「ヒアリングフレイル」とは?聞こえの衰えが健康寿命に与える影響と予防法

健康

1.ヒアリングフレイルとは何か?|難聴との関係とその背景

「ヒアリングフレイル」とは、加齢などによって聴力が低下し、日常生活で「聞こえづらい」と感じる状態が続くことで、心身や社会生活にさまざまな悪影響を及ぼすことを指します。フレイル(frailty)とは「虚弱」を意味し、体力や認知機能が少しずつ衰える中間的な段階を表す言葉です。つまり、ヒアリングフレイルは「耳の虚弱状態」とも言え、健康寿命を縮める要因の一つとして近年注目されています。

特にシニア世代では、「難聴」がヒアリングフレイルの大きな原因とされています。加齢に伴う「加齢性難聴」は、早い人では60代から始まり、70代以降では多くの人が経験する症状です。厚生労働省が発行する公式広報誌『厚生労働』2024年10月号の記事によると、難聴の患者は全国で約1,430万人、国民全体の約10%に上るとされています(厚生労働省『厚生労働』2024年10月号)。このように難聴は決して珍しいことではなく、多くの高齢者が直面する課題です。

「聞こえにくさ」を放置すると、人との会話が億劫になり、結果として外出や交流を避けるようになります。これがフレイルの進行につながり、身体活動や認知機能の低下を引き起こす可能性があります。つまり、ヒアリングフレイルは単なる耳の問題にとどまらず、「社会とのつながりを失う入口」になりかねないのです。


2.なぜ重要?ヒアリングフレイルが健康寿命に与える影響

ヒアリングフレイルは「耳の衰え」だけの問題ではなく、私たちの健康寿命に大きく関わるリスク要因です。健康寿命とは「介護や支援を必要とせず、自立した生活ができる期間」を指します。聞こえが低下すると、体や心の健康に影響が波及し、この健康寿命を短くする可能性があります。

① コミュニケーション低下による社会的孤立

難聴によって人との会話がしにくくなると、外出や地域活動を控えるようになり、社会的な孤立につながります。孤立はうつ病や認知症のリスクを高めることが、国際的な研究でも報告されています。実際に、WHO「World Report on Hearing(世界聴覚報告書)」2021 では、難聴が放置された場合に社会的孤立や認知機能低下を招きやすいと指摘されています(出典:WHO, World Report on Hearing 2021


② 認知機能の低下リスク

聞き取りが難しい状況では、脳は「音を理解する」ことに過剰なエネルギーを使います。その結果、記憶や判断といった認知機能に割ける余力が減り、物忘れや判断力の低下を招きやすくなると指摘されています。ジョンズ・ホプキンス大学のLinらによる2013年JAMA Internal Medicine掲載の研究によれば、難聴の高齢者は認知機能の低下が加速し、認知障害を発症するリスクが高まることが示されています。具体的には、難聴群では認知スコアの低下速度が30〜40%加速し、認知障害発症リスクも約24%高いとの結果です。


③ 転倒・体力低下との関係

聞こえは、バランス感覚とも深く関わっています。周囲の音が聞こえにくいと、車や人の接近に気づきにくくなり、事故や転倒の危険が増します。また、会話や交流が減ることで活動量も低下し、筋力や持久力が衰えやすくなるのです。

このように、ヒアリングフレイルは「耳の問題」にとどまらず、「心」「脳」「体」すべてに影響を与える重要な健康課題です。早期に気づき、予防・対策をすることで、健康寿命を延ばすことが可能になります。


3.放置するとどうなる?認知症・うつ・社会的孤立のリスク

ヒアリングフレイルを放置してしまうと、加齢による難聴が進行し、日常生活の質が大きく低下する可能性があります。特に恐ろしいのは、「耳の衰え」が連鎖的に心身へ悪影響を及ぼすことです。

① 認知症リスクの上昇

聞き取りにくさを放置すると、脳が「音声を理解する」作業に集中しすぎて、他の情報処理に使える力が減少します。その結果、記憶力や判断力が低下し、認知症の発症リスクが高まります。前述のジョンズ・ホプキンス大学のLinらによる2011年の研究(Archives of Neurology)では、軽度の難聴で認知症リスクが約2倍、中等度で約3倍、高度難聴では約5倍に達すると報告されています。さらに、2013年のJAMA Internal Medicine掲載研究では、難聴の高齢者は認知機能低下の進行が有意に加速することが示されています。


② うつ病や意欲低下のリスク

会話が聞き取れないことは、大きなストレスになります。相手の言葉を何度も聞き返すことへの気まずさや、理解できないことへの不安感から、人との交流を避けるようになる人も少なくありません。その結果、孤立感が深まり、うつ病の発症や気力の低下につながるケースが報告されています。一般社団法人日本補聴器工業会による「JapanTrak 2022」調査では、補聴器使用者の全体満足度が50%に改善し、特に認定補聴器技能者による調整での満足度は64%と高評価を得ています。


③ 社会的孤立による悪循環

聞こえにくさを理由に会話や集まりを避けると、友人や家族との交流が減り、孤独を感じやすくなります。社会的孤立はフレイル全般を悪化させる要因であり、身体機能の低下や生活習慣病のリスク増加にも直結します。結果的に「外に出ない → 体を動かさない → 健康がさらに悪化する」という悪循環を生み出してしまうのです。

このように、ヒアリングフレイルを放置することは、認知症やうつ病、社会的孤立といった深刻なリスクを高める危険行為です。早期に気づき、適切な対処をすることが非常に重要です。


4.ヒアリングフレイルを早期に見つけるチェックポイント

ヒアリングフレイルは、早期に気づくことで進行を防ぐことが可能です。特に「難聴」に気づきにくいのは、自分では少しずつ進行するために変化を感じにくいからです。そこで、日常生活の中でセルフチェックできるポイントを紹介します。

① 会話での聞き返しが増えていないか?

家族や友人との会話で「え?」と聞き返すことが多くなったら注意が必要です。特に複数人での会話や騒がしい場所で聞き取りにくさを感じる場合は、初期の難聴のサインと考えられます。


② テレビやラジオの音量が大きくなっていないか?

家族から「テレビの音が大きすぎる」と言われた経験はありませんか?周囲が気になるほど音量を上げてしまうのは、聴力が低下しているサインです。


③ 電話での会話が聞き取りにくくなっていないか?

電話は相手の表情が見えないため、聞き取りにくさをより強く感じやすい場面です。電話での会話に苦労するようになったら要注意です。


④ 周囲の環境音に気づきにくくなっていないか?

車のクラクションや駅のアナウンスなど、生活に必要な音に気づきにくい場合、難聴が進んでいる可能性があります。これは安全面にも直結する問題です。


⑤ 家族や友人から「聞こえていない」と指摘されたことがあるか?

周囲の人の指摘は、本人よりも早く変化を捉える大切なサインです。小さな指摘でも軽視せず、耳の健康を見直すきっかけにしましょう。


チェックリスト表(例)

チェック項目YES / NO
会話で聞き返しが増えてきた
テレビの音量が大きいとよく言われる
電話の声が聞き取りにくい
周囲の音に気づかないことがある
家族や友人に「聞こえてない」と言われた

5つのうち2つ以上が「YES」の場合、ヒアリングフレイルの可能性があります。年齢のせいと放置せず、耳鼻咽喉科での検査や補聴器の相談を検討しましょう(参考:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「聴こえ8030運動」、厚生労働省『厚生労働』2024年10月号)。


5.今日からできる!ヒアリングフレイル予防の実践法

ヒアリングフレイルは、加齢による自然な変化の一つですが、日常の工夫や習慣によって進行を遅らせることができます。難聴の進行を防ぎ、耳の健康を守るために、今日から取り入れられる予防法を紹介します。

① 定期的な耳の健康チェックを習慣に

耳の状態は自分では気づきにくいため、耳鼻科での聴力検査を定期的に受けることが大切です。特に65歳以上では、定期的に耳鼻咽喉科での聴力チェックを受けることが推奨されています。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の「聴こえ8030運動」でも、早期の気づきと診断が重要とされています(出典:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「聴こえ8030運動」)。


② 補聴器や集音機の早期活用

「まだ早い」と思って補聴器を敬遠する方も多いですが、聞こえの低下が軽度のうちに補聴器を使い始める方が、脳の聴覚処理機能を保ちやすいとされています。最近ではデザインや機能も進化し、目立たず快適に使える製品が増えています。


③ 騒音から耳を守る

大音量の音楽や工事現場の騒音など、耳に強い負担をかける環境は避けましょう。イヤホン使用時は.「60分以内・音量60%以下」を目安にする「60/60ルール」は、WHO-ITUによる「Safe listening devices and systems: a WHO–ITU Standard」(2019年発行)に基づくガイドラインの考え方に沿った推奨です。


④ 食生活と運動で血流を改善

耳の健康は血流とも密接に関わっています。バランスの良い食事、特に魚に含まれるオメガ3脂肪酸やビタミンB群は、内耳の健康維持に有効とされています。また、ウォーキングなどの有酸素運動は全身の血流を良くし、耳の健康にも役立ちます。


⑤ 積極的なコミュニケーション

会話や交流を楽しむことは、耳と脳を鍛えるトレーニングでもあります。意識して地域活動や趣味の集まりに参加することで、聞き取りの力を保ちながら、社会的孤立も防ぐことができます。


★補足:クリニックや病院での受診も忘れずに

日常のセルフケアと並んで欠かせないのが、耳鼻咽喉科やクリニックでの専門的な診断・治療です。

・急な聞こえの低下や耳鳴り、めまいを伴う場合は早急に受診が必要です。
・耳あかの詰まりや中耳炎など、治療で改善できる原因が隠れていることもあります。
・補聴器を検討する際も、医師の診断を受けてから選ぶと安心です。

「年齢のせい」と思って放置せず、セルフケア+医療機関でのチェックをセットにすることが、ヒアリングフレイルを防ぐ一番の近道です。


★どこで専門機関を探せばいい?

1.かかりつけ医や内科に相談する
 最初に相談しやすいのは、普段から通っている内科やかかりつけ医です。必要に応じて耳鼻咽喉科を紹介してもらえます。

2.地域の耳鼻咽喉科を検索する
 「耳鼻科 難聴 〇〇市」などで検索すると、近隣の専門クリニックが見つかります。初診から聴力検査を受けられるところも多いです。

3.日本耳鼻咽喉科学会のホームページを利用する
 学会の公式サイトには「専門医一覧」があり、地域ごとに検索が可能です。資格を持った耳鼻科専門医を選べるので安心です。
 👉 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 専門医検索

4.補聴器相談医・補聴器適合判定医を探す
 補聴器の使用を検討する場合は、学会が認定する「補聴器相談医」や「補聴器適合判定医」が在籍する医療機関がおすすめです。医学的評価とあわせて、最適な機器選びをサポートしてくれます。


    ヒアリングフレイルは「気づいたときにすぐ対策」が何より重要です。耳を守る習慣を日常生活に取り入れることで、健康寿命を延ばし、シニアライフをより充実させることができます。


    6.まとめ|ヒアリングフレイルは「早めの気づき」と「行動」で防げる

    ヒアリングフレイルは、単なる「耳の衰え」ではなく、認知症やうつ、社会的孤立といった深刻な健康リスクへとつながる可能性があります。しかし、早めに気づいて行動すれば、その進行を防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。

    ポイントは大きく3つです。

    1.セルフチェックで「聞こえづらさ」に早く気づくこと
    2.生活習慣の工夫で耳の健康を守ること(食事・運動・騒音対策・交流)
    3.耳鼻咽喉科やクリニックでの受診を習慣にし、必要に応じて補聴器などを早めに導入すること

      「年齢のせいだから仕方ない」と放置せず、積極的にケアと受診を取り入れることで、会話や交流を楽しみ、仕事や趣味を続けながら、シニアライフをより豊かに過ごすことができます。

      耳の健康は、あなたの「心」と「社会とのつながり」を守るカギです。
      今日からできることを一つずつ取り入れ、ヒアリングフレイルを予防して、安心で充実した毎日を手に入れましょう。

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