1. 「シニア活躍推進宣言企業プラス」とは?制度の概要と背景
埼玉県の「シニア活躍推進宣言企業」は、県内に事業所を持つ企業・団体が、定年延長や定年廃止、シニア向けの仕事創出など“シニアの活躍の場を広げる取組”を実施(または予定)していることを宣言し、県が認定・公表する制度です。令和4年度からは、その中でも「70歳以上まで働ける」環境を整えている企業を上位区分として「シニア活躍推進宣言企業プラス」に認定しています。取組例や募集の案内は県公式ページで公開されており、申込は随時受付です。
制度の背景には、国の法改正があります。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、事業主は70歳までの就業機会を確保するためのいずれかの措置を講ずる努力義務を負うことになりました(定年引上げ、定年廃止、70歳までの継続雇用、業務委託や社会貢献事業への従事制度など)。自治体として埼玉県は、この流れを後押しする認定スキームを運用している位置づけです。
認定の基本は“実効ある取組”です。県が示す7項目(例:定年・継続雇用の延長、賃金・評価の明確化、健康配慮、仕事の切り出し等)のうち3項目以上で「実施」または「実施予定」であることが目安で、チェックリスト様式も公開されています。
制度の広がりも顕著です。県の「働くシニア応援サイト」によれば、認定企業は3,721社(2025年7月18日時点)に達しており、最新の認定追加情報も同ページで随時更新されています。認定企業は県サイトで公表され、採用広報や信頼性向上に資するのが特徴です。
2. 参加企業になることで得られる3つのメリット
① 採用広報力と信用の強化(県公式サイト掲載+認定ツールの活用)
認定されると、埼玉県の「働くシニア応援サイト」で企業情報が掲載・PRされます。さらに認定証・ステッカーの交付と、シンボルマーク(通常/プラス)の電子データが提供され、求人票・自社サイト・名刺・パンフレット等で公式ロゴを活用できます。県の公式ページで認定企業として可視化されることは、応募者・取引先への信頼性担保に直結します。
現場活用例:求人票に「埼玉県シニア活躍推進宣言企業プラス」ロゴを掲示、採用サイトに県サイト掲載ページへの導線を設置。
② 専門家(社労士・中小企業診断士等)による無料アドバイス
認定企業は、シニア活躍推進アドバイザーの伴走支援を受けられます。就業規則の見直し、70歳就業への制度設計、職務の切り出し、評価・賃金体系の整備など、実装フェーズに効くコンサルティングが無償で受けられる点は大きなメリットです。
現場活用例:短時間勤務や週3日勤務などの制度化、技能伝承の仕組み設計(OJT手順書・ペア就労の設計)などをアドバイザーと短期で固める。
③ 金融面の優遇(県制度融資の活用可)
認定企業は、県の中小企業向け制度融資を利用する際に、低利の「産業創造資金・社会貢献企業優遇貸付」を利用できます(別途審査あり)。人件費の先行投資や職場改善設備(省力化機器・安全装置など)の導入資金を有利な条件で調達でき、シニア雇用の環境整備を加速できます。
3. 登録までの流れと必要な条件
「シニア活躍推進宣言企業プラス」への申請は通年で随時受付しており、毎月末日までに申請書が受理されれば、原則翌月末までに認定されます【埼玉県産業労働部雇用労働課】。そのため、企業の採用計画や求人募集時期に合わせて柔軟に申請できる点が魅力です。
【登録までの流れ】
1.宣言書/申請書の作成
・県が公開している所定様式に沿って作成します。
・宣言内容には、採用方針・職場環境改善・スキル活用の施策などを具体的に記載します。
・「プラス」認定を希望する場合は、定年廃止・定年70歳以上・継続雇用上限70歳以上のいずれかの実施状況も明記します【埼玉県公式サイト】。
2.必要書類の提出
・宣言書、申請書のほか、就業規則や労働条件通知書など、宣言内容を裏付ける資料を添付します。
・提出は郵送または持参が可能です(オンライン申請は現時点で未対応)。
3.県による審査/確認
・書類審査に加え、必要に応じてアドバイザーや県職員による訪問確認が行われます。
・法令遵守状況(労働基準法/雇用保険/社会保険等)も審査対象です。
4.認定/公表
・認定証とシンボルマーク(電子データ)が交付されます。
・企業情報は埼玉県の「働くシニア応援サイト」で公表され、求人広報やPR活動に活用可能です。
5.更新とフォローアップ
・認定期間は特に期限を設けず、継続的な取組を前提としています。
・県から取組状況の報告依頼やヒアリングが行われる場合があります。
【申請の主な条件】
- 埼玉県内に本社または事業所があること
- シニア層(概ね60歳以上)の活躍推進に関する取組を3項目以上実施または実施予定であること
- 労働関係法令を遵守していること
- 「プラス」認定は、70歳までの就業確保措置を既に実施していることが必須
このように、申請のタイミングは自由度が高く、認定までの期間も比較的短いため、年度途中の採用計画や求人タイミングに合わせて活用しやすい制度です。
4. 活用のポイント|シニア人材の戦力化を促す社内体制づくり
「シニア活躍推進宣言企業プラス」に認定されても、制度を“看板”で終わらせず、実際の職場で戦力化につなげることが重要です。以下のポイントを押さえることで、シニア人材が能力を最大限発揮し、組織全体の生産性向上につながります。
① 業務の切り出しと適材適所配置
・シニア層がこれまで培ってきた知識・技能を活かせる業務を明確にすることが重要です。
・例:製造業では品質管理や安全指導、サービス業では顧客対応やクレーム処理など、経験が物を言うポジションに配置。
・単純作業に偏らず、役割の“格”を保つことでモチベーション向上にも直結します。
② 柔軟な勤務制度の導入
・体力や生活リズムに合わせた勤務形態が、シニア層の長期就業を支えます。
・短時間勤務、週3日勤務、時差出勤などを導入する企業は年々増加しており、厚生労働省の「就労条件総合調査」(2023年)でも、60歳以上の短時間正社員制度導入率は約27%と上昇傾向です。
・フルタイム以外の多様な選択肢を提示することが、採用競争力にもつながります。
③ 健康・安全面での配慮
・年齢とともに変化する身体能力に合わせた職場環境の整備が必要です。
・例:作業負担を軽減する補助器具の導入、休憩スペースの充実、夏季の熱中症対策、冬季の防寒設備など。
・産業医や保健師による健康相談や運動習慣サポートも効果的です。
④ 世代間交流と情報共有の仕組みづくり
・若手社員とシニア社員が自然に交流できる場をつくることで、スキル伝承や職場の一体感が生まれます。
・例:OJT形式のペア就労制度、業務改善ワークショップ、社内報での経験談共有など。
・埼玉県が提供する「シニア活躍推進アドバイザー制度」を活用すれば、こうした交流施策の設計支援も受けられます【埼玉県公式サイト】。
⑤ 評価・処遇の透明化
・年齢に関係なく、成果や貢献度を適切に評価する仕組みを設けることが重要です。
・公平な評価は、シニア層のモチベーションだけでなく、若手の納得感にもつながります。
こうした社内体制の整備は、採用後の定着率を大きく左右します。実際に社内体制を整えたうえでシニア採用を実施した企業からは、「シニア社員の定着率が上がった」「若手社員の離職率が低下した」との声が多数報告されています。
5. シニア採用をうまく進めるためのポイント
「シニア活躍推進宣言企業プラス」の認定を受けても、採用活動がうまく進まなければ制度の効果は半減します。ここでは、シニア採用を実際に成功させるための実務的なポイントをまとめます。
① 求人情報の工夫
・仕事内容を具体的に
「簡単な作業」や「経験不問」など曖昧な表現ではなく、日々の業務内容を具体的に記載します。
・働き方を明確に
勤務日数、時間帯、休憩時間などを明確に記すことで、応募のハードルを下げられます。
② 応募ハードルを下げる
・年齢上限を設けず、「60歳以上歓迎」「70歳以上も活躍中」といった文言を入れることで、対象層の関心を高めます。
・履歴書の形式や面接回数を簡素化し、応募から採用までの負担を軽減します。
③ 面接時の配慮
・面接では経歴だけでなく、健康状態/勤務可能日数/希望する働き方を丁寧にヒアリングします。
・年下面接官の場合も、経験やスキルを尊重する姿勢を示すことで、安心感を与えられます。
④ 定着を意識した受け入れ体制
・採用後の初期研修を充実させ、現場でのOJTを計画的に実施します。
・チーム内での役割分担を明確にし、孤立を防ぐためのフォロー体制を整えます。
⑤ 情報発信とネットワーク活用
・ハローワークや民間求人サイトだけでなく、シニア向けの専門求人サイトや地域のシルバー人材センターも活用します。
・認定制度や自社の取り組みをニュースリリースやSNSで発信し、企業姿勢をアピールします。
こうした工夫を組み合わせることで、シニア層からの応募が増え、採用後の定着率も向上します。制度の認定はあくまでスタートライン。「採用〜定着」の一連の流れを最適化することが、本当の成果につながります。
6. まとめ|制度を上手に活かして採用力と企業価値を高めよう
埼玉県の「シニア活躍推進宣言企業プラス」は、人材不足解消だけでなく、企業のブランド力向上・地域貢献・組織力強化という三拍子を同時に実現できる制度です。
認定されることで、県公式サイトでのPRや認定マークの活用、アドバイザーによる専門支援、制度融資など、採用活動や経営改善に直結する支援を受けられます。さらに、シニア層の雇用拡大は、若手社員の育成や離職防止、職場の安定化にもつながるため、中長期的な組織力強化の基盤となります。
また、全国には北海道・神奈川・大阪など、同様の趣旨で高齢者活躍を推進する制度が存在し、複数地域で事業展開している企業はそれらも併せて活用することで、より幅広い人材確保と企業価値向上が可能です。
重要なのは「認定を取って終わり」ではなく、実際の現場でシニア人材が生き生きと働ける環境を整えること。
業務の切り出し、柔軟な勤務制度、健康・安全面の配慮、世代間交流の促進、そして公平な評価制度——こうした社内体制の充実こそが、制度の真価を発揮させます。
人口減少と人材獲得競争が加速する中で、シニアの活躍推進はもはや選択肢ではなく必須戦略です。今こそ「シニア活躍推進宣言企業プラス」を活用し、企業の持続的成長と地域社会への貢献を両立させましょう。
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