はじめに|介護と仕事の両立は“他人事”ではない時代に
「定年後はゆっくり過ごそう」と考えていたのに、親の介護が突然始まり、再び仕事を探すことになった――。そんなシニア世代が増えています。
高齢化が進む今、60代後半や70代でも、親の介護を担う「老老介護」「遠距離介護」などの現実に直面する人が少なくありません。
一方で、年金だけでは生活が不安という声も多く、介護と同時に「収入を確保するために働く」ことを選ぶ人もいます。
しかし、介護と仕事を両立させるのは、体力的にも精神的にも大きな負担。そこで今回は、体力・時間に無理のない働き方や、支援制度、仕事選びのポイントを紹介しながら、両立を目指すシニア世代のためのヒントをお届けします。
1.なぜいま「介護と仕事の両立」がシニア世代の課題になっているのか
定年後に介護が始まる人が増えている背景
高齢化の進行により、親世代が90代まで長生きするケースも増えています。総務省の「高齢者の人口(令和5年)」によれば、90歳以上の高齢者は約260万人(前年より7万人増)にのぼります。
そのため、子ども世代が定年を迎える60代後半〜70代になってから「親の介護が必要になる」ケースが珍しくなくなっています。
また、介護は突然始まることが多く、事前準備ができていないまま日常生活に組み込まれていくことが多いため、仕事をどうするか悩む人も多いのが実情です。
誰もが介護者になる可能性がある現実
かつては女性や専業主婦が介護を担うイメージがありましたが、今は性別を問わず、誰もが介護に関わる時代です。
内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、介護をしている人のうち約3割が65歳以上の高齢者。特に子ども世代の介護者にとっては、「働きながらの介護」が深刻な課題になっています。
さらに介護は1日1~2時間で終わるものではなく、在宅介護の場合は日常的な見守りや通院、食事・排泄の介助など、多岐にわたります。その結果、「働く時間が制限される」「正社員では働けない」といった制約が生じやすくなるのです。
2.両立をラクにする「働き方」の選び方
介護と仕事を両立するには、「がんばりすぎない働き方」を選ぶことが大切です。体力的にも時間的にも無理なく続けられる仕事を選ぶことで、心身の負担を減らし、継続的に働くことができます。
短時間勤務・柔軟シフトの仕事とは
まず注目したいのが、短時間勤務や柔軟なシフト制がある職場です。例えば、以下のような職種では比較的自由な時間設定がしやすく、介護との両立がしやすい傾向にあります。
職種例 | 特徴 |
---|---|
清掃スタッフ | 早朝や午後など短時間勤務が多く、体への負担が少ない |
マンション管理員 | ルーティン業務が中心で、休憩時間も確保しやすい |
施設・企業受付 | 座っての業務が中心で、勤務日数を調整しやすい |
見守りサポート | 高齢者施設などでの夜間・短時間勤務などが可能 |
これらの仕事は、求人票で「週2~3日OK」「1日4時間から勤務可能」「Wワーク可」といった表記があることが多いため、条件面をしっかりチェックして選ぶことが重要です。
また、派遣や業務委託など、より自分のペースで働ける雇用形態を検討するのも一つの手です。
自宅近くで働ける職場を探す工夫
介護中は「自宅を離れすぎない」ことも大切なポイントです。急な呼び出しや通院対応が必要になることも多いため、できるだけ自宅の近くで働ける職場を選ぶことで安心感が高まります。
探し方の工夫としては以下のような方法があります。
・求人サイトの「勤務地から探す」機能を活用する
・ハローワークや地域包括支援センターに相談する
・地域のスーパー、クリニック、公共施設などの掲示板もチェック
また、「通勤時間が片道30分以内」「自転車や徒歩で行ける」など、移動の負担を抑える条件を基準にすると、長く続けやすい職場選びができます。
いまの職場で理解を得ることも両立への一歩
必ずしも転職だけが解決策ではありません。
現在の職場に事情を相談し、「勤務時間の調整」や「シフトの融通」「介護休暇の利用」などの協力を得られる場合もあります。
たとえば、以下のような相談をしてみましょう。
・週の勤務日数を減らす
・就業時間を短縮する
・急な呼び出しへの理解を求める
・在宅勤務の可否を相談する(事務系職種の場合)
企業側も高齢化社会を背景に「仕事と介護の両立支援」に取り組むところが増えており、相談すれば柔軟に対応してくれるケースも少なくありません。
まずは遠慮せず、職場の上司や人事担当に現状を共有してみること。それが、両立への大きな一歩になります。
3.使わないと損!介護と仕事を支える制度の活用法
介護と仕事を両立するには、自分だけで抱え込まず、公的な制度を上手に活用することがカギです。国や自治体には、働く介護者を支えるさまざまな仕組みが用意されています。
介護休暇・介護休業制度の基礎知識
「介護休暇」や「介護休業」は、法律で定められた労働者の権利です。厚生労働省がまとめた制度概要(出典:厚生労働省|介護休業制度特設サイト)によれば、次のような違いがあります。
制度名 | 内容 |
---|---|
介護休暇 | 年に5日(対象家族1人)まで、有給で取得可能。通院同行や書類手続きなどの一時的な介護対応向け。 |
介護休業 | 通算93日まで休業可能。1回でまとめて取ることも、数回に分けて取得することも可能。無給。 |
これらの制度は正社員だけでなく、一定の条件を満たせばパートや契約社員でも利用可能です。制度の利用には事前申請が必要なため、就業規則を確認し、職場とよく相談しておくことが大切です。
自治体・地域包括支援センターの支援も視野に
介護は一人で抱えるには負担が大きすぎるもの。そこでぜひ活用したいのが、各自治体にある「地域包括支援センター」や「介護保険サービス」です。
たとえば以下のような支援が受けられます。
・ケアマネジャーによる介護サービスの調整、提案
・デイサービスやショートステイの紹介
・訪問介護、訪問看護の手配
・認知症の家族を持つ人向けの相談窓口
特に「介護保険の認定を受けているかどうか」で使えるサービスが大きく変わるため、まずは地域包括支援センターに相談することが第一歩になります。
制度やサービスを知ることで、「仕事の時間を確保する」「自分の時間を持つ」といった選択肢がぐっと広がります。
4.介護と両立しやすい仕事の具体例
「介護があるから仕事は無理かも…」と思っている方でも、働き方を工夫すれば無理なく続けられる仕事はたくさんあります。ここでは、介護と両立しやすい代表的な仕事を紹介します。
ポイントは、「短時間で働ける」「身体的負担が少ない」「急な予定変更にも対応できる」ことです。
時間に融通がきく「清掃」「マンション管理」など
まずおすすめなのが、時間や曜日を柔軟に調整しやすい職種です。
職種例 | 特徴 |
---|---|
清掃スタッフ | 朝や夕方など短時間勤務が中心。日常清掃なら力仕事も少なめ。 |
マンション管理員 | 巡回・点検・簡単な清掃などが主業務。ルーティンワークで負担が少ない。 |
これらの仕事は「週2〜3日」「1日3〜4時間程度」で働ける案件が多く、介護の合間を縫って働くにはぴったりです。また、就業場所が近ければ、移動時間を短縮できるため緊急時にも対応しやすくなります。
実際に、70代で現役のマンション管理員として働いている人も多く、体力的にも継続しやすい仕事です。
体への負担が少ない「介護補助」「家事代行」など
次に注目したいのが、座り仕事ではないが身体への負担が軽く、日常生活の延長でできるような職種です。
職種例 | 特徴 |
---|---|
家事代行 | 掃除・洗濯・買い物など、自宅での家事スキルを活かせる。短時間・直行直帰も多く負担が少ない。 |
介護補助 | 食事の配膳や声かけ、簡単なサポートなど資格不要。フル介助が必要ない施設などで働ける。 |
家事代行は、「週1回・2時間だけ」「午前中のみ」などの柔軟な働き方が可能な求人も多く、介護と並行して働きやすいのが特徴です。
また、介護補助も、食事介助や見守り、シーツ交換などの「補助業務」が中心で、介護福祉士などの資格がなくても働ける施設が増えています。
どちらも地域密着型の働き口が多く、通勤時間が短いことが両立の後押しになります。特に家事代行は、近隣在住であることが優先される傾向もあるため、自宅から近い範囲で求人を探すのがおすすめです。
5.両立には“頼る力”も必要|無理なく続けるために意識したいこと
介護と仕事を両立させるうえで大切なのは、「自分一人でがんばりすぎないこと」です。まじめで責任感の強い方ほど、自分だけで介護も仕事も完璧にこなそうとしてしまいがちですが、それでは心身ともに疲弊してしまいます。
長く続けるためには、“頼る力”を持つことが大きな武器になります。
家族・地域・専門機関との連携
まずは身近な人との情報共有から始めましょう。たとえば…
・家族と介護の分担について話し合う
・かかりつけ医やケアマネジャーに今後の介護方針を相談する
・地域包括支援センターに相談し、利用できる制度やサービスを確認する
とくに地域包括支援センターは、「何をどうしたらいいかわからない」と感じたときの最初の相談先として心強い存在です。
介護保険サービスの紹介だけでなく、精神的な負担の軽減や、ケアマネジャーとの連携支援なども担っています。
また、「働くことを諦めたくない」と思う気持ちを理解してくれる専門職に出会うことで、介護とのバランスを保った働き方のヒントを得られることもあります。
一人で抱え込まない「仕組み」をつくろう
もうひとつ意識したいのが、「自分が疲れたとき・急に動けないときの代替手段」を用意しておくことです。たとえば…
・近隣のデイサービスやショートステイ施設をリストアップしておく
・介護記録を家族と共有できるノートやアプリを用意する
・週1日は何もしない“休息日”を設ける
・仕事先に「緊急時は連絡があるかもしれない」と伝えておく
こうした“備え”があるだけで、「自分が全部を背負っている」というプレッシャーから解放されやすくなります。
頼ることは弱さではなく、自分も家族も守るための戦略です。
介護と仕事、どちらも大切にしたいからこそ、持続可能なかたちを探っていきましょう。
まとめ|介護と仕事、どちらも大切にできる働き方を見つけよう
介護と仕事の両立は、決して簡単なことではありません。
ですが、「短時間勤務」「自宅近くでの仕事」「制度や支援の活用」など、工夫と選択によって両立を実現しているシニアは確実に増えています。
特に大切なのは、「無理のない働き方を選ぶこと」と「一人で抱え込まず、支援を活用すること」です。
年金だけでは不安だからと働く選択をしても、それが心身に過度な負担をかけてしまっては本末転倒です。
自分の体力や時間、家庭状況に合った仕事を見つけることが、長く穏やかな生活を続けるための第一歩になります。
仕事を通じて社会とのつながりを感じたり、新たなやりがいを見つけたりすることも、介護生活の中で大きな支えになります。
「どちらかを諦める」のではなく、「どちらも大切にする」ための選択肢を、ぜひ少しずつ見つけていきましょう。
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