シニア人材のキャリア・オーナーシップ向上ガイド|採用〜評価〜配置転換までの実務チェックリスト

【企業向け】シニア採用

はじめに|なぜ今「シニア人材のキャリア・オーナーシップ」が重要なのか

近年、企業の人事戦略において「キャリア・オーナーシップ(自律的キャリア形成)」という言葉が注目されています。特にシニア人材においては、定年延長や70歳までの就業機会確保が法制化されたことで、“企業に任せるキャリア”から“自分で選び取るキャリア”へと発想を転換する必要が出てきました。

しかし現場では、年齢を重ねた社員ほど「異動や挑戦を避ける」「上からの指示待ちになる」といった受け身型の姿勢が課題となっています。背景には、企業側のマネジメントが“管理中心”に偏ってきたことも大きく、本人の意欲や成長機会を十分に引き出せていないケースが少なくありません。

シニア人材がキャリアを主体的に描くためには、企業側の仕組みと個人の意識改革の両輪が必要です。たとえば、キャリア面談や職務定義の明確化を通じて「自分は何に貢献できるのか」を可視化することが第一歩になります。また、上司側にも“育成される存在”ではなく“共に成長するパートナー”として向き合う姿勢が求められます。

本記事では、採用から評価・配置転換に至るまで、企業が実践できる「シニア人材のキャリア・オーナーシップ向上策」をステップ形式で解説します。制度づくりのヒントだけでなく、現場で即実践できる観点も交えて紹介していきましょう。


STEP1:採用段階でのキャリア意識の見極め方

シニア人材の採用では、「スキル」や「経験」だけでなく、どれだけ主体的に自分のキャリアを捉えているかを見極めることが重要です。特にキャリア・オーナーシップの高い人材は、年齢に関係なく学び続け、職場に新たな価値をもたらす傾向があります。

● 面接で確認すべき「キャリア観」と「役割意識」

採用面接では、過去の経歴をただ時系列で追うのではなく、以下のような質問を通じて本人のキャリア意識を探ります。

・「これまでの仕事で一番成長を感じた経験は?」
・「今後、どんな形で社会や組織に貢献したいと考えていますか?」
・「これまでの経験をどのように活かせると思いますか?」

これらの質問に対し、“過去の成功体験”だけを語る人よりも、“今後どう活かしたいか”を具体的に語れる人ほど、キャリア主体性が高い傾向にあります。


● ジョブディスクリプション(職務定義書)によるマッチング精度の向上

採用時のミスマッチは、キャリア意欲の低下を招きやすいポイントです。そこで、職務内容・期待役割・評価基準を明文化した「ジョブディスクリプション(職務定義書)」を用意しておくと、本人の理解度と企業側の期待が一致しやすくなります。
特にシニア人材の場合、抽象的な「戦略立案」「人材育成」などの役割表現ではなく、具体的な行動レベル(例:週1回の若手育成ミーティング実施など)で定義することが効果的です。


● 適性評価とキャリア面談の併用

採用前に、キャリア指向や学習意欲を測定できる適性検査(例:キャリア・アンカー理論〔エドガー・シャイン〕に基づく自己分析ツールなど)を活用するのも有効です。これにより、本人が何を重視して働いているか(安定・挑戦・貢献など)を可視化でき、配置や教育計画の参考になります。
また、採用直前のキャリア面談を行い、「この職場で何を実現したいか」を明確化することで、入社後の主体的行動を引き出すことができます。


STEP2:オンボーディングで“主体性”を育てる仕組みづくり

採用後の「最初の3か月」は、シニア人材が職場に馴染み、主体的に行動を起こすかどうかを左右する極めて重要な期間です。ここでのオンボーディング(初期定着支援)の質が、その後のモチベーション維持やキャリア・オーナーシップの形成に直結します。

● 初期教育で重視すべきは「貢献実感」の設計

年齢を重ねた人材ほど、「自分の経験が誰かの役に立っている」と感じられる場面が多いほど意欲が高まります。単なる業務マニュアルの説明ではなく、「あなたのこの経験が、このチームにこう活きる」という貢献イメージを伝えることが大切です。
たとえば、製造業であれば品質改善や後輩指導の役割を、介護業界であれば利用者対応や新人教育の支援役を明示するなど、本人の過去経験と“今の貢献”をつなげるコミュニケーションが鍵になります。


● メンター制度・リバースメンター制度の活用

シニア社員の定着に効果的なのが、メンター制度リバースメンター制度の併用です。
メンター制度では、現場リーダーが仕事面・人間関係面の相談役となり、心理的安全性を高めます。
一方、リバースメンター制度(若手が年上社員を支援する仕組み)では、ITリテラシーや社内ツールの使い方などを若手が教えることで、世代を超えた相互理解が生まれ、学ぶ姿勢の再活性化にもつながります。
実際、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」(2020年)でも、定着率の高い企業ほど「高年齢者の活躍促進」「世代間連携」などの施策に取り組んでいる割合が高いことが報告されています。


● キャリア面談を通じた“自己理解支援”

オンボーディング期間中にキャリア面談を実施し、本人の強みや価値観を整理することも効果的です。質問のポイントは、「何にやりがいを感じるか」「どんな役割で力を発揮できそうか」。
この対話を通じて、シニア社員自身が自分のキャリアを“再定義”し、役割を自ら選び取る姿勢を養うことができます。


STEP3:評価制度とキャリア面談の見直し

キャリア・オーナーシップを育てるうえで、評価制度の見直しは欠かせません。シニア人材の活躍を「年齢や在籍年数」でなく「成果と学びのプロセス」で評価する仕組みを整えることが、主体的な行動を後押しします。

● 成果だけでなく「プロセス・知見共有」を評価する

多くの企業では、短期的な成果指標に偏った評価が行われています。しかし、シニア人材の強みは、チーム全体に知見を伝え、若手を育てることにあります。
たとえば、若手社員への教育・改善提案・チーム全体のパフォーマンス向上など、組織貢献を“見えない成果”として評価項目に組み込むことが有効です。
評価項目の例:

評価領域評価内容の例
組織貢献チーム全体の生産性向上、他者支援、後輩育成
自己成長新しい知識・スキルの習得、社内資格の取得
知見共有ノウハウのマニュアル化、改善提案の実施

こうした指標を設定することで、シニア人材が「自分の役割はまだ終わっていない」と感じ、キャリアを自ら磨こうとする動機づけが生まれます。


● 定期面談でキャリアの棚卸しを行う

評価期間の終わりに実施する面談では、単なるフィードバックに留まらず、次のキャリア目標を共に考える対話が求められます。
厚生労働省の「雇用の構造に関する実態調査(高年齢者雇用実態調査)(2024年)」によると、定期的にキャリア面談を実施している企業の方が、60歳以上社員の「就労継続意欲」が平均で12ポイント高いという結果が示されています。
面談時には、「今後やってみたいこと」「社内で貢献できる分野」「学び直したいスキル」などを一緒に整理し、次期目標に反映させると効果的です。


● 評価者教育とフィードバックの質向上

キャリア・オーナーシップの育成は、評価する側の意識にも左右されます。
人事評価研修やフィードバック研修を通じて、上司が「指示」ではなく「伴走」できる関係を築くことが理想です。特に中間管理職には、“成長支援”を目的とした対話スキルが求められます。
「あなたにはまだ貢献できる場があります」といった承認+期待のメッセージを伝えることが、本人の自律意識を高める最大の要因となります。


STEP4:配置転換・学び直し支援によるキャリア継続

キャリア・オーナーシップを高めるには、シニア社員が「自分の経験を新たな形で活かせる場」を得ることが不可欠です。配置転換や学び直し(リスキリング)は、そのための強力な手段となります。本人の希望と組織のニーズをすり合わせながら、新しい挑戦の機会を設計することがポイントです。

● ミドル・シニア向けジョブリローテーション制度

同じ部署・同じ業務に長く携わると、視野が固定化され、挑戦意欲が下がりがちです。そこで有効なのが、「キャリアの再構築」を目的としたジョブリローテーション制度です。
特に50代以降では、単なる異動ではなく「これまでの経験を活かせる新しい貢献の場」へと導く設計が重要です。
例として、営業経験者が教育担当や品質管理へ転換する、介護職員が地域連携や研修講師を担うなど、“経験の再活用”を軸にした異動が効果を発揮します。
この仕組みは、従来のポジションに依存せず「自分のキャリアを組み替える感覚」を促進し、オーナーシップ向上につながります。


● 社内公募・社外越境学習の推進

社内でのキャリア再構築を支援するために、社内公募制度(社内版ジョブポスティング)を導入する企業が増えています。
本人が手を挙げて異動希望を出せる仕組みを整えることで、「キャリアを会社任せにしない」風土が生まれます。
また、社外越境学習(地域活動・NPO・他企業プロジェクトへの参加など)を通じて新しい視点を得ることも有効です。
近年、経済産業省が推進するリスキリング支援策や企業の学び直し制度が広がりつつあります。特に、社外での活動や新分野の学習を通じて、仕事への主体性が高まる社員も増えており、「学びがキャリアを自分で描く力を育てる」動きが企業内でも注目されています。


● リスキリング・助成金の活用

学び直し支援は、企業の費用負担が課題になりやすい領域です。しかし、厚生労働省の「人材開発支援助成金」を活用することで、職業訓練や資格取得のための研修費用・賃金補助を受けることが可能です。
特に「事業展開等リスキリング支援コース」は、中高年社員の新分野転換を目的とした研修に適しています。
このような制度を積極的に活用し、“学びを続ける環境を会社が整える”ことが、本人のキャリア自律への最大の支援
となります。


STEP5:企業が取り組むべきキャリアオーナーシップ推進体制

キャリア・オーナーシップは、個人の意識だけに委ねてもうまく定着しません。組織としての支援体制を整え、シニア社員が自らキャリアを考え、行動できる環境をつくることが欠かせません。ここでは、企業内で完結できる実践的な取り組みを整理します。

● キャリア支援方針の明文化と共有

まず重要なのは、会社としてのキャリア支援の方針を明文化することです。
「シニア社員も継続的に成長し、役割を更新していく存在である」という理念を、就業規則・人事制度・社内報などに明示することで、現場の上司や同僚にも一貫したメッセージを伝えられます。
単なる“延長雇用のルール”としてではなく、「人生100年時代に対応する働き方支援策」として位置づけることで、全社員にとっても前向きな制度として浸透します。


● 人事・現場・経営の役割分担を明確に

キャリア自律支援を形骸化させないためには、関係者ごとの役割を明確にすることが肝心です。

・人事部門:制度設計、面談の仕組みづくり、社内ガイドラインの整備
・現場管理職:日常的なキャリア支援(面談/フォロー/挑戦機会の提供)
・経営層:方向性の提示と文化的な支援(挑戦を称える仕組みづくり)

この三層が連携することで、シニア社員が安心して自分のキャリアを語り、行動に移せる職場環境が整います。


● キャリア相談窓口・社内公募制度の整備

「相談できる場」がないと、シニア社員は行動を起こせません。
社内キャリア相談員や専門相談窓口を設け、キャリアの棚卸し・異動希望・学び直しなどを気軽に相談できる体制をつくることが望ましいです。
また、社内公募制度を導入し、自ら異動や新プロジェクトに応募できる仕組みを整えると、キャリア・オーナーシップが定着しやすくなります。


● キャリア意識の可視化とKPI設定

制度を運用する際は、「どれだけ自律的にキャリアを考える社員が増えているか」を測る指標を設けましょう。
たとえば以下のようなKPIが有効です。

指標測定内容
自己申告制度利用率キャリア目標・希望部署を申告した社員の割合
キャリア面談実施率年1回以上、本人と上司がキャリア面談を行った割合
定着率シニア社員の1年以上在籍率
研修参加率リスキリング・キャリア教育への参加割合

このように「見える化」→「改善」→「定着」のサイクルを回すことで、キャリア支援体制は継続的に強化されていきます。


まとめ|“キャリアを自分で描く”シニアが組織を変える

シニア人材のキャリア・オーナーシップ向上は、単なる人事施策ではなく、組織文化の変革そのものです。
年齢や役職に関係なく、一人ひとりが「自分のキャリアを自分で描く」という意識を持つことで、企業はより柔軟で強い組織へと変わっていきます。

そのために企業ができることは、“管理する”から“共に考える”へという姿勢の転換です。上司が部下にキャリアを指示するのではなく、対話を通じて「何をやりたいか」「どう貢献できるか」を一緒に考える関係性を築くことが重要です。
シニア社員自身も、過去の経験を再定義し、新しい形で社会に貢献する意欲を持つことが求められます。

キャリア・オーナーシップを支える仕組みは、若手にも波及します。学び直しや社内公募、キャリア面談などの制度は、世代を超えて“キャリア自律の文化”を醸成する土台となります。
結果として、「年齢に関係なく挑戦できる会社」というブランド価値が高まり、採用・定着の両面でプラスに働くのです。

これからの時代、企業の競争力を左右するのは“人材の自律性”です。
シニア人材がキャリアを主体的に歩み、若手を支え、組織の未来を共につくる——。
その姿勢こそが、長寿社会における持続的成長のカギとなるでしょう。

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