1.なぜ今「若手とシニアの断絶」が起きやすくなっているのか
近年、多くの企業で「若手とシニアの間に距離を感じる」「価値観が合わない」といった声が聞かれるようになっています。これは個人の問題ではなく、時代背景によって生まれた“構造的なズレ”が原因です。
まず、働き方そのものが大きく変化しています。シニア世代は、長期雇用や年功的な評価制度の中でキャリアを築いてきた人が多く、「組織への貢献」や「安定」を重視する傾向があります。一方、若手世代は転職が一般化した時代に育ち、「成長機会」や「働きやすさ」を重視する傾向が強くなっています。どちらが正しいという話ではなく、前提としている価値観が違うのです。
さらに、人手不足が進んだことで、世代が急に混ざり合う職場が増えたことも影響しています。これまでは年齢構成が比較的均一だった職場に、シニア採用が進むことで、20代と60代が同じ現場で働くケースも珍しくなくなりました。準備や受け入れ体制が整っていないまま世代が混在すると、小さな違和感が積み重なり、「断絶」のように見えてしまいます。
また、コミュニケーションの取り方も世代によって異なります。対面中心で関係性を築いてきた世代と、チャットや短時間のやり取りに慣れた世代では、「報連相」の感覚や距離感も違います。これが誤解を生み、「やる気がない」「考えが古い」といったレッテルにつながることもあります。
つまり、若手とシニアの断絶は、能力や意欲の問題ではなく、「育ってきた時代」と「働き方の前提」の違いから自然に生まれるものです。だからこそ、人事やマネジメントの工夫によって十分に乗り越えることができます。むしろ、この違いを理解し、組織の強みに変えることができれば、人材不足の時代において大きな競争力になります。
2.断絶の正体は「能力差」ではなく「前提のズレ」
若手とシニアの間に生まれる摩擦は、「能力の差」や「やる気の差」として語られがちですが、実際にはその多くが“前提の違い”から生まれています。ここを誤解したままでは、どれだけ採用を進めても世代間の距離は埋まりません。
例えば、仕事の進め方一つをとっても価値観の差があります。若手はスピードや柔軟性を重視し、「まずやってみる」というスタイルを好む傾向があります。一方で、シニア世代はリスク回避や確実性を重視し、「準備をしてから進める」ことを大切にしてきました。どちらも仕事に対する真剣さの表れですが、お互いの前提を知らないと「慎重すぎる」「雑すぎる」といった不満につながってしまいます。
また、指示の受け取り方にも違いがあります。シニア世代は、これまでの経験から全体像を理解し、自分で判断して動くことに慣れています。一方、若手世代は、役割やゴールが明確に示される環境で育ってきているため、目的や評価基準がはっきりしている方が力を発揮しやすい傾向があります。この違いが、「指示待ちに見える」「勝手に判断しているように見える」といったすれ違いを生むことがあります。
さらに、コミュニケーションの期待値も異なります。頻繁に確認を取りたい若手と、任せてもらうことに価値を感じるシニアでは、「ちょうどよい距離感」が違います。このズレが積み重なると、関係性の壁になってしまうのです。
重要なのは、こうした違いを「世代の問題」として片づけないことです。背景にあるのは、育ってきた環境や仕事観の違いであり、優劣ではありません。人事や管理職がこの“前提のズレ”を理解し、職場全体で共有するだけでも、相互理解は一気に進みます。断絶の本質を見誤らないことが、次の打ち手を機能させる土台になります。
3.打ち手① 役割を曖昧にしない「仕事の整理」
若手とシニアの断絶を生まないために、最初に取り組むべきなのが「仕事の整理」です。世代間の摩擦の多くは、人そのものではなく、“役割が曖昧な状態”から生まれています。
例えば、同じ仕事を担当していても、「誰が判断するのか」「どこまで任されているのか」が不明確だと、若手は動きにくくなり、シニアは口を出しすぎてしまう、といった状況が起きやすくなります。これは能力の問題ではなく、役割設計の問題です。
ここで重要なのは、年齢を基準に役割を決めないことです。
「若手だから現場」「シニアだから指導役」といった固定的な配置は、かえって断絶を生む原因になります。シニアの中にも新しいことに挑戦したい人はいますし、若手の中にもまとめ役に向いている人はいます。個人の適性や志向を見ながら、役割を設計することが必要です。
また、業務を細かく分解して整理することも効果的です。どの仕事にどんなスキルが必要なのかを明確にすることで、「誰がやるべきか」が見えやすくなります。すると、世代ではなく得意分野で役割が決まり、自然と納得感が生まれます。
さらに、「経験があるからこの仕事」「若いからこの仕事」といった決めつけをなくすことも大切です。シニアだからといって過去の経験に縛る必要はありませんし、若手だからといって新しい業務だけを任せる必要もありません。柔軟な役割設計ができる職場ほど、世代間の壁は小さくなります。
仕事の整理が進むと、互いの領域を尊重しやすくなり、「干渉されている」「任されていない」といった不満が減っていきます。結果として、世代の違いが摩擦ではなく、補完関係として機能するようになります。
4.打ち手② 「教える・教わる」を固定化しない関係づくり
世代間の断絶を生む大きな要因の一つが、「教える側=シニア、教わる側=若手」という固定された構図です。この関係が続くと、シニアは“指導役を期待され続ける負担”を感じ、若手は“常に教わる立場”に置かれることで主体性を発揮しにくくなります。結果として、お互いに距離が生まれてしまうのです。
そこで重要なのは、「教える・教わる」を一方向にしないことです。例えば、業務の進め方や顧客対応など、現場経験が活きる分野ではシニアが強みを発揮できます。一方で、ITツールの活用や新しい業務フローの理解などでは、若手が主導する場面も多くあります。このように、場面によって立場が入れ替わる環境をつくることで、自然と相互理解が深まります。
また、「シニア=指導役」と決めつけないことも大切です。すべてのシニアが教えることを望んでいるわけではありませんし、プレイヤーとして現場で活躍したい人も多くいます。本人の志向を確認せずに役割を押し付けると、モチベーションの低下にもつながります。
逆に、若手にとっても“教える経験”は成長の機会になります。自分の知識を人に伝えることで理解が深まり、自信にもつながります。このような双方向の学びがある職場では、「年齢で上下関係が決まる」という空気が薄れ、対等なパートナーとしての関係が築かれていきます。
人事としては、ペアでの業務、世代混合のプロジェクト、情報共有の場づくりなど、「自然に教え合う環境」を意図的に設計することがポイントです。関係性が固定化されない職場ほど、世代間の壁はゆるやかに消えていきます。
5.打ち手③ 世代間のコミュニケーション量を増やす設計
若手とシニアの断絶は、大きな衝突が原因で生まれるというよりも、「話す機会が少ない状態」が続くことで、少しずつ広がっていくケースが多く見られます。つまり、関係性の問題というより、単純に接点が不足していることが背景にあるのです。
最近は、業務の効率化やデジタル化が進んだことで、必要最低限のやり取りだけで仕事が回る職場も増えました。一見すると合理的ですが、その分、雑談やちょっとした相談の機会が減り、お互いの人となりを知るきっかけが失われています。この状態が続くと、相手の考えや行動の意図が見えにくくなり、「分かり合えない」という感覚が生まれやすくなります。
そこで重要なのが、世代を越えたコミュニケーションが自然に生まれる“仕組み”を作ることです。例えば、世代が混ざるチーム編成にする、短時間でも定期的に振り返りの場を設ける、情報共有の機会を増やすなど、小さな工夫の積み重ねが関係性を変えていきます。
特に効果的なのは、「一緒に成果を出す経験」を共有することです。共通の目標に向かって取り組む中で、「頼りになる」「意外と柔軟」「想像以上に行動力がある」といった新たな発見が生まれ、世代に対する先入観が薄れていきます。こうした成功体験の共有は、断絶を縮める最も自然な方法の一つです。
また、人事として意識したいのは、「話す機会=イベント」にしすぎないことです。研修や懇親会だけでは一時的な関係づくりにとどまりがちです。日常の業務の中で会話が生まれる設計をすることが、長期的な関係構築につながります。
コミュニケーションの量が増えるほど、誤解は減り、信頼は積み重なります。世代間の断絶を埋めるうえで、特別な施策よりも「接点を増やす設計」こそが、最も再現性の高い打ち手といえるでしょう。
6.打ち手④ 評価基準を「年齢」から「役割」へ変える
若手とシニアの断絶が深まる背景には、「評価の納得感」が大きく影響しています。どれだけ関係性づくりやコミュニケーションを工夫しても、評価基準が曖昧なままだと、不満や誤解は解消されません。
特に起きやすいのが、「年齢による期待値のズレ」です。シニアには「経験があるのだからできて当たり前」という見方がされやすく、若手には「まだ若いから仕方ない」と評価が甘くなることもあります。こうした無意識の前提が、双方にとっての不公平感を生み、「どうせ評価されない」「頑張っても差がつかない」といった気持ちにつながってしまいます。
そこで重要になるのが、評価を“年齢”ではなく“役割”に紐づけることです。どの世代であっても、「何を期待されているのか」「どこまでできれば評価されるのか」が明確であれば、納得感は大きく高まります。逆に言えば、ここが曖昧なままだと、世代間の比較や不満が生まれやすくなります。
また、シニアに対して過度な期待を持ちすぎないことも大切です。「経験があるから何でもできるはず」と考えてしまうと、本人の役割を超えた負担をかけてしまうことがあります。一方で、若手に対しても「まだ成長途中だから」と役割を限定しすぎると、挑戦の機会を奪うことになります。
評価基準が役割ベースになると、「誰がどこまで担うのか」がはっきりし、世代による比較そのものが減っていきます。その結果、「あの人ばかり評価されている」といった感情的な対立も生まれにくくなります。
評価は、組織のメッセージそのものです。年齢ではなく役割や貢献に目を向ける評価制度に変えていくことが、世代間の断絶を防ぎ、全員が力を発揮できる環境づくりにつながります。
7.打ち手⑤ 「共通の目標」を持たせるマネジメント
若手とシニアの断絶を乗り越えるうえで、最も本質的な打ち手が「共通の目標」を持たせることです。世代間の摩擦は、価値観の違いそのものよりも、「目指している方向がバラバラな状態」のときに強く表面化します。
例えば、若手は「成長したい」、シニアは「安定して成果を出したい」と考えていたとしても、チームとしての目標が明確であれば、行動のベクトルは自然と揃っていきます。しかし、個人ごとの意識だけで仕事を進めていると、「なぜそこまで急ぐのか」「なぜそこまで慎重なのか」といったズレが対立として現れやすくなります。
そこで重要になるのが、世代ではなく“チーム単位”で目標を共有するマネジメントです。売上や業務改善、顧客満足度の向上など、誰にとっても意味のある共通のゴールを設定することで、「若手だから」「シニアだから」という意識は徐々に薄れていきます。目標に向かって協力する過程の中で、自然と相手の強みや考え方を理解する機会も増えていきます。
また、共通の目標があると、役割分担も前向きに受け止められるようになります。「自分はこの部分で貢献している」「相手は別の部分で力を発揮している」という認識が生まれ、比較ではなく補完の関係が築かれます。これは、世代間の心理的な壁を取り除くうえで非常に効果的です。
人事や管理職としては、個人の評価目標だけでなく、「チームとして達成すべきテーマ」を意識的に設定することがポイントです。全員が同じ方向を向いている状態をつくることで、世代の違いは対立ではなく、多様性として機能し始めます。
8.まとめ|世代の違いは「対立」ではなく「戦力」になる
若手とシニアの断絶は、多くの企業が直面している共通の課題です。しかし、その本質は「世代の問題」ではなく、「前提の違い」と「設計不足」にあります。価値観や働き方が異なるのは当然のことであり、それ自体が悪いわけではありません。むしろ、その違いこそが組織の強みになり得ます。
本記事で紹介した5つの打ち手は、特別な制度や大きな投資が必要なものではありません。仕事の整理、関係性づくり、コミュニケーション設計、評価の見直し、そして共通の目標設定。これらを少しずつ整えていくことで、世代間の摩擦は確実に減っていきます。
特に重要なのは、「シニアだからこうあるべき」「若手だからこうするべき」といった固定観念を手放すことです。年齢ではなく、役割や適性、志向に目を向けた組織づくりができれば、お互いの強みが自然と活かされるようになります。結果として、知識や経験の継承が進み、若手の成長も加速し、組織全体の生産性向上にもつながっていきます。
人手不足が深刻化するこれからの時代において、世代を分断していては組織は成り立ちません。重要なのは、「どう混ぜるか」「どう活かすか」という視点です。世代の違いを対立として捉えるのではなく、戦力として活用できるかどうかが、これからの人事の腕の見せどころと言えるでしょう。
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