「TA(タレントアクイジション)採用」とは?―シニア人材を“戦略資産”に変える実践ガイド

【企業向け】シニア採用

1.TA(タレントアクイジション)採用とは?|従来の採用との違いを解説

TA(タレントアクイジション)とは、直訳すると「才能の獲得」。一言でいえば、“短期的な採用活動ではなく、長期的な人材戦略”としての採用を指します。従来の「リクルーティング(Recruiting)」が「今すぐ必要な人材を採用する」活動であるのに対し、TAは「将来的に必要となる人材を見据えて関係を築く」アプローチです。

この考え方は、グローバル企業を中心に広がり、近年では日本企業でも注目を集めています。特に、少子高齢化による労働人口の減少や採用競争の激化を背景に、「今すぐの採用」だけでは人材確保が難しくなっていることが大きな要因です。

TA採用では、求人を出して応募を待つのではなく、「候補者データベースの構築」「スカウト」「タレントプールの形成」「採用広報(エンプロイヤーブランディング)」といった、戦略的・継続的な取り組みを重視します。
また、採用担当者だけでなく経営層や現場マネージャーも巻き込むのが特徴で、企業全体で“欲しい人材像”を明確化し、採用活動を中長期の経営戦略と結びつけて進める点が重要です。

さらにTAのもう一つの特徴は、「採用」と「育成」「定着」を一体で考えること。採用後の活躍・貢献までを見据え、スキルデータや業務適性を可視化しながら最適なマッチングを図る仕組みが求められます。AIやHRテックの発達により、これまで感覚的に行っていた“人の採用と育成”が、より科学的に行えるようになったこともTA普及の追い風となっています。

つまりTA採用とは、「企業の未来を支える人材を、今から戦略的に育て、惹きつけ、活かす仕組みづくり」なのです。
この発想は、即戦力よりも“持続的な価値を生み出す人材”を求める時代の流れに合致しており、特に経験豊富なシニア人材の活用とも非常に親和性が高いといえます。


2.なぜ今、シニア人材×TA採用なのか|背景にある社会・企業の変化

日本において、TA(タレントアクイジション)採用が注目される背景には、少子高齢化と労働力人口の減少があります。総務省「労働力調査(2024年)」によると、15〜64歳の生産年齢人口は約7,400万人にまで減少しており、一方で65歳以上の就業者数は過去最多の940万人を超えています。
つまり、企業が“戦力となる人材”を確保するには、もはや若年層だけに頼ることはできず、経験豊富なシニア人材を戦略的に取り込むことが不可欠になっているのです。

従来の採用活動では、「シニア=補助的な戦力」として扱われることが少なくありませんでした。しかし、TA採用の考え方では、採用の目的を「人を補充すること」ではなく、「組織を進化させること」と位置づけます。ここに、シニア人材の価値が再評価される大きな理由があります。

たとえば、長年の業務経験を通じて培われた“現場判断力”や“人間関係構築力”は、若手育成やマネジメントの現場で強みを発揮します。また、組織変革や業務改善のプロジェクトにおいても、経験知に基づいた提案や実行力を発揮できる点が、TA採用の文脈に非常に適しています。
実際、多くの企業では、シニア人材の採用を通じて職場の多様性や知識の継承が進み、組織全体の安定感や人材育成力が高まっているといわれています。
年齢や立場を超えて協働できる環境づくりが、今後の企業成長に欠かせないテーマとなっているのです。

さらに、テクノロジーの進化により、オンライン学習やリスキリングが容易になったこともシニア人材の活躍を後押ししています。DX化や業務自動化の進展によって、体力的な負担が少ない職務も増え、「経験×デジタル」の組み合わせが企業競争力を高める時代に移行しているのです。

つまり、“シニア人材×TA採用”は、単なる採用施策ではなく「企業の持続的成長を支える人材戦略」。
人手不足の解決策であると同時に、多様な知と価値観を組織に取り入れる「経営戦略の一部」へと進化しているのです。


3.シニア人材を戦略的に採用するためのTA実践ステップ

シニア人材を単に「経験豊富な労働力」として採用するのではなく、企業の中長期的な成長に資する“戦略的なタレント”として迎えるためには、TA(タレントアクイジション)の考え方に基づいたステップ設計が欠かせません。以下の5ステップで整理すると、実務に落とし込みやすくなります。


STEP1:人材戦略と経営戦略を接続する

まず重要なのは、「なぜシニアを採用するのか」を経営レベルで明確にすることです。
例えば、「現場ノウハウの継承」「若手育成のメンター役」「地域連携事業の推進」といった採用目的を経営課題に紐づけて定義します。
ここで“即戦力”ではなく、“組織の知恵や文化を残す存在”としての位置づけができると、採用後のミスマッチを防ぎやすくなります。


STEP2:ペルソナ設計とタレントプールの構築

次に、どのようなシニア人材を求めるのかを「ペルソナ(人物像)」として具体化します。
たとえば「週3日勤務で若手教育を担う元製造業管理職」「介護業界未経験だが地域活動に積極的な人」など、働き方・価値観・スキルの3軸で整理するのがポイントです。
その上で、ハローワークや民間求人サイトだけでなく、自治体やシルバー人材センター、オンラインコミュニティなどにタレントプールを広げていきます。


STEP3:候補者との関係構築(タレントリレーション)

TA採用では「応募が来てから関係を作る」のではなく、「応募前から関係を育てる」ことが重要です。
そのために、企業理念や働くシニア社員のストーリーを発信する採用広報(エンプロイヤーブランディング)を継続的に行いましょう。
特にシニア層は「共感」と「安心感」で応募を決める傾向が強く、SNSや地域紙などを活用した発信が効果的です。


STEP4:スキル評価とマッチングの精度向上

採用時には、年齢ではなくスキルと経験の可視化を重視します。
過去の職務経歴や得意分野を構造化し、業務単位での“できること”を把握することで、再配置や兼務にも柔軟に対応できます。
近年では、職務適性を測る「スキルマップ」「業務分解シート」を導入する企業も増えています。


STEP5:定着・育成・リスキリングの仕組みづくり

採用後の活躍を支えるためには、継続的な学びと成長機会の提供が不可欠です。
オンライン講座やOJTのほか、シニア社員自身が講師を務める「社内リスキリング講座」など、“教える側”としての役割設計もモチベーション維持につながります。
また、定期的な1on1面談を通じて、キャリアビジョンや健康面をサポートすることもTA採用の一環といえます。


このように、TA採用を軸にしたシニア採用は、「人を採る」から「人と関係を築き、共に成長する」へとシフトします。
採用を単発イベントではなく、継続的な“投資”として捉える姿勢こそが、持続的な人材確保のカギなのです。


4.成果を上げるTA採用のポイント|業務分解・リスキリング・データ活用

TA(タレントアクイジション)を単なる“戦略用語”で終わらせず、実際に成果を出すには、採用後の配置・育成・評価を科学的に行う仕組みづくりが欠かせません。特にシニア人材の場合、「経験は豊富だが、業務が属人的になりやすい」「スキルの見える化が難しい」といった課題が起こりやすいため、以下の3つのポイントが実務上の成功のカギとなります。


① 業務分解で“必要な力”を明確化する

まずは、現場業務を細分化し、「どの仕事に、どんなスキルが必要か」を洗い出すことが重要です。
この業務分解(ジョブブレイクダウン)により、シニア人材にどの部分を任せるのが最も効果的かが見えてきます。
たとえば、製造業であれば「検品」「工程指導」「安全管理」などを区分し、体力を要しない指導・教育分野を中心に配置するなど、役割最適化が可能になります。

また、このプロセスは若手育成にも直結します。シニア社員がマニュアル化や教育設計に関わることで、業務の属人化を防ぎ、“知識の資産化”を進めることができます。


② リスキリングで“変化対応力”を育てる

TA採用では、採用後の育成も戦略の一部です。特にシニア人材にとって、デジタルリスキリング(再教育)の有無が活躍期間を左右します。
シニア世代は“学ばない世代”ではありません。新しい環境や技術への適応力を磨きたいと考える人も多く、企業がリスキリング(学び直し)の機会を提供すれば、意欲的に取り組むケースが増えています。
大切なのは、年齢ではなく「学ぶ姿勢」を評価する仕組みをつくることです。

企業としては、eラーニングや社内DX研修を柔軟に活用し、「デジタル×経験」という新たな付加価値を育成する仕組みを整えることが求められます。
また、リスキリングを通じて本人の自信を引き出すことが、結果的に離職防止にもつながります。


③ データ活用で採用効果を“見える化”する

TA採用の最大の特徴は、データに基づく意思決定です。
採用前後のパフォーマンスデータ、エンゲージメント調査、定着率、教育効果などを追跡することで、どの採用チャネルや育成施策が成果を生みやすいかを検証できます。
人事KPIとして、「採用から定着までの期間」「研修参加率」「パフォーマンス貢献度」などを定量的に管理する企業も増えています。

たとえば介護・福祉分野では、業務を細分化して役割を明確にする取り組みや、定着データを活用した人員配置の見直しが進んでいます。
こうした工夫により、シニア人材が無理なく働き続けられる環境づくりが広がりつつあります。


このように、TA採用の成果を最大化するためには、「感覚的なマッチング」から「データドリブンな人材戦略」への転換が不可欠です。
業務を可視化し、学びを支援し、データで成果を追う――その一つひとつの積み重ねが、シニア人材の活躍を“再現性ある成功モデル”へと変えていくのです。


5.TA採用を成功させる組織体制とツール活用法

TA(タレントアクイジション)採用を単発の施策で終わらせず、継続的に機能させるためには、“採用チームのあり方”と“テクノロジーの活用”をセットで設計することが重要です。特にシニア人材のように多様な経歴・働き方・価値観を持つ層を採用する場合、社内連携の仕組みが成功の分かれ目になります。


① 経営・人事・現場が連携する「三位一体」体制

TA採用は、人事部だけの活動では成立しません。経営層・人事部・現場マネージャーが一体となり、共通のゴールを共有する必要があります。
経営層は「採用を投資」と位置づけ、組織ビジョンに基づく採用方針を明確に打ち出します。
人事部はその方針をもとに採用戦略を設計し、現場の実情を理解した上で柔軟にオペレーションを実行します。
現場マネージャーは「採用の最前線」として、候補者の適性や職場との相性を判断する立場です。

この3者が定期的にデータと成果を共有することで、「採用・配置・定着」を一貫してマネジメントできる体制が整います。
特にシニア人材の場合、勤務日数や健康面の配慮など個別対応が必要になるため、現場との密な連携が欠かせません。


② HRテックを活用して“人材の見える化”を推進

TA採用を支える実務的な基盤として、人材データ管理ツール(HRテック)の導入は不可欠です。
採用候補者のスキル・経験・希望条件を可視化できるATS(採用管理システム)や、社内人材のスキルマップを共有するタレントマネジメントシステムを活用することで、「最適配置」「キャリアマッチング」が容易になります。
これにより、シニア社員の再配置や短時間勤務など柔軟な働き方の設計も可能になります。

また、AIによるレジュメ解析や適性診断ツールを導入すれば、“年齢に左右されない評価”が可能になり、客観的かつ公平な採用判断を下すことができます。
最近では、採用からリスキリング・評価までを一元化できる統合型プラットフォームを導入する企業も増加しています。


③ 採用広報・リレーション活動を継続的に行う

TA採用においては、求人掲載や選考よりも前に「候補者との関係づくり」が重視されます。
そのために、企業の理念や“働く人のリアル”を伝える採用広報を継続的に発信しましょう。
具体的には、企業サイトやSNS、地域メディアでの「シニア社員の働き方紹介」「社内インタビュー記事」などが効果的です。
このようなストーリーテリングは、“共感による応募”を促すと同時に、採用後のエンゲージメント向上にもつながります。


④ 定量データと定性データを融合して改善する

TA採用を成熟させるには、数値データだけでなく、現場や候補者の“声”も反映する仕組みが重要です。
定着率や採用コストなどの定量データに加え、入社後アンケートや上司面談などから得られる定性情報を分析することで、より実践的な改善策を導けます。
これにより、「なぜうまくいったのか/なぜ離職したのか」を再現・防止できるようになります。


TA採用を成功させる鍵は、「人に頼る採用」から「仕組みで回る採用」への転換です。
経営戦略に連動した組織体制と、テクノロジーを活用した見える化によって、シニア人材をはじめとする多様な人材が“持続的に活躍する仕組み”を整えることが、未来の競争優位を生むのです。


6.まとめ|TA採用が切り拓く“多様な働き方”の未来

TA(タレントアクイジション)採用は、単なる“採用の新しい呼び方”ではありません。
それは、「人を採る」から「人と関係を築く」へという、人事のあり方そのものを変えるアプローチです。特に少子高齢化が進む今の日本において、TA採用は「持続可能な人材戦略」としての価値を増しています。

シニア人材を中心とした多様な働き方を推進することで、企業には次のような3つのメリットが生まれます。


1.組織の知識資産が継承される

シニア社員が持つ現場経験や人間関係のノウハウは、若手が短期間で得ることのできない貴重な知的資源です。TA採用を通じて、経験知を体系的に引き継ぐ仕組みを整えることで、企業の“知の継続性”が確保されます。


2.多様な価値観が組織に活力を生む

TA採用は、「年齢」「経歴」「働き方」にとらわれず、企業が幅広い層と関係を築くことを目的としています。
シニア層がもつ社会性・安定感・共感力が職場の人間関係を潤滑にし、心理的安全性の高いチームを形成します。これは、若手の定着やチームのパフォーマンス向上にも直結します。


3.企業の採用活動が“持続的な投資”に変わる

従来の採用活動は、求人を出す→採る→終わり、という“点の活動”でした。
一方、TA採用は、候補者との関係構築から育成・定着までを一貫して捉える“線の戦略”。
採用を「コスト」ではなく「投資」として位置づけることで、企業の中長期的な成長に寄与します。


今後、企業が競争力を維持するためには、「スキルがある人を採る」だけでなく、「共に成長できる人とつながる」姿勢が求められます。
TA採用はそのための最適なフレームワークであり、特にシニア人材の活躍促進という社会的課題を解決する強力な武器にもなり得ます。

人手不足の時代だからこそ、“人を大切にする採用”が企業価値を高める。
TA採用を通じて、多様な世代が安心して活躍できる未来型の組織を、今こそ築く時なのです。

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