1.「働きがい経営」とは何か?|基本の考え方を整理する
「働きがい経営」とは、従業員一人ひとりが仕事に意義を感じ、やりがいを持って働ける環境を整えることを重視した経営スタイルを指します。従来の「働きやすさ」を追求する取り組み(勤務時間の柔軟化、福利厚生の充実など)が「快適な環境」を提供することに重点を置いてきたのに対し、「働きがい経営」では「仕事そのものの意味」「自己成長の実感」「貢献感」といった内面的な満足感に重きを置いているのが特徴です。
「働きがい」と「働きやすさ」の違い
「働きやすさ」は主に外的な条件に左右されます。たとえば、残業が少ない、柔軟なシフトがある、福利厚生が充実している、といった点です。一方で「働きがい」は、内的なモチベーションに関わります。自分の仕事が社会やチームに役立っていると感じることや、自らの成長を実感できることが大きな要素になります。どちらも従業員の満足度を高める上で欠かせませんが、長期的に人材を定着させるためには「働きがい」の醸成が重要です。
経営における「働きがい」の重要性
近年の調査従業員エンゲージメントの高さは、企業の業績や定着率と密接に関わっています。Gallupの大規模メタ分析(2020年)によれば、エンゲージメントが上位25%の事業部門は、下位25%と比べて売上が18%高く、生産性が14%高く、離職率は51%低いという結果が示されています【出典:Gallup「Employee Engagement Meta-Analysis」】。
このデータは、従業員が「働きがい」を感じられるかどうかが、企業の持続的成長や競争力に直結することを明確に示しています。
2.「働きがい経営」が注目される背景
「働きがい経営」という考え方は決して新しいものではありませんが、ここ数年で特に注目度が高まっています。その背景には、企業を取り巻く社会的・経済的な環境変化が大きく影響しています。
人材不足と多様な働き方の広がり
少子高齢化により、日本の労働人口は減少の一途をたどっています。厚生労働省のデータによると、2025年には生産年齢人口(15~64歳)が全体の6割を下回ると推計されています【出典:厚生労働省「人口動態調査」】。人材不足は今後ますます深刻化することが予想され、企業は「限られた人材をいかに定着させ、最大限に活かすか」が喫緊の課題となっています。
さらに、コロナ禍を経てリモートワークや副業解禁といった「多様な働き方」が急速に広がりました。従業員は給与や福利厚生といった外的要因だけでなく、自分の価値観に合った働き方や「やりがい」を重視する傾向が強まっています。この変化に応えるためにも、「働きがい経営」は企業にとって避けて通れないテーマとなっています。
シニア人材の活用が求められる時代的要請
また、高齢者雇用安定法の改正により、企業は70歳までの就業機会確保に努めることが努力義務化されました(2021年4月施行)。この法改正は、シニア人材の活躍を促すための大きな転換点といえます。シニア人材は豊富な経験や専門知識を持ち、若手社員の教育や後進育成にも貢献できる存在です。しかし、彼らが意欲的に働き続けるには「働きやすさ」だけでは不十分で、「自分の存在意義や役割を実感できる環境」が必要です。つまり、「働きがい経営」とシニア人材の活用は密接に結びついているのです。
このように、人材不足と多様な働き方の広がり、さらにはシニア人材活用という社会的要請が重なり合い、「働きがい経営」はいま、あらゆる企業にとって最優先で取り組むべき課題になっています。
3.「働きがい経営」がもたらす企業への価値
「働きがい経営」を実践することで得られるメリットは、従業員の満足度向上だけにとどまりません。企業全体のパフォーマンスやブランド価値にも大きな影響を与えることが明らかになっています。
組織の生産性・エンゲージメント向上
働きがいを感じる従業員は、自らの役割に主体的に取り組み、組織全体の成果に貢献する傾向があります。例えば、米国ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、心理的安全性と働きがいが高いチームは、そうでないチームに比べてイノベーション創出力が2倍以上高いと指摘されています【出典:Harvard Business Review, “What Is Psychological Safety?”, Amy Gallo, Feb 2023】など。。
また、日本能率協会の「日本の人事部 人材白書2023」によると、「従業員が働きがいを感じている」と回答した企業では、そうでない企業に比べて従業員定着率が平均15ポイント高いという結果も示されています。
多様性推進と企業イメージの向上
「働きがい経営」を重視する企業は、多様な人材が活躍できる場を提供できるため、ダイバーシティ経営の実現にもつながります。特にシニア人材や女性、外国籍人材など、多様な背景を持つ従業員が安心して力を発揮できる環境は、企業の社会的責任(CSR)の観点からも高く評価されます。
さらに、こうした取り組みは採用活動においてもプラスに働きます。求職者は「やりがいを重視している企業かどうか」を重視する傾向が強まっており、結果的に優秀な人材を惹きつけることができます。実際、Great Place to Work Instituteの調査では、「働きがいのある会社」と認定された企業は、そうでない企業と比べて応募者数が平均で2.5倍多いことが明らかになっています【出典:Great Place to Work「働きがいのある会社ランキング」】。
4.シニア人材と「働きがい経営」の相性
シニア人材は、長年の経験や専門知識を持ち、組織にとって貴重なリソースです。しかし、その力を十分に引き出すためには「働きやすさ」だけでなく「働きがい」が重要になります。実は、シニア人材と「働きがい経営」は非常に相性が良いのです。
経験知を活かした指導・教育効果
シニア人材は、若手社員にとって「生きた教科書」となり得ます。現場で培ったノウハウや失敗から得た教訓は、マニュアルでは伝えきれない実践知識です。厚生労働省の「高年齢者雇用実態調査(2022年)」によると、60歳以上を雇用している企業の約7割が「若手社員の教育・指導に役立っている」と回答しています【出典:厚生労働省「令和4年 高年齢者雇用実態調査」】。
こうした役割を担うことは、シニア人材にとって「自分はまだ必要とされている」という実感を生み出し、大きな働きがいにつながります。
モチベーション維持と長期就労への貢献
シニア層が意欲的に働き続けるには、給与や待遇だけでは不十分です。「社会や会社に貢献している」「自分の経験が活かされている」と実感できることが、モチベーションの源泉となります。結果として、長期的な就労や高い定着率にもつながります。
さらに、シニア人材は組織内の多様性を高める存在でもあります。年齢やキャリアの異なる人材が協働することで、多角的な視点からの意見が生まれやすくなり、組織の問題解決力や創造性が向上するのです。
つまり、シニア人材を活用する際には「働きがい経営」の視点を取り入れることで、本人の満足度を高めるだけでなく、企業全体の成長にも直結します。
5.「働きがい経営」を実現するための実践ステップ
「働きがい経営」を実際に導入するためには、単なる理念の提示だけではなく、組織全体に根付かせるための具体的な仕組みづくりが必要です。ここでは、人事部門を中心に企業が取り組むべきステップを整理します。
ビジョンと価値観の共有
まず重要なのは、企業としての「存在意義」や「大切にする価値観」を明確にし、それを従業員に伝えることです。たとえば Google が実施した「プロジェクト・アリストテレス」でも、心理的安全性とともに「仕事に意味を感じること」が高業績チームの共通要素として示されています【出典:Think with Google「Team dynamics: The five keys to building effective teams」】。経営層から現場まで一貫したメッセージを発信することで、従業員は自分の業務が組織の目標とどう結びついているかを理解しやすくなります。
キャリア支援と学び直しの仕組み
従業員が「成長実感」を持つことも、働きがいを感じる大きな要素です。特にシニア人材に対しては、経験を活かしながら新しいスキルを学べる環境を整えることが重要です。リスキリング研修や資格取得支援、社内でのジョブローテーション制度などを導入することで、従業員は「まだ自分は成長できる」と感じられます。これが結果的に長期就労や組織への貢献意欲を高めます。
公的制度や支援策の活用方法
「働きがい経営」を推進するにあたり、公的制度を活用することも有効です。たとえば、厚生労働省が提供する「人材開発支援助成金」は、企業が従業員に職業訓練を行う際に助成を受けられる制度です。また「高年齢者雇用安定法」に基づき、70歳までの就業機会確保が努力義務化されているため、シニア層のキャリア支援に直結する取り組みも後押しされています。こうした制度を上手に組み合わせることで、コストを抑えながら「働きがい経営」を前進させることが可能です。
このように、「働きがい経営」を実現するには、理念・成長・制度の3つを柱として取り組むことが効果的です。
6.まとめ|「働きがい経営」で企業と人材の未来をつくる
「働きがい経営」とは、従業員が仕事を通じて意義や成長を実感できる環境を整え、組織全体の力を引き出す経営手法です。単なる「働きやすさ」の提供にとどまらず、「やりがい」を生み出すことが、企業の持続的成長につながります。
本文で見てきたように、働きがい経営が注目される背景には、人材不足や多様な働き方の広がり、そしてシニア人材の活用という社会的要請があります。実際に取り入れることで、従業員のエンゲージメントや生産性の向上、多様性の推進、企業イメージの改善といった多くのメリットが期待できます。
特にシニア人材にとっては、豊富な経験を活かしながら後進を育成できる環境が「働きがい」そのものであり、長期的な就労や高いモチベーション維持にも直結します。これは企業にとっても、知識や経験を継承しつつ、組織力を高める大きなチャンスです。
企業が「働きがい経営」を実現するためには、ビジョンと価値観の共有、キャリア支援とリスキリング、公的制度の活用といった具体的なステップが不可欠です。これらを一体的に進めることで、従業員と企業がともに成長できる未来を築けるでしょう。
いまこそ、「働きがい経営」を経営戦略の中心に据える時です。それが、人材不足時代を生き抜き、企業価値を高める最大のカギとなります。
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