はじめに
近年、労働人口の高齢化が進む中で、「シニア人材の活用」は多くの企業にとって重要なテーマになっています。政府の調査によれば、65歳以上でも働く人の割合は年々増加しており、2024年時点で高齢者の約4人に1人が何らかの形で就業している状況です(出典:総務省「労働力調査」2024年)。
一方で、企業の採用担当者からはこんな声もよく聞かれます。
「“年齢不問”で募集しているのに、シニア層からの応募がまったく来ない」
「応募はあるが、希望している層とは違う」
実は、“応募が来ない”背景には、求人票や募集設計の中にシニア世代ならではの心理的ハードルが隠れていることが少なくありません。
言い換えれば、それを取り除けば応募は動き出すのです。
本記事では、シニア人材の応募が来ない理由を「求人の伝え方」「採用設計」「応募導線」の3つの視点から分析し、応募を呼び込むための改善策を具体的に紹介します。
1:なぜ「年齢不問」なのに応募が来ないのか?
多くの企業が求人票に「年齢不問」「シニア歓迎」と記載していますが、実際には応募がほとんど来ないケースが多く見られます。原因は単純な「求人の露出不足」だけではなく、“伝え方のズレ”にあることが少なくありません。
求人票の表現がシニアに響いていない
シニア層の応募を引き寄せるには、言葉選びが非常に重要です。
例えば「即戦力歓迎」「スピード感のある職場」などのフレーズは、若年層向けには効果的ですが、60代以降の読者には「自分には合わない」と感じさせてしまう可能性があります。
逆に、「未経験でも始められる」「自分のペースで働ける」「これまでの経験を活かせる」など、安心感や共感を与える言葉に置き換えることで応募率が上がるケースが多く見られます。
実際、Indeed公式ブログや採用支援会社の分析事例でも、求人タイトルの言葉づかいが応募率に大きく影響することが指摘されています。特に「未経験歓迎」「短時間勤務OK」「ブランク可」などのやさしいトーンの表現を取り入れた求人は、そうでない求人に比べてクリック率が約1.5倍前後高い傾向が報告されています。
つまり、シニア層にとって「挑戦」よりも「安心・共感」を感じられる表現が、応募を動かすポイントになるのです。
「求める人物像」が抽象的すぎてイメージできない
求人票の中でよく見られる「明るく元気な方」「チームワークを大切にできる方」といった表現は、一見ポジティブですが、誰にでも当てはまるため印象に残りません。
シニア人材にとって重要なのは、「自分の経験がここでどう活かせるか」が具体的に伝わること。
たとえば、
・「前職での経験を地域貢献に活かしたい方」
・「人と関わる仕事が好きな方」
・「定年後も社会とのつながりを持ち続けたい方」
といった“動機ベース”の表現にすることで、応募者の共感を得やすくなります。
応募動線や手段がシニア世代に不親切
シニア世代は、スマートフォンやオンライン応募に不慣れなケースもあります。
にもかかわらず、「マイページ登録必須」「履歴書PDFアップロード」など、デジタル前提の応募フローを設定してしまうと、せっかく興味を持っても途中で離脱してしまうのです。
総務省の「通信利用動向調査(2024年)」によると、60代後半のスマートフォン利用率は約70%ですが、「オンラインフォーム入力が苦手」と回答した人は約45%にのぼります。
そのため、電話応募・郵送応募・LINE応募など、複数の応募手段を用意することが、シニア層の応募増加につながります。
2:シニア人材の目線で見る「応募をためらう3つの壁」
企業側が「歓迎しているつもり」でも、シニア人材から見ると“自分には合わないかもしれない”と感じて応募をためらうケースは多くあります。その心理的なハードルは、大きく3つの壁に分類できます。
体力・スキル面の不安を感じさせる募集要項
まず最も多いのが、「仕事内容が自分にはハードそうだ」と感じてしまうパターンです。
求人票に「立ち仕事」「力仕事」「スピード重視」などの表現があると、60代以上の求職者は体力面で不安を抱き、応募を避ける傾向があります。
実際、リクルートワークス研究所の「シニア層の就業実態・意識調査(2023年)」によると、シニア層が仕事選びで重視する項目の第1位は「体力的に無理のない仕事内容」でした。
一方で、同調査では「多少の体力仕事でも仲間と働けるならやりたい」という前向きな意見も多く、仕事内容の“重さ”よりも「安心感」が鍵になることが分かります。
たとえば、「重量物の運搬は若手が担当」「作業はチームで行う」など、具体的な補足を加えるだけでも応募率は向上します。
待遇・勤務時間に柔軟性がない
シニア層の多くは、年金や家族の事情から「フルタイムでなくてもいい」と考えています。
しかし求人票に「週5日必須」「残業あり」「フルタイム歓迎」といった条件しか書かれていないと、「自分には無理だ」と感じてしまうのです。
内閣府が実施した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(2022年)」によると、日本の65歳以上の就業希望者のうち約6割が『短時間勤務や週数日の就労を希望』しており、柔軟な働き方を求める傾向が強いことが示されています。つまり、勤務条件の“柔軟さ”をどれだけ打ち出せるかが、シニア人材の応募意欲を左右する決定的なポイントになるのです。
求人票には「週2日からOK」「午前だけ勤務可」「体調に合わせたシフト相談可能」などの表現を盛り込み、“無理せず働ける”ことを明確に打ち出すことが大切です。
「経験を活かせる場がない」と思わせてしまう求人内容
シニア人材の多くは、長年の経験や知識を持っています。
しかし、求人票が「単純作業」「補助業務」としか書かれていないと、「自分の経験は必要ないのか」と感じて応募を控えてしまいます。
ここで大切なのは、「活かせる経験の具体例」を書くことです。
例えば、
・「営業経験を活かしてお客様との信頼関係づくりを担当」
・「管理職経験を活かして若手スタッフの育成をサポート」
・「接客の経験を活かして住民対応を担当」
といった具合に、過去の経験と仕事内容の接点を明示することで、「自分にもできそうだ」という共感が生まれます。
このように、体力・条件・経験という3つの観点から「応募をためらう壁」を取り除くことが、シニア人材の応募増加には欠かせません。
3:採用設計の落とし穴|ターゲットが曖昧なまま募集していないか?
「シニア人材を採用したい」と言いながらも、“どんなシニアに来てほしいか”が明確になっていない企業は少なくありません。
この「ターゲットの曖昧さ」が、結果的に応募の少なさやミスマッチにつながっているケースが非常に多いのです。
実は「シニア層」よりも「再就職希望者」向けになっている
求人票の内容をよく見ると、想定しているのは「60代の再就職者」ではなく、「現役世代の転職者」になっていることがあります。
たとえば、
・「即戦力として活躍できる方」
・「PCスキル必須」
・「フルタイム勤務できる方」
などの条件を並べてしまうと、60〜70代の求職者は「自分には合わない」と判断してしまいます。
一方、シニア層が魅力を感じるのは、「社会とのつながり」「自分のペース」「役割を持てる安心感」です。
この価値観の違いを理解し、求人設計を再構成する必要があります。
たとえば、職務内容を「事務補助」「販売支援」「地域パートナー」などのサポート型ポジションとして明確化したり、週2〜3日勤務のように柔軟な勤務体系を設けることで、応募対象が一気に広がります。
採用担当者自身の“年齢バイアス”が無意識に出ている
もう一つの見落としがちな落とし穴は、採用側の意識です。
「シニア=体力がない」「ITに弱い」といった固定観念が、求人票や面接時のトーンににじみ出ている場合があります。
パーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」などのデータ分析でも、企業側にはシニア活用に対する慎重姿勢や業務設計の課題が指摘されています。例えば、シニア世代に対して「変化適応力」に関する不安を挙げる企業が一定数存在するとの報告があります)。
この“思い込み”が、結果的に求人文や面接設計に影響し、応募前の段階で「年齢による壁」を作ってしまうのです。
まずは採用チーム全体で、「年齢よりも意欲と経験で評価する」という姿勢を共有することが欠かせません。
4:成功企業が実践する「応募を呼び込む」改善策
応募が集まらない原因を突き止めたら、次は「どう改善するか」です。
ここでは、実際にシニア採用に成功している企業の取り組みから、応募を呼び込む3つの実践策を紹介します。
シニア人材に伝わる“仕事の意義”を打ち出す
シニア層の多くは、「収入」だけでなく「社会とのつながり」「誰かの役に立つ実感」を求めています。
内閣府が実施した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(2022年)」によると、日本の60歳以上の就業者の主な働く理由は「健康維持」「生活の張り」「社会とのつながり」であり、「経済的理由(お金のため)」は上位ではないことが示されています。つまり、シニア層は“生きがい重視型”の働き方を求める傾向が強いといえます。
そのため、求人票で仕事内容を説明する際には、単に「業務内容」を羅列するのではなく、「その仕事が誰の役に立つか」を明確に伝えることが重要です。
たとえば、
・「地域の方々の生活を支えるお仕事です」
・「あなたの経験が若手の育成に活かせます」
・「人と接するのが好きな方にぴったり」
といった形で、社会的意義を添えるだけでも応募意欲は高まります。
応募しやすい環境を整える(電話応募・紙応募など)
シニア世代の応募率を上げるうえで、もっとも即効性のある施策のひとつが「応募手段の多様化」です。
多くの企業ではWeb応募のみを採用していますが、電話応募や履歴書郵送の窓口を設けるだけで応募数が2〜3倍に増えたという事例も少なくありません(出典:株式会社リクオプ「高齢者採用支援事例集」2023年)。
とくに70代以上の応募者にとって、「スマホ操作」よりも「電話で問い合わせ」が心理的にハードルが低い傾向があります。
「応募フォームが苦手な方はお電話でもOK」などの一言を加えることで、応募の入り口を広げることができます。
実際に働くシニア社員の声や写真を掲載する
応募を迷う人にとって、何より説得力を持つのは「同世代のリアルな姿」です。
求人票や採用ページに、実際に働いているシニア社員のコメント・写真を掲載するだけで、「自分にもできそうだ」と思える確率が高まります。
特に効果的なのが、以下のような具体的メッセージです。
「定年後も、無理なく週3日働けています」
「若いスタッフと一緒に働くのが楽しみです」
こうした“声”は、広告コピーよりも強力な説得材料になります。
厚生労働省が推進する「生涯現役企業表彰」でも、働くシニアの事例発信を積極的に行う企業ほど採用率・定着率が高い傾向が報告されています。
つまり、求人票は企業の“メッセージ発信ツール”。
「誰が、どんな想いで、どんな環境で働いているか」を見せることが、応募を生む第一歩なのです。
5:データで見る応募数アップのヒント
「応募が来ない」という課題は、感覚ではなくデータ分析で原因を把握することが重要です。
求人サイト運営会社や求人検索エンジンが公開する統計データを活用すれば、「クリックされているのに応募につながらない」など、改善すべきポイントが見えてきます。
クリック率と応募率の関係(Indeed・求人ボックスの公開データから)
求人情報サイト「Indeed」などが提供する応募データ分析ツール(Indeedアナリティクス)では、
求人の閲覧から応募までの流れを数値で確認できるようになっています。
採用支援会社の分析事例によると、求人が閲覧されても応募に至らない主な理由は
「仕事内容や条件が具体的でない」「求職者が自分に合うか判断できない」ことにあるとされています。
また、Indeed公式ブログや求人運用事例では、
タイトルに「短時間」「未経験OK」「ブランク可」などの具体的な条件を明示することで応募率が約1.5〜2倍に上昇したケースも紹介されています。
つまり、「見られているけど応募されない求人」は、仕事内容や条件が応募者のイメージに合っていないケースが多いのです。
同様に、「求人ボックス」のデータ(2024年)でも、タイトルに「60代歓迎」「定年後もOK」といった年齢層に寄り添ったワードを入れると、クリック率が平均1.3倍に上昇する傾向が確認されています。
このように、タイトルと本文の一貫性・具体性を高めることが、応募率を底上げする最も基本的なポイントといえます。
応募を増やす「タイトル」「写真」「条件表現」の最適化事例
多くの企業が見落としがちなのが、ビジュアルと条件表現の影響力です。
求人メディア各社の分析によれば、以下の3要素を改善するだけで応募数が大きく伸びる傾向があります。
改善ポイント | Before(改善前) | After(改善後) | 効果 |
---|---|---|---|
タイトル | 「スタッフ募集」 | 「60代歓迎!未経験から始める施設管理スタッフ」 | 応募率+約1.5倍 |
写真 | 建物の外観のみ | 働くシニア社員の笑顔写真 | 応募率+約2倍 |
条件表現 | 「週5日勤務」 | 「週2日からOK・午前のみ勤務も可」 | 応募率+約2倍 |
このように、数字やデータを根拠に“応募者視点で整える”ことで、応募が来ない状況は確実に改善されます。
重要なのは、感覚ではなくデータドリブンで改善する姿勢。
クリック率・応募率・離脱率の3点を定期的に確認しながら、仮説と検証を繰り返すことが成果につながります。
まとめ|“応募が来ない”は設計を変えれば変わる
「応募が来ない」という問題は、単なる求人の露出不足ではなく、設計・表現・導線のミスマッチによって生じているケースがほとんどです。
求人票の一言、応募のしやすさ、採用担当者の姿勢——。
そのどれかを少し見直すだけでも、応募数は確実に変わります。
本記事で紹介したように、
・求人票では「安心・共感・具体性」を重視すること
・応募導線をシニア世代に合わせて柔軟に設計すること
・仕事の意義や働く人の姿を“見せる”こと
が、応募を生み出す3つのカギです。
特にシニア層は、単に条件で仕事を選ぶのではなく、「この職場で自分が活かせるか」「無理なく働けるか」を重視します。
そのため、企業側がその安心感をどれだけ伝えられるかが、応募数を左右する最重要ポイントになります。
厚生労働省の「高齢者雇用状況報告(2024年)」によれば、65歳以上の雇用者数は過去最多の約970万人に達し、今後も増加が見込まれています。
つまり、シニア人材は“これからの主力労働力”。
彼らの視点を理解し、採用設計をアップデートできる企業こそが、次の時代の採用競争を勝ち抜くことができるでしょう。
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