シニア目線に立った採用活動が重要|企業の採用力を高める3つの実践ポイント

【企業向け】シニア採用

1.はじめに:なぜ「シニア目線の採用活動」が今、企業に求められているのか

日本の労働力人口は減少の一途をたどっています。総務省「労働力調査(2024年)」によると、15~64歳の生産年齢人口は7,400万人を下回り、20年前と比べて約1,000万人減少しました。一方で、65歳以上の就業者数は過去最多の930万人を突破。高齢者が「支えられる側」から「支える側」として社会を支える存在になりつつあります。

こうした背景の中で、企業に求められるのが“シニア目線に立った採用活動”です。
従来の「フルタイム前提」「即戦力重視」の採用スタイルでは、経験豊富なシニア層を取りこぼしてしまうケースが多く見られます。年齢や体力の変化に配慮しながら、働きやすさ・安心感・やりがいを感じられる職場を提示できるかが採用成功のカギとなっています。

また、シニアの働く目的も変化しています。
パーソル総合研究所が実施する「働く10,000人の就業・成長定点調査(2023年)」では、60歳以上の層で「健康維持」「生きがい」「社会とのつながり」を理由に働く人が増えており、“お金のため”よりも“心の充実”を重視する傾向が明確になっています。

このような意識変化を踏まえずに求人を出しても、応募につながらない、あるいは採用しても定着しないという問題が起きやすくなります。企業が採用力を高めるには、シニア世代の価値観・生活リズム・安心感へのニーズを理解した採用設計が不可欠です。


2.シニア目線の採用とは?“企業目線”との違いを理解する

「シニア採用がうまくいかない」と感じる企業の多くは、実は“採用プロセスの見え方”にズレが生じています。企業は「人手を補いたい」「経験を活かしてほしい」と考えますが、シニア側は「無理なく続けられるか」「職場に受け入れられるか」を重視しています。この価値観の差こそが、応募をためらわせる最大の原因です。

応募時点から見える「ズレ」をどうなくすか

シニア層にとって、求人票の情報は「働けるかどうか」を判断する重要な材料です。にもかかわらず、現場では「仕事内容が抽象的」「勤務時間や休憩の具体性がない」「体力面への配慮が不明確」など、応募者が不安を感じる表現が多く見られます。
特に60歳以上では、体力・通勤距離・家庭の事情など、条件が少し合わないだけで応募を断念するケースが少なくありません。

このギャップを埋めるには、“想定する働き手”の生活リズムや不安点を理解した表現設計が必要です。
例えば、

・「1日5時間/週3日から勤務OK」
・「重い荷物運びなし」
・「座ってできる作業あり」
といった具体的な記載を入れるだけで、応募率が上がる傾向にあります。
Indeed Japanの求人検索データ分析によると、求人タイトルに「短時間」や「未経験可」などの具体的な条件を盛り込むと、クリック率や閲覧数が向上する傾向があるとされています(参考:Indeed Japan株式会社「2024年の労働市場の展望」)。


仕事内容・勤務条件の伝え方が採用成功を左右する

シニア目線の採用では、「何をするか」よりも「どう働けるか」を丁寧に伝えることが重要です。
たとえば「清掃スタッフ募集」とだけ書くよりも、「屋内中心・1日4時間・座って作業できる時間あり」といった働く姿をイメージできる表現にすることで、安心感を与えられます。

また、写真や動画で職場の雰囲気を伝えるのも効果的です。年齢層の近いスタッフの姿を見せることで、「自分にもできそう」と思える心理的ハードルを下げられます。

こうした“情報の見せ方”の改善は、採用コストを大きくかけずに実行できる最初の一歩です。


3.企業の採用力を高める!3つの実践ポイント

シニア目線の採用活動を成功させるためには、「気持ちの理解」だけでなく、求人・面接・就業後のコミュニケーションに至るまで、一貫した工夫が必要です。ここでは、採用現場で実践しやすく、効果が高い3つのポイントを紹介します。


【ポイント①】仕事内容を「具体的」に伝える

シニアが応募をためらう理由の多くは、「自分にできる仕事かどうか分からない」という不安です。
厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告(2024年)」でも、60歳以上の就業意欲がある層のうち約4割が“仕事内容や条件が合わない”ことを応募の壁として挙げているとされています。

求人票には、

・作業内容(例:軽作業/調理補助/見守りなど)
・作業環境(例:屋内/冷暖房完備など)
・体力負担(例:重量物の運搬なし)
・休憩/サポート体制(例:途中休憩あり/ペア作業あり)
を明記しましょう。
曖昧な表現を減らすだけで、「安心して応募できる求人」に変わります。


【ポイント②】柔軟な働き方を提示する

多くのシニアは、フルタイムではなく「短時間」「週2~3日」「季節的」などの働き方を希望しています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「高年齢者の就業に関する調査(2023年)」によると、65歳以上の就業者の約6割が“柔軟な勤務日数・時間を選べること”を重視していると回答しています。

したがって、採用時から「週3日・1日5時間~OK」「午前のみ勤務」など、多様なシフトパターンを提示することで、応募対象が一気に広がります。
加えて、家庭事情や健康状態に配慮した勤務スライド制度(時間変更・休業復帰の柔軟対応)も有効です。これは企業の定着率向上にも直結します。


【ポイント③】面接では“対話”を重視する

シニア採用の面接では、「質問中心の評価型」よりも、「相互理解のための対話型」に変えることがポイントです。
たとえば、

・「これまでどんな仕事をしてきましたか?」
・「どんな環境だと働きやすいと感じますか?」
・「今後どんな働き方を望んでいますか?」
といった質問を通じて、本人の経験と希望を引き出す“聴く姿勢”を大切にします。

採用担当者が一方的に評価するのではなく、「無理なく続けられる職場か」を一緒に考える姿勢を見せることが、応募者の信頼につながります。面接の最後に「実際の勤務例」や「他のシニア社員の声」を紹介できると、より具体的な安心感を与えられるでしょう。


4.業務分解と配置設計:体力・経験・安全性に合わせた仕事づくり

シニア人材の採用を「戦力化」するには、採用時点だけでなく、現場での業務設計が鍵になります。
単に「年齢を問わず募集する」だけでは、ミスマッチや早期離職のリスクが残ります。
重要なのは、体力・経験・安全性を踏まえて業務を“再設計”することです。


業務の可視化(分解→再編):負担の重い工程を切り出す

まず行いたいのが、現場の業務を「見える化」することです。
清掃、製造、介護、物流、飲食など、どの現場でも“体力的に負担が大きい作業”と“経験が活きる作業”が混在しています。
例えば、清掃業務では「ゴミ回収」「高所拭き」などの重作業を若手中心にし、シニアには「巡回点検」「備品補充」などを担当してもらうように工程を分けるだけでも、安全性と生産性が向上します。

実際、厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告(2023年)」でも、“作業分担を見直した企業はシニアの定着率が平均1.4倍高い”というデータが示されています。


経験の活用設計:指導・品質チェックなど“非力仕事”の創出

シニアの価値は体力よりも「経験と判断力」にあります。
したがって、体力を要しない品質チェック・新人教育・安全管理といった業務を組み込むことが有効です。
特に製造や介護の現場では、「指導員」「サポートスタッフ」といった役割を設けることで、若手との橋渡し役となり、職場の安定化にも寄与します。

このような「経験を活かせるポジション」は、本人のやりがいを高め、“自分が必要とされている”という心理的満足をもたらします。結果として離職率低下にもつながります。


オンボーディングと定着支援:初期OJT/無理のない評価指標

採用後の初期教育(オンボーディング)は、シニア採用の成否を左右します。
特にデジタル機器や新しい設備操作がある場合、最初のつまずきで離職に至るケースも多いため、初期OJT(段階的な研修)を丁寧に設計することが重要です。
「1日目は同行」「2週目から一人作業」など、明確な段階を示すと安心感を与えられます。

また、評価制度は「スピード」や「成果量」ではなく、安全意識・チーム貢献・継続勤務率など、シニア特性に合った指標を採用するのが望ましいです。
これは“企業側の評価基準を変える”という意味で、真のシニア目線の実現といえるでしょう。


4.求人の出し方:シニアに届く求人票・チャネル設計

どれほど良い職場を用意しても、「シニアに届く形」で求人を出さなければ応募は増えません。
シニア目線の採用では、“どこに出すか”“どう書くか”“どう見せるか”の3つを最適化することがポイントです。


どこに出す?:ハローワーク/地域紙/シニア向けサイト/自治体連携

シニア層は、若年層と比べてスマートフォンやSNS経由の情報収集が少ない傾向にあります。
シニア層の多くは、いまだにハローワークや知人紹介など地域密着型の求人チャネルを利用しています。
厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告(2022年)」によると、60歳以上の就職経路で最も多いのはハローワーク経由(約6割)で、次いで「知人・友人の紹介」「チラシ・地域紙」などが続きます。
こうした傾向から、シニア採用ではオンラインだけでなく、地域ネットワークとの連携も欠かせません。
つまり、インターネット求人だけでは接点が限られるのです。

最近では、自治体や商工会議所が主催する「シニア就職説明会」や、シニア特化型求人サイト(例:「キャリア65」「マイナビミドルシニア」など)も増えています。
オンラインとオフラインを組み合わせた複線型の募集設計が効果的です。


求人タイトルと検索最適化:短時間・未経験可・体力負担の明示

求人タイトルは、検索結果で最初に目に入る重要な要素です。
「未経験OK」「短時間」「ブランク歓迎」「60歳以上活躍中」といったキーワードを入れることで、Indeedなど検索型媒体でのクリック率が上がります。
Indeed Japanの求人検索データ分析によると、求人タイトルに「短時間」や「未経験可」など具体的な条件を含めた場合、クリック率や閲覧数が高まる傾向があるとされています。

また、「体に負担が少ない」「冷暖房完備」「マイカー通勤OK」など、シニアが安心して働ける環境をタイトルや冒頭に盛り込むことで、離脱を防げます。


求人票の要点:仕事内容の具体化・勤務日数/時間・移動距離・休憩

求人票本文では、抽象的な表現を避け、「働く姿が思い浮かぶレベル」で記載するのがコツです。
たとえば、

・「屋内での軽作業、台車を使用」
・「1日4時間/週3日から勤務OK」
・「バス停から徒歩5分、通勤負担少なめ」
など、安心・具体・簡潔の3原則を意識すると効果的です。

さらに、シニア層では通勤距離と休憩時間が重要視されます。
地図や職場写真、休憩スペースの情報を掲載するだけでも応募率が向上します。


写真・動画・問い合わせ導線:電話・紙応募・LINE等の併設で障壁を下げる

応募導線も「デジタル前提」ではなく、複数手段を併用するのがポイントです。
シニア層はフォーム入力が苦手な人も多いため、「電話応募OK」「履歴書郵送OK」「LINE応募可」といった柔軟な導線を設けると応募率が高まります。
また、職場紹介動画やシニア社員インタビューを掲載することで、雰囲気の伝わりやすさも格段に上がります。


掲載後のPDCA:問い合わせSLAと原稿改善ループ

求人は「出したら終わり」ではなく、反応データを見て改善を続けることが大切です。

・クリック数に対して応募が少ない → タイトル改善
・応募数が少ない → 勤務条件の見直し
・面接辞退が多い → 情報ギャップを分析
といったPDCAを回すことで、成果は着実に上がります。

求人データを定期的に見直し、1〜2週間ごとに内容を最適化することで、安定した応募数を確保できます。


5.法対応と支援策:高年齢者雇用安定法と活用できる助成金

シニア採用を進めるうえで、法制度と助成金の理解は欠かせません。
「採用はしたいけど制度が複雑で不安」という声は多く聞かれますが、実は基本を押さえれば、企業にとって大きな経済的メリットにもつながります。


押さえるべき法要点:65歳までの雇用確保措置/70歳就業機会確保努力義務

まず知っておきたいのが、高年齢者雇用安定法(改正2021年施行)の内容です。
この法律では、企業に対して以下の措置が義務づけ・努力義務として定められています。

対象年齢義務内容概要
65歳まで雇用確保措置(義務)定年延長・継続雇用・定年廃止のいずれかで65歳までの雇用を確保する
70歳まで就業機会確保(努力義務)雇用だけでなく、業務委託・社会貢献活動など多様な働き方を含めて就業機会を提供する

つまり、「70歳まで働ける仕組みづくり」を企業が自発的に整えることが推奨されているということです。
この取り組みを進めることで、「高年齢者雇用確保措置実施企業」として行政・地域からの信頼を高める効果もあります。


主な助成金の整理と要件例(高年齢者雇用開発特別奨励金 ほか)

シニア採用を推進する企業には、厚生労働省が複数の助成金を用意しています。代表的なものを整理してみましょう。

助成金名対象・条件支給内容(例)
高年齢者雇用開発特別奨励金65歳以上の求職者をハローワーク等の紹介で雇用した企業対象1人あたり最大70万円(短時間労働者は40万円)
65歳超雇用推進助成金(高年齢者無期雇用転換コース)有期契約の60歳以上を無期雇用に転換した場合1人あたり48万円(中小企業)
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)雇用保険受給資格者で高年齢者を採用した企業最大60万円(中小企業)

これらの制度を活用することで、初期採用コストを抑えつつ、シニア雇用の安定化を図ることができます。
また、助成金の申請には「雇用契約書・出勤簿・給与台帳」などの基本書類が必要となるため、採用と同時に書類整備をルール化することが重要です。

国や自治体の制度的支援も年々拡充しており、こうした取り組みに積極的な企業は自治体や地域メディアでも紹介されるケースが増えています。
法制度を「義務」として捉えるのではなく、企業ブランドを高めるチャンスとして活用する姿勢が、今後の採用戦略の差を生みます。


6.まとめ|シニア目線で採用力を高め、企業も人も成長する未来へ

少子高齢化が進む中で、「シニアの力をどう活かすか」は、もはや一部の業界だけの課題ではありません。
企業の持続的な成長を実現するためには、“シニア目線に立つ採用活動”こそが新しい競争力になります。

これまで見てきたように、シニア採用成功のカギは次の3点に集約されます。

1.シニアの価値観を理解し、具体的な仕事内容や条件を提示すること
2.体力・経験に応じた業務分担と柔軟な働き方を設計すること

3.求人票・面接・定着支援まで一貫して“安心して働ける”環境を示すこと

    これらを丁寧に実行することで、単なる人手確保にとどまらず、職場の多様性・生産性・若手育成力の向上にもつながります。
    シニアは豊富な経験と人間力を持つ貴重な人材であり、彼らが活躍できる職場は、結果としてすべての世代が働きやすい職場になります。

    最後に、厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告(2024年)」によると、70歳以上まで働ける制度を導入している企業の割合は30.8%と年々増加しています。
    この流れは今後さらに加速し、“年齢に関係なく働ける社会”を実現する企業こそが、採用市場で選ばれる存在
    となるでしょう。

    シニア目線に立つ採用は、企業の「優しさ」ではなく「戦略」です。
    今こそ、人と企業の双方が成長できる新しい採用のかたちを実践していきましょう。

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