1. はじめに|なぜ今「孫休暇」が注目されているのか
近年、企業の働き方改革が進むなかで、「孫休暇(まごきゅうか)」という新しい福利厚生制度が注目を集めています。
これはその名のとおり、従業員が孫の誕生や育児をサポートするために取得できる特別休暇制度のこと。家族を大切にする文化を後押ししながら、社員のワーク・ライフ・バランスを実現する取り組みとして、導入企業が少しずつ増えているのです。
背景には、「祖父母世代の働き方の変化」があります。かつては定年後に孫の面倒を見ることが一般的でしたが、今は60代・70代も現役で働く時代。
厚生労働省の調査でも、65歳以上の就業者は約915万人(2024年時点)に達し、過去最多を更新しています。多くのシニア社員が「家族の支援もしたい」「働きながら孫育てにも関わりたい」という思いを持つようになりました。
企業にとっても、この“孫育て支援”を制度として整備することは、単なる福利厚生にとどまりません。
たとえば、
・従業員の家族愛やロイヤリティの向上
・シニア人材の定着促進
・「人を大切にする会社」としてのブランド価値の向上
といった効果が期待できます。
「子育て支援」から一歩進んで、「孫育て支援」を掲げる企業が出てきたことは、人生100年時代における多様な家族支援の象徴とも言えるでしょう。
少子化・人手不足のいま、こうした柔軟な制度設計こそが“選ばれる会社”をつくる重要な要素となりつつあります。
2. 孫休暇とは?制度の概要と導入の背景
「孫休暇」とは、従業員が自分の孫の誕生や育児支援のために取得できる特別休暇制度を指します。名称はまだ統一されていませんが、「祖父母休暇」「孫育て休暇」「ファミリーサポート休暇」など、企業ごとに多様な呼び方で導入が進んでいます。
一般的には、
・孫の誕生時や退院時のサポート
・娘や息子夫婦の育児手伝い・送迎支援
・七五三や入園式/入学式など家族行事への参加
といったシーンで利用できるように設計されています。
日数は企業により異なりますが、年1〜3日程度の有給特別休暇として付与されるケースが多く、取得時期も柔軟に設定できるのが特徴です。
◆ 背景にある社会的変化
孫休暇が生まれた背景には、社会構造と働き方の変化が大きく関係しています。
まず、共働き世帯の増加です。総務省「労働力調査」(2024年)によると、共働き世帯は全体の約7割を占め、子育て世代の多くが祖父母の支援に頼っています。
その一方で、祖父母自身も働いているため、「時間が合わず孫を手伝えない」という声も多くなっています。
また、企業側でも「社員の家庭を支援する=社員の生産性と定着率を上げる」という考えが浸透してきました。
特に、人材確保が難しい介護・保育・小売業などのサービス業界では、家族に優しい制度を打ち出す企業が増加しています。
孫休暇は、そうした“多世代共働き社会”に対応する新しい福利厚生の形として登場したのです。
3. 企業が導入するメリット|シニア採用・定着への効果
孫休暇の導入は、単に「やさしい会社」という印象を与えるだけでなく、シニア採用や人材定着の観点からも極めて効果的な施策です。ここでは、企業が得られる3つの主要なメリットを紹介します。
① シニア人材の採用力アップ
近年、60代・70代の就業意欲は高まっており、内閣府「高齢社会白書(2024年)」でも、60歳以上の約8割が“働けるうちは働きたい”と回答しています。
しかし、実際に働く上では「孫の面倒をみたい」「家庭との両立が難しい」と感じるシニア層も多く、勤務継続の障壁になっています。
孫休暇を制度化することで、こうした不安を和らげ、「家族を大切にしながら働ける会社」という安心感を提供できます。結果として、採用時の応募率や面接通過率が向上しやすくなるのです。
特に、地域密着型の中小企業では「家族思いの企業文化」が地域に伝わり、採用ブランディングの強化にもつながります。
② 定着率・エンゲージメントの向上
「家族に配慮してくれる会社」に対して、従業員はより強いロイヤリティを感じます。
実際、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(2023年)」では、柔軟な働き方を支援する職場ほど、従業員の離職意向が低い傾向が確認されています。
家族行事への参加を後押しする制度も、こうした“働きやすさ”を支える取り組みの一つといえるでしょう。
孫休暇のような制度があることで、従業員は「理解してもらえている」という心理的安全性を感じ、長期的に安心して働けるようになります。これにより、シニア層だけでなく全世代の働きやすさが向上します。
③ 企業ブランド・社会的評価の向上
「家族を大切にする会社」というイメージは、採用だけでなく企業の社会的信頼にも直結します。
とくに近年は、ESG経営やウェルビーイング経営の観点からも「人的資本への投資」が重視されており、孫休暇のような制度は“人を大切にする企業”の象徴的な施策としてメディアや自治体の評価対象になるケースもあります。
福利厚生の中に「孫休暇」を明記することは、採用ページや求人票でも他社との差別化要素となり、結果的に採用コストの削減や定着率改善という経営効果をもたらします。
4. 導入企業の事例|中小企業でも実現できる柔軟な制度設計
孫休暇は大企業だけの特権ではありません。実は、中小企業でも工夫次第で十分に導入できる制度です。ここでは、いくつかの実際の導入例や、運用を成功させるための工夫を紹介します。
◆ 事例①:従業員30名規模の製造業(愛知県)
この企業では、60歳以上の再雇用社員が多く在籍しており、家庭と仕事の両立を支援する目的で2023年に「孫休暇制度」をスタート。
社員アンケートで「孫の誕生や行事に参加したい」という声が多数寄せられたことが導入のきっかけでした。
内容は、孫1人につき年2日までの有給特別休暇。申請は前日までに上司へ伝えるだけのシンプルな運用です。
結果、導入初年度からシニア社員の満足度が大幅に向上し、再雇用継続率が90%→97%へ上昇。
「社員を家族として大切にする会社」として地元紙にも取り上げられ、採用応募も増加しました。
◆ 事例②:福祉・介護事業所(東京都)
介護職員の約半数が50代以上というこの法人では、「孫休暇+シフト調整支援」をセットで導入。
利用目的は「孫の入学式・運動会などへの参加」が中心で、年間3日まで取得可能。
制度を周知する際に「お孫さんの成長を祝う時間を大切に」とメッセージを添えたところ、利用率が想定の2倍になりました。
また、休暇取得をサポートするために「勤務交換アプリ」を活用し、同僚同士でシフトを調整できるようにしたことも効果的でした。
結果として、離職率が前年比で約12%改善し、定着に寄与しています。
◆ 事例③:商社(東京都・従業員120名)
この企業は、育児・介護休暇に加え“家族支援休暇”として孫休暇を明文化。
子どもの出産・孫の誕生・里帰り出産時の支援などに対応し、取得理由を「家族のサポート」と広く定義。
性別を問わず利用できるようにした結果、男性社員の育児参加率が上昇し、社内のジェンダーバランス意識も改善しました。
◆ 中小企業でも導入できる工夫ポイント
1.「1日単位」「時間単位」で柔軟に運用する
→業務への影響を最小化でき、社員も気軽に申請しやすい。
2.「家族行事参加休暇」として包括的に設計する
→「孫」に限定せず、幅広い社員層が利用できる制度に。
3.利用例を社内掲示・社内報で紹介する
→他の社員にも“取得しやすい雰囲気”を醸成できる。
このように、特別な予算や人員がなくても、人事の意識とルール設計次第で実現可能なのが孫休暇の魅力です。
むしろ中小企業こそ、柔軟で温かみのある運用を打ち出すことで、地域で選ばれる職場へと成長することができます。
5. 導入時の注意点|就業規則・法的留意点と運用のコツ
孫休暇は新しい制度であるだけに、導入にあたっては法的整合性や社内ルールの明確化が重要です。
ここでは、就業規則への反映方法や注意点、スムーズな運用のための実務ポイントを整理します。
◆ ① 就業規則・社内規程への明記が必須
孫休暇は法定休暇ではなく、企業が任意で設ける「特別休暇」に分類されます。
そのため、導入時には以下のように就業規則や社内制度集に明記しておくことが求められます。
〈記載例〉
第○条(孫休暇)
1.従業員は、孫の誕生・育児・行事等の支援を目的として、年○日を限度に孫休暇を取得することができる。
2.本休暇は有給とし、取得日数・申請方法は会社が別途定める。
3.休暇取得により不利益な取扱いを受けないものとする。
このように目的・日数・申請方法・不利益取扱いの禁止を明示することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
◆ ② 法的留意点:公平性と個人情報の配慮
特別休暇を付与する際には、「対象者の公平性」が求められます。
たとえば「正社員のみ対象」とする場合、非正規社員から不満が出ることもあるため、雇用形態を問わず利用できる形が望ましいです。
また、孫の誕生や家族構成といった情報はプライバシー性が高いため、申請時には証明書の提出を求めるのではなく、「自己申告制」にして信頼ベースで運用するのが実務的です。
加えて、労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する場合、就業規則の変更には労働基準監督署への届出が必要です。
新制度を設ける際は、忘れずに手続きを行いましょう。
◆ ③ 運用を円滑にするための工夫
・社内説明会や社内報で制度の趣旨を周知
→「制度があるけど誰も使っていない」状態を防ぐため、具体的な利用シーンを伝える。
・上司向けガイドラインの作成
→「どんな時に承認するか」「代替勤務をどう回すか」を明文化。
・取得実績を定期的に可視化
→年に一度、利用者数を集計し、改善点を検討することで制度定着につながる。
◆ ④ 導入コストはほぼゼロ、メリットは大きい
孫休暇は既存の有給とは別に設定するケースが多いものの、年1〜2日程度の付与であればコスト負担は限定的です。
それ以上に、従業員の満足度・ロイヤリティの向上という無形資産が得られるため、「費用対効果の高い福利厚生」として導入価値は十分といえます。
制度設計の目的を「休暇の数」ではなく、「家族を大切にする文化の醸成」に置くこと。
これが、孫休暇を形だけの制度で終わらせないための最大のポイントです。
6. まとめ|“家族を大切にする企業”が選ばれる時代へ
「孫休暇」は、単なる“休みの制度”ではなく、従業員の人生や家族を尊重する企業姿勢の表れです。
少子高齢化が進み、共働き世帯も増える中で、祖父母世代が家庭を支える役割を担う場面はますます増えています。そんな中、孫休暇のような制度を導入することは、社員一人ひとりの「家族時間」を守りながら、仕事への意欲や信頼感を高める有効な手段となるのです。
特に、60代・70代のシニア社員にとっては「家族との時間を犠牲にせずに働ける安心感」が、働き続けるモチベーションにつながります。
企業にとっても、採用力の向上、離職防止、ブランドイメージの向上という明確なリターンが得られるため、“人を大切にする経営”を実践する上で欠かせない仕組みといえます。
もちろん、法定休暇のように厳密な義務があるわけではありません。
しかし、だからこそ企業の個性や理念が最も現れやすいのがこの制度です。
たとえば「家族支援休暇」や「ライフサポート休暇」といった形で、社員のライフステージに合わせた柔軟な制度に発展させる企業も増えています。
人材不足の時代に、採用や定着のカギを握るのは“給料”だけではなく、“働きやすさ”と“共感”です。
社員の家族を大切にできる会社こそが、これからの時代に「選ばれる企業」として生き残っていくのではないでしょうか。
人を大切にする企業こそ選ばれます。
シニア人材の採用や定着に効果的な制度設計を進めたい方は、
👉シニア向け求人サイト【キャリア65】で採用ノウハウと求人掲載方法をチェック!



