1.なぜ今「多様な人材確保」が求められているのか?(人手不足と市場変化)
日本の労働環境は、これまでに経験したことのないスピードで変化しています。
少子化と高齢化による「働き手の減少」は既に企業経営を直撃しており、
2025年10月時点の有効求人倍率は1.18倍(厚生労働省「一般職業紹介状況」)と、求職者より求人のほうが多い状態。
さらに、若年層の人口は今後も継続的に減少し、2040年には生産年齢人口が約1,000万人減少する見込みと推計されています。
つまり、企業が「若手を採用して育てる」だけの人材戦略では、
採用が成立しない時代に突入しているということです。
✔ 人手不足時代に求められる発想の転換
企業はこれまで
・正社員中心
・フルタイム労働
・長期雇用を前提
という枠組みの中で人材を確保してきました。
しかし今は、
・短時間勤務のみ希望する人材
・定年後に再び働きたいシニア
・週3日だけ働きたい副業人材
・育児や介護と両立する主婦層
・専門スキルを持つ外国籍人材
など、「働き方」「背景」が多様な人々が増えています。
そして、従来の正社員採用だけでは人材を確保できないなら、
企業側が受け入れ方を変える必要がある。
これが、多様な人材確保が“戦略”になる理由です。
✔ 多様な人材活用は「人手不足への対処」ではなく「組織成長の投資」
多様な人材確保は、単なる穴埋めではありません。
企業文化や視点の幅が広がり、
シニア人材が持つ「経験知」
主婦層の「生活視点」
外国人の「多文化感覚」
副業人材の「外の知見」
これらが組織に新しい価値をもたらします。
人手不足の時代は、
“人材の多様性を受け入れた企業が競争力を持つ” 時代とも言えます。
2.多様な人材とは誰のことか?|シニア・主婦・外国人・副業人材などの特徴
「多様な人材確保」と聞くと、時に抽象的に感じる人も多いですが、実は対象は明確です。
企業が採用戦略として検討すべき多様な人材とは、主に次のような層を指します。
| 人材区分 | 特徴 | 活躍しやすい領域 |
|---|---|---|
| シニア層 | 経験・判断力・指導力 | 現場管理、顧客対応、育成 |
| 主婦層(育児・介護との両立層含む) | 時間制約のある即戦力 | 事務、接客、短時間シフト |
| 外国人材 | 専門スキル、語学、国際感覚 | エンジニア、介護、宿泊 |
| 副業・フリーランス | 最新知識、社外視点 | DX、マーケ、人事企画 |
中でも近年注目されているのが、
シニア人材(高齢者雇用)が企業にもたらすメリットです。
✔ シニア雇用が多様性の中心にある理由
日本企業にとってシニア採用の価値は単なる労働力確保に留まりません。
・育成力(若手の指導)
・顧客理解と対応力
・危機管理や判断の冷静さ
・職人体質の技術継承
これは若手が短期間で習得できない領域です。
さらに、日本では労働力の高齢化が進んでおり、
65歳以上の就業者は2023年時点で約912万人(総務省「労働力調査」)と、年々増加しています。
つまり「働きたいシニア」が増えている一方で、
「受け入れる設計ができている企業はまだ多くない」というギャップが存在します。
✔ 外国人材・副業人材という“視点の多様性”
外国人材は、人口減少社会における重要な担い手として注目されています。
また、副業人材は、特にDX、マーケティング、人事制度設計など高度な経験を持つ層が多く、
“フルタイム採用するにはコストが高い業務”を部分的に担ってもらうという戦略が有効です。
✔ 大切なのは「どの層を採用するか」ではなく「活かすための準備」
多様な人材を採用する企業に共通しているのは、
受け入れるための業務設計とマネジメントが整っていること。
誰を採用するかという議論よりも先に、
企業が“どう受け入れるのか”を準備することが、人材活用の成功を左右します。
3.多様な人材活用の第一歩は“業務分解”|仕事内容の見直しが採用成功の鍵
多様な人材を採用し、活躍してもらうために最初に取り組むべきことは、
「誰が」「何を」「どのレベルで」業務を行う必要があるのかを分解することです。
採用に苦戦する企業の多くは、
求人票に「求めたい人物像」ではなく「これまでの社員と同じ働き方」を記載してしまっています。
✔ 求人が“刺さらない”のではなく“刺さらない条件で募集している”
例えば、
・フルタイム勤務必須
・平日5日
・曜日固定不可
・曜日別のシフト対応必須
・担当業務は総合的にお任せ
こうした採用設計のままでは、
短時間で働きたい主婦層
週2日希望のシニア
特定業務のみ対応できる副業人材
には届きません。
✔ 業務分解の実例
例えば「営業事務」という職種を例に分解すると、以下のように分類できます。
| 業務 | 求められるスキル | 実施方法 |
|---|---|---|
| データ入力 | PC基本操作 | 時短・テレワーク可 |
| 見積作成 | Excel | 週3日程度 |
| 顧客訪問同行 | 説明力 | シニア・経験者 |
| 電話対応 | コミュニケーション | 経験者向け |
| 営業戦略 | 企画力 | 副業・フリーランス |
このように整理すると、
「フルタイム総合職」ではなく、
・シニア:顧客説明/営業同行
・副業人材:戦略設計
・主婦層:短時間バックオフィス
といった部分的な採用が可能となります。
✔ シニアを受け入れられる企業は“教える業務”を切り分けられている
特にシニア採用の成功企業は、
「経験を活かす業務」と「体力的負担を減らす業務」を分けています。
シニアは『技術や判断の提供』に強いため、
体力やスピードを求める業務と切り離すことで、ミスマッチを防げます。
✔ その業務は「正社員が全て行う必要」があるか?
業務分解は採用戦略だけでなく、
業務効率・教育コスト・離職防止の観点からも有利です。
実際、独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構(JEED)の調査でも、
高齢者活用に成功する企業の共通点として「業務の棚卸し」が挙げられています。
➡ 業務分解は、人材不足を“採用出来ない壁”から“選択肢の拡大”へ変える最初のステップ。
4.多様な人材を迎えるための“採用設計”|応募を増やす求人の出し方と選考
業務分解を行った後、次に必要なのは 「その働き方に合った人材に届く採用設計」です。
人手不足の時代に、企業が求人を出すだけで応募が集まることはほとんどありません。
求人が届かない理由の多くは、内容ではなく“書き方”にあります。
多様な働き方を受け入れる姿勢があっても、求人票に表現されていなければ、候補者には伝わりません。
✔ 求人の書き方で応募数は大きく変わる
特にシニア・主婦層・副業人材は、「勤務条件の柔軟性」を重視します。
以下の文言が入るだけで、応募率は大きく変わります。
| 表現例 | 意味 |
|---|---|
| 週2〜勤務OK | シニア・副業に届く |
| 時短・午前のみ可 | 子育て・介護層に届く |
| 業務を分担しています | ミスマッチ解消 |
| 経験を活かせます | シニアの応募意欲向上 |
| ブランクOK | 再就職層に届く |
企業の想像以上に、言葉の一行は求職者の心理に影響します。
✔ 採用媒体を“人材ごと”に変えるべき
採用の成功企業は、
「採用したい人材に合った媒体」を選んでいます。
| 人材 | 有効な媒体 |
|---|---|
| シニア | シニア向け求人サイト |
| 主婦層 | 地元求人・短時間系媒体 |
| DX副業 | スキルマッチング系 |
| 外国人 | 特定技能・転職支援 |
➡ 「年齢も働き方も違う人材」を一つの媒体で採用しようとすると非効率。
✔ 選考の評価基準も調整が必要
正社員採用の基準で全員を評価すると、多様な人材は活かしきれません。
例)「残業ができないから不採用」
→ そもそも残業が必要な業務か?
例)「週2しか働けない」
→ 週2の役割があるか? を先に整理
特にシニアの場合は、経歴だけでは測れない
判断力・教育力・顧客対応の安定性 が価値となります。
面接では、
「これまでの経験で学んだこと」
「後輩を教えた経験」
「トラブル対応の引き出し」
などを確認するほうが成果につながります。
➡ 採用設計は、
“選ぶ”のではなく “活かせる条件を提示する”スタイルへ転換する段階。
5.活躍してもらうためのマネジメント|評価・配置・コミュニケーションの工夫
多様な人材を採用しても、「活躍できる環境」がなければ定着せず、成果にもつながりません。
特にシニア、女性、副業人材、外国人材など、背景の異なる人材が共に働く職場では、
マネジメントを「従来の型のまま」運用することが難しくなります。
多様性を受け入れる職場づくりの鍵は、以下の3つに集約されます。
✔ ① 評価方法:年齢や勤務時間ではなく「役割・成果」で評価する
多様な働き方を許容するうえで、
評価基準を「出社日数・勤務時間」だけに置くのは適切ではありません。
重要なのは、
“どの役割で、どの成果を出すことに合意できるか” という視点。
・シニア → 顧客対応の安定、トラブル防止
・副業 → DX導入の成果、改善スピード
・主婦層/短時間 → 正確性、品質
・外国人 → 翻訳、国際対応、新規市場視点
➡ 成果の定義を「姿勢」から「成果物」に落とし込むことが重要。
✔ ② 配置:強みを活かすポジション設計
配置は「同じ職種に合わせる」のではなく、
「業務分解で見つけた強み」に合わせるほうが、成果につながります。
例)
シニア → 指導/相談受付
副業 → 改善プロジェクト
海外人材 → 来客対応 + 翻訳
主婦層 → 業務品質チェックやサポート
➡ 固定枠に当てはめるのではなく、役割をデザインする。
✔ ③ コミュニケーション:言語より「合意形成」が重要
多様なメンバーが集まると、言い回しや価値観が異なる場面が増えます。
そこで重要になるのは “言った言わない”をなくす工夫。
・文書化する
・チャット/ツールで記録に残す
・指示は段階と期限を明示
・進捗の見える化
これらは単に管理のためではなく、
背景の違う人材同士が安心して働くための環境整備です。
また、
「教える担当をシニアに任せる」ことで、企業知識や現場の判断基準が継承され、
若手の定着にも寄与します。
➡ 採用は入口でしかありません。
➡ 本当の成果は、受け入れ・評価・コミュニケーションの設計に比例します。
6.まとめ|人手不足時代はダイバーシティが企業の競争力になる
人手不足が慢性化する今の日本において、
企業に必要なのは「採用強化」ではなく、「採用の発想転換」です。
従来型の、
・正社員前提
・フルタイム勤務
・経験/スキルの総合力
・年齢制限
・役割固定
といった採用設計では、求める人材は見つかりません。
これからの採用に求められるのは、
多様な人材の活躍を前提とした“組織設計・採用設計・マネジメント設計”です。
✔ 多様な人材確保が企業にもたらす3つの価値
| 価値 | 内容 |
|---|---|
| 労働力の安定確保 | 人手不足の影響を軽減 |
| 経験・視点の多様性 | 新しいアイデア・改善が生まれる |
| 教育と継承 | シニアの経験が若手を育てる |
特にシニア人材活用は、
・採用競争になりにくい
・離職率が低い傾向がある
・育成コストを下げる
・顧客満足度向上につながりやすい
・若手の継続雇用に効果がある
など、他の人材確保策にはない強みを持っています。
✔ 多様性は「コスト」ではなく「投資」
人手不足に悩む企業ほど、
「採用費を増やす」より「受け入れ設計を見直す」ほうが効果が高い場合があります。
業務分解 → 採用設計 → マネジメント調整
この3ステップを実行することで、
企業は「採用できない組織」から「選ばれる組織」へと変化します。
人手不足時代の競争力は、
“多様な人材を戦力化できるかどうか”で決まります。
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