1.シニア人材における従業員エンゲージメントとは?まず押さえたい基本と重要性
従業員エンゲージメントとは「組織に対する愛着」や「仕事への主体的な関わり」を示す概念で、単なる“満足度”ではなく、“貢献したい”という能動的な意欲を含む点が特徴です。従来は若手・ミドル層を中心に語られることが多かったものの、近年は シニア人材におけるエンゲージメント向上 が重要な経営課題として注目されています。
その背景には、労働力人口の減少と雇用環境の変化があります。総務省「労働力調査」(2024年版)でも、65歳以上の就業者数は過去最多となっており、企業にとってシニアの活躍はもはや“補助的戦力”ではなく“戦略的戦力”へと変わりつつあります。この状況下で、シニアの働きがいをどう高めるかは、生産性・定着率・職場の安定性に直結します。
さらに、シニア人材はキャリアの集大成として「誰かの役に立ちたい」「最後まで責任を持って働きたい」という価値観を持つ傾向があります。若手のように短期的な昇進を目指すのではなく、“社会に貢献する”“培ってきた知識を活かしたい”という動機が強いため、エンゲージメント向上のアプローチも異なる視点が必要です。
また、多くの職場ではシニア人材が「業務の要」として機能し、若手の育成や状況判断のサポートなど“現場の安定装置”として活躍しています。にもかかわらず、本人が適切な評価を受けず、また体力や健康などに不安を抱えた状態では、意欲低下や離職につながるリスクがあります。
企業がシニアのエンゲージメント向上に取り組む意義は大きく分けて3つあります。
<シニアのエンゲージメントが企業にもたらす3つの効果>
1.現場の安定性が向上する
経験豊富なシニアが主体的に動くことで、判断の正確性やトラブル対応力が高まり、安心して業務を任せられます。
2.若手育成が進む
長年培った暗黙知を伝えることで、OJTの質が上がり、若手社員の成長スピードが加速します。
3.組織文化の成熟につながる
世代間の相互理解が進み、心理的安全性の高い職場になることで、全社員のエンゲージメント向上にも波及します。
つまり、シニア人材のエンゲージメント向上は「個々の満足度を高める施策」ではなく、組織全体のパフォーマンス向上と安定運営のための経営戦略でもあるのです。
2.シニアが活躍し続ける組織の共通点|働きがいを高める3つの視点
シニア人材が長く活躍している企業には、いくつかの共通した特徴があります。これらは単なる「シニアに優しい職場」というレベルではなく、本人の強みが最大限発揮され、主体的に働ける組織構造が整っているという点にあります。ここでは、特に重要な3つの視点にまとめて解説します。
① 役割が“曖昧にされていない”|経験を活かす明確なポジション設計
シニア人材が最も力を発揮できるのは、自身の経験・スキルが価値として正しく扱われていると感じられるときです。
たとえば、
・若手に教える役割
・現場の判断を安定させる役割
・業務改善の提案役
・特定業務の専門担当
といった “強みを活かす役割の明確化” は、エンゲージメント向上に直結します。
逆に、役割が曖昧だったり「なんでも屋」のような扱いになってしまうと、経験があるからこそ不満が溜まり、やりがいを失ってしまうリスクがあります。
② コミュニケーションが“上下”ではなく“対話”になっている
シニア人材は人生経験も仕事経験も豊富です。そのため、若手やミドル層と同じ「指示命令型」のコミュニケーションではエンゲージメントが下がってしまうことがあります。
活躍している組織の共通点は、
・一方的な指示ではなく相談ベース
・経験を尊重し意見を聞く姿勢
・世代間の価値観の違いを理解したコミュニケーション
これらが当たり前に行われている点です。
特に 心理的安全性(Amy Edmondson教授の提唱) は非常に重要で、「自分の経験を活かせている」「遠慮なく相談できる」という状態は、シニア人材の意欲を高めます。
③ “健康・体力の変化”を前提にした働き方の柔軟性
シニアの働きがいを左右するのは、仕事内容だけではありません。
体力の変化に合わせたシフトや業務量の調整など、働き方の柔軟性が確保されているかも非常に重要です。
具体的には、
・週2〜3日勤務
・時短シフト
・体力を消耗しにくい業務の配置
・無理のない役割分担
・健康状態に合わせた業務変更
などがあります。
厚生労働省「高年齢者の雇用状況」(2023年)でも、“働けるなら働きたい”と考えるシニアは70%を超えるという結果が示されており、適切な環境さえ整えば、シニア人材は安定的に働き続けやすいことが数字からもわかります。
●3つの視点がそろうと、エンゲージメントは確実に高まる
・役割が明確
・コミュニケーションが対話型
・柔軟な働き方がある
これら3つが揃った環境では、シニア人材が持つ
“経験・判断力・人間力” が最大限引き出され、組織の安定性が大きく高まります。
シニア人材は若手のように離職率が高くないため、一度エンゲージメントが高まれば 長期的に組織を支える存在になります。
3.施策① 経験を価値として扱う|役割設計・業務分解で力を引き出す
シニア人材の最大の強みは「経験の蓄積」です。長年の現場経験や判断力、業務改善の視点、トラブル対応力などは、若手では代替しにくい貴重な知見です。しかし多くの職場では、この経験が“形式知化”されずに個人に閉じてしまい、十分に活かされていないケースが少なくありません。
企業がまず取り組むべき施策は、 「経験を価値として扱う仕組みをつくること」 です。その核になるのが 役割設計 と 業務分解(仕事の棚卸し) です。
●1.役割設計|“得意を任せる”ことでエンゲージメントが上がる
シニア人材は、一般的な昇進欲求よりも「自分の経験が役に立っている」「任されている実感」が意欲の源になります。
そのため、有効な役割設計の例としては以下のようなものがあります。
✔ 若手の育成・教育担当
新人・若手への指導はシニアの得意分野です。現場のコツや“暗黙知”を教えられる存在は職場の安定に大きく貢献します。
✔ 専門タスクの専任担当
設備管理、品質チェック、顧客対応など、これまでのキャリアで培った専門スキルをそのまま活かす配置は、本人の満足度も高くなります。
✔ 業務改善のアドバイザー
「こうすればもっと効率的」という改善視点を持つシニアは多く、業務プロセス改善の提案役として配置する企業も増えています。
●2.業務分解(仕事の棚卸し)|経験の“見える化”で再配置がしやすくなる
多くの企業で実施され始めているのが 業務分解(業務の棚卸し) です。
これは、業務を細かくパーツに分け、どの仕事を誰がやるべきかを再定義するプロセスです。
業務分解がシニアのエンゲージメント向上に効く理由
・経験が必要な業務と、若手でもできる業務を切り分けられる
・シニアが“本当に価値を発揮できる業務”に集中できる
・無理な肉体労働が減り、健康面の不安が低下
・経験を活かした役割にアサインされることで働きがいが高まる
たとえば介護業界では、厚生労働省が推進する 「介護補助」制度により、
シニアが現場の補助として入り、専門業務は若手・中堅が担当するという分業体制が広がっています。
これは介護に限らず、清掃・店舗運営・事務職など幅広い業界で応用でき、シニアの能力を最大化する働き方として注目されています。
●3.“任せるべき仕事”が明確になると、シニアの意欲が一気に高まる
役割が曖昧なままだと、
・何を期待されているか分からない
・肉体的にきつい業務ばかりが回ってくる
・「自分がいなくてもいいのでは?」と感じる
こうした理由からエンゲージメントが低下しがちです。
逆に「あなたの経験が必要」「この役割はあなたに任せたい」と明確に示されるだけで、シニアは驚くほど意欲を持って働きます。これは心理学的にも「自己効力感(Albert Bandura)」を高める行動として効果が実証されています。
●企業が最初に取り組むべきは“役割の再設計”
シニア人材のエンゲージメントを高めたいのであれば、まず取り組むべきは以下の3つです。
・シニアの強みを棚卸しする
・経験を活かす役割を再定義する
・若手/中堅と分担する業務を明確にする
こシ「仕事と役割の見える化」ができた瞬間、シニアは“頼られている実感”を取り戻し、組織への貢献意欲が大きく向上します。
4.施策② コミュニケーション設計|心理的安全性と世代間ギャップの橋渡し
シニア従業員のエンゲージメントを高めるうえで、「コミュニケーションの質」は欠かせない要素です。特にシニア世代は豊富な経験と価値観を持っているため、上司や若手社員の接し方次第で働きがいが大きく変わります。実際、多くの離職理由は“仕事内容”よりも“職場コミュニケーション”に起因することが多いとも言われています。
この章では、シニア人材が安心して意見を出し、主体的に動けるコミュニケーション設計について整理します。
●1.「指示命令型」から「対話型」へ|経験を尊重する関わり方へ
シニア人材に対して、若手やミドル層と同じ「一方的な指示命令」スタイルで接すると、エンゲージメントが低下しがちです。
理由はシンプルで、長年の実績や経験を踏まえた“意見や判断”を大切にしたいと考える傾向が強いためです。
活躍している企業の共通点は「対話型」のコミュニケーションです。
✔ 正解を押し付けず、まず意見を聞く
「A案とB案、あなたならどう判断しますか?」という相談型アプローチが有効です。
✔ 経験に基づく指摘を歓迎する姿勢を見せる
「その視点は助かります!」と感謝を伝えるだけで、シニアの意欲が大きく高まります。
✔ 世代間の価値観の違いを前提に話す
たとえば、報告頻度・メモの取り方・作業の優先順位など世代差が出やすいポイントは、違いを尊重したコミュニケーションが必要です。
●2.心理的安全性がエンゲージメントの「土台」になる
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した「心理的安全性(Psychological Safety)」は、全世代に共通して重要な要素ですが、特にシニア従業員には大きく影響します。
心理的安全性が低いと…
・指摘をためらう
・疑問があっても言えない
・本音を隠してしまう
・若手との距離が生まれる
心理的安全性が高いと…
・豊富な経験を積極的に共有する
・若手育成にも積極的
・改善提案が増える
・“必要とされている実感”が高まる
心理的安全性は「優しくすること」ではなく、
“安心して意見を出せる環境”をつくることです。
そのためには、日常的に感謝を伝える、否定から入らない、丁寧なフィードバックを与えるなど、組織側の設計が不可欠です。
●3.世代間ギャップを“障害”ではなく“資産”として扱う
世代が違えば価値観や働き方が異なるのは当然です。しかし、この違いを「やりにくさ」として捉えるのか、「多様性による価値」と見るのかで、コミュニケーションの質が大きく変わります。
たとえば、
・シニアは長期的視点や現場感覚が鋭い
・若手は新しい技術に明るく、スピード感がある
この違いを理解して役割分担や会議の進め方を設計するだけで衝突は減ります。
●世代間の橋渡しのために有効な取り組み
・ミーティングの目的を明確化し、話が長くなりがちな問題を回避
・メモ/チャットツールの使い方を統一し、情報伝達をスムーズに
・ペア作業やOJTのペアリングで相互理解を深める
・振り返り面談の実施でミスマッチを防ぐ
これらはすべてシニアのエンゲージメント向上に直結します。
●4.コミュニケーション改善で定着率が上がる理由
厚生労働省「令和5年版 高年齢者雇用状況」でも、
離職理由の“人間関係”が上位を占めるというデータがあります。
つまり、コミュニケーション改善は“心理的な働きやすさ”を作るだけでなく、
離職防止=エンゲージメント向上に直結する施策なのです。
●結論|対話・尊重・心理的安全性がシニアの意欲を最大化する
・経験を尊重する対話
・意見を歓迎する空気
・世代間の違いを資産とする文化
・心理的安全性の確保
これらが揃った組織は、シニアが自然と自律的に動き出し、結果として職場の安定や品質向上につながります。
5.施策③ 評価制度の見直し|年齢ではなく“貢献”が正しく伝わる仕組みへ
シニア従業員のエンゲージメントを高めるうえで、評価制度は非常に重要な要素です。しかし多くの企業では、評価の基準が若手・ミドル層を前提として設計されており、シニア人材の貢献が正しく反映されない仕組みになっています。
たとえば、
・「スピード」「成果の数」など体力依存の指標が重視される
・年齢を理由に評価の上限が暗黙的に決まっている
・指導やサポートなどの“見えにくい貢献”が評価されにくい
これらはすべて、シニア従業員のエンゲージメント低下につながります。
一方で、貢献度に合った評価が得られるとシニアは強い働きがいを感じ、定着率・意欲・若手育成など組織全体に好循環が生まれます。
●1.“年齢ベース”から“役割・貢献ベース”への転換がカギ
評価制度を見直す際に最も重要なのは、
「年齢」ではなく「役割と貢献」に基づく仕組みに変えることです。
たとえば、以下のような項目を評価基準として組み込むことで、シニアの価値が見える化されます。
✔ 若手育成・OJTの貢献度
指導の質・新人の成長・離職率の改善など、“影響力”を評価する。
✔ 安定運用への寄与
トラブルの未然防止、慎重な判断、品質安定など、経験が生きるポイント。
✔ 業務改善・提案力
効率化のアイデアや改善活動など、現場を良くする行動を評価。
✔ 組織文化への貢献
周囲との信頼関係づくり、メンタルサポートなど、職場の雰囲気づくりへの影響。
このように、シニア特有の“質的な貢献”を評価項目に含めることで、本人のモチベーションが大きく向上します。
●2.“定期的な対話”が評価制度の品質を決める
評価制度が機能するかどうかは、運用の仕方に左右されます。
特にシニア従業員に対しては、評価結果を伝える面談の質が非常に重要です。
面談で効果的なアプローチ
・「これまでの経験がどう価値になっているか」を具体的に伝える
・良い点だけでなく、期待している役割も明確に示す
・長期的なキャリア目線よりも「半年〜1年単位」の目標を共有する
・健康状態や希望する働き方についても丁寧に確認する
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査でも、
“評価面談の質が従業員エンゲージメントに強い影響を与える” という結果が示されており、
対話そのものがモチベーション向上につながることが裏付けられています。
●3.シニアの強みを活かすための“キャリアの複線化”
50代後半〜60代以降は、若手のように昇進・昇格を目指すケースは少なくなります。
そのため、シニアにとっての評価制度は 「肩書よりも役割の納得感」 が重視されます。
近年、企業が取り入れ始めているのが キャリアの複線化 です。
●キャリア複線化の例
・専門職コース:知識や技術を深めて貢献する
・指導/育成コース:若手教育や組織文化づくりを担う
・支援コース:業務負荷の調整・補助業務など体力に配慮した選択肢
このように“選べるキャリア”を提示することで、
シニア従業員の意欲の源泉である 「役に立ちたい」 が強化されます。
●4.評価制度の見直しがもたらす3つの効果
評価制度の改革は、シニアのエンゲージメントだけでなく組織全体に良い影響をもたらします。
1.若手の離職防止
経験豊富なシニアの存在がOJTの質を高め、職場の安定感が生まれる。
2.生産性の向上
経験に基づく判断・ミスの少なさ・改善提案などが業務効率を上げる。
3.組織文化が成熟する
多様な働き方や役割が認められることで、年齢に関係なく“貢献”が評価される風土が形成される。
評価制度の見直しは“エンゲージメントの根本改革”になる
・年齢に縛られない評価
・質的な貢献の可視化
・対話を重視した面談
・キャリアの複線化
これらを整えることで、
シニアの働きがいが大きく向上し、組織全体のパフォーマンスも向上します。
評価制度の改革は、エンゲージメント向上策の中でも最も効果が高い施策の一つと言えるでしょう。
6.施策④ 柔軟な働き方の導入|健康・体力に合わせたシフト設計がエンゲージメントを高める
シニア従業員のエンゲージメント向上において、「働き方の柔軟性」は欠かせません。
特に50代後半〜60代以降になると、
・体力の変化
・家庭や介護との両立
・健康上の不安
といった課題が増え、従来のフルタイム・固定シフトでは働き続けることが難しくなります。
しかし、柔軟な働き方を導入することで、シニア従業員は自分のペースで力を発揮しやすくなり、結果として エンゲージメント(働きがい)・定着率・生産性 のすべてが向上します。
●1.シニアにとっての「柔軟な働き方」とは?
柔軟な働き方は単なる“時短勤務”だけを指すものではありません。
実際には以下のように幅広い選択肢があります。
✔ 勤務日数の柔軟化
・週1〜3日勤務
・隔日勤務
・月数回のスポット勤務
総務省「労働力調査」でも、
65歳以上の就業者の多くが“週3日以内”の勤務を選択しているというデータがあり、
無理なく働き続けるには勤務日数の調整が重要であることがわかります。
✔ 勤務時間帯の柔軟化
・早朝のみ
・午前中心
・夕方メイン
・1日2〜4時間の短時間勤務
こうした短時間・時間帯特化の働き方は、清掃・介護・施設管理・店舗業務など多くの業種で導入されています。
✔ 業務負荷の調整
・肉体労働から事務/チェック業務中心へ
・若手とのペア作業
・負担の軽い工程への配置転換
体力に配慮することで、長期的な戦力として活躍できます。
●2.柔軟な働き方がエンゲージメント向上につながる理由
① 「無理なく働ける安心感」が意欲につながる
働き方を調整することで体力面の不安が軽減され、
「自分でもまだ貢献できる」という感覚が高まります。
② 健康維持と仕事の両立がしやすい
医療機関の通院、リハビリ、家庭の事情など、
シニアが抱えやすい生活課題と両立しやすくなります。
③ 生産性が向上する
負担の少ない時間帯・業務に集中できるため、
短時間でも安定した成果が出やすくなります。
④ 定着率が上がる
働きやすい環境は「ここで働き続けたい」という気持ちを強めます。
実際、厚生労働省の「高齢者雇用状況等報告」(2023年)でも、
柔軟な働き方が整っている企業はシニアの定着率が高いという傾向が示されています。
●3.企業側ができる柔軟な働き方の設計方法
以下の3ステップで導入するとスムーズです。
STEP① シニア従業員の働き方ニーズを把握する
・面談で “負担になっている時間帯・業務” を確認
・今後の健康状態や家庭事情を把握
・どの働き方なら貢献しやすいかを対話する
STEP② 業務分解を行い、負荷と役割を整理する
業務を細分化して、
・シニア向けの業務
・若手向けの業務
・誰でもできる汎用業務
に分け、適切に配置する。
STEP③ シフト・役割を調整し、運用ルールを整備する
・短時間勤務の導入
・曜日別の担当変更
・負担の重い業務の入れ替え
・“相談すれば変更できる”仕組みの明文化
柔軟性のある運用は、シニアだけでなく全世代にとって働きやすさ向上につながります。
●4.柔軟な働き方は“特別扱い”ではない|全世代に効く制度へ
柔軟な働き方は、
・育児世代
・介護世代
・ダブルワーク世代
・病気治療と両立する社員
など、多様な働き方を支える基盤にもなります。
つまり、シニアのための制度ではなく、
“全社員のエンゲージメントを高める制度”として機能する のです。
柔軟な働き方はシニアの戦力化の最重要ポイント
・無理なく働ける安心感
・健康との両立
・生産性の向上
・定着率の改善
これらすべてを実現する柔軟な働き方は、
シニア人材のエンゲージメントを高めるうえで最も重要な施策のひとつです。
7.施策⑤ 学び直し・スキルアップ支援|自律的に働ける環境が“働きがい”につながる
シニア従業員のエンゲージメントを高める上で、近年重要性が急速に高まっているのが 「学び直し(リスキリング)・スキルアップ支援」 です。
これは若手やミドル層だけの取り組みと思われがちですが、実は シニア世代こそ“学ぶ環境”が働きがいを大きく左右する ことが、多くの調査から示されています。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査の一部では、
「学習機会を提供されているシニアは、エンゲージメントが高い」 という傾向が確認されており、
学び直しが“自分はまだ成長できる”という実感につながることが分かっています。
では、企業はどのように“シニア向けの学び直し”を設計すればよいのでしょうか?
ここでは、エンゲージメント向上に特に効果がある3つのアプローチを解説します。
●1.デジタルスキルの習得支援|ITが苦手でも「できた」が自信を生む
DXが加速する中、多くの企業が日常業務のデジタル化を進めています。
シニア従業員にとって、この変化は負担に感じることもありますが、逆に “デジタルの壁を乗り越えること”がエンゲージメントを高める大きな要因になります。
シニアが学ぶと効果が大きいデジタル領域
・タブレット/スマホ操作
・チャットツール(LINE WORKS、Slackなど)
・業務システムの基本操作
・オンライン研修の受講方法
「自分でもできる」という感覚は、心理的安全性と自己効力感を高め、働きがい向上につながります。
●2.役割に応じたスキル研修|“求められている役割”を明確化する効果も
H2-3でも触れたとおり、シニアは「役に立ちたい」という動機が強い層です。
そのため 役割に直結するスキル研修 は、強力なエンゲージメント向上策となります。
例:役割別スキル研修
若手教育担当
・コーチング基礎
・OJT設計
・傾聴トレーニング
現場の知恵/安定担当
・リスク予知(KYT)
・品質管理
・トラブル対応の共有研修
事務/管理補助へ移行する場合
・PCスキル
・書類作成
・情報整理/記録の体系化
「この研修を受けたら、私は組織にもっと貢献できる」
この感覚はシニアの行動意欲を爆発的に高めます。
●3.“自律的な学び”を支援する仕組みづくり
企業がすべての研修を提供し続けるのは現実的ではありません。
そのため、シニアが自分から学べる仕組みを整えることも効果的です。
具体策
・オンライン研修動画を自由に見られる環境を整える
・書籍購入補助をつける
・シニアが講師となるナレッジ共有会を開催する
・“学びの成果”を評価制度に反映する
特に「シニア自身が講師になる」取り組みは、
経験を体系化し、自己価値を再認識する効果が高い施策です。
●4.学び直し支援がシニアのエンゲージメントに効く4つの理由
1.自分が成長している実感が湧く
→ 働きがいの源泉になる。
2.“必要とされている”ことを実感できる
→ 経験とスキルの両面で活躍の幅が広がる。
3.役割が明確になり、期待が理解しやすい
→ 不安が減り、主体的に行動できる。
4.世代間コミュニケーションがスムーズになる
→ デジタルツールなど共通言語が増え、職場が安定。
シニアが“学び続けられる”環境はエンゲージメントの源泉になる
・デジタルスキルの習得
・役割に応じた研修
・自律的な学びを支援する仕組み
これらは単なるスキルアップではなく、
「シニアが組織の中で自信と誇りを持って働き続けるための条件」 です。
学び直しは、シニアを“活躍し続ける戦力”へと変える最も効果的な施策のひとつと言えるでしょう。
8.まとめ|シニアの力を最大化するには、役割・関係性・制度の三位一体改革が鍵
シニア従業員の従業員エンゲージメントを高めることは、単に「働きやすさを整える」だけの話ではありません。
組織の生産性・安定性・人材育成力を底上げする“経営戦略そのもの”です。
本記事で紹介した施策を振り返ると、すべてに共通するキーワードがあります。
それは 「役割」「関係性」「制度」の三位一体改革 です。
●1.役割の明確化(役割)
シニアの強みである経験・判断力・改善視点を活かすためには、
・何を期待するのか
・どの業務を任せるのか
・どのように若手と分担するのか
を明確にする必要があります。
役割設計や業務分解によって、「自分の仕事が組織に貢献している」という実感が高まり、エンゲージメントは確実に向上します。
●2.対話と心理的安全性の確保(関係性)
シニアの離職理由の多くは、仕事内容ではなく “人間関係” にあります。
だからこそ
・経験を尊重するコミュニケーション
・世代間ギャップの橋渡し
・安心して意見を出せる文化づくり
が重要になります。
「相談できる」「意見が歓迎される」という環境は、シニアの働きがいを大きく引き上げる基盤です。
●3.柔軟な働き方と評価制度の整備(制度)
健康状態や家庭事情が変化しやすいシニア世代にとって、
無理のない働き方の選択肢は“働き続ける理由”になります。
また、年齢ではなく 貢献ベースで評価される仕組み が整うことで、
「必要とされている」「認められている」という実感が高まり、強いエンゲージメントを生みます。
さらに、学び直し・リスキリングの支援は、
“まだ成長できる”“自分の役割が広がる” という前向きな意欲を引き出します。
●シニアが活躍し続ける職場は、若手も定着しやすい
世代を超えて働きやすい環境は、
結果として若手の負担を減らし、OJTの質を高め、離職率の改善にもつながります。
つまり、
シニアのエンゲージメント向上は、組織全体のエンゲージメント向上の引き金になる
と言っても過言ではありません。
●最後に|シニアのエンゲージメントは“仕組み”で高められる
・経験を活かす役割
・対話を重視したコミュニケーション
・柔軟な働き方
・公正な評価制度
・継続的な学び直し支援
これらを組み合わせることで、シニアは強い働きがいを持ち、
組織を支える“中核人材”として長く活躍してくれます。
エンゲージメントは偶然生まれるものではなく、
企業が意図してデザインするもの。
これからの時代、シニア人材の力を引き出すことは、企業成長の大きな武器になるでしょう。
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