『短時間正社員』とは?多様な働き方を実現する新制度を徹底解説

【企業向け】シニア採用

1.短時間正社員とは?制度の基本をわかりやすく解説

「短時間正社員」とは、正社員としての雇用形態を維持しながら、所定労働時間をフルタイムより短く設定して働ける制度を指します。一般的な正社員は1日8時間・週40時間程度が基本ですが、短時間正社員では「1日6時間」「週30時間」といった柔軟な勤務時間が可能になります。

似たような働き方に「パートタイム労働者」がありますが、両者には大きな違いがあります。パートは多くの場合「非正規雇用」であり、契約更新や処遇が不安定になりがちです。一方で短時間正社員は「正社員」としての身分を持つため、雇用の安定性や福利厚生へのアクセス、昇給・昇進のチャンスを享受できる点が特徴です。

この制度が注目される背景には、日本の労働市場における多様化の流れがあります。厚生労働省「働き方改革実行計画」(2017年)では、柔軟な働き方の普及が重要課題とされており、特に子育て世代やシニア層の活躍促進を目的に短時間正社員制度が推進されてきました。実際、大手企業を中心に導入が進んでおり、中小企業でも人材確保の一環として制度化する動きが広がっています。

制度を導入することで、労働者は「フルタイムで働くのは難しいが、キャリアを継続したい」という希望を叶えられます。特に育児・介護・健康上の理由などで制約を抱える人にとって、短時間正社員はキャリアの中断を防ぐ仕組みとして大きな意味を持つのです。


2.短時間正社員制度が注目される理由

短時間正社員制度が広がりを見せているのは、単なる「時短勤務の選択肢」という以上の価値を持つからです。近年の労働市場や社会環境の変化を踏まえると、この制度が注目される理由は大きく2つあります。

ワークライフバランスの推進

まず、働き方の多様化に対する社会的なニーズが高まっている点です。育児や介護を担う世代にとって、フルタイム勤務は時間的な負担が大きく、離職の原因にもなりかねません。短時間正社員であれば、生活と仕事の両立がしやすくなり、キャリアの継続が可能になります。
内閣府「男女共同参画白書」(2023年)によると、働く人が希望する勤務条件として「短時間勤務や柔軟な労働時間制度を利用したい」と回答した割合は年々増加しています。つまり、制度があることで離職防止につながり、結果として企業側にも大きなメリットをもたらします。


シニア人材や子育て世代の活躍機会拡大

もう一つの理由は、労働力人口の減少に対応するためです。日本では少子高齢化に伴い、65歳以上の就業者数が年々増加しており(総務省「労働力調査」2024年速報値)、企業は経験豊富なシニア人材を積極的に活用する必要に迫られています。
しかし、体力面やライフスタイルの変化から「フルタイムで働くのは難しい」という声も少なくありません。そこで短時間正社員制度を導入することで、「無理なく働ける」環境を提供し、シニア層の就業意欲を引き出せるのです。同時に、子育てや介護を担うミドル世代にとっても、キャリア継続の大きな支えとなります。

つまり、短時間正社員制度は「人材をつなぎ止める仕組み」であり、労働市場全体の安定化に貢献する制度として注目を集めているのです。


3.企業にとってのメリットとは?

短時間正社員制度は、労働者にとって働きやすい制度であるだけでなく、企業側にとっても大きなメリットがあります。人材不足が深刻化する現在、多様な人材を確保するための有効な戦略として、多くの企業が導入を検討しています。

優秀な人材の確保と離職防止

最大のメリットは、優秀な人材を逃さず確保できる点です。育児・介護・健康上の理由でフルタイム勤務が難しい社員も、短時間正社員としてなら勤務を継続できます。これにより、キャリア中断や退職を防ぎ、貴重なノウハウを社内に蓄積できます。
厚生労働省「仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(2022年)では、短時間勤務制度を利用できた社員の約7割が「仕事を辞めずにすんだ」と回答しています。これは、制度が離職防止に直結する有効な施策であることを示しています。


多様性のある組織づくりとイメージ向上

さらに、短時間正社員制度はダイバーシティ経営の推進にもつながります。子育て世代やシニア層、さらには障がいを持つ人材など、従来フルタイムで働きにくかった層が活躍できる環境を整えることで、組織全体の多様性が向上します。
これは単なる福利厚生の充実にとどまらず、企業ブランドや採用力の強化にも直結します。実際、経団連の「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」(2024年)でも、企業が賃金改定時に重視する要素として「人材確保・定着」が50.8%を占めており、人材確保の観点からも柔軟な働き方への注目度の高さが示されています。

加えて、社会的責任(CSR)の観点からも、短時間正社員の導入はプラスに働きます。多様な働き方を認める姿勢は「従業員を大切にする企業」として外部評価につながり、顧客や投資家からの信頼獲得にも役立ちます。

つまり、短時間正社員制度は単なる「人事制度」ではなく、経営戦略の一環として導入する価値があるのです。


4.短時間正社員制度の導入ステップ

短時間正社員制度を導入するにあたっては、単に「勤務時間を短くする」だけでは不十分です。制度を円滑に機能させるためには、事前の準備や社内ルールの整備が欠かせません。ここでは、企業が導入する際に踏むべき基本的なステップを整理します。

就業規則や契約内容の整備

まず必要なのは、就業規則や雇用契約書の整備です。短時間正社員の勤務時間、給与体系、昇進・昇格基準、福利厚生の適用範囲などを明確に定める必要があります。特に「フルタイム正社員との差」が不透明だと、社内で不公平感を生みかねません。厚生労働省「『多様な正社員制度』取組事例集」(2021年)でも、制度の透明性が社員の納得感を高める重要要素であると指摘されています。


評価・処遇制度の設計ポイント

次に重要なのが、評価制度や処遇の設計です。勤務時間が短いからといって「責任の軽い仕事」ばかりを割り当てると、社員のモチベーションが低下し、制度自体が形骸化してしまいます。
たとえば、成果や役割に応じて評価を行う仕組みを導入し、勤務時間の長短だけで差をつけない工夫が必要です。短時間勤務でもリーダー職を担える、専門職としてスキルを発揮できる、といったキャリアパスを明示することが、制度を根付かせる鍵となります。


社内周知と運用ルールの徹底

最後に欠かせないのが、制度の周知と運用ルールの徹底です。制度を整備しても、現場の管理職や同僚が十分に理解していなければ、形だけで終わってしまいます。説明会や研修を通じて制度の目的を共有し、「お互いに支え合う働き方」を促す文化づくりが求められます。

導入ステップを踏むことで、短時間正社員制度は単なる「制度」ではなく、企業の持続的な成長を支える仕組みとして機能するようになります。


5.導入時の注意点と法的なポイント

短時間正社員制度を導入する際には、制度の形骸化や不公平感を防ぐために、法的なルールや実務上のポイントをしっかり押さえておく必要があります。ここを怠ると、せっかくの制度が社内の不満を生み、逆効果となってしまう可能性もあります。

労働基準法や社会保険の取り扱い

短時間正社員は「正社員」として雇用されるため、労働基準法や労働契約法の適用対象となります。特に労働時間、休憩、休日、有給休暇の付与条件などはフルタイム正社員と同様に守る必要があります。
また、社会保険や雇用保険の取り扱いにも注意が必要です。例えば、健康保険や厚生年金は「週所定労働時間が一般社員の4分の3以上」であれば加入義務が生じますが、法改正により「週20時間以上働く短時間正社員」も一定条件を満たせば加入対象となります(厚生労働省「社会保険適用拡大 特設サイト」。導入企業は制度に応じて正しく適用範囲を判断する必要があります。


不公平感をなくすための工夫

もう一つの注意点は、フルタイム社員との不公平感をなくす工夫です。例えば、賞与や昇進の基準を曖昧にすると「短時間正社員は不利なのでは?」という不満を招きかねません。そのため、評価基準を「時間」ではなく「成果」や「役割」で判断する仕組みが不可欠です。
また、短時間勤務だからといって責任のある仕事を任せないのではなく、働く時間の長さと役割の重さを切り離す運用が望まれます。これにより、短時間勤務の社員もやりがいを持って働け、制度が定着しやすくなります。


コンプライアンスとリスク管理

さらに、導入時には労使協定の締結や労働局への相談を通じて、法的リスクを事前に回避することが大切です。特に同一労働同一賃金の原則に関連し、非正規雇用との違いが問題化しやすいため、説明責任を果たせる体制を整えておく必要があります。

要するに、短時間正社員制度は「法令遵守」と「公平性の確保」が両輪となってはじめて効果を発揮します。導入にあたっては制度設計だけでなく、運用上の細部まで意識した取り組みが求められるのです。


6.まとめ|短時間正社員が切り開く“多様な働き方”の未来

短時間正社員制度は、働き手と企業の双方にとって大きな可能性を秘めています。フルタイム勤務が難しい人でも、正社員として安定した雇用を維持しつつ、柔軟な働き方ができるため、キャリアの中断を防ぎやすくなります。育児や介護を担う世代、また体力面の負担を考慮したいシニア層にとっては、まさに「続けられる働き方」といえるでしょう。

一方、企業にとってもメリットは少なくありません。経験豊富な人材を確保しつつ、離職を防止できること、またダイバーシティ推進や企業イメージの向上につながる点は大きな魅力です。人材不足が深刻化する日本において、多様な人材を柔軟に活用できる仕組みは、これからの経営戦略に欠かせないものとなります。

もちろん、導入にあたっては労働法規や社会保険の扱い、評価制度の整備など、注意すべき点もあります。しかし、制度を適切に設計・運用すれば、社員の満足度向上と組織力の強化を同時に実現できるのです。

短時間正社員制度は「時間に縛られない新しい働き方」の象徴であり、働き手が安心してキャリアを続けられる社会の実現に向けた重要な一歩といえるでしょう。これからの人事戦略において、導入を検討する価値は十分にあります。

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