多角的な人材確保とは?人手不足を突破する“採用チャネル分散”の基本戦略【シニア採用も解説】

【企業向け】シニア採用

1.なぜ今「多角的な人材確保」が経営課題になっているのか

多角的な人材確保が注目される背景には、単なる人手不足では説明できない「採用構造の変化」があります。多くの企業では、「求人を出しても応募が来ない」「若手が集まらない」という課題を感じていますが、これは必ずしも“働き手そのものが不足している”ことだけが原因ではありません。実際には、採用対象や採用チャネルが固定化されていることが、母集団形成を難しくしているケースが非常に多いのです。

これまでの採用活動は、新卒一括採用やフルタイム正社員採用を中心に設計されてきました。しかし、少子高齢化や働き方の多様化が進む中で、「フルタイム・週5日・長期雇用」という条件に合致する人材は年々減少しています。一方で、シニア層、主婦・主夫層、副業人材、短時間就労を希望する層など、条件付きであれば働ける人材は確実に存在しています。

にもかかわらず、業務内容や働き方を見直さないまま従来型の求人を続けてしまうと、「応募が来ない=人がいない」という誤った認識に陥りがちです。本来の課題は、人材不足そのものではなく、人材の取り方が単一であることにあります。

だからこそ今、求められているのが「多角的な人材確保」という考え方です。特定の年齢層や雇用形態に依存せず、業務内容や役割に応じて人材を組み合わせることで、これまで採用対象になり得なかった層を戦力として迎え入れることが可能になります。多角的な人材確保は、単なる採用手法の話ではなく、経営課題としての人材戦略の再設計だと言えるでしょう。


2.「多角的な人材確保」とは何か?基本の考え方を整理

「多角的な人材確保」という言葉は、単に採用チャネルを増やすことだと誤解されがちですが、本質はそこではありません。多角的な人材確保とは、人材を“集める前提”そのものを見直すことです。従来のように「この仕事は正社員がやるもの」「週5日働ける人が前提」と決めつけてしまうと、採用対象は自然と限られてしまいます。

多角的な人材確保の第一歩は、「仕事」から考えるのではなく、「業務」から分解して考えることです。業務を細かく見ていくと、必ずしもフルタイムである必要のない作業や、専門スキルよりも経験や丁寧さが求められる業務が見えてきます。こうした業務は、シニア人材や短時間就労を希望する人材、副業人材などと非常に相性が良い領域です。

また、多角的という言葉には「人材属性の分散」という意味も含まれます。年齢、性別、働く目的、ライフステージが異なる人材を組み合わせることで、特定層に依存しない安定した労働力を確保しやすくなります。例えば、若手社員だけに頼る組織は離職リスクが高まりがちですが、シニアや主婦層が加わることで、現場の安定性が増すケースも少なくありません。

重要なのは、多角的な人材確保は「採用数を増やす施策」ではなく、採用の設計思想を変える取り組みだという点です。どの人材を、どの業務に、どの働き方で組み合わせるのか。この視点を持つことで、これまで採用対象外だと思っていた人材層が、現実的な戦力として見えてくるようになります。


3.多角的な人材確保を実現する代表的な採用チャネル

多角的な人材確保を実践するうえで重要なのは、「どの人材層を使うか」ではなく、複数の採用チャネルを前提に設計することです。単一の求人媒体や特定の雇用形態に依存している限り、採用の不安定さは解消されません。ここでは、多くの企業で現実的に導入しやすい代表的な採用チャネルを整理します。

まず一つ目がシニア人材です。定年後も働きたい意欲を持つ層は多く、経験・責任感・勤怠の安定性といった点で、現場を支える即戦力になりやすい特徴があります。特に、業務を切り出したうえで「週2〜3日」「短時間」といった条件を提示すると、応募のハードルが一気に下がります。シニア採用は、単なる人手補充ではなく、業務の安定運用という意味でも有効なチャネルです。

二つ目は短時間・スポット・超短時間人材です。1日2〜4時間、特定の曜日だけ働きたい人材は、主婦・主夫層やセカンドワーク層を中心に一定数存在します。業務を細分化し、「この作業だけ任せる」という形にできれば、フルタイム人材を採用しなくても現場が回るケースは少なくありません。人手不足が慢性化している現場ほど、このチャネルの効果は大きくなります。

三つ目は副業・兼業・業務委託人材です。特に専門性の高い業務や、常時発生しない業務については、雇用にこだわらず外部人材を活用することで、採用難を回避できます。副業人材は即戦力である一方、稼働時間が限られるため、業務範囲を明確にした設計が不可欠です。

四つ目は地域・リファラル・紹介ルートです。ハローワーク、地域ネットワーク、既存社員からの紹介など、必ずしも求人広告に頼らない採用手法も、多角的な人材確保には欠かせません。特に地域密着型の事業では、「顔が見える採用」がミスマッチ防止につながるケースも多く見られます。

以下は、考え方を整理するための簡易表です。

採用チャネル向いている業務例特徴
シニア人材定型業務、補助業務、引き継ぎ安定性・経験値が高い
短時間人材事務補助、軽作業、清掃柔軟なシフト設計が可能
副業・業務委託専門業務、繁忙期対応即戦力だが業務範囲整理が必須
地域・紹介現場業務全般ミスマッチが起きにくい

多角的な人材確保とは、これらのチャネルを単独で使うのではなく、組み合わせて使うことに意味があります。次の章では、なぜ中でも「シニア採用」がこの多角化戦略と特に相性が良いのかを掘り下げていきます。


4.なぜシニア採用は「多角化戦略」と相性が良いのか

多角的な人材確保を進める中で、シニア採用が重要な位置を占める理由は明確です。それは、シニア人材が「人手不足の穴埋め」ではなく、採用設計そのものを変える起点になりやすい存在だからです。シニア採用を検討すると、多くの企業で自然と「業務の切り分け」や「役割の再定義」が進み、その結果、他の人材層にも門戸が開かれていきます。

まず、シニア人材の大きな強みは経験値の高さです。長年の就業経験により、業務全体の流れを理解する力や、突発的なトラブルへの対応力を持っています。そのため、フルタイムでなくても、業務の一部を安定的に任せやすく、現場の支え役として機能しやすいのが特徴です。特に、若手社員が多い職場では、経験の補完という意味でも価値が高まります。

次に、シニア採用は業務分解との相性が非常に良い点が挙げられます。「週5日・8時間働く前提」を外して考える必要があるため、企業側は自然と「この業務は本当にフルタイムである必要があるのか」「切り出せる作業はどこか」といった見直しを行います。このプロセスこそが、多角的な人材確保の核心です。一度業務が整理されると、主婦層や短時間人材、副業人材にも同じ業務を任せられるようになります。

さらに、シニア人材は定着率や勤怠の安定性という点でも、経営にとって大きなメリットがあります。ライフステージが比較的安定しているため、急な離職が起こりにくく、現場のシフトや業務運営が安定しやすくなります。採用コストや教育コストを抑えたい企業にとって、これは見逃せないポイントです。

加えて、シニア人材が現場に入ることで、若手社員への指導や業務の標準化が進むケースも多く見られます。経験を言語化し、業務を「教えられる形」に変えることは、属人化の解消にもつながります。このように、シニア採用は単独で完結する施策ではなく、組織全体の働き方や業務設計を変える触媒として機能します。

だからこそ、シニア採用は「多角的な人材確保」と非常に相性が良いのです。


5.多角的な人材確保を支える「業務分解」と役割設計の考え方

多角的な人材確保を実現できるかどうかは、採用手法よりも業務の設計次第で決まります。どれだけ多様な人材層に目を向けても、業務が「フルタイム・一人完結」を前提に設計されたままでは、採用対象は広がりません。その壁を越える鍵が「業務分解」と「役割設計」です。

多くの現場では、知らず知らずのうちに業務がブラックボックス化しています。「これもあれも全部この人がやっている」「一連の流れとして覚えるのが前提」という状態では、限られた人材しか対応できません。そこで重要になるのが、業務を工程単位・作業単位に分解し、「どこまでなら切り出せるか」を整理することです。

例えば、事務業務であれば、入力・チェック・問い合わせ対応・資料作成といった工程に分けることができます。現場業務でも、準備、補助、後片付け、記録作業など、必ず切り出せる業務が存在します。こうして分解された業務は、シニア人材や主婦層、短時間人材など、時間や体力に制約のある人材でも担える役割へと変わっていきます。

次に重要なのが「任せる仕事」と「任せない仕事」を明確にすることです。多角的な人材確保では、すべてを一人に任せようとしない姿勢が求められます。判断が必要な業務、責任が重い業務はコア人材が担い、定型化・標準化できる業務は切り出して任せる。この線引きができると、採用対象は一気に広がります。

また、業務分解は現場負荷を減らす効果もあります。最初は「教える手間が増えるのではないか」と不安に感じるかもしれませんが、業務を整理し直すことで、むしろ属人化が解消され、引き継ぎや教育が楽になるケースが多く見られます。結果として、現場全体の業務効率が向上し、採用後の定着にもつながります。

多角的な人材確保は、「誰を採るか」ではなく「どんな役割を用意できるか」が成否を分けます。業務分解と役割設計は、その土台となる考え方です。この視点を持つことで、次章で触れる主婦層や障がい者など、さらに多様な人材層の活用が現実的になっていきます。


6.シニア以外にも広がる多角的な人材確保の選択肢

多角的な人材確保というと、「シニア採用」が注目されがちですが、実際にはその考え方は他の人材層にも自然に広がっていきます。ポイントは、「特定の属性向けに制度を作る」のではなく、「業務と働き方を柔軟に設計する」ことです。その結果として、これまで採用対象になりにくかった人材が、戦力として見えてくるようになります。

代表的なのが主婦・主夫層です。育児や家庭の事情により、フルタイム就労が難しい一方で、「平日の数時間なら働ける」「曜日固定なら対応できる」といったニーズを持つ人材は少なくありません。業務分解が進んでいれば、短時間でも完結できる業務を任せることができ、安定した戦力になります。特に事務補助、軽作業、サポート業務などでは、高い定着率を期待できるケースも多くあります。

次に重要なのが障がい者雇用です。障がい者雇用というと、特別な業務を新たに用意しなければならないと考えられがちですが、実際には既存業務の中に適した役割が存在していることがほとんどです。業務を細かく分解し、作業内容や手順を明確にすることで、能力を十分に発揮できる場面が増えていきます。これは結果的に、健常者を含めた全体の業務効率向上にもつながります。

さらに、外国人材や地域人材も見落とされがちな選択肢です。日本語レベルや就労条件に配慮が必要な場合でも、業務内容が整理されていれば、限定的な役割からスタートすることが可能です。地域密着型の事業では、「近所で短時間働きたい」というニーズを持つ人材を掘り起こすことが、安定的な人材確保につながることもあります。

重要なのは、これらの人材層を「特別扱い」することではありません。シニア採用をきっかけに業務分解が進むと、主婦層、障がい者、外国人材といった多様な人材が自然にフィットする構造が生まれます。多角的な人材確保とは、特定層に依存する戦略ではなく、「誰でも働ける余地を作る戦略」だと言えるでしょう。


7.多角的な人材確保を実現するための採用方法の工夫

多角的な人材確保を進めるうえで見落とされがちなのが、「誰を採るか」以前にどうやって採用するかという視点です。実は、シニアや主婦、障がい者といった多様な人材層が採用できない原因の多くは、人材そのものではなく、採用方法が従来型のままである点にあります。

まず重要なのが、求人内容の出し方を変えることです。フルタイム前提の募集要項や、「一通りの業務をすべて担当」といった表現は、それだけで応募対象を狭めてしまいます。業務分解を行ったうえで、「この業務だけを担当」「週○日・1日○時間から可」と明示することで、これまで応募をためらっていた層が動きやすくなります。採用方法の多角化とは、求人票の再設計から始まると言っても過言ではありません。

次に、採用チャネルの使い分けも欠かせません。シニア層であればハローワークや地域ネットワーク、主婦層であれば短時間求人サイトや口コミ、障がい者雇用であれば支援機関との連携など、狙う人材層によって有効なチャネルは異なります。すべてを同じ媒体で集めようとするのではなく、「誰を採りたいか」に応じて入口を分けることが、多角的な人材確保の近道です。

さらに、選考プロセスを簡略化する工夫も重要です。多様な人材ほど、「何度も面接に行けない」「長い選考に不安を感じる」といった心理的ハードルを抱えています。書類選考を簡素化する、面接回数を減らす、現場見学を選考に組み込むなど、負担を下げることで応募から採用までの歩留まりが大きく改善するケースも少なくありません。

多角的な人材確保における採用方法のポイントは、「特別な制度を用意すること」ではなく、今ある採用プロセスを人材に合わせて調整することです。業務設計と採用方法が噛み合ったとき、シニアに限らず、主婦や障がい者など、これまで採用につながらなかった人材層が、現実的な戦力として採用できるようになります。


8.多角的な人材確保が組織にもたらす中長期的メリット

多角的な人材確保は、短期的な人手不足の解消にとどまらず、組織の構造そのものを強くする中長期的な効果をもたらします。採用がうまくいかない状況では、「とにかく人を入れる」ことに目が向きがちですが、多様な人材を前提にした設計へと切り替えることで、組織全体のパフォーマンスが底上げされていきます。

まず大きなメリットとして挙げられるのが、属人化の解消と業務の見える化です。業務分解を前提に採用を行うと、「この仕事は誰にでもできる」「ここは引き継ぎが必要」といった整理が進みます。その結果、特定の社員に業務が集中するリスクが減り、急な欠員や退職があっても現場が回りやすくなります。これは、事業継続性の観点からも非常に重要なポイントです。

次に、多様な人材が共存できる職場環境が整う点も見逃せません。年齢や働き方が異なる人材が関わることで、「フルタイムで働ける人だけが基準」という暗黙の前提が崩れ、柔軟な働き方が当たり前になります。こうした環境は、若手社員にとっても働きやすく、離職防止につながるケースが多く見られます。

さらに、多角的な人材確保は採用ブランディングにも好影響を与えます。「さまざまな人が活躍している会社」というイメージは、求職者に安心感を与え、応募の心理的ハードルを下げます。特に、シニアや主婦層、障がい者など、多様な人材が実際に活躍している事例は、企業の社会的評価を高める要素にもなります。

このように、多角的な人材確保はコストや手間がかかる施策ではなく、結果的に採用の再現性と安定性を高める投資だと言えます。短期的な充足だけを目的とせず、中長期的な視点で人材戦略を設計することが、これからの企業に求められています。


9.まとめ|人材確保は「特定層依存」から「組み合わせ設計」へ

人手不足が深刻化する中で、多角的な人材確保は「新しい採用手法」ではなく、これからの企業にとっての前提条件になりつつあります。重要なのは、シニア、主婦、障がい者、副業人材といった特定の人材層を“個別に攻略する”ことではありません。業務と働き方を見直し、複数の人材を組み合わせて成立する構造をつくることが、本質的な解決策です。

本記事で見てきたように、多角的な人材確保は「採用活動」だけの話ではありません。業務分解や役割設計を進めることで、これまでフルタイム前提だった仕事が、短時間や部分的な関与でも成り立つようになります。その結果、シニア人材だけでなく、主婦層や障がい者、地域人材など、これまで見過ごされてきた労働力が自然と採用対象に入ってきます。

また、多角的な人材確保は、属人化の解消や業務の見える化、定着率の向上といった副次的な効果も生み出します。特定の年齢層や雇用形態に依存しない組織は、環境変化に強く、長期的に安定した運営が可能になります。これは、人事部門だけでなく、経営全体にとって大きな価値です。

これからの人材戦略に求められるのは、「誰を採るか」を考える前に、「どんな役割を、どんな形で担ってもらうか」を設計する視点です。人材確保を“点”ではなく“組み合わせ”で考えることで、採用の選択肢は大きく広がります。多角的な人材確保は、企業の未来を支える現実的かつ持続可能な戦略だと言えるでしょう。

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