はじめに|なぜ今、人事が「シニア採用」を無視できなくなっているのか
「求人を出しても応募が来ない」「来てもすぐ辞める」──
多くの人事担当者が、ここ数年でこうした悩みを強く感じているのではないでしょうか。特に現場を支える実務人材や、経験を活かして安定的に働ける人材の確保は、年々難しくなっています。
こうした状況の中で、近年あらためて注目されているのがシニア人材の採用です。
「高齢者雇用」と聞くと、社会貢献や法対応のイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、現在のシニア採用はそれとは全く違います。人手不足が常態化したいま、シニア採用は経営と人事を支える“戦略的な採用手段”へと進化しています。
実際、日本の労働市場では、働く意欲と能力を持つシニア層が急速に増えており、若手・中堅人材の母集団は縮小し続けています。つまり、「どの層から採るのが現実的か」という視点で見ると、シニア層を外した採用戦略はもはや成り立ちにくくなっているのです。
本記事では、人事担当者がいまなぜシニア採用に取り組むべきなのかを、単なる理想論ではなく、
・労働市場の構造
・組織の生産性
・定着率と職場安定
という3つの観点から整理して解説します。
「シニア採用は本当に使えるのか?」
「うちの会社でも戦力になるのか?」
そう感じている人事の方こそ、ぜひ読み進めてみてください。
理由①:人手不足時代における「働ける人材の母集団」がシニア層に集中しているから
多くの人事担当者が実感している通り、いまの採用市場は「募集を出せば応募が来る」という時代ではありません。特に現場業務やサポート職、バックオフィス補助など、いわゆる“会社を支える仕事”ほど人が集まりにくくなっています。その背景にあるのが、日本全体の労働力人口の構造変化です。
総務省の「労働力調査」によれば、日本の15〜64歳人口(生産年齢人口)は1995年をピークに減少し続けており、2023年時点では約7,400万人とピーク時から1,500万人以上減少しています。一方で65歳以上人口は増え続け、すでに3,600万人を超えています。つまり「働ける年齢層の中で、最も人数が多いのはシニア層」になっているのです。
(出典:総務省統計局「労働力調査」「人口推計」)
この構造を人事の視点で言い換えると、こうなります。
若手・中堅の人材プールは年々縮小し、シニア層の人材プールは拡大し続けている。
どれだけ魅力的な求人を出しても、そもそも市場にいる人の数が少なければ、採用は難しくなります。逆に、シニア層は「人数が多い」「就労意欲のある人が増えている」という2つの条件を満たしています。
実際、内閣府の「高齢社会白書」によると、65〜69歳の就業率は50%を超え、70〜74歳でも30%近くが就業しています。しかもこの数字は年々上昇傾向にあります。つまりシニア層は「引退した人たち」ではなく、「働きたい人たちの大きな集団」へと変わってきているのです。
(出典:内閣府「高齢社会白書 2024年版」)
ここで重要なのは、「即戦力かどうか」よりも「採用できる母集団がどこにあるか」という視点です。例えば、バックヤード業務、軽作業、受付、事務補助、施設管理、見守り、清掃、調理補助など、多くの企業で必要とされる仕事は、必ずしも高度な専門スキルを要求するものではありません。しかし、そうした仕事こそ人手不足が深刻です。
このとき、若手人材にこだわると「応募が来ない」という問題に直面します。一方でシニア層に目を向けると、「時間に余裕がある」「安定して働きたい」「社会とつながりたい」という動機を持つ人が大量に存在します。人事戦略として見ると、これは非常に合理的な選択です。
つまり、シニア採用とは「年齢が高い人を特別扱いすること」ではなく、労働市場の構造に合わせて、最も厚みのある人材層から採用することなのです。人手不足の本質が「スキル不足」ではなく「人の絶対数不足」である以上、シニア層を外して採用戦略を考えること自体が、すでに非効率になりつつあります。
理由②:シニア採用は“業務分解・生産性向上”の起点になるから
多くの企業で起きている人手不足の本質は、「人が足りない」というよりも、「仕事の設計が時代に合っていない」ことにあります。若手や中堅社員に、専門業務と雑務が混ざった状態で仕事を任せている企業ほど、「忙しいのに成果が出ない」「残業が減らない」「離職が増える」といった問題を抱えがちです。ここでシニア採用が重要な役割を果たします。
シニア人材を受け入れると、多くの企業で自然と「この仕事は本当にこの人がやるべきか?」という問いが生まれます。たとえば、営業担当が行っている資料の印刷やデータ入力、現場責任者が対応している受付や電話応対、専門職が片手間でやっている備品管理やシフト調整など、本来は分離できる業務が見えてきます。シニア人材にこうした周辺業務を任せることで、若手や中堅は本来のコア業務に集中できるようになります。
この現象は単なる人手補充ではなく、「業務の再設計」が起きている状態です。実際、厚生労働省が行った高年齢者雇用の事例調査でも、シニア雇用をきっかけに業務を切り分け、生産性が向上した企業が多く報告されています。たとえば、製造業や物流、介護、サービス業などで、「補助業務をシニアが担い、正社員が付加価値業務に集中できるようになった」という事例が紹介されています。
(出典:厚生労働省「高齢者の活躍に取り組む企業の事例」)
人事の立場で見ると、これは非常に大きな意味を持ちます。人を増やさずに生産性を上げるのは限界がありますが、仕事の中身を分解して適材適所で再配置することで、同じ人数でも成果は大きく変わります。シニア採用は、この業務分解を進めるための“触媒”のような役割を果たします。
さらに重要なのは、シニア人材は「フルタイムで働かなくてもよい」という点です。週2〜3日、1日4〜6時間といった柔軟な働き方で業務を切り出せるため、仕事を細かく分解しやすくなります。これにより、「この仕事だけやってくれる人がいれば助かる」という現場のニーズと、シニア側の「無理なく働きたい」という希望が一致しやすくなります。
結果として、若手や中堅の残業が減り、離職リスクが下がり、チーム全体のパフォーマンスが安定します。シニア採用は単なる労働力補充ではなく、組織の働き方をアップデートするための実践的な人事施策なのです。
理由③:シニア人材は“定着率と職場の安定性”を高めるから
人事担当者が頭を悩ませる課題の一つが「採用してもすぐ辞めてしまう」ことです。特に若手層では、入社後1年以内の離職が珍しくなく、現場の負担は増え続けています。採用コストをかけても回収できず、教育担当の疲弊やチームの士気低下につながるケースも少なくありません。
一方で、シニア人材の就労動機は若手とは大きく異なります。多くのシニアは「キャリアアップ」や「転職による条件改善」よりも、「安定して働けること」「人の役に立てること」「社会とつながっていたいこと」を重視しています。内閣府の調査でも、高齢者が働く理由として「収入」だけでなく「健康維持」「生きがい」「社会参加」が上位に挙げられています。
(出典:内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」)
この価値観の違いが、職場の定着率に大きな影響を与えます。シニア人材は「この職場で長く無理なく働きたい」という前提で入社するため、短期間での離職が起こりにくい傾向があります。実際、厚生労働省の高年齢者雇用に関する調査でも、60歳以上で再雇用された人材の定着率は比較的高く、職場の安定化に寄与していることが示されています。
(出典:厚生労働省「高年齢者雇用状況報告」)
また、シニア人材の存在は職場の雰囲気にも良い影響を与えます。経験豊富で落ち着いた対応ができる人がいることで、現場のトラブル対応や新人フォローがスムーズになります。若手社員にとっても「すぐに聞ける」「安心して相談できる」存在が増えるため、心理的な負担が軽減されます。
人事戦略の視点で見ると、これは非常に重要な効果です。人の入れ替わりが激しい職場ほど、生産性は下がり、教育コストは増えます。シニア人材を組み込むことで「人が定着する土台」ができれば、組織全体のパフォーマンスが安定し、結果として若手の育成も進みやすくなります。
シニア採用は、単に人を増やすための手段ではありません。職場を“落ち着いて働ける場所”に変えるための、人事施策の一つなのです。
人事が押さえるべき「シニア採用」の設計ポイント
シニア採用を成功させる企業と、うまくいかない企業の差は「人」ではなく「設計」にあります。シニア人材は若手と同じやり方で採用・配置すれば機能するわけではありません。重要なのは、最初から“シニアが活躍できる前提”で仕事と役割を設計することです。
まず押さえるべきなのが「期待値の明確化」です。多くの失敗例では、「何でもできるベテラン」を期待しすぎてしまい、結果としてミスマッチが起きています。シニア人材の強みは、体力勝負ではなく、安定性・丁寧さ・継続力です。たとえば、「現場を回し続ける」「ルーティン業務を安定して担う」「新人の相談相手になる」といった役割を明確にした方が、本人も職場もストレスが少なくなります。
次に重要なのが「職務設計」です。シニア採用をきっかけに、業務を細かく分解し、「この仕事だけを担当する」という形に切り出すことが成功のカギになります。たとえば、事務職であれば「データ入力専任」「書類チェック専任」、現場であれば「準備・後片付け」「見回り・安全確認」といった形で仕事を切り出すことで、シニアの負担を抑えつつ、組織全体の生産性を高めることができます。
働き方の設計も欠かせません。シニア人材はフルタイムにこだわらないケースが多く、週2〜3日、1日4〜6時間といった柔軟な働き方の方が長く続きます。厚生労働省の調査でも、高年齢者雇用が進んでいる企業ほど、短時間勤務や職務限定型の雇用制度を導入している傾向があります。
最後に、人事が意識すべきなのは「評価の仕組み」です。若手と同じ成果指標を当てはめるのではなく、「安定して出勤している」「ミスなく業務を回している」「職場の雰囲気を良くしている」といった、シニアならではの価値を評価に反映させることで、本人のモチベーションも高まり、長期定着につながります。
シニア採用は“特別対応”ではなく、仕事と人をどう組み合わせるかという人事の設計力が問われるテーマなのです。
シニア採用を成功させている企業の共通点
シニア採用がうまくいっている企業には、業種を問わず共通する考え方があります。それは、「人に仕事を当てはめる」のではなく、「仕事を人に合わせて設計している」という点です。年齢にかかわらず活躍できる職場をつくっている企業ほど、この発想が徹底されています。
まず共通しているのが、「採用の入口でミスマッチを減らしている」ことです。成功している企業は、シニア向けの求人で仕事内容や働き方を具体的に書きます。たとえば「週3日・午前中のみ」「電話対応と書類整理が中心」「立ち仕事はほとんどなし」といった形で、入社後のイメージが明確です。これにより、「思っていた仕事と違った」という理由での早期離職が大きく減ります。
次に、「現場がシニアを戦力として受け入れる準備ができている」ことも重要です。うまくいっている企業では、シニアが担当する業務があらかじめ切り出されており、「この仕事はこの人がやる」という役割が明確になっています。結果として、若手や中堅も「頼っていい人」「任せていい仕事」が分かり、現場の混乱が起きにくくなります。
さらに、成功企業は「シニアをコストではなく、安定装置として見ている」という特徴があります。短時間勤務や時給制で雇用することで人件費を抑えつつ、欠員リスクや急な退職の影響を小さくしています。実際、厚生労働省の調査でも、高年齢者を活用している企業ほど「人員の安定確保」「業務の平準化」をメリットとして挙げる割合が高くなっています。
一方で、失敗しがちな企業には共通点もあります。それは、「若手と同じ基準でシニアを評価しようとする」ことです。スピードや体力で比較してしまうと、シニアの強みは発揮されません。成功企業は、正確さ、継続性、落ち着いた対応といった価値を評価軸に組み込んでいます。
この違いが、定着率と現場の満足度に大きく影響します。シニア採用は、やり方さえ間違えなければ、現場と人事の両方を楽にする仕組みになるのです。
まとめ:シニア採用は“苦肉の策”ではなく“人事戦略”である
ここまで見てきた通り、シニア採用が注目されているのは「高齢化しているから」ではありません。労働市場の構造が変わり、人事戦略として合理的になっているからです。
第一に、働ける人の母集団がシニア層に集中しているという事実があります。若手・中堅の人材プールが縮小する中で、就労意欲のあるシニア層は増え続けています。この現実を無視して採用戦略を立てることは、もはや非効率です。
第二に、シニア採用は業務分解と生産性向上を促します。補助業務や周辺業務を切り出し、シニアが担うことで、正社員や若手は付加価値の高い仕事に集中できるようになります。これは人手不足への対処であると同時に、組織の働き方改革でもあります。
第三に、シニア人材は職場の安定性を高めます。短期離職が少なく、落ち着いた働き方をするシニアが加わることで、現場の混乱が減り、若手の育成環境も整います。結果として、組織全体のパフォーマンスが底上げされていきます。
人事にとって重要なのは、「年齢」ではなく「どう設計するか」です。仕事の切り出し方、働き方、評価の仕組みを少し変えるだけで、シニア人材は大きな戦力になります。シニア採用は、もはや一時的な人手不足対策ではなく、持続的に人を確保し、組織を安定させるための中核的な人事戦略なのです。
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