シニア人材の戦力化を加速する産業保健体制とは?ストレスチェック・就業配慮・作業設計のベストプラクティス

【企業向け】シニア採用

1.はじめに|シニア人材の活躍を支える「産業保健体制」の重要性

日本は今、かつてないスピードで高齢化が進行しています。総務省「労働力調査(2024年)」によると、65歳以上の就業者は約925万人に達し、全就業者の約14%を占めるまでになりました。
こうした背景の中で、多くの企業が「シニア人材の活躍」を経営課題の一つとして位置づけ始めています。しかし、採用を進める上で見逃せないのが――健康と安全を守る産業保健体制の整備です。

シニア人材は、豊富な経験やスキルを持つ一方で、加齢に伴う体力・視力・持久力の変化、慢性疾患のリスクを抱える場合もあります。これらを適切にマネジメントしなければ、本人の就業継続が難しくなるだけでなく、組織全体の生産性にも影響を及ぼすおそれがあります。

産業保健体制とは、企業が従業員の健康を守り、安全に働ける環境を整備するための仕組みのこと。産業医、保健師、衛生管理者などの専門職が連携し、健康診断やストレスチェック、作業環境管理、復職支援などを行います。これまで若年層を中心に設計されてきた体制を、シニア世代にも最適化することが今、企業に求められているのです。

シニアの健康を支える仕組みを整えることで、「長く働ける職場」が実現します。結果として、労働力確保だけでなく、企業イメージの向上や職場の多様性推進にもつながります。
本記事では、シニア人材の活躍を支える産業保健体制のあり方と、実践すべきポイントを詳しく解説していきます。


2.なぜ今、産業保健体制の整備が求められるのか|法改正と70歳就業時代の背景

日本の労働市場では、いまや「70歳就業時代」と呼ばれる新しいフェーズに突入しています。背景にあるのは、少子高齢化による人手不足と、労働力確保のための法制度の変化です。特に注目すべきは、2021年に改正された「高年齢者雇用安定法」。この改正により、企業には70歳までの就業機会の確保努力義務が課せられました。
つまり、定年を延ばすだけでなく、再雇用・業務委託・フリーランス契約など、柔軟な働き方を含めて高齢者が働き続けられる環境づくりが求められているのです。

厚生労働省が2024年に発表した「労働経済動向調査」でも、60歳以上の雇用を拡大した企業のうち約7割が「健康維持と安全確保の体制整備が課題」と回答しています。これは、単に労働力としての受け皿を用意するだけでなく、健康と安全の両立をどう実現するかが問われていることを示しています。

産業保健体制の整備は、その中核的な解決策です。
特にシニア層は、若手とは異なる健康リスクを抱えやすく、職場復帰時の配慮や就業制限の判断など、医学的知見を踏まえた対応が欠かせません。産業医や衛生管理者が主導して体調管理を行い、本人・上司・人事部門が情報共有できる仕組みを構築することが重要です。

また、政府は「健康経営」を推進しており、経済産業省と日本健康会議による「健康経営優良法人認定制度」も広がっています。これらは単なる福利厚生の一環ではなく、企業の持続可能性(サステナビリティ)を支える経営戦略として位置づけられつつあります。
シニアの健康支援を体系的に行うことは、長期的に見て人材定着・生産性・企業価値のすべてを高める投資といえるでしょう。


3.産業保健体制の基本構成|産業医・衛生管理者・産業保健スタッフの役割

企業の「産業保健体制」は、従業員が安全かつ健康に働くための土台となる仕組みです。特にシニア人材を多く抱える企業にとっては、健康状態の個別対応や職務設計の見直しを含めた総合的な管理が欠かせません。その中心となるのが、産業医・衛生管理者・産業保健スタッフの3つの専門職です。


① 産業医:医学的視点から職場環境を監督する責任者

産業医は、従業員の健康を守るための医学的専門家です。労働安全衛生法では、常時50人以上の従業員を雇用する事業場には産業医の選任が義務付けられています。
シニア雇用において産業医の役割は特に重要で、以下のような対応が求められます。

・定期健康診断結果の確認と就業判定
・高血圧/糖尿病などの慢性疾患を持つ社員への就業配慮
・長時間労働/ストレスによるメンタル不調への早期介入
・作業負荷や姿勢などのリスク要因に対する改善提案

つまり産業医は、単なる健康診断の判定者ではなく、企業の健康経営戦略を支えるパートナーとして機能する必要があるのです。


② 衛生管理者:職場の安全と環境を守る現場リーダー

衛生管理者は、作業環境の安全確保を担う存在です。照明・温度・騒音・換気といった労働環境要素の点検、災害防止や衛生教育の実施など、「現場で働く人の健康を守る実務担当者」として活動します。
特にシニア従業員は体温調整機能が低下している場合が多く、熱中症や寒冷環境によるリスクが若年層より高い傾向にあります。そのため、季節ごとの作業環境チェックや休憩ルールの見直しなど、年齢特性を踏まえた柔軟な対応が必要です。


③ 産業保健スタッフ(保健師・心理士など):心身両面のサポート役

保健師や臨床心理士などの産業保健スタッフは、健康相談・メンタルケア・生活習慣改善支援など、個人に寄り添う支援を行います。特に、「生活習慣病×メンタル不調」という二重リスクを抱えることが多いシニア層において、こうしたスタッフの存在は極めて重要です。

また、ストレスチェック制度(2015年施行)は、シニア従業員の心理的負担を可視化するうえでも有効なツールです。結果を産業医・保健師・人事が共有し、必要に応じて職務内容の調整や面談を実施することで、早期離職を防ぐことができます。


産業保健体制は、これらの専門職が連携して機能することではじめて成果を発揮します。特にシニア雇用では、「年齢」ではなく「健康状態」や「能力」に基づいた職務マッチングを行う仕組みを整備することが、企業の持続的成長のカギとなります。


4.シニア人材の健康課題にどう向き合うか|慢性疾患・フレイル・メンタル面のリスク管理

シニア人材の雇用において、最も重要なのは「健康を維持しながら働ける環境を整えること」です。年齢を重ねるにつれ、心身の変化や疾病リスクが高まるのは自然なこと。しかし、それを理由に就業機会を制限してしまえば、本人の意欲を損ねるだけでなく、企業としても貴重な戦力を失うことになります。
ここでは、企業が把握しておくべき主要な健康課題と、その対応策を整理します。


① 慢性疾患のコントロールと勤務配慮

厚生労働省「国民健康・栄養調査(2023年)」によると、60歳以上では高血圧が約60%、糖尿病が約25%と、慢性疾患の保有率が高いことがわかっています。これらは日常生活には支障がなくても、勤務時間や作業内容によっては負担になることがあります。

企業としては、定期健康診断や医師の意見をもとに「就業上の措置」を適切に講じることが大切です。たとえば、服薬時間を確保する勤務スケジュール、重労働や夜勤の回避、休養を取りやすい勤務制度の導入など、“働き続けられる工夫”が求められます。


② フレイル(加齢性虚弱)への早期対応

近年注目されているのが「フレイル(frailty)」という概念です。これは、加齢により筋力や活動量が低下し、要介護に至る前段階を指します。日本老年医学会の定義では、フレイルは「健康」と「要介護」の中間段階にあり、早期介入で回復が可能とされています。

職場では、疲れやすさ、歩行速度の低下、体重減少などの兆候に気づいた段階で産業保健スタッフが声をかける仕組みを整えることが重要です。フレイル予防の観点から、軽い体操の導入や昼休みのウォーキング推奨など、「健康習慣を職場文化にする」取り組みが効果的です。


③ メンタルヘルス不調への予防的アプローチ

シニア層のメンタル不調は、役職定年や再雇用による職務変化、収入減、職場内での孤立感など、社会的要因が絡むことが多いのが特徴です。
厚労省「労働安全衛生調査(2023年)」では、50代以上の約4人に1人が「強い不安・悩み・ストレスを感じる」と回答しており、その理由の1位が「仕事の量・質」、2位が「職場の人間関係」でした。

企業は、メンタル面をタブー視せず、定期的なストレスチェックとフォロー面談を実施することが欠かせません。また、管理職に対して「高齢社員の心理的支援」についての研修を行い、孤立を防ぐ仕組みを作ることも有効です。
重要なのは、「健康管理をされる側」から「自分で健康をマネジメントする側」への意識転換を促すこと。これにより、シニア人材の自立的・持続的な活躍が実現します。


5.現場での実践ステップ|ストレスチェック・就業配慮・作業設計のベストプラクティス

シニア人材の健康と安全を守るためには、制度や理念だけでなく、現場で機能する具体的な運用ステップが欠かせません。ここでは、産業保健体制を実践的に活用するための3つの柱――「ストレスチェック」「就業配慮」「作業設計」――に分けて、実践のヒントを紹介します。


① ストレスチェックの活用と職場改善への展開

労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の事業場では年1回のストレスチェックが義務化されています。
しかし、チェックを「実施して終わり」にしてしまう企業も少なくありません。重要なのは、結果を分析し、組織課題に結びつけることです。
たとえば、年代別に結果を比較すると、シニア層では「役割変化」「職場内孤立」「キャリア喪失感」に関連するストレスが高い傾向が見られます。産業医や保健師は、人事部門と連携して分析結果を共有し、面談や配置転換、業務量の調整を検討する必要があります。

また、職場全体で「健康対話」を促すのも有効です。定期的な1on1やグループミーティングで、心理的安全性を高める場をつくることが、メンタル不調の早期発見につながります。


② 就業配慮の運用ルールを明確化する

シニア社員に対する就業配慮は、「特別扱い」ではなく「公平な健康支援」として位置づけることが重要です。
厚生労働省の「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(令和6年)では、従業員の病状に応じた勤務時間・作業内容の調整が推奨されています。たとえば以下のような取り組みが考えられます。

・通院日を考慮した勤務スケジュールの設定
・定期面談による体調変化のモニタリング
・重作業/夜勤/長距離移動を伴う業務の制限
・ITツールを活用した在宅/サテライト勤務の導入

こうした取り組みを「制度」として明文化することで、本人・上司・人事の間で共通理解が生まれ、職場の納得感と透明性が高まります。


③ 作業設計の見直しと業務分担の最適化

シニアが安心して働ける職場をつくるには、業務内容そのものを見直す視点も欠かせません。
高齢労働者の労働災害は依然として多く、厚労省「労働災害動向調査(2023年)」では、60歳以上の労災被災者は全体の約30%を占めています。
この背景には、「身体能力や反応速度の変化に作業設計が追いついていない」という現実があります。

企業が取り組むべきは、作業動線や設備の高さ、重量物の取り扱いなどの“人間工学的改善”です。
また、若手とシニアがペアで作業する「ジョブシェアリング型の配置」や、経験者の指導業務をメインとする「シニアメンター制度」も有効です。こうした再設計は、単に安全性を高めるだけでなく、シニアのモチベーションと貢献意識を引き出す効果があります。


これらの実践ステップは、単発の取り組みではなく、産業医・人事・現場の三位一体運用によって初めて定着します。重要なのは、制度を「守る」ための仕組みではなく、人を活かすための仕組みとして運用することです。


6.まとめ|健康と生産性を両立させる「シニア時代の職場づくり」へ

シニア人材の活躍は、これからの日本企業にとって「社会的使命」であると同時に、「競争力の源泉」にもなります。その鍵を握るのが、産業保健体制の整備と運用です。
働く意欲のある高齢者が安心して力を発揮できる職場をつくることは、単なる福祉ではなく、企業の持続的成長に直結します。

産業医・衛生管理者・保健師などが連携して健康情報を共有し、慢性疾患やメンタル面のリスクにきめ細かく対応することで、離職や労災の防止につながります。さらに、就業配慮や作業設計の工夫によって、個々の能力を最大限に引き出せる環境をつくることができます。
その結果として、「健康経営」×「高齢者雇用」=生産性向上と組織の活性化という好循環が生まれるのです。

経済産業省が推進する「健康経営優良法人」や、厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」など、シニアの健康と安全に配慮した企業を支援する制度も整いつつあります。これらを上手に活用すれば、コストを抑えながらも質の高い体制づくりが可能です。

70歳までの就業が当たり前となるこれからの時代、企業が求められているのは「高齢者を採用すること」ではなく、「健康に働き続けられる仕組みを整えること」。
産業保健体制を経営戦略の一部としてとらえることこそ、真の意味での“シニア時代の職場づくり”への第一歩といえるでしょう。

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