1.高齢者雇用関連の助成金を活用すべき理由
助成金活用で企業のコスト負担を軽減
高齢者雇用に対する助成金は、企業の採用コストを大幅に削減できる重要な制度です。特に中小企業にとっては、採用から教育、労働環境の整備に至るまで一定の費用がかかるため、助成金の活用は採用リスクを下げる手段として有効です。
たとえば、「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」では、高齢者をハローワークなどを通じて採用した場合、最大60万円(短時間労働者は最大40万円)の助成を受けることが可能です(出典:厚生労働省「令和6年度 雇用関係助成金のご案内」)。このような制度を活用することで、初期費用のハードルを下げ、採用への第一歩を踏み出しやすくなります。
また、採用だけでなく継続雇用や無期転換などに対しても助成対象となる制度があるため、長期的な戦力として高齢者を迎え入れる体制づくりにも役立ちます。
国のシニア雇用支援策も人材確保を後押し
国は「生涯現役社会」の実現を掲げ、企業によるシニア層の活用を積極的に支援しています。特に深刻化する労働力不足への対策として、65歳以上の雇用継続や再就職支援に関する制度が年々充実しています。
その一例が「65歳超雇用推進助成金」です。この制度では、企業が65歳以上の継続雇用制度を導入したり、定年の廃止・延長を行った際に、最大160万円の助成が受けられます(出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 令和6年度版資料)。
さらに、2021年の高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会の確保が「努力義務」とされました。これを受け、多くの企業が定年延長や継続雇用制度の見直しを進めており、国の支援制度との連動によって、経済的な負担を抑えながら制度改革に取り組む動きが広がっています。
このように、国の後押しを受けながら、企業はシニア層の雇用を進めることで、経験豊富で即戦力となる人材を確保しやすくなっています。
2. シニア採用促進と助成金の関係
高齢者雇用に対する助成金は、単なる財政支援にとどまらず、国策としての位置づけが明確に示されています。背景には、日本の人口構造の変化があります。総務省の「令和5年版 高齢社会白書」によれば、65歳以上の人口は3,627万人、総人口の29.1%を占めており、過去最高を更新し続けています。このような高齢化社会において、労働市場からの高齢者の離脱を抑えることは国の重要課題とされています。
こうしたなか、政府は企業に対し「70歳までの就業機会確保」を努力義務化し、助成金制度を通じて企業の実行を支援しています。助成金は、制度導入のインセンティブとなるだけでなく、制度改革にともなう経費の一部を補填するため、企業にとって非常に現実的なメリットとなっています。
企業にとっても、シニア人材を積極的に活用することで次のような利点があります:
・即戦力となるスキルや知識の活用
・若手社員への指導、教育の担い手としての活用
・離職率の低さによる安定的な雇用基盤の形成
このように、国の政策と助成制度を上手く取り入れることで、企業は戦略的にシニア人材を確保・活用することが可能になります。
3.主な高齢者雇用助成金の種類
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース等)
「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」は、高齢者の雇用を促進する代表的な制度の一つです。この制度では、満60歳以上の高年齢者をハローワークや地方公共団体の紹介で雇用した場合、企業に対して助成金が支給されます。
具体的には、フルタイムで雇用した場合は【60万円(中小企業の場合)】、短時間労働者であれば【40万円】の助成を受けることが可能です(出典:厚生労働省「雇用関係助成金のご案内 令和6年度版」)。支給は1人あたりの金額であり、採用人数が増えればその分の加算も期待できます。
この制度は、高齢者層の雇用に踏み切る企業にとって、初期コストの補填だけでなく、長期的な雇用定着を促す強力な支援策となっています。
加えて、65歳以上の高年齢者の雇用機会をさらに広げるため、支給要件も比較的緩やかであり、「シニアを積極的に雇いたいが、コストが心配」という企業にとっては、最初に検討すべき助成制度です。
65歳超雇用推進助成金
「65歳超雇用推進助成金」は、その名のとおり、65歳以上の労働者が安心して働き続けられる環境を整備した企業に対して支給される助成制度です。対象となるのは、以下のような取り組みを行った事業主です。
・65歳以上への定年の引き上げ
・定年制の廃止
・希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入
・高年齢者雇用管理制度の整備(職務内容や評価制度の見直しなど)
支給額は導入内容に応じて異なりますが、最大で【160万円】が支給されるケースもあります(出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構「令和6年度 65歳超雇用推進助成金制度」)。
この制度の特徴は、「制度導入=助成対象」という点です。実際に高齢者を新規雇用したかどうかではなく、制度面での環境整備を行うことで助成対象となるため、企業としては将来的な人材活用を見据えた準備段階から活用できます。
また、他の助成金と重複して受給できるケースもあり、戦略的に制度を組み合わせることで、コスト削減と制度充実の両立が可能です。
高年齢者無期雇用転換コース(2024年度新設)
「高年齢者無期雇用転換コース」は、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換した企業に対して支給される助成金です。この制度は、2024年度に新設され、高年齢者の安定した雇用を促進することを目的としています。
主な支給要件
本助成金を受給するためには、以下の要件を満たす必要があります。
1.無期雇用転換計画の認定
有期契約労働者を無期雇用労働者に転換する計画を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の理事長に提出して認定を受けること。
2.無期雇用転換計画の実施
認定された計画に基づき、50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること。
3.転換後の継続雇用
転換後、当該労働者を6か月以上継続して雇用し、賃金を支給すること(勤務日数が11日未満の月は除く)。
なお、無期雇用転換日において64歳以上の者は対象外となります。
支給額
支給額は、対象労働者1人あたり以下のとおりです。
・中小企業:30万円
・中小企業以外:23万円
1支給申請年度あたり、1事業所につき10人までが上限となります。
申請手続きの流れ
1.無期雇用転換計画書の提出
計画開始日の6か月前の日から3か月前の日までに、主たる事務所または転換の実施に係る事業所の所在する都道府県の支部高齢・障害者業務課に提出します。
2.無期雇用転換の実施
認定された計画に基づき、対象労働者を無期雇用に転換します。
3.助成金の申請
転換後6か月以上継続して雇用し、賃金を支給した日の翌日から起算して2か月以内に、助成金の支給申請を行います。
この制度を活用することで、高年齢者の雇用安定を図り、企業の人材確保にもつながります。
4.その他自治体独自のシニア雇用支援策
国の助成金制度に加えて、都道府県や市区町村が独自に実施している高齢者雇用支援策も注目すべきポイントです。これらは地域の労働市場や人口構成に応じて設計されており、国の制度と併用できるケースも多いため、情報収集の価値は高いです。
代表的な自治体の取り組み例
・東京都:「シニアしごとEXPO」やシニア向け就労相談窓口
東京都では、シニア向けの合同就職説明会や、区市町村と連携した就労支援窓口を開設し、企業とシニア求職者をマッチングしています。また、採用した企業には奨励金を交付する制度も用意されています。
・大阪府:「シニア人材バンク」支援
シニアの経験や希望に応じて、企業とのマッチングを行う人材バンクを設置。企業に対しては、シニア採用時の助成制度を案内しています。
・新潟市:高齢者就労促進奨励金
市内の中小企業が65歳以上の高齢者を雇用した場合、最大30万円を支給する制度を実施しています。
このような自治体独自の支援制度は、雇用の安定だけでなく、地域経済の活性化にも寄与する目的で整備されているため、自治体ごとの公式ウェブサイトをチェックして最新情報を確認することが重要です。
また、国の助成金と組み合わせることで、採用にかかる初期投資をさらに軽減することも可能となります。地域に根差した採用を行いたい企業には、非常に有用な制度群です。
5.助成金の支給要件と申請ポイント
対象となる労働者・雇用形態の条件
助成金の活用にあたって最も重要なのが、「支給対象となる労働者の要件」を正しく把握することです。多くの助成金では、下記のような共通の条件が設けられています。
主な要件
・雇用保険の適用事業所であること
・60歳以上の高齢者であること
・ハローワーク、地方自治体の紹介、または職業紹介事業者を経由して採用された者であること
・過去に同一企業に常用雇用されていないこと(例外あり)
・支給申請前に雇入れが完了していること
例えば「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」の場合、ハローワークなどの紹介を受けて雇用された60歳以上の人材が対象です。採用経路が自己応募や知人紹介などの場合は対象外となることもあるため、採用前に必ず確認が必要です。
また、雇用形態については「無期雇用」「短時間労働」「有期契約」など、制度ごとに詳細な条件が異なります。短時間労働者を対象とする制度では、週20時間以上の勤務などが求められるケースもあります。
制度ごとに微妙な違いがあるため、利用を検討している助成金の公式資料や窓口にて最新情報を必ず確認しましょう。
支給額の目安と受給期間
助成金制度を有効に活用するためには、どの程度の金額が受給できるのか、またその期間はどれほどかを把握しておくことが重要です。以下に、代表的な高齢者雇用関連助成金の支給額と期間の目安を示します。
主な助成金の支給額・期間例(令和6年度時点)
制度名 | 支給額(中小企業) | 支給期間・タイミング |
---|---|---|
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース) | 60万円(短時間労働者:40万円) | 雇用後6か月以上継続し、条件を満たした時点で一括支給 |
65歳超雇用推進助成金 | 最大160万円(制度導入内容により異なる) | 制度導入後の申請により一括または分割支給 |
高年齢者無期雇用転換コース | 30万円/人(中小企業) | 無期転換後6か月継続雇用・賃金支払い後に支給 |
自治体独自の奨励金 | 市区町村ごとに異なる(例:最大30万円など) | 採用後一定期間の継続雇用で支給されるケースが多い |
※すべての助成金は、支給要件・雇用形態・従業員規模などにより変動する可能性があります。
受給までの流れは、「制度導入または採用→一定期間の継続雇用→実績報告→支給申請」というステップが基本です。支給までに時間がかかるケースもあるため、資金計画に余裕を持って申請スケジュールを立てることが求められます。
6.申請手続きの流れと注意点
助成金を確実に受給するには、正しい手続きとスケジュール管理が欠かせません。不備があると支給されないケースもあるため、以下の流れとポイントを押さえておくことが大切です。
一般的な申請手続きの流れ(例:特定求職者雇用開発助成金)
1.雇用計画の確認
・採用予定の職種、労働条件、雇用形態が助成金の支給対象か事前に確認します。
・ハローワークや自治体の相談窓口で相談が可能です。
2.求人の申し込み(ハローワーク等)
・多くの助成金では、「ハローワークなどからの紹介」での採用が要件です。
・求人票の提出と、制度利用の意向を伝えることが推奨されます。
3.採用・雇用契約の締結
・雇用後は、雇用契約書や労働条件通知書を必ず作成・保管します。
・労働条件(賃金・勤務時間など)も助成金の条件に合致しているか確認が必要です。
4.一定期間の継続雇用・実績確保
・多くの制度では、採用後6か月以上の継続雇用が支給条件となります。
5.支給申請書類の準備・提出
・雇用契約書、出勤簿、賃金台帳、雇用保険資格取得証明など、多数の書類が必要です。
・提出期限が「雇用後○か月以内」など厳密に決まっているため、早めの準備が必要です。
よくある注意点
・タイミングミスによる申請不可
例えば、事前の求人申し込みや制度導入届を忘れていた場合、助成対象から外れることがあります。
・記録不備による却下
勤務日数や賃金の支払い証明が不十分なケースも多く、タイムカードや給与明細を正確に保管しておく必要があります。
・助成金ごとのルール違い
同じ「高齢者雇用支援」でも、制度によって必要な書類や流れが異なるため、制度ごとのマニュアル確認が不可欠です。
可能であれば、社会保険労務士などの専門家に相談することも、申請成功率を高める有効な手段です。
7.助成金を活用したシニア採用成功事例
成金で初めてシニア採用に踏み切った中小企業の例
【事例:株式会社A(従業員数30名・東京都)】
人手不足に悩んでいた建設資材卸の中小企業・Aでは、若手人材の定着率が低く、業務の属人化が課題となっていました。そんな中、「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」の存在を知り、ハローワークの紹介で60代の元施工管理技士を採用。即戦力として現場サポートと新人教育を任せた結果、作業の標準化が進み、若手社員の離職率も改善されました。
採用後、6か月以上の勤務継続を経て60万円の助成金を受給。これがきっかけとなり、「高齢者雇用はコストではなく投資」との意識改革が社内で進みました。
この事例からわかるように、助成金は単なる金銭的支援にとどまらず、シニア人材活用の第一歩を後押しする「採用のきっかけ」として有効です。
補助金を活用しシニアの研修制度を整備した例
【事例:株式会社B(福祉・介護業/従業員数50名)】
介護業界において慢性的な人手不足を抱えていたB社では、65歳以上のスタッフを戦力として活かすために、研修制度の導入を検討。しかし、社内リソースだけでは体系的な教育環境を整えるのが難しく、外部講師の招聘やマニュアル整備などの初期投資がネックとなっていました。
そこで同社は、地方自治体が実施していた「高齢者人材活用推進モデル事業」の補助金制度を活用。シニア向けのオリジナル研修カリキュラムを作成し、介護技術・接遇・安全衛生管理の3本柱を中心に実施しました。
結果として、高齢者スタッフの業務理解が深まり、事故発生件数も減少。さらに、シニア同士が経験を共有し合う文化が育ち、新人教育にも良い影響を与えました。
このように、補助金を活用することで単なる採用支援にとどまらず、教育・定着・業務品質の向上にもつなげることが可能です。制度は「使って終わり」ではなく、その後の運用を見据えた活用がカギとなります。
まとめ: 助成金も活用し戦略的にシニア採用を進めよう
シニア人材の採用を成功させるには、制度を「知っている」だけでなく、「自社に合ったものを選び、正しく使う」ことが求められます。以下は、助成金活用に向けた基本的なチェックリストです。
助成金活用のチェックリスト
□ 対象者が高齢者(60歳以上)であるか確認した
□ ハローワークなどの紹介を通じて採用を予定している
□ 採用予定者の雇用形態(無期、有期、短時間など)を確認した
□ 雇用契約書や労働条件通知書を適切に整備している
□ 該当する助成制度の申請スケジュールを把握している
□ 必要な書類(出勤簿、賃金台帳など)を保存・管理できる体制がある
□ 自治体の補助金や関連施策についても調べた
これらを事前に確認しておくことで、申請漏れや不備による不支給を防ぐことができます。特に制度ごとの要件は細かく異なるため、早期の準備が成功の鍵を握ります。
制度活用と並行した最適なシニア人材募集経路について
助成金や補助金制度を最大限に活かすには、そもそもシニア人材と出会う仕組みづくりも欠かせません。その一つの有効な方法が、シニアに特化した求人サイトの活用です。
たとえば「キャリア65」のようなシニア専門求人メディアでは、60代・70代の就業意欲が高い求職者にダイレクトにリーチできます。介護・清掃・軽作業・受付・警備など、高齢者が活躍しやすい仕事の掲載が充実しており、企業側も年齢やスキルに配慮したマッチングが可能です。
また、これらのサイトは国や自治体の制度と連動したキャンペーンを実施していることもあり、助成金の活用と合わせた戦略的な採用活動を展開できます。
シニア雇用は、単なる人手不足対策ではなく、「経験」「安定性」「多様性」という企業の競争力を高める重要な経営資源でもあります。助成制度と求人媒体を併用することで、より確実に効果的な採用につなげましょう。
高齢者採用に特化した求人掲載なら無料で掲載できる「キャリア65」へ。コストを抑えながら経験豊富な人材と出会えます。