はじめに
日本の企業が直面する「人手不足」の課題。特に中小企業や地域密着型のビジネスでは、慢性的な人材難に悩むケースが少なくありません。こうした中で注目されているのが、「シニア人材」の活用です。
しかし実際には、「体力は大丈夫だろうか?」「持病など健康面で問題があるのでは?」といった懸念から、採用に二の足を踏む人事担当者も多く存在します。
本記事では、こうした不安をデータと実践知に基づいて解消し、「シニア人材を安心して戦力化するための3つの視点」をご紹介します。
1.データで見るシニアの健康状態と働く意欲
シニア世代と聞くと、「体力的に厳しそう」「持病があるのでは」といった先入観を抱かれることがあります。しかし、実際の統計データを見ると、こうしたイメージは必ずしも実態と一致しません。
健康維持率は年々向上
厚生労働省の「令和4年 国民健康・栄養調査報告」によると、65~74歳の約7割が“自分の健康状態を「良い」または「まあ良い」”と回答しています。また、週3日以上運動習慣のある人も年々増加傾向にあり、特に退職後の時間を活用して健康管理に取り組むシニアが増えています。
就業意欲の高さも見逃せない
総務省「労働力調査(2023年)」によると、65歳以上の就業率は25.1%に達し、過去最高を更新しています。70代でも働きたいという意欲を持つ人が増えており、「まだまだ社会の役に立ちたい」「生活のリズムを保ちたい」といった理由が多く挙げられています。
こうした背景からも、「体力・健康面が不安だからシニアは難しい」というのは、過去の固定観念に過ぎない可能性があります。
2.業務を分解すれば活躍の場は広がる|シニアが無理なく働ける職場設計とは
シニア人材を活用する際、「体力的にきつい仕事は難しいのでは」と考えるのは当然のことです。しかし、そうした不安を乗り越える鍵は、「業務の分解」と「適切なマッチング」にあります。
業務分解がもたらす“新たな戦力”の発見
あらゆる仕事には、「必ずしも若くて体力のある人でなくても対応可能なタスク」が含まれています。例えば、工場であれば検品や梱包、飲食店であれば開店前の清掃やテーブルのセット、オフィスでは資料整理や受付対応などがそれに該当します。
業務全体を見渡し、一連の作業を「工程ごと」に分ける(業務分解)ことで、シニアに適した仕事が明確になります。このアプローチは、「体力やスピードを求められる業務=若手」という固定観念を崩し、年齢に応じた貢献の機会を広げます。
適材適所の配置と環境整備
業務分解のあとは、「誰に、どの工程を任せるか」が重要になります。たとえば、長時間の立ち仕事が難しい人には座り作業のポジションを、細かい作業が得意な人にはピッキング業務を任せるなど、シニアの特性に合った配置をすることでパフォーマンスは安定します。
さらに、勤務日数や時間の調整、休憩の取りやすさなどを考慮した「シフト設計の柔軟性」や「見守り・フォロー体制の整備」も不可欠です。
実際の企業事例から
たとえば、ある食品加工会社では、出荷前のラベル貼りや検品業務を細分化し、各工程ごとにバランスよくシニア人材を配置。それにより、若手社員の負担を減らしながら品質チェックの精度も向上したという結果が報告されています。
こうした設計ができれば、「体力に自信がない」というシニア人材でも、無理なく戦力として活躍できます。
3.健康面で不安の少ない人材を見極める採用のコツ
「シニア人材に興味はあるが、採用後に健康トラブルが起きたら困る…」という懸念は、多くの採用担当者が抱く率直な不安です。ですが、選考段階で適切な情報を得ていれば、そうしたリスクは大きく低減できます。
面接時に確認すべき観点とは?
シニア層の採用では、履歴書だけではわからない「健康状態や働き方の希望」を把握することがカギです。面接時に次のような観点でヒアリングを行うことで、実際の働ける範囲や無理のない業務内容が明確になります。
・過去の就業継続期間と退職理由
・週何日、何時間くらい働きたいか
・希望する業務内容
これらを踏まえることで、事前に業務マッチングの可能性を判断することができます。
聞いてはいけないNG質問にも注意
採用担当者として健康状態を把握したくなる気持ちは自然なことですが、厚生労働省のガイドラインや労働法の観点から、聞いてはいけない健康に関する質問も存在します。意図せず差別的な選考と捉えられないよう、以下の点に注意が必要です。
■ 面接で避けるべき質問例
・「過去にどんな病気をしましたか?」
・「持病はありますか?完治していますか?」
・「通院や服薬はしていますか?」
・「体調を崩しやすい体質ですか?」
・「健康診断の結果を見せてください」
これらの質問は、応募者の適性や能力とは無関係な個人情報にあたり、公正な採用選考に抵触する可能性があります。特に、病歴や現在の通院状況を直接聞き出すことは避けましょう。
■ 適切な聞き方の工夫
どうしても業務上の適正を確認したい場合は、本人の自己判断を尊重する形で、間接的・配慮ある聞き方が望ましいです。
例えば、
・「業務内容には立ち仕事や軽い荷物の持ち運びがありますが、無理のない範囲で対応できそうでしょうか?」
・「週〇日、1日〇時間ほどの勤務を想定していますが、継続的に勤務できそうですか?」
このように、「現在の働き方の希望」や「無理のない業務対応範囲」について本人の意思で話してもらうことが大切です。
採用前にできる「健康リスクの見える化」
特別な医療チェックを求める必要はありませんが、採用前の「軽い作業体験」や「職場見学」を導入する企業も増えています。これにより、本人の動きや反応を実地で確認でき、職場側も無理のない範囲での業務配分が可能になります。
また、本人の自己申告を尊重しつつ、「安全第一の姿勢」を企業が示すことは、シニア人材にとって大きな安心材料になります。
採用後もフォローが重要
採用後も定期的に声かけや簡単な健康チェック(例:朝の体調確認など)を行うことで、定着率の向上とトラブル予防の両立が可能です。とくに70代以上の就労では、調子の良し悪しについての気遣いや柔軟な対応が長期活躍につながります。
4.「働くことが健康につながる」シニア採用のもう一つの価値
「働くことで元気になる」――これは感覚的な話ではなく、近年の調査でも裏付けられている重要な視点です。シニア人材を採用することは、単なる労働力確保にとどまらず、本人の健康維持や生きがいの創出にもつながります。
働くことで得られる“身体的な健康”への効果
高齢期になると、運動量や外出頻度の減少が健康リスクを高める要因となります。働くことで「決まった時間に起きる」「通勤で歩く」「体を動かす」といった行動習慣が生まれ、日常的な活動量が自然に増えることになります。
特に軽作業や短時間勤務でも、身体の可動域やバランス感覚を保つために効果的だとする報告もあります(出典:東京都健康長寿医療センター「就労と健康に関する研究」)。
精神的な健康や社会参加意識の向上
また、「社会とつながっている」「役に立っている」と感じることは、メンタル面の安定や認知機能の維持にも良い影響を与えるとされています。とくに孤立しがちな高齢期においては、働くことが「人との接点」や「自己肯定感」の源になることが多いのです。
ある調査では、65歳以上の就労者のうち約7割が「働くことが生きがいにつながっている」と回答しています(出典:公益財団法人 生命保険文化センター「高齢者の就労意識調査2022」)。
企業にとっても“健康維持”は好循環
こうした健康的な生活リズムの維持は、結果として欠勤や離職のリスクを低下させ、安定した戦力として活躍しやすくなるという側面もあります。つまり、企業にとっても「働くこと=健康づくり」の視点を理解しておくことは、長期的な人材活用の成功に直結します。
まとめ:不安を“安心”に変える視点を持てば、シニアは頼れる戦力になる
「体力や健康に不安があるからシニアは難しい」と思い込んでしまうのは、もったいないことです。実際には、60代・70代でも健康を維持し、働く意欲に満ちた人材は数多く存在します。
重要なのは、「シニアだから」と一括りにするのではなく、
・データに基づいて実態を正しく理解すること
・業務を分解して、無理なくできる仕事を設計すること
・採用の場面で適切に見極め、就業後も柔軟にフォローすること
です。
さらに、働くこと自体がシニア本人の健康維持や生活リズムに良い影響を与えることが多く、企業にとっても安定した労働力を確保できる好循環が生まれます。
採用の現場において「不安」ではなく「可能性」に目を向ける視点こそ、これからの人材戦略に求められる姿勢ではないでしょうか。
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