織ではクローザーを分離することでより専門性を発揮できるでしょう。
3. リクルーターとは?|候補者を見つけ惹きつける“橋渡し役”
リクルーターは、企業と候補者をつなぐ「橋渡し役」です。採用計画で定められた要件に基づき、社外から適切な人材を探し出し、応募につなげるのが主な役割となります。求人媒体や紹介会社だけでなく、最近ではSNSやシニア人材向けの専門求人サイト、地域の人材バンクなど多様なチャネルを活用して候補者を探すケースが増えています。
リクルーターの重要なミッションは「母集団形成」と「魅力付け」です。特にシニア人材採用においては、単に求人情報を発信するだけでは十分ではありません。たとえば「短時間勤務でも歓迎」「経験を活かせる役割がある」といった具体的なメッセージを伝えることで、応募のハードルを下げ、候補者に安心感を与えることができます。
さらに、候補者との最初の接点を担うため、初期段階での対応品質が非常に重要です。応募や問い合わせに迅速かつ丁寧に対応できるかどうかで、その後の応募意欲や入社意欲が大きく左右されます。リクルーターが「候補者体験(Candidate Experience)」を意識することは、結果的に採用力の強化につながります。
兼務のポイント:リクルーター+オペレーターの回し方
中小企業などでは、リクルーターとオペレーターを同じ人が兼務することも少なくありません。候補者を見つけて声をかけ、そのまま日程調整や事務手続きを行う流れです。この場合、候補者は一貫した窓口があるため安心感を持ちやすい一方で、業務が煩雑化しやすく、レスポンスの遅れが生じるリスクがあります。
したがって、兼務する場合にはテンプレートの整備やATS(採用管理システム)の活用が欠かせません。候補者との信頼関係を築くリクルーターの役割を優先しつつ、オペレーションを効率化する工夫がポイントです。
4. オペレーターとは?|採用事務を支える“縁の下の力持ち”
オペレーターは、採用活動の実務を支える「縁の下の力持ち」です。表に出る機会は少ないものの、候補者や面接官のスケジュール調整、応募書類の管理、システム入力や合否連絡などを担い、採用プロセスを滞りなく進めるうえで欠かせない存在です。
シニア人材採用では、応募経路が電話や紙媒体経由になるケースもあり、デジタル応募だけを前提とした対応では候補者を取りこぼす可能性があります。そのため、オペレーターが「候補者一人ひとりに合った柔軟な事務対応」を行えるかどうかは、採用全体の成功に直結します。
具体的な業務は以下の通りです。
・面接日程の調整とリマインド連絡
・応募書類の受付/管理(郵送やFAXを含む場合も)
・採用管理システム(ATS)への入力と進捗更新
・合否連絡の送付と候補者へのフォロー
・面接当日の受付/案内や備品準備
特にシニア層は、応募や問い合わせ時に「不安を感じやすい」傾向があります。連絡が遅れたり不十分だったりすると、応募意欲を失うこともあるため、オペレーターの丁寧な対応は候補者体験の質を大きく左右します。
兼務のポイント:オペレーター+アセッサーは成立するか
小規模企業では、オペレーターとアセッサーを兼務する例も見られます。例えば、採用事務を担当している社員がそのまま面接にも同席し、評価まで行うケースです。メリットとしては「候補者との接点が多く、全体像を把握しやすい」点が挙げられます。しかし、事務処理と評価業務は必要なスキルが異なるため、評価の公平性や客観性を保つうえで注意が必要です。
現実的には、オペレーション業務を効率化したうえで、評価は現場のマネージャーや専任アセッサーに任せる方が望ましいでしょう。
5. アセッサーとは?|公平に評価する“選考の専門家”
アセッサー(Assessor)は、候補者を公平かつ客観的に評価する役割を担います。採用活動の中でも最も重要なポイントの一つが「選考の妥当性」であり、この部分が不十分だと適材適所の配置ができず、採用後のミスマッチや早期離職につながります。
アセッサーの主な役割
・面接や適性検査の設計
・評価基準(コンピテンシーや職務要件)の明確化
・面接での質問内容の策定
・評価シートを用いた客観的なスコアリング
・他の面接官との評価すり合わせ(キャリブレーション)
特にシニア人材採用では、年齢や体力面ばかりに注目されがちですが、豊富な経験や専門知識、後進育成力といった強みをどう評価に反映させるかが重要になります。例えば「即戦力としての実務スキル」だけでなく「若手への指導力」「組織の安定性に寄与できる姿勢」といった観点を取り入れると、より正確な評価が可能です。
また、無意識のバイアスを排除する工夫も必要です。年齢やキャリアの長さを先入観で評価してしまうと、本来の適性を見誤るリスクがあります。そのため、アセッサーは評価基準を言語化し、複数の評価者で確認する仕組みを整えることが推奨されます。
兼務のポイント:現場マネージャーがアセッサーを担う場合
実務では、現場のマネージャーがアセッサーを兼務するケースが多く見られます。候補者が実際に配属される部門の上司が評価に加わることで「即戦力として使えるか」「職場に馴染めるか」といった現場目線を反映できる利点があります。
一方で、現場マネージャーは評価の専門家ではないため、評価が主観に偏るリスクも否めません。そのため、兼務する場合には評価シートやガイドラインを必ず用意し、面接前の研修を行うなどの工夫が必要です。
公平で透明性のある評価があってこそ、シニア人材の潜在力を最大限に引き出すことができます。
6. クローザーとは?|入社合意へ導く“説得のプロ”
クローザー(Closer)は、候補者に最終的な入社の意思決定を促す役割を担います。採用活動のゴールは「内定」ではなく「入社」であり、候補者が安心して決断できるよう導くことがクローザーの最大の使命です。
クローザーの主な役割
・オファー内容(給与/勤務形態/福利厚生)の提示と説明
・候補者の懸念や質問に対する丁寧なフォロー
・入社後のキャリアパスや職場環境の具体的なイメージを共有
・家族や関係者を含めた合意形成の支援
特にシニア人材の場合、「体力的に無理なく続けられるか」「家庭や地域活動と両立できるか」といった点が大きな関心事となります。そのため、単に条件を提示するだけではなく、候補者が将来の働き方をリアルにイメージできるように説明することが不可欠です。
また、入社意思が揺らぎやすい段階では「過去の経験が活かせる場であること」や「組織に貢献できる意義」を伝えることで、候補者のモチベーションを高められます。
兼務のポイント:採用担当者がクローザーを担う場合
多くの企業では、採用担当者がクローザーを兼務しています。候補者にとって、最初から一貫して関わってきた担当者が最後まで責任を持つことは安心材料になりやすく、「この人が言うなら信じられる」と思ってもらえるケースも多いです。
ただし、条件交渉や説得には専門的なスキルも求められるため、場合によっては営業経験者や経営層がクローザーを担うことで成功率が高まることもあります。
重要なのは「誰が担うか」ではなく「候補者が安心して最終決断できる体制を整えること」です。小規模組織では担当者が兼務、大規模組織では専門クローザーを配置するなど、企業規模やリソースに応じた柔軟な運用が現実的です。
7. 誰がどの役割を担う?兼務OKの運用モデル
理想を言えば、採用の5つの役割をすべて専門の担当者が担うのがベストです。しかし実際には、人員や予算の制約から「兼務」せざるを得ない企業が多いのが現実です。特にシニア人材採用に挑戦する中小企業では、少人数の人事チームで採用活動を進めるケースが一般的です。ここでは企業規模別に現実的な兼務のモデルを整理します。
小規模(従業員〜100名)での3ロール統合モデル
小規模企業では、採用担当者が「司令塔+クローザー」を担い、リクルーターとオペレーターを兼任する社員が1人、現場マネージャーがアセッサーを兼務する、という3ロール体制が現実的です。最小限の人員で回せるためコストを抑えつつ、候補者への対応を途切れさせないメリットがあります。
中規模(100〜500名)での分担+部分RPO活用モデル
中規模企業では、リクルーターやオペレーターの業務を外部のRPO(採用代行)に部分委託し、社内では採用担当者とクローザーに注力する方法が有効です。特にシニア人材採用では候補者対応のきめ細かさが鍵になるため、社外委託した部分も「候補者体験の質」を損なわないよう管理体制を整えることが大切です。
大規模(500名〜)での専門分化とガバナンス
大規模企業では、各役割を明確に分化し、専任担当を配置するのが一般的です。アセッサーを面接専門の部門に任せ、クローザーを採用マーケティング部門や経営層が担うといった形です。ただし、分業が進みすぎると候補者が「たらい回し」にされたと感じることもあるため、RACIチャート(Responsible, Accountable, Consulted, Informed)を用いて責任範囲を明確にし、情報共有を徹底することが重要です。
よくある兼務パターンと失敗回避チェックリスト
・採用担当者+クローザー:候補者への安心感が高いが、交渉スキル不足に注意
・リクルーター+オペレーター:業務効率が良い反面、レスポンス遅延のリスク
・オペレーター+アセッサー:公平性を欠く恐れがあるため評価基準を明文化
・現場マネージャーがアセッサーを兼務:実務適性は判断しやすいが、教育不足に注意
兼務自体は決して悪いことではありません。むしろ、兼務前提で仕組みを設計することで、小規模組織でも採用プロセスを抜け漏れなく進められます。大切なのは「役割が兼務されていることを自覚し、その上でリスクを補う仕組みを作る」ことです。
8. 5つの役割をどう連携させる?実践ポイント
採用活動においては、各役割が単独で機能するのではなく「連携」することで初めて成果につながります。特にシニア人材採用では、候補者が安心して応募・入社を決断できるよう、一貫性のある体験を提供することが不可欠です。ここでは5つの役割をスムーズに連携させるための具体的なポイントを整理します。
RACIで責任範囲を明確化する
RACI(Responsible=実行責任者、Accountable=最終責任者、Consulted=相談先、Informed=報告先)は役割分担を整理するフレームワークです。例えば、候補者連絡はリクルーターがResponsible、採用担当者がAccountable、現場マネージャーがConsultedといった具合に整理すれば、誰がどこまで責任を持つか明確になり、対応漏れを防げます。
ハンドオフ基準とSLAを設定する
採用プロセスの中で「どのタイミングで役割を引き継ぐのか」を決めておくことも重要です。例えば「書類選考合格から3営業日以内にアセッサーへ通知」「最終面接後24時間以内にクローザーへ引き渡し」といったSLA(Service Level Agreement)を設定すれば、候補者対応がスムーズになります。
役割別KPIと週次モニタリング
各役割にKPIを設定することで、成果を定量的に把握できます。
・リクルーター:候補者接触数、応募数
・オペレーター:面接調整ミス率、候補者満足度
・アセッサー:評価シート提出率、面接後フィードバック速度
・クローザー:内定承諾率、辞退理由の回収率
これらを週次でモニタリングし、改善サイクルを回すことで、シニア採用の歩留まりを高めることができます。
シニア採用の歩留まり改善サイクル
シニア人材の場合「応募 → 書類選考通過 → 面接参加 → 内定承諾 → 入社」の各ステップで離脱が起きやすい傾向があります。特に面接参加率や内定承諾率の低下が課題となるため、リクルーターとクローザーが連携し「懸念の聞き取り」と「条件調整」を早い段階で行うことが有効です。
このように、役割ごとの連携を仕組み化すれば、採用プロセス全体が滑らかに流れ、候補者体験の向上と採用成功率の向上につながります。
9. まとめ|明日から実践できるアクションリスト
採用活動における5つの役割――採用担当者、リクルーター、オペレーター、アセッサー、クローザー。それぞれの役割を理解し、誰がどの責任を担うかを明確にすることは、特にシニア人材採用において大きな意味を持ちます。なぜなら、候補者一人ひとりが安心して応募し、入社を決断できる環境を整えるには、プロセス全体の抜け漏れを防ぐことが不可欠だからです。
しかし、実際にはすべてを専任者で揃えることは難しく、多くの企業では「兼務」が前提となります。重要なのは「兼務を前提に設計する」ことです。役割ごとの責任範囲を可視化し、リスクを補う仕組みを導入することで、小規模組織でも十分に効果的な採用活動を実現できます。
ここで、明日から取り組めるアクションリストを整理してみましょう。
アクションリスト
・5つの役割を社内で洗い出し、現状誰が担っているかを明確にする
・RACIチャートを作成し、責任範囲の曖昧さをなくす
・候補者との接点で「誰が最初に、誰が最後に対応するか」を決める
・兼務が発生している場合、チェックリストやテンプレートを整備する
・シニア人材特有のニーズ(柔軟な働き方/健康配慮/役割明確化)を役割ごとに対応策へ落とし込む
これらの取り組みは大掛かりな仕組み変更を必要としません。むしろ小さな改善を積み重ねることで、候補者体験の向上、歩留まりの改善、そして採用成功につながります。
シニア人材の採用は、企業にとって「経験知を取り込み、組織力を高める」チャンスでもあります。役割分担を理解し、自社に合った運用モデルを選択することで、採用活動の質を一段と高めることができるでしょう。
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