1.なぜ60代人材は採用市場の“空白地帯”なのか?
企業は求人を出しているのに、60代に「応募してほしい」が伝わっていない
現在、多くの企業が人手不足に直面し、求人票を出し続けています。しかし、60代人材の応募は極端に少ないという声が、採用現場からよく聞かれます。その大きな原因のひとつが、「シニアも歓迎」とはっきりと求人票に書かれていないことです。
求人情報には「年齢不問」と表記されていても、掲載写真が若手ばかりだったり、求める人物像が「新しいチャレンジが好きな人」「成長志向のある人」など若年層を意識した内容である場合、60代の求職者は「自分向けではない」と感じてしまいます。
実際、内閣府が実施した「高齢者の就業に関する調査(令和元年度)」では、60歳以上の求職者のうち、「応募しても採用されないのではと不安」「歓迎されていない気がする」という理由で応募をためらった人が多数にのぼるという結果が出ています。
企業が明確に「シニア層も歓迎」と打ち出さない限り、応募が来る可能性は低く、“見えない空白地帯”が生まれてしまうのです。
シニア人材の能力・意欲は高いのに、入口でミスマッチが起きている
60代の就業意欲は決して低くありません。総務省「労働力調査(2023年)」によれば、65歳〜69歳の就業率は52.6%と半数を超え、70代前半でも35%以上の人が働き続けています。多くの60代が「まだ働きたい」「社会に貢献したい」と考えているのです。
にもかかわらず、企業側の求人情報がそのニーズとマッチしていなければ、そもそも応募につながりません。これは大きな機会損失です。
・求職者側:「自分のスキルが活かせそうな職場が見つからない」
・企業側:「なぜか応募が来ない。シニア層は仕事に消極的なのか?」
このように、ミスマッチの本質は「意思疎通がないこと」にあります。求人票の文言や募集要項の表現次第で、シニア層の応募は大きく変わる可能性があるのです。
2.60代が戦力になる職場の5つの条件
60代人材を採用することは、単なる人手不足対策ではなく、企業の生産性や職場の多様性を高める大きなチャンスでもあります。しかし、60代が力を発揮できるかどうかは、受け入れ側の「環境整備」にかかっています。以下では、60代人材が戦力として活躍できる職場に共通する5つの条件を紹介します。
① 業務内容が明確で過度なマルチタスクを求めない
60代の多くは、豊富な経験と高い専門性を持っている一方、若年層と比べて柔軟なマルチタスクへの適応には時間がかかる傾向があります。そのため、職務内容が明確に定義されており、「自分の担当範囲」がはっきりしている職場が好まれます。
たとえば、製造現場での定型作業や、施設清掃・巡回警備のように「毎日決まった内容をこなす」業務は、シニア層にとって非常にマッチしやすい領域です。こうした仕事では、精度や信頼性を重視する企業ニーズと、安定した働き方を求める60代の希望が一致しやすくなります。
② 体力・健康面に配慮された働きやすい環境
シニア世代が活躍するうえで、無理のない勤務体系と安全な作業環境は欠かせません。
たとえば、
・エレベーターや空調が整備されている
・重労働を分担、機械化している
・座ってできる業務がある(受付や事務作業など)
といった配慮がある職場では、60代でも安心して長く働くことができます。加えて、健康診断の実施や安全講習の充実なども、企業の「受け入れ体制」を評価するポイントになります。
③ 年齢に縛られない公平な評価制度
高齢者採用の障壁の一つは、「年齢による固定的なイメージ」にあります。「もう年だから重要な仕事は任せられないだろう」といった先入観があると、せっかくのスキルも活かされません。
そこで重要になるのが、年齢ではなく“役割”や“成果”で評価する制度設計です。たとえば、
・「勤続年数」ではなく「貢献度」で時給を見直す
・成果や指導力に応じて手当を支給する といった仕組みがあると、60代のモチベーションは飛躍的に向上します。
④ 指導・育成など経験を活かせる役割がある
60代人材の最大の強みは、豊富な現場経験と人材育成の視点です。
そのため、
・若手社員のOJT担当
・後進指導を兼ねたサブリーダー職
・トラブル対応の相談役
といった「人に教える」「支える」ポジションを用意しておくと、60代人材は自信を持って職場に貢献できます。こうした形で「年齢=価値」となる仕組みを整えることが、職場全体の安定感にもつながります。
⑤ シフトや勤務日数に柔軟性がある
多くの60代は、週5日のフルタイムではなく、
・週2〜3日
・午前中のみの短時間
・家族や介護との両立を見据えた働き方
などを希望しています。そのため、柔軟な働き方を選べる職場は、60代人材にとって非常に魅力的です。
企業側も、「この業務は週3日で十分」「繁忙期だけ来てもらいたい」といった柔軟な業務設計を進めることで、人手不足解消につながるだけでなく、人件費の適正化にも効果が期待できます。
3.60代人材を迎える際の法的・制度的なポイント
60代人材を採用する際には、若年層の採用とは異なる法的な配慮や支援制度の活用が重要です。適切に制度を理解・運用することで、企業側のリスクを減らしつつ、シニア人材にとっても安心して働ける環境を整備することができます。
年齢による差別の禁止と高年齢者雇用安定法の対応
まず企業が認識すべきは、「年齢を理由とする不当な差別」は法律で禁止されているという点です。
労働施策総合推進法(旧:雇用対策法)では、求人票に年齢制限を設けることは原則禁止されています。やむを得ない例外(警備業務や定年後再雇用など)を除き、「59歳以下」「若手歓迎」などの表現はNGとされています。
加えて、「高年齢者雇用安定法」により、企業には以下のような義務や努力義務が課されています:
・65歳までの雇用確保(義務)
・70歳までの就業機会確保(努力義務)
※参考:厚生労働省「高年齢者雇用安定法」ガイドライン(2021年改正)
つまり、60代人材の受け入れは、今後の企業運営において避けて通れない課題であり、企業にとっても制度対応を進めることは、将来的なリスクヘッジともいえるでしょう。
活用できる助成金・支援制度の概要
国や自治体は、高年齢者の雇用を促進するための助成金制度も充実させています。以下は代表的な制度です(2025年4月時点の情報)。
● 特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
60歳以上の求職者をハローワーク経由で採用し、一定期間雇用した場合に助成。
例:中小企業の場合、最大60万円(1年)支給。
● 65歳超雇用推進助成金
定年延長や定年廃止、継続雇用制度の導入など、シニアの就業機会を拡大した企業に対して助成。
制度設計に踏み出す企業にとって強力な後押しとなる。
● 高年齢者無期雇用転換コース(2024年度新設)
60歳以上の有期契約労働者を無期雇用へ転換した場合に支給。安定的な雇用促進を狙う。
助成金の詳細や最新情報は、厚生労働省の公式サイトや、最寄りの労働局・ハローワークで随時確認できます。
参考:厚生労働省「雇用関係助成金のご案内」
事業主の方のための雇用関係助成金事業主の方のための雇用関係助成金について紹介しています。
こうした制度を活用することで、企業の採用コストを抑えながら60代人材を迎え入れることが可能になります。法令遵守+助成制度の活用=戦略的な採用強化がこれからの企業の新常識になるでしょう。
4.60代人材を活かして成功している企業の特徴
60代人材を受け入れて実際に戦力として活躍してもらっている企業には、いくつかの共通点があります。単に「人手を補うために雇う」のではなく、60代の強みを活かすための職場設計や仕組みづくりを行っているのが特徴です。
「経験値」を組織の財産として活用している
成功企業の多くは、60代人材が持つ「長年の経験」や「業界知識」を、個人にとどめず“組織の資産”として活用する仕組みを導入しています。
たとえば:
・若手社員の育成担当として60代を配置
・過去のトラブル事例や顧客対応ノウハウを「マニュアル化」する役割を任せる
・技術職、現場職では「技術伝承」の講師役を担ってもらう
など、60代ならではの「引き出しの多さ」を“継承と仕組み化”に活用している点がポイントです。
これにより、短期的な労働力だけでなく中長期的な組織力の底上げにもつながります。
シニアと若手が共存・協働するチーム設計
もうひとつの特徴は、「60代だけ」「若手だけ」という偏った構成ではなく、年齢を問わない混成チームで働く仕組みが整っていることです。
たとえば:
・ペア制を導入し、若手とベテランで作業を分担
・若手がITやシステム操作、60代が顧客対応やマニュアル作成などで役割分担
・シニアが“相談役”や“サブマネージャー”としてチームの安定を支える
このように世代間で補い合うことで、職場に安定感・安心感・多様性が生まれ、離職率の低下や職場満足度の向上にもつながります。
また、シニア世代が「まだ誰かの役に立てる」「自分の価値を再確認できる」ことが、モチベーションにもなっており、結果的に生産性も高まっているという声が多く聞かれます。
まとめ:採用の盲点から企業の強みに変える発想を
60代人材の採用は、これまで見過ごされてきた“採用市場の空白地帯”に光を当てる取り組みです。しかし、その「空白」は単なる人手不足の補填ではなく、企業の競争力を底上げする可能性を秘めた資源とも言えます。
本記事で紹介したように、60代人材を戦力として迎えるためには、次の3つの発想転換が重要です。
1. 「応募がない」のは、企業が“シニア歓迎”を明示していないから
求人票の表現を見直し、「60代も歓迎します」「年齢よりも経験重視」といった明確なメッセージを盛り込むことで、シニア層の応募率は大きく変わります。入口で“排除していないか”を見直すことが第一歩です。
2. 環境と評価制度を整えれば、60代は確実に戦力になる
体力や勤務日数の柔軟性、経験を活かせる業務、年齢に縛られない評価制度。これらが整っている職場では、60代が自信と誇りを持って働き、結果として職場の安定や若手の成長を支える力となります。
3. シニア人材は「知識・経験」という無形資産を持つ存在
短期的な労働力確保だけでなく、中長期的には組織の記憶や技術継承の担い手として活躍できるのが60代人材です。若手との混成チームで多様性が生まれ、職場文化もより成熟していきます。
60代人材の採用は、今後ますます不可避のテーマになります。単なる“人材確保”ではなく、“組織強化の戦略”として位置づけることで、採用の盲点が企業の未来を支える強みに変わるのです。
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