1. はじめに|なぜ今「共感・納得をしてもらえる採用活動」が求められているのか
採用活動において“共感”と“納得”は、もはや単なる理想論ではありません。特に労働力不足が深刻化する今の日本では、「条件」よりも「価値観」や「目的の一致」に重きを置く採用が重要になっています。これは若手だけでなく、経験豊富なシニア人材にも当てはまる傾向です。長年のキャリアを積んできたシニア層は、自身の経験やスキルをどのように社会へ還元できるか、そしてその環境に“共感できるか”を重視するようになっています。
厚生労働省の「令和6年版 労働経済白書」でも、企業が求める人材像が“即戦力”から“共感による組織適応力”へと変化していることが指摘されています。これは、採用の現場が“スキルマッチ”から“カルチャーマッチ”へ移行していることの表れです。単に求人条件を提示するだけでは、人材との相互理解を深めることはできません。
一方で、採用活動の中で企業側が「自社をよく見せよう」とするあまり、応募者が入社後に「思っていた職場と違う」と感じるケースも少なくありません。こうしたミスマッチは離職や不信感を生み、採用コストの無駄につながります。逆に、採用段階で“共感と納得”を得ることができれば、入社後の定着率やモチベーションが格段に高まります。
つまり、これからの採用において最も大切なのは、「伝える採用」ではなく「理解し合う採用」です。企業と候補者が対等な立場で価値観を共有し、“この会社で一緒に働く意味”を見出せるようなプロセス設計こそが、真の採用力を生む時代へと移行しています。
2. シニア人材に共感してもらう採用活動とは?|“伝える”より“理解し合う”姿勢が鍵
シニア採用において「共感してもらえる採用活動」とは、企業が一方的に魅力を発信するのではなく、応募者と“価値観をすり合わせる対話の場”を設けることを意味します。多くのシニアは、給与や勤務条件よりも、「自分の経験が活かせるか」「職場に受け入れてもらえるか」「社会の役に立てるか」といった“働く目的”を重視しています。そのため、共感を得る採用活動には、企業側の姿勢や言葉選びに細やかな配慮が求められます。
たとえば、募集要項や面接で「指導役として若手を支えてほしい」「あなたの経験が地域貢献につながる」といったメッセージを伝えることで、応募者は「自分の存在が意味を持つ」と感じやすくなります。これは、単なる条件提示ではなく、“心のつながり”を生む採用コミュニケーションです。
実際、内閣府『令和5年版 高齢社会白書』によると、60歳以上の人の多くが「働く理由」として「生きがいや社会とのつながり」を挙げており、特に「人や社会の役に立ちたい」という回答が多数を占めています。こうした価値観を理解した採用こそが、共感形成の出発点といえるでしょう。
さらに重要なのは、企業が「理解してもらう」だけでなく、「理解しようとする姿勢」を示すことです。面接時に「これまでどんな仕事にやりがいを感じてきましたか?」「今後、どのように社会と関わっていきたいですか?」といったオープンな質問を投げかけることで、応募者の価値観を知る機会が生まれます。こうした対話があることで、企業と応募者の間に“相互理解”が生まれ、「この会社なら信頼できる」という安心感につながります。
共感を生む採用とは、言い換えれば「お互いの価値観を尊重する採用」です。シニア人材は経験豊富である一方、自分の働き方に強いこだわりを持つこともあります。だからこそ、“伝える”採用から“理解し合う”採用へ――この意識転換こそが、シニア採用成功の第一歩です。
3. 納得感を高めるための仕組みづくり|面接・選考・説明会の工夫ポイント
「共感」が採用の“入り口”だとすれば、「納得」は“採用の決め手”です。
どれほど魅力的な理念を掲げていても、選考過程でのやり取りに不透明さや違和感があると、応募者はすぐに不信感を抱いてしまいます。特にシニア層は、これまでの社会経験が豊富なため、企業の対応や説明の整合性を敏感に見抜きます。だからこそ、“納得して応募・入社できる仕組み”を意図的に設計することが重要です。
まず、面接では「双方向のコミュニケーション」を徹底することがポイントです。面接官が質問するだけでなく、応募者からも会社に質問できる時間を設けることで、企業の透明性と誠実さを感じてもらえます。特に、仕事内容や評価制度、シニア人材へのサポート体制について具体的に伝えることで、入社後のギャップを防ぐことができます。
また、採用説明会や面談の場では、“職場のリアル”を伝える工夫が有効です。たとえば、現場で働くシニア社員のインタビュー動画や1日のスケジュール紹介、実際の職場見学などを通じて、応募者が自分の働く姿を具体的に想像できるようにします。こうした“納得体験”があることで、「自分にもできそうだ」「ここでなら活躍できる」と前向きな意識を持ってもらえます。
さらに、選考プロセス全体を通して“丁寧なフィードバック”を行うことも、納得感を高める鍵です。たとえ不採用になった場合でも、理由を丁寧に伝えることで応募者の印象は大きく変わります。たとえ不採用になった場合でも、応募者への対応が丁寧であれば「この会社は信頼できる」という印象を残すことができます。誠実なフィードバックは応募者に納得感を与えるだけでなく、企業のイメージ向上にもつながります。つまり、“納得のある不採用”こそが、次の応募や紹介を呼び込むきっかけになるのです。
納得感を高める採用とは、「安心して選べる採用」です。応募者に「この会社なら自分を大切にしてくれる」と思ってもらえる採用体験を提供することが、信頼と長期的な関係構築の第一歩になります。
4. 企業のビジョンとシニアの価値観をつなぐ|ストーリーブランディングの活用法
共感や納得を生み出す採用活動の中心にあるのが、“企業のビジョン”です。
特にシニア世代にとっては、「この会社は何のために存在しているのか」「自分の経験がどう社会に役立つのか」という点が、応募の決め手になります。そこで有効なのが、ストーリーブランディング(Story Branding)という考え方です。企業の理念や成り立ちを、物語として伝えることで、応募者が“自分ごと”として感じられるようにする手法です。
たとえば、「創業者が地域の雇用を守るために立ち上げた会社」「社員の想いから始まった介護サービス」など、企業の背景にある“人の想い”を伝えることで、応募者は“共感の糸口”を見つけやすくなります。数字やスローガンだけでは心に響かなくても、そこに「人の姿」が見えると、ぐっと理解が深まるのです。
ストーリーを作る際には、3つの視点が重要です。
① 企業の原点(なぜこの事業をしているのか)
② 現在の挑戦(どんな課題を乗り越えようとしているのか)
③ 未来の展望(これから何を実現したいのか)
この3要素を軸に“企業の存在意義”を語ることで、応募者は「自分の経験をここで活かせそうだ」と感じるようになります。
また、ストーリーブランディングは採用広報のあらゆる場面で活用できます。
たとえば、求人票のイントロ文や採用サイト、説明会の動画などで、企業理念と社員の体験談を組み合わせると、よりリアルで信頼性の高いメッセージになります。Indeed Japanの「採用広報実態調査(2024年)」でも、応募者の約72%が「理念やビジョンに共感できた企業に応募した」と回答しており、ストーリーが採用意欲を左右することが明らかになっています。
シニア採用においては、特に「人生経験との接点」を意識することがポイントです。
「あなたの経験が、当社の未来を支える力になる」という言葉は、どんな条件提示よりも強い説得力を持ちます。ビジョンと人生が交わる瞬間――そこにこそ、シニア人材が“心から納得して働く”原動力が生まれるのです。
5. 共感を生む採用広報・求人票の作り方|“条件”ではなく“価値”を伝える
「求人票」は、企業と応募者の最初の接点であり、共感を生むかどうかを左右する“入口”です。
にもかかわらず、多くの求人票は「給与・勤務時間・勤務地」などの条件面ばかりに終始しており、企業の個性や価値観が十分に伝わっていません。特にシニア人材の採用では、“条件の良し悪し”よりも“企業の姿勢や想い”に共感できるかどうかが応募の決め手になります。
だからこそ、求人票を「情報の羅列」ではなく、「共感を生むメッセージ」に変えることが求められています。
まず意識すべきは、“誰のための仕事か”を明確にすることです。
たとえば介護職なら「地域の高齢者が笑顔で過ごせる日常を支える仕事」、製造業なら「50年続く技術を次世代に伝える仕事」といったように、“社会的な意義”を一文で伝えるだけで、印象は大きく変わります。
多くのシニア求職者は、給与や条件よりも「自分の経験がどう社会の役に立つか」「どんな目的をもって働けるか」を重視しています。
そのため、求人票で“仕事の意義”や“企業の想い”を明確に伝えることが、共感を引き出す最初のステップとなります。
次に、文章トーンにも工夫が必要です。
「できる方歓迎」よりも「一緒に地域を支えてくれる仲間を募集しています」と書くことで、応募者に“受け入れられている”印象を与えられます。年齢・経歴・スキルに対するハードルを感じさせない温かみのある言葉選びが、シニア層の心理的障壁を下げる効果を持ちます。
さらに、写真やエピソードの活用も有効です。
実際に働くシニア社員の姿やコメントを掲載することで、応募者は「自分もここで働けるかもしれない」と感じやすくなります。
特に「入社して感じたやりがい」「これまでの経験が役立った場面」といった実体験は、どんな広告コピーよりも説得力を持ちます。
共感を生む求人票とは、“条件で選ばれる求人”ではなく、“想いで選ばれる求人”です。
企業の理念・社会的使命・人を大切にする姿勢を丁寧に伝えることで、「ここで働きたい」という納得と信頼を得ることができます。求人票は単なる募集文ではなく、“企業の人格”を表すメッセージボードなのです。
6. 採用チームの意識改革から始める|共感・納得を実現する組織風土のつくり方
「共感・納得をしてもらえる採用活動」を実現するうえで、最も重要なのは“採用チーム自身の意識改革”です。どれほど理念や仕組みを整えても、採用担当者が従来通りの「評価する採用」「選ぶ採用」の姿勢を続けていては、応募者との信頼関係は築けません。採用活動は“企業と人が出会い、未来を共にするかを確かめ合うプロセス”であるという認識への転換が求められています。
まず第一に大切なのは、現場と人事の“温度差”をなくすことです。
採用担当者が「理念」だけを語り、現場が「現実」を語る――そんな不一致が生じると、応募者は混乱します。共感を得る採用では、現場・人事・経営層が一体となり、“同じ言葉”で自社を語ることが欠かせません。定期的な情報共有会や現場インタビューを通じて、実際の仕事の魅力・課題を言語化し、採用メッセージに反映させることが重要です。
次に、採用チームが持つべき姿勢は「見極める」から「引き出す」へ。
面接は“選別の場”ではなく、“理解を深める場”に変わるべきです。応募者の言葉の奥にある価値観や人生観を掘り下げる対話を行うことで、企業側も新しい学びや気づきを得られます。これは、シニア人材の採用において特に有効です。なぜなら、彼らは「過去のキャリア」よりも「今後の貢献意欲」を重視されたいと感じているからです。
また、採用チーム全体に「共感力」を育むための研修やワークショップも効果的です。
たとえば、応募者体験(Candidate Experience)を再現したロールプレイを実施し、応募者の立場に立って感じる不安や期待を体感すること。これにより、採用担当者一人ひとりが“共感を設計する側”としての意識を持てるようになります。
応募者視点を意識した採用チームを持つ企業では、入社後の定着率が高まる傾向があります。
採用プロセス全体で“共感”を大切にすることで、入社後も信頼関係が続き、社員のモチベーションや職場満足度の向上につながります。
つまり、採用段階での姿勢が、その後の企業文化をも左右するのです。
最終的に、“共感を軸にした採用文化”を根づかせるには、経営層の理解も欠かせません。経営トップが「採用は企業文化の入口」としてメッセージを発信することで、組織全体が“人を大切にする文化”へと変わります。
採用チームの意識改革とは、単なる担当者教育ではなく、“企業の姿勢そのものを変えるプロジェクト”なのです。
7. まとめ|「共感・納得」を軸にした採用が企業の未来を変える
これまで見てきたように、「共感」と「納得」を中心に据えた採用活動は、単なる人材確保の手段ではなく、企業のブランド価値を高める経営戦略そのものです。
特にシニア人材の採用においては、スキルや年齢よりも「この会社と共に成長できるか」「社会にどう貢献できるか」という視点が重視されるため、共感ベースの採用は長期的な定着や活躍につながりやすいのです。
多くのシニア社員は、これまで培ってきた経験やスキルを活かせる職場でこそ、より高い意欲と成果を発揮します。
自分の役割が明確で、周囲からの信頼を感じられる環境ほど、働く満足度も上がりやすい傾向にあります。
つまり、シニア人材が“共感できる環境”を整えることこそが、企業の力を最大化する鍵なのです。
共感・納得採用の本質は、「選ぶ・選ばれる」という一方通行の関係から、「共に働くパートナーシップ」への転換にあります。
企業が理念やビジョンを誠実に伝え、応募者が自分の価値観を言葉にする――その対話の中で、互いに「ここで一緒に働く意味」を見出せる採用こそが、これからの時代のスタンダードになるでしょう。
また、こうした採用活動は若手にも好影響を与えます。
年齢や肩書に関係なく「人を尊重する文化」が根づくことで、組織全体の心理的安全性が高まり、職場のコミュニケーションが活性化します。結果として、社員のエンゲージメントが向上し、生産性や離職率の改善にもつながります。
つまり、“共感・納得の採用”とは、企業の未来を変える「人づくりの起点」です。
短期的な採用成果にとどまらず、組織の信頼・文化・持続性を育てる長期戦略として位置づけることが、これからの人事の使命と言えるでしょう。
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