1. 見えない“年齢の壁”が生む採用のミスマッチとは
年齢フィルターが招く機会損失
多くの企業が、求人活動の中で無意識に「年齢フィルター」をかけてしまっています。求人票には明記されていないものの、「20代~30代歓迎」といった文言や、若年層を想定した職場写真・キャッチコピーなどがシニア層を遠ざけているケースは少なくありません。実際には法律上、年齢制限を設けた募集は原則禁止されている(※)にもかかわらず、年齢に対する先入観が強く影響しています。
このようなフィルターにより、企業は貴重な人材の応募機会を自ら閉ざしているのです。特に人手不足が深刻な業界では、「経験豊富で即戦力となる60代・70代」の採用可能性を見落とすことが、企業成長の足かせとなるリスクもあります。
※参考:厚生労働省「改正雇用対策法による年齢制限の禁止について」
応募者の“想定外の反応”はなぜ起きる?
求人票が「誰にも響かない」「応募が少ない」と感じた経験はありませんか?
それは「企業が想定する求職者像」と「実際の求職者層」にギャップがあるからです。
たとえば、経験や安定性を重視する60代にとっては、成長機会やスピード感を強調した求人は「自分向きではない」と感じられることがよくあります。逆に、シニア向けの“安心して働ける環境”や“体力的に無理のない業務”が記載されていれば、応募の確率は大きく高まるのです。
このように、求人内容がターゲットと噛み合っていない状態では、いくら求人広告を出しても「届くべき人材に届かない」というミスマッチが生まれやすくなります。
2. 採用現場でよくある「年齢バイアス」の実例
「高齢者=体力がない」は本当か?
採用の現場で根強く残っているバイアスのひとつが、「高齢者は体力がないから現場仕事には向かない」という思い込みです。確かに加齢によって身体機能は低下しますが、これは一律に語れる問題ではありません。
実際には、日常的にウォーキングや運動習慣を続けている高齢者も多く、体力的に40〜50代と遜色ない60代も増えています。特に軽作業、設備巡回、施設清掃、見守りなどの業務では、無理のない範囲で継続的に働ける環境を提供することで、高い定着率が実現できます。
こうした現実を知らずに「年齢だけで体力的に難しいだろう」と決めつけてしまうと、有能な人材の可能性を摘み取ってしまうことになります。
「教えづらい・ITに弱い」と決めつけていないか
もう一つの典型的なバイアスが、「高齢者は新しいことを覚えるのが苦手」「ITに疎くて指導が大変」といった固定観念です。もちろん、デジタルネイティブ世代と比べればIT経験が少ないのは事実ですが、「学ぶ姿勢があるかどうか」は年齢よりも個人の性格に大きく依存します。
近年では、タブレットで出退勤管理をしたり、スマホで業務連絡を受け取ったりする職場環境に、柔軟に適応している60代・70代も珍しくありません。特にシニア層の多くは、「人に迷惑をかけたくない」「職場に貢献したい」という責任感が強く、必要なスキルは自発的に習得しようとする傾向が高いのです。
このように、年齢だけで「教えづらい」と判断してしまうのは大きな誤解です。むしろ、OJTやマニュアル整備をしっかり行えば、若年層よりも着実に業務をこなす安定人材になることも多いのです。
3. “年齢の壁”を取り払う3つのアプローチ
ジョブ型採用でスキル重視に切り替える
年齢にとらわれない採用を実現するには、「人柄や年齢」ではなく「スキルや業務適性」で評価する“ジョブ型採用”への転換が有効です。職務内容を明確に定義し、その業務に必要な能力・経験を中心にマッチングを行うことで、年齢に関係なく実力本位で人材を選べます。
たとえば、「週3日、施設内の設備点検」「来店客への声がけと案内」といった具体的な業務ベースで募集をかければ、それが可能なシニア層が自信を持って応募できます。結果として、“できること”に集中できるため、企業も応募者も納得感のある採用につながるのです。
求人票の表現を見直す(NGワード・歓迎表記など)
実は、求人票に書かれている何気ない表現が、応募者の心理に大きな影響を与えることがあります。たとえば以下のような表記には注意が必要です。
・NG例:「若手活躍中」「20代が中心の職場です」「体力に自信のある方歓迎」
・改善例:「年齢・経験不問」「シニア・中高年の方も歓迎」「重い荷物の運搬なし」
また、明確に「60代も活躍中」「未経験から始めた70代スタッフも在籍」などの文言を入れることで、シニア層に「自分でも応募できる」という安心感を与えることができます。これはミスマッチ防止と応募率向上の両方に効果があります。
面接官の意識改革と年齢多様性の評価軸
制度や求人内容を整えても、採用担当者の“無意識バイアス”が残っていては意味がありません。高年齢の応募者に対して「なぜまだ働きたいのか?」「若い社員とうまくやれるか?」といった先入観を含んだ質問が出てしまうと、応募者に不信感を与えてしまうことも。
そこで大切なのが、面接官に対する意識付けです。以下のような研修やチェックリストの導入が推奨されます。
・年齢による先入観を排除する採用面接のトレーニング
・「どの年齢層が活躍しているか」より「どのスキルが活きるか」の視点で評価
・年齢に応じた“多様性の価値”を面接評価の一つに加える
このように、組織全体で“年齢の壁”を意識的に取り払うことで、より多様で安定した人材確保が可能になります。
4. シニア人材が企業にもたらすメリットとは
高い定着率と柔軟な働き方
シニア人材の最大の特長の一つは「定着率の高さ」です。厚生労働省の統計(※)によれば、60歳以上の就業者は「仕事に対する満足度が高く、転職意向が低い」という傾向が出ています。多くの高齢者は「生活のため」「社会とのつながりの維持」「健康維持」を理由に働いており、一度採用されれば長く安定的に勤務するケースが多いのです。
また、週2~3日勤務や短時間勤務など、若年層よりも柔軟な働き方を希望する人が多く、企業側が求める「ピークタイムだけ」「空いている時間帯だけ」といったニーズにもフィットしやすい点も大きな利点です。
※出典:厚生労働省「令和4年 高年齢者雇用状況等報告」
経験を活かした若手のサポート役としての活躍
豊富な職業経験と人生経験を持つシニア人材は、若手社員の育成にも貢献します。実務のノウハウはもちろんのこと、社会人としてのマナーや顧客対応、トラブル時の冷静な判断など、現場で学べないスキルを伝える“指導役”としても活躍の場があります。
たとえば、ある物流企業では、定年退職した元社員を再雇用し、20代社員の研修担当として配置。若手からの信頼も厚く、定着率の向上にもつながったという実例があります。
採用コストの削減と即戦力人材の確保
若手の採用活動には、求人広告費、説明会や選考会の運営、内定辞退リスクなど多くのコストと手間がかかります。それに比べて、シニア層の採用は「地元での就労希望者」や「職場見学を経た応募」など、ミスマッチが少なく採用効率が高い傾向にあります。
また、業界経験者や定年後再就職者は、初日から即戦力として働けることも多く、研修コストの面でも企業にとっては大きなメリットです。
5. 年齢に縛られない採用成功事例
実例1:60代採用で職場が安定した小売企業
ある地方スーパーでは、慢性的な人手不足と若手の離職に悩んでいました。特に朝の品出しや開店準備など、早朝時間帯の勤務希望者が集まらず、業務に支障が出ていたのです。そこで、60代~70代を対象とした短時間勤務の求人を試験的に開始。
結果、体力に無理のない範囲で働きたいシニア層が複数名応募。地域住民としての責任感も強く、無遅刻・無欠勤で業務を継続。若手との連携も良好で、店舗全体の定着率が改善したと報告されています。
この事例では、“年齢ではなく勤務スタイルで活躍できるか”という視点が功を奏しました。
実例2:アルムナイ制度で再戦力化した元社員
製造業の中堅企業では、コロナ禍を機に早期退職制度を実施。しかしその後の技術継承がうまく進まず、生産効率が低下していました。そこで会社は、過去に退職した技術者(アルムナイ)に再雇用を打診。
60代の元社員が「週2日勤務・後進の指導役」として復帰し、若手へのOJTとマニュアル整備を推進。1年後には新人育成のスピードが2倍以上に改善し、結果的にコストダウンにもつながったといいます。
アルムナイ制度は、“信頼関係が構築済みで教育不要”という点で再雇用の成功率が高いのです。
実例3:シニア×若手の混成チームが成果を出した製造業
某中小製造業では、ライン作業の効率化とミス削減が課題となっていました。そこでベテラン人材と若手社員をバランスよく配置した“年齢混成チーム”を新設。60代社員がミス防止のチェックポイントや工具配置を提案し、若手がそれをデジタル化・マニュアル化することで作業効率が劇的に向上しました。
この取り組みは社内表彰も受け、他部署でも同様のチーム編成が進んでいます。年齢に関係なく、それぞれの強みを活かすことが職場全体の成果に直結する好例です。
まとめ:年齢の壁を越え、採用を進化させよう
少子高齢化が進む中、企業にとって“年齢にとらわれない人材活用”は避けて通れない課題となっています。従来の「若手重視」の採用方針では、応募者とのミスマッチや高い離職率といった問題が浮き彫りになりやすく、人手不足の根本解決にはつながりません。
本記事で紹介したように、年齢の壁を取り払い、スキルや働き方の柔軟性を重視することで、企業には以下のようなメリットがもたらされます。
・定着率が高く、安心して任せられる人材の確保
・若手社員の指導役、補佐役としての活躍
・採用コストの削減と即戦力の確保
・組織内の多様性が広がり、イノベーションにつながる
これからの採用戦略は、「年齢」というラベルで人を判断するのではなく、「その人が何をできるか」「どう貢献できるか」に注目すべきフェーズに入っています。求人票の見直し、採用担当者の意識改革、現場での活躍事例の共有など、できることから一歩ずつ始めることが、持続可能な組織づくりへの第一歩です。
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