1. 若年性認知症とは?高齢者の認知症との違い
「認知症」と聞くと、多くの人は高齢者に起こる病気だと考えがちです。しかし、65歳未満で発症する認知症は「若年性認知症」と呼ばれ、働き盛りの40代や50代で発症するケースも少なくありません。厚生労働省によると、日本では約3.5万人の若年性認知症の方がいるとされており(厚生労働省「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」2018)、社会的にも大きな課題となっています。
高齢者の認知症との違いは、まず「年齢層」と「生活背景」にあります。高齢者の場合は退職後や老後の生活の中で発症することが多いのに対し、若年性認知症は現役世代に起こるため、仕事や子育て、家計など生活全般に深刻な影響を及ぼします。例えば、仕事のミスが増える、人間関係に支障が出る、家庭での役割を果たしにくくなるなど、社会的な立場が大きく揺らぐのが特徴です。
また、若年性認知症はアルツハイマー型だけでなく、前頭側頭型認知症や脳血管性認知症など、比較的多様な病型で発症することも知られています。そのため、初期の段階では「うつ病」や「更年期障害」と間違われることもあり、正しい診断までに時間がかかるケースが少なくありません。
このように、若年性認知症は「単に早く発症する認知症」ではなく、患者本人や家族の生活に特有の影響を与える疾患であることを理解することが大切です。
2. 発症の主な原因とリスク要因
若年性認知症の発症にはいくつかの原因が関わっています。代表的なのは「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「前頭側頭型認知症」などで、それぞれに特徴的な原因があります。
主な原因疾患
・アルツハイマー型認知症:脳にアミロイドβやタウたんぱくが蓄積し、神経細胞が徐々に壊れていくことで発症します。
・脳血管性認知症:脳梗塞や脳出血といった脳血管障害によって神経細胞が損傷し、発症します。
・前頭側頭型認知症:脳の前頭葉や側頭葉が障害され、行動や人格の変化が早期に現れるタイプです。
リスク要因
厚生労働省「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」(2018)によると、若年性認知症患者のうちアルツハイマー型が約半数を占めています。その背景には、遺伝的な要因のほか、生活習慣や基礎疾患が影響していると考えられます。
具体的なリスク要因としては、
・高血圧や糖尿病などの生活習慣病
・喫煙や過度の飲酒
・脳梗塞、脳出血など脳血管障害の既往
・強いストレスやうつ病
・遺伝的要素(家族に認知症の既往がある場合)
また、働き盛りの年代は過労やストレスにさらされやすく、それが脳の健康に悪影響を与える可能性も指摘されています。
このように、若年性認知症は「偶然」ではなく、生活習慣や基礎疾患、遺伝要因が重なって発症するケースが多いのです。予防や早期発見のためには、日頃から生活習慣を見直すことが欠かせません。
3. 若年性認知症の代表的な症状とチェックポイント
若年性認知症の症状は高齢者の認知症と大きくは共通していますが、発症年齢が若いため、仕事や家庭での役割に直結する点が特徴です。そのため「ちょっとした物忘れ」と軽く見られてしまい、発見が遅れるケースも少なくありません。
主な症状
・記憶障害:仕事の予定を忘れる、同じことを何度も聞く、取引先との約束を守れないなど。
・判断力の低下:簡単な計算や業務上の意思決定が難しくなる。お金の管理ができなくなる。
・注意力の低下:運転中に信号を見落とす、家事の段取りが組めないなど日常生活に支障が出る。
・言語障害:言いたい言葉が出てこない、会話がかみ合わない。
・性格や行動の変化:イライラしやすくなる、無気力になる、これまでの趣味や仕事への意欲が薄れる。
チェックポイント
厚生労働省の「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」でも、早期発見の重要性が強調されています。以下のようなサインが続く場合は要注意です。
・数週間~数か月のあいだに仕事の能率が急激に落ちた
・職場や家庭でのコミュニケーションに支障が出始めた
・これまで問題なくできていた家事や趣味ができなくなった
・感情の起伏が激しくなり、人間関係がぎくしゃくしている
これらは「年齢のせい」「疲れのせい」と片づけられがちですが、若年性認知症の初期症状である可能性もあります。本人が自覚しにくいため、家族や同僚など周囲の人が気づくことが、早期発見につながる大きなポイントです。
4. 早期発見・早期受診が重要な理由
若年性認知症は、発症しても「まだ若いから大丈夫」と見過ごされやすく、診断が遅れるケースが多い病気です。しかし、早期に発見して医療機関を受診することは、本人や家族にとって非常に大きな意味があります。
早期発見のメリット
・進行を遅らせられる可能性がある
一部の認知症は治療薬や生活改善によって進行を緩やかにできることが分かっています。アルツハイマー型認知症の場合、早期から服薬やリハビリを行うことで、記憶障害や判断力低下の進行を抑える効果が期待されます。
・生活の工夫を早めに取り入れられる
仕事や家庭の役割を続けやすくするためのサポートや、日常生活での工夫(メモの活用、家計管理の仕組みづくりなど)を早めに実行できます。
・制度や支援を早く利用できる
介護保険サービスや障害者手帳、就労支援など、利用できる制度は多岐にわたります。診断がつくことで、本人と家族が早く支援を受けられるのです。
受診をためらいやすい理由
働き盛りの世代であるため、「職場に知られたくない」「家族に迷惑をかけたくない」と受診を避ける人も少なくありません。しかし、厚生労働省の調査(「若年性認知症の実態等に関する調査結果の概要」2018)でも、適切な診断と支援の活用によって、生活の質(QOL)が改善する例が多く報告されています。
受診の流れ
最初はかかりつけ医に相談し、必要に応じて「もの忘れ外来」や神経内科・精神科を紹介してもらうのが一般的です。MRIや認知機能検査などを組み合わせて診断が行われます。
つまり、早期発見・早期受診は「病気を治す」だけでなく、「生活を守り、支援を受ける準備を整える」ための大切なステップなのです。
5. 日常生活でできる予防習慣と工夫
若年性認知症は完全に防ぐことが難しい病気ですが、生活習慣を見直すことでリスクを下げることができます。世界保健機関(WHO)の「認知症予防ガイドライン」(2019年)でも、生活習慣改善が重要であると示されています。
脳を健康に保つ生活習慣
・適度な運動を続ける
ウォーキングや水中運動など有酸素運動は、血流を改善し脳の健康を維持します。1日30分程度の軽い運動を継続することが推奨されています。
・バランスの取れた食生活
野菜、魚、オリーブオイルを中心とした「地中海食」や「和食」は、認知症予防に効果があるといわれています。塩分、糖分の過剰摂取を控えることも大切です。
・質の高い睡眠をとる
睡眠中に脳内の老廃物が除去されるため、十分な休養は認知症予防に欠かせません。寝る前のスマホ使用を控えるなど、生活リズムを整える工夫が必要です。
・禁煙と節酒
喫煙は脳血管障害の大きなリスク要因であり、アルコールの過剰摂取も脳機能に悪影響を与えます。
脳を刺激する活動
・学び直しや新しい趣味
楽器演奏、語学学習、パズルや将棋などは、脳に新しい刺激を与える効果があります。
・社会参加、交流
地域活動やボランティアなど、人との交流は心の健康を守り、認知症予防にも役立ちます。
予防チェックリスト(簡易版)
□ 毎日30分以上の運動をしている
□ 野菜・魚を意識して食べている
□ 夜7時間前後の睡眠をとれている
□ 禁煙・節酒を意識している
□ 趣味や学びを楽しんでいる
□ 家族や友人と定期的に交流している
こうした習慣を意識することで、認知症のリスクを減らし、脳の健康を守ることができます。「今日からできること」を一つずつ取り入れることが大切です。
6. 家族や周囲ができるサポートと利用できる制度
若年性認知症は本人だけでなく、家族や職場、地域社会にも大きな影響を与えます。そのため、周囲の理解とサポートが欠かせません。また、日本には利用できる支援制度が整備されており、これらを上手に活用することが生活の質を保つカギとなります。
家族や周囲ができるサポート
・理解と受容
本人の行動や言動を「怠けている」「性格が変わった」と誤解せず、病気として受け止めることが大切です。
・環境を整える
予定表やメモ、音声アラームなどを活用し、日常生活を支えやすい仕組みをつくることが有効です。
・役割を持ち続ける工夫
できないことに目を向けるのではなく、本人ができることを見つけ、役割を担ってもらうことで自尊心を保てます。
利用できる制度・支援
東京都の「若年性認知症総合支援センター」をはじめ、各自治体にはさまざまなサポート体制があります。
・介護保険制度:40歳以上から利用可能で、訪問介護やデイサービスなどを受けられます。
・障害福祉サービス:障害者手帳の取得により、就労支援や生活支援サービスを活用できます。
・就労支援:ハローワークの専門窓口や、地域障害者職業センターでの支援。
・相談窓口:各都道府県・市区町村に「認知症コールセンター」や「若年性認知症相談窓口」が設置されています。
家族への支援
介護する家族にとっても精神的・身体的負担は大きくなります。そのため「家族会」や「ピアサポートグループ」に参加し、同じ立場の人と情報交換することが推奨されています。
つまり、若年性認知症の支援は「本人への医療と生活支援」「家族への支援」の両方が不可欠です。支援制度を早めに知り、必要に応じて専門機関につなげることが、安心した生活を続ける第一歩となります。
7. まとめ|正しい知識で早期対応を心がけよう
若年性認知症は、まだ働き盛りの世代にも起こり得る病気であり、本人や家族の生活に大きな影響を及ぼします。発症の背景には生活習慣病や遺伝的要因、ストレスなど複数のリスクが関与しており、初期症状は「単なる物忘れ」や「疲労」と誤解されやすいのが特徴です。
しかし、早期発見・早期受診によって進行を遅らせ、日常生活の工夫や社会的支援を取り入れることが可能です。実際に厚生労働省の調査でも、適切な診断と支援制度の活用により、生活の質(QOL)が向上する事例が多数報告されています。
また、日常生活においては「適度な運動」「バランスの取れた食事」「十分な睡眠」「社会交流や学び」を意識することで、脳の健康を守ることができます。これは認知症予防だけでなく、心身の健康維持全般にもつながる習慣です。
家族や周囲にとっても、本人を理解し支える姿勢が重要です。介護保険制度や障害福祉サービス、相談窓口などの制度を上手に活用しながら、本人と家族双方の生活の質を高めていくことが求められます。
若年性認知症は「早く気づくこと」「正しく理解すること」「一人で抱え込まないこと」が最大のポイントです。正しい知識を持ち、日常生活に予防と支援を取り入れることで、安心して暮らしを続けることができるのです。
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