1.はじめに|「働くと年金が減る?」の誤解を解く
「働くと年金が減る」と聞くと、「せっかく頑張って働いても損をするのでは?」と不安に思う人も多いかもしれません。特に60代後半から70歳前後の方にとって、「年金と仕事の両立」は非常に気になるテーマです。しかし、実際には「働く=損する」というわけではありません。
ここで関係してくるのが「在職老齢年金」という制度です。これは、年金を受け取りながら働く人の収入が一定以上になると、年金の一部が一時的に減額(支給停止)される仕組みを指します。目的は「働いている間は給与もあるため、年金の支給を調整する」というバランスを取るためのものです。
ただし、この制度のポイントは“減額=消える”わけではないという点にあります。支給停止された分は将来的に再計算され、後に年金額が増えることもあります。つまり、働きながら年金を受け取る人にとって、制度を正しく理解し、損をしない働き方を選ぶことが大切なのです。
本記事では、在職老齢年金の仕組みをわかりやすく解説しながら、「どのくらい働くと減額になるのか」「実際に損をしない働き方はどうすればいいのか」を具体例とともに紹介していきます。
2.在職老齢年金の基本|どんな人が対象になる?
「在職老齢年金」とは、年金を受け取りながら働く人に適用される制度で、60歳以降も厚生年金に加入して働く人が対象となります。つまり、「年金をもらう+給与を得る」という“ダブル収入”の人に関係する仕組みです。
まず押さえておきたいのは、在職老齢年金は「60歳〜74歳までの厚生年金加入者」が対象であること。公的年金の受給を開始していても、会社員やパートとして勤務し、厚生年金に加入している場合は、この制度の調整が行われます。
(参考:日本年金機構「在職老齢年金」)
対象者の主な条件
・厚生年金に加入していること(週20時間以上勤務など)
・年金の受給権を持っていること(老齢厚生年金を受け取っている人)
・60歳以上74歳以下であること
たとえば、69歳で週4日勤務のパートさんも、勤務先が厚生年金加入企業であれば、在職老齢年金の対象となります。逆に、自営業者やフリーランスの人は国民年金のみの加入になるため、対象外です。
この制度の目的は「働きながら年金を受け取る人のバランスを取ること」。給与と年金の合計が高くなりすぎる場合、一時的に年金を減らし、働けなくなった後に再び適正な年金額に戻す、という仕組みです。
つまり、“働くことを罰する制度”ではなく、「年金と給与のバランスを調整する制度」なのです。働き方次第では、結果的に将来受け取れる年金が増えるケースもあり、制度を正しく理解することが損をしない第一歩です。
3.減額の仕組みをわかりやすく解説|いくら稼ぐと年金が減るのか
在職老齢年金の一番のポイントは、「いくら働くと、どのくらい年金が減るのか」という“支給停止ライン”です。
まず、この仕組みは 60〜64歳 と 65歳以上 で計算方法が異なります。
■ 60〜64歳のケース
この年代の支給停止ラインは、
「総報酬月額相当額+基本月額(年金)」が28万円を超えると、超えた分の1/2が年金から減額される
というルールです。
(参考:日本年金機構「在職老齢年金の支給停止の仕組み」)
たとえば、
・給与:20万円
・年金:10万円
→ 合計30万円なので、28万円を2万円オーバー。
→ その半分(1万円)が減額となります。
■ 65歳以上のケース
一方、65歳以上の方はより緩やかな条件になります。
「総報酬月額相当額+年金月額」が47万円を超えた場合、超えた分の1/2が支給停止」 です。
つまり、月収と年金の合計が47万円以下であれば、年金は全額支給されます。
たとえば、
・給与:25万円
・年金:20万円
→ 合計45万円 → 減額なし
・給与:30万円
・年金:20万円
→ 合計50万円 → 47万円を3万円オーバー
→ その半分の1.5万円が支給停止される、という計算です。
■ 「総報酬月額」とは?
「総報酬月額」とは、月給+ボーナス(年換算した1/12)を足した金額です。
つまり、賞与が多い人や、月収に変動がある人は注意が必要。ボーナス月に年金が一時的に減るケースもあります。
■ 計算は毎月見直される
支給停止の判断は「毎月の報酬」をもとに行われるため、働き方を変えると結果も変動します。
たとえば、週5勤務を週3に変更した場合、報酬が下がれば翌月以降の年金は減額解除される可能性があります。
このように、「働きすぎると年金が減る」のではなく、“年金と給与の合計が一定額を超えると一時的に調整される” というのが正確な理解です。
つまり、制度を理解して働き方を工夫すれば、必要以上に損をすることはありません。
4.「損をしない働き方」を考える|収入と年金のバランスを取るコツ
在職老齢年金で「年金が減るのは嫌だけど、働くこともやめたくない」という方にとって大切なのは、収入と年金の“ちょうどいいバランス”を見つけることです。
ポイントは、「働きすぎない」ことではなく、「制度に合わせた働き方を選ぶ」ことにあります。
■ 65歳以上は“47万円ライン”を意識
65歳以上の方は、「年金+給与=47万円」を目安に働くと、基本的に減額されません。
たとえば、月に年金20万円を受け取っている場合、給与が27万円以内なら減額なしで全額支給されます。
逆に、給与が30万円を超えると一部が支給停止になりますが、それは「働く意欲をそがない程度の調整」。年金が全額なくなるわけではありません。
つまり、47万円ラインを上手に活用しながら、週3〜4日の働き方を選ぶのが現実的な方法です。
■ 「週3勤務」や「短時間勤務」でちょうどよく働く
シニア層に人気なのが、「週3日勤務」「1日5〜6時間勤務」といった柔軟な働き方。
実際、月給が15〜20万円程度に抑えられるため、年金との合計も47万円を下回るケースが多く、減額の心配がありません。
例)月給18万円+年金20万円=38万円 → 減額なし
健康や生活のリズムを保ちつつ、家計の足しにもなり、社会とのつながりも維持できるという“三拍子そろった”働き方です。
■ ボーナスや一時的な増収にも注意
ボーナスが支給されると、年金が一時的に支給停止されることがあります。
ただし、これは“その月だけ”の調整なので、翌月以降は元に戻るケースがほとんどです。
ボーナスがある職場では、「支給月に注意」しておくと安心です。
■ 「減額を避ける=損をしない」とは限らない
一見、年金が減らないように働く方が得に思えますが、実はそうとは限りません。
次の章で説明するように、「減額された分が将来戻る」ケースや、「働いたことで年金が増える」仕組みもあるため、目先の減額だけで判断しないことが重要です。
5.年金が減額されても実は損じゃない理由
「働きすぎて年金が減った」と聞くと、損をしたように感じるかもしれません。
しかし実際には、在職老齢年金の減額は“将来の年金増額”につながる可能性があります。
つまり、「今少なくなっても、後で取り戻せる仕組み」なのです。
■ 「在職定時改定」で働いた分だけ年金が増える
2022年4月から導入された「在職定時改定」という制度をご存じでしょうか?
これは、65歳以上で厚生年金に加入して働いている人の年金額を、毎年1回、自動的に見直して増やす仕組みです。
(出典:日本年金機構「在職定時改定制度」)
たとえば、年金を受け取りながら働き続けた場合、その分の保険料が反映され、翌年8月には年金額が上がる可能性があります。
つまり、「働きながら保険料を払う=年金が増える」という、前向きなサイクルが生まれるのです。
■ 減額された分が“消える”わけではない
在職老齢年金で一時的に支給停止になった分も、完全に失われるわけではありません。
将来、退職して在職老齢年金の対象外になった時点で、再度年金額が再計算され、本来受け取れる額に戻るケースがほとんどです。
したがって、制度上の「調整」であり、「損失」ではありません。
■ 働くことで得られる健康・社会的メリットも大きい
金銭面だけでなく、働き続けること自体にも大きな価値があります。
厚生労働省の「令和5年版 高齢社会白書」によると、60歳以上で働いている人の多くが「健康維持」や「生きがいのために働いている」と回答しており、仕事が心身の健康に良い影響を与えていることが示されています。
社会とのつながりを保つことが、心身の健康を支える要因になっているのです。
つまり、「減額されても働く意味」は、経済的な面だけではなく、“生きがい”や“健康”の維持にも直結するのです。
■ “損しない人”は制度を理解して動いている
在職老齢年金のポイントは、制度を知っているかどうか。
知識を持っていれば、「あえて年金を少し減らしても、働き続けて年金額を増やす」という選択も可能です。
反対に、知らないまま働き方を決めてしまうと、思わぬ支給停止に戸惑うこともあります。
大切なのは、「短期的な減額」よりも「長期的なトータルの得」を考えることです。
6.知っておきたい手続き・注意点
在職老齢年金の仕組みを理解したら、次に大切なのが正しい手続きと確認です。
「気づかないうちに支給停止になっていた」「変更を届け出ていなかった」などのトラブルを防ぐために、押さえておきたいポイントを整理しておきましょう。
■ 勤務先が年金事務所へ報告する仕組み
在職老齢年金の支給額は、基本的に勤務先から年金事務所へ提出される「報酬月額」のデータをもとに算出されます。
そのため、本人が特別な申請をしなくても、自動的に支給額が調整される仕組みになっています。
ただし、転職・勤務日数の変更・昇給などで給与が変わった場合は、勤務先経由で報告が必要です。
自営業やフリーランスなど、厚生年金に加入していない場合は、報告義務はありません。
■ 「在職定時改定」は自動で行われる
65歳以上の方が厚生年金に加入して働いている場合、毎年1回(原則8月)に「在職定時改定」による年金額の見直しが行われます。
この手続きは自動的に実施されるため、特別な申請は不要です。
ただし、退職した際には「退職届」や「年金受給権者現況届」などの確認が必要な場合もあるため、念のため年金事務所に問い合わせましょう。
(参考:日本年金機構「在職定時改定制度」)
■ 支給停止に気づいたら「ねんきんネット」で確認
「今月の年金が減っている?」と感じたら、まずは「ねんきんネット」(日本年金機構の公式サイト)で支給内容を確認しましょう。
支給停止の理由や期間、再開時期などがオンラインで確認できます。
また、不明点がある場合は、最寄りの年金事務所や「ねんきんダイヤル(0570-05-1165)」への相談も有効です。
■ よくある注意点
・収入の変動(ボーナスや昇給)があったら早めに確認する
・厚生年金加入期間が延びると、将来の年金額も増える
・退職時には再計算され、減額分が調整される
在職老齢年金は複雑に見えても、仕組みを理解し、定期的に確認することで“損をしない働き方”を続けられます。
制度は数年おきに見直されているため、最新情報をチェックしながら柔軟に対応することが大切です。
7.まとめ|年金を味方にして、長く安心して働こう
「働くと年金が減る」という言葉だけが独り歩きしがちですが、実際には制度を理解して働けば、損をすることはありません。
在職老齢年金は「働く人が年金を二重に受け取りすぎないように一時的に調整する仕組み」であり、年金を失うわけではなく、将来的に増額されるチャンスもあります。
また、働き続けることは、収入面の安定だけでなく、健康維持や生きがいの面でも大きなメリットがあります。
「週3勤務」「短時間勤務」など、自分に合ったペースで働きながら年金を上手に活用することで、心にも財布にもゆとりある生活を実現できるでしょう。
大切なのは、制度の最新情報を定期的に確認し、自分の働き方に合わせて最適化すること。
不安があれば「ねんきんネット」での確認や年金事務所への相談を活用しながら、年金を“味方”にして、安心して働き続けられる未来をつくっていきましょう。
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