1. 組織を蝕む「ジョブハギング」の正体としがみつき社員の心理
「ジョブハギング(Job Hugging)」とは、文字通り自分の仕事を抱え込み、他者に触れさせない状態を指します。人事担当者の皆様なら、特定のベテラン社員が「この業務は私にしかわからないから」と、マニュアル化を拒む光景を目にしたことがあるかもしれません。
この「しがみつき」の背景にあるのは、単なる怠慢ではなく「アイデンティティへの不安」です。米ジョージ・ワシントン大学の教授らによる研究でも指摘されている通り、仕事の抱え込みは「自分の存在価値が奪われる」という恐怖から生じる防衛本能に近いものです。
特に変化の激しい現代において、スキルや情報のみが自分の優位性を担保していると感じる社員は、それを共有することを「武器を捨てること」だと錯覚してしまいます。人事としては、彼らを「頑固な人」と切り捨てるのではなく、なぜ抱え込む必要があるのかという心理的背景を理解することが、解決の第一歩となります。
2. なぜ業務はブラックボックス化するのか?属人化が招く3つの経営リスク
現場でジョブハギングが放置されると、人事担当者が最も恐れる「業務のブラックボックス化」が進行します。これにより、組織は以下の3つの致命的なリスクを抱えることになります。
| リスク項目 | 内容の詳細 | 人事への影響 |
| 業務効率の低下 | 特定の人の判断を待たないと進まない「ボトルネック」が発生する。 | 生産性低下による残業代の増大 |
| 技能承継の断絶 | ベテランのノウハウが若手に引き継がれず、組織の知見が蓄積されない。 | 採用・育成コストの無駄打ち |
| 事業継続の危機 | 急な病欠や退職時に、誰もその業務を代行できずサービスが止まる。 | コンプライアンス・信頼失墜 |
特にシニア層の雇用延長が進む中で、こうした属人化は「組織の硬直化」に直結します。ダイヤモンド・オンラインの解説にあるように、情報の独占は組織のパワーバランスを歪め、健全な新陳代謝を阻害します。これらは、現場の人間関係トラブルだけでなく、経営数値にも悪影響を及ぼす深刻な問題です。
3. ジョブハギングを解消する「業務分解」の手法:暗黙知を形式知へ
ジョブハギングを物理的に解消する最も有効な手段が「業務分解」です。人事担当者は、ベテラン社員の頭の中にある「暗黙知」を、誰でも再現可能な「形式知」へと変換するサポートを行います。
具体的な手順としては、以下の3軸で棚卸しを依頼します。
1.プロセス(手順): 誰が・いつ・何をするか。
2.判断基準(Why): なぜその判断をするのか。
3.ツール(How): どのファイルやシステムを使うのか。
「あなたの仕事を奪うためではなく、より付加価値の高い仕事(若手の指導など)に集中してもらうためです」という大義名分を添えて伴走することが重要です。業務を細かく分解することで、実はルーチンワークだった部分が浮き彫りになり、それを若手やAIに任せることで、ベテラン自身も「本当に自分がやるべきクリエイティブな仕事」に気づくきっかけになります。
4. スキル共有を促す「心理的安全性」の構築:不安を「貢献感」に変える人事施策
仕組みを整えても、社員の心が「NO」と言っていればジョブハギングは再発します。ここで必要なのが、エドモンドソン教授が提唱する「心理的安全性」の確保です。
人事施策として、以下のメッセージを明確に打ち出す必要があります。
・「仕事を渡すこと=価値の消失」ではなく「貢献」であると定義する。
・ナレッジを共有した人を「隠れた功労者」として評価する制度を導入する。
例えば、マニュアルを整備したり、勉強会を開いたりした実績を人事評価の加点対象にするなどの工夫です。「自分しかできない仕事を持っている人」を評価するのではなく、「自分の仕事を誰でもできるようにした人」を高く評価する文化へシフトさせます。これにより、社員は「自分の居場所を守るための抱え込み」から、「組織への貢献による承認欲求の充足」へと動機づけが変化していきます。
5. ベテランの経験を組織の資産に。ナレッジシェアを文化にするためのロードマップ
最後に、人事担当者が主導するナレッジシェア文化へのロードマップを提示します。一朝一夕には変わりませんが、小さな成功体験を積み重ねることが肝要です。
まず、「スモールウィン(小さな勝利)」を設定しましょう。部署全体でいきなり実施するのではなく、協力的で影響力のあるベテラン社員を一人巻き込み、その人の業務の一部を可視化して若手に引き継ぐ「成功モデル」を作ります。
次に、そのベテラン社員を「指導教官」や「マイスター」として再定義し、現場の知恵を後世に伝える役割を公式に与えます。ヤフーニュースの専門家記事でも触れられている通り、人は「自分の役割」が明確になれば、しがみつきを卒業できます。多様な世代が混在する職場で、それぞれの経験が滞りなく循環する組織こそが、労働力不足を乗り越える最強のチームとなります。
6.まとめ:ジョブハギングを解消し、「知の循環」が生まれる強い組織へ
「しがみつき社員」や「ジョブハギング」は、個人の性格の問題ではなく、組織の仕組みと心理的なケアの欠如が生み出す副産物です。
人事担当者の役割は、単に業務を取り上げることではありません。
・業務分解によって「暗黙知」を「見える化」すること
・心理的安全性を高め、「教えること」の価値を再定義すること
この2軸を回すことで、属人化の解消だけでなく、ベテランが輝き、若手が育つ「好循環」が生まれます。深刻な人手不足が続く今、社内に眠る「抱え込まれた資産」を解放し、組織全体のパフォーマンスを最大化させていきましょう。
属人化を防ぎ、若手を育てる「教えるプロ」のシニアを探しませんか?豊富な経験を持つ即戦力人材が、貴社の組織課題を解決します。実績豊富なシニア専門求人サイト「キャリア65」で、最適なマッチングを今すぐチェック!



