人材育成に活かす「アドラー心理学」とは?基本思想・5つの理論と職場導入のメリット

【企業向け】シニア採用

1.アドラー心理学とは?基本思想をわかりやすく解説

アドラー心理学の成り立ちと「勇気の心理学」と呼ばれる理由

アドラー心理学は、オーストリアの精神科医であるアルフレッド・アドラー(1870〜1937年)によって創始された心理学の体系です。学術的な正式名称は「個人心理学」と呼ばれますが、一般的には提唱者の名前をとって広く親しまれています。

アドラー心理学の根底にあるのは、「人はいつでも自分の力で変わり、幸福になることができる」という非常に前向きな基本思想です。生まれ持った能力や過去の環境によって人生が決定づけられるのではなく、自分の意志で未来を切り拓く力があると考えます。

ビジネスの現場や人材育成において、社員は新しい業務への挑戦や人間関係の摩擦など、しばしば困難や劣等感に直面します。アドラー心理学では、そうした劣等感をネガティブなものとして否定するのではなく、むしろ「より良くなろうとする成長の原動力」として肯定的に捉えます。

人が困難から逃げずに立ち向かうための「勇気」を育むことを最も重視することから、アドラー心理学は別名「勇気の心理学」とも呼ばれています。変化の激しい現代において、主体的に動ける人材を育成するための土台として、多くの企業が注目しているのです。

フロイトやユングとの違い(原因論と目的論)

心理学の三大巨頭として並び称されるフロイトやユングと、アドラーとの決定的な違いは「人間の行動や感情をどう捉えるか」という視点にあります。フロイトが「原因論」を提唱したのに対し、アドラーは「目的論」を唱えました。

「原因論」とは、過去の経験やトラウマが原因となって現在の結果を引き起こしていると考えるアプローチです。例えば、会議で発言しない社員に対して「過去に上司から厳しく叱られたトラウマがあるから、発言できないのだ」と、過去に理由を求めます。

一方、アドラーの「目的論」では、「人は何かしらの『目的』を達成するために、自ら今の行動や感情を作り出している」と考えます。先ほどの例に当てはめると、「新しい提案をして失敗し、自分の評価が下がるのを避ける(目的)ために、あえて発言しないという行動を選んでいる」と解釈します。

【原因論と目的論の比較】

比較項目フロイト(原因論)アドラー(目的論)
行動の理由過去の出来事やトラウマ(原因)今、達成したいこと(目的)
思考の方向性過去志向(なぜ問題が起きたのか?)未来志向(これからどうしたいのか?)
職場での影響できない理由や言い訳を探しがちになる解決策に目を向け、主体的な行動を促す

この「目的論」の視点を持つことで、人事担当者やマネージャーは「過去の傷をどう慰めるか」ではなく、「今の目的をどうすれば建設的なものに変えられるか」という未来に向けた具体的なアプローチができるようになります。


2.アドラー心理学を構成する「5つの理論」

アドラー心理学は、単なる精神論ではなく、人間がどのように世界を捉え、行動しているのかを説明する体系的な理論に基づいています。その中核をなすのが、以下の「5つの理論」です。組織内のコミュニケーションやマネジメントを円滑にする上で、非常に重要な視点となります。

1. 自己決定性(人は自分の行動を自分で決められる)

自己決定性とは、「人間の行動や運命は、遺伝や過去の環境によって決められるのではなく、自分自身の意志で決定している」という理論です。もちろん、生まれ持った性質や育った環境の影響はゼロではありませんが、それらに「どのような意味づけをし、どう行動するか」は自分で選べる、と考えます。

ビジネスの現場においては、この考え方が「自律的な人材」を育成する基盤となります。仕事でミスをした際に「あの部署の協力がなかったから」「時間が足りなかったから」と環境のせいにする(他責思考)のではなく、「この状況で自分に何ができるか」を自ら考え行動する(自責思考)姿勢へと変化を促すことができます。


2. 目的論(人間の行動にはすべて「目的」がある)

前章の「原因論と目的論」でも触れた通り、目的論とは「人間のあらゆる行動や感情には、必ず何かしらの『目的』がある」とする理論です。人が怒ったり、落ち込んだりするのにも、実は隠された目的が存在すると考えます。

例えば、部下が上司からの指示に対して消極的な態度をとる場合、「自信がない(原因)」から行動できないのではなく、「失敗して評価を下げるのを避けたい(目的)」ために消極的に振る舞っていると解釈します。この目的に気づくことができれば、リーダーは「まずは小さな成功体験を積ませて、失敗への不安を取り除こう」という、建設的で具体的な解決策を打つことができるようになります。


3. 全体論(心と体、理性と感情は分割できない)

全体論とは、人間を「心と体」「理性と感情」「意識と無意識」といったように分割して考えるのではなく、「すべてが統合された、分割できない一つの存在」として捉える理論です。アドラー心理学では、人間の心の中に矛盾や対立はないと考えます。

よく「頭ではわかっているのに、感情が追いつかない」といった表現を使いますが、全体論の視点では「ある目的を達成するために、自ら感情を使って行動にブレーキをかけている」と解釈します。組織においては、メンバーの建前(理性)だけでなく、本音(感情)も含めた「一人の人間全体」として向き合うことが、深い信頼関係を築く上で欠かせない要素となります。


4. 認知論(人は自分独自の「主観」で世界を見ている)

認知論とは、「人間は客観的な事実をそのまま見ているのではなく、自分の経験や価値観という独自の『色眼鏡(主観)』を通して世界を見ている」という理論です。同じ出来事を経験しても、人によって捉え方や意味づけがまったく異なるのはこのためです。

例えば、新しいプロジェクトを任されたとき、それを「成長のチャンス」と捉える人もいれば、「面倒な仕事が増えた」と捉える人もいます。世代や経験値が異なる多様なメンバーが集まる職場では、この「事実は一つでも、解釈は人それぞれである」という前提に立つことが重要です。自分の見方が絶対だと思い込まず、相手の主観を理解しようとする姿勢がコミュニケーションのすれ違いを防ぎます。


5. 对人関係論(すべての悩みは対人関係に行き着く)

対人関係論は、アドラー心理学の中でも特に有名な「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という考え方です。仕事の悩み、キャリアの不安、自己評価の低さなど、一見すると個人的な悩みに見えるものも、突き詰めれば「他者からどう見られているか」「他者と比べて自分はどうなのか」という他者の存在に行き着きます。

裏を返せば、職場における対人関係を良好なものに改善できれば、メンバーの抱える多くの悩みやストレスを軽減できるということです。誰かと競い合う「タテの関係(競争)」ではなく、互いに協力し貢献し合う「ヨコの関係(協力)」を築くことが、健全で働きがいのある組織を作るための鍵となります。


3.アドラー心理学を職場に導入する3つのメリット

アドラー心理学の理論は、個人の心のあり方だけでなく、組織づくりやマネジメントにおいて非常に高い効果を発揮します。実際に職場へ導入することで得られる具体的な3つのメリットを解説します。

1. 指示待ちではない「自律的・主体的な人材」が育つ

アドラー心理学の「目的論」や「自己決定性」を組織の文化として根付かせることで、社員一人ひとりの主体性が大きく引き出されます。

従来の「原因論」に基づくマネジメントでは、失敗した際に「なぜできなかったのか」を追及しがちです。これでは社員が萎縮してしまい、怒られないために「指示されたことしかやらない」という指示待ち人間を生み出してしまいます。

一方、「目的論」に基づいて「これからどうすれば目標を達成できるか」という未来に向けた対話を重ねることで、社員は自ら考え、行動するようになります。結果として、環境や他人のせいにせず、自らの意志で業務を推進できる自律的な人材が育ち、組織全体の生産性向上につながります。


2. 心理的安全性が高まり、職場の人間関係が改善する

アドラー心理学が提唱する「対人関係論」を取り入れることで、職場の人間関係における無用な摩擦やストレスを大幅に減らすことができます。

特に後述する「課題の分離」という考え方が浸透すると、「自分がコントロールできること(自分の課題)」と「自分にはどうにもできないこと(他者の課題)」の境界線が明確になります。これにより、他者の顔色を過度にうかがったり、逆に他者の仕事に過剰に干渉したりすることがなくなります。

お互いの領域を尊重しつつ、困ったときには協力し合える「ヨコの関係」が構築されるため、職場内の心理的安全性(自分の意見や感情を安心して発信できる状態)が高まり、離職率の低下やチームワークの強化が期待できます。


3. 世代や価値観の違う「多様な人材」が活躍できる風土になる

現代の企業では、若手社員から豊富な経験を持つシニア層まで、多様な人材が共に働く環境が当たり前になっています。ここで役立つのが、「人はそれぞれ独自の主観で世界を見ている」とする「認知論」の考え方です。

世代やバックグラウンドが異なれば、仕事に対する価値観や常識が違うのは当然です。アドラー心理学の前提に立つと、「自分の考えが絶対的に正しい」という押し付け合いがなくなり、「相手はそういう見方をしているのだな」と冷静に受け止めることができます。

年齢や役職による上下関係ではなく、互いの違いを認め合い、長所や経験を活かし合う対等な関係性を築くことで、世代間ギャップを乗り越え、多様な人材がそれぞれの強みを発揮して活躍できる組織風土が醸成されます。


4.職場で実践!アドラー心理学をマネジメントに活かすポイント

「褒める・叱る」ではなく「勇気づけ」を行う

アドラー心理学では、相手を「褒める」ことや「叱る」ことを推奨していません。なぜなら、これらはどちらも「能力のある人が、能力のない人を評価・コントロールする」という上下関係(タテの関係)を前提とした行為だからです。褒められることに依存すると、他者の評価がなければ行動できない人材になってしまうリスクがあります。

そこで重要になるのが「勇気づけ」というアプローチです。評価を下すのではなく、相手の行動や存在そのものに対して「ありがとう」「助かったよ」と感謝を伝えたり、共感を示したりします。これにより、相手は「自分は組織に貢献できている」という自己価値を感じることができ、困難な課題にも自ら立ち向かう「勇気」を持つことができます。

「勇気づけ」を行うための前提となるのが、メンバー同士が「ヨコの関係」を築くことです。ヨコの関係とは、年齢、役職、社歴などの違いに関わらず、一人の人間として互いを対等に扱い、尊敬し合う関係性のことを指します。


上下関係ではなく対等な「ヨコの関係」を築く

職場で上司と部下という役割の違いはあっても、人間としての価値に上下はありません。「経験が浅いから」「自分より年上・年下だから」といった先入観を捨て、同じ目標に向かって協力し合うパートナーとして接することが重要です。このフラットな関係性が土台にあるからこそ、率直な意見交換が可能になり、多様なバックグラウンドを持つメンバーがそれぞれの強みを最大限に発揮できるようになります。


「課題の分離」で自分と他者の課題を切り分ける

人間関係のトラブルを未然に防ぐための強力な思考法が「課題の分離」です。これは、「その選択によってもたらされる最終的な結果を誰が引き受けるのか?」という視点で、自分の課題と他者の課題を明確に分ける考え方です。

例えば、部下が期日までに資料を提出しない場合、最終的に困るのは部下自身(評価が下がるなど)であるため、本質的には「部下の課題」です。ここで上司が代わりにやってしまうのは「他者の課題への介入」となり、部下の成長機会を奪うことになります。上司がすべき自分の課題は、「いつでも相談に乗る用意があることを伝え、サポートする体制を整えること」までです。相手の課題には踏み込まず、自分の課題に集中することで、お互いのストレスは劇的に軽減されます。


5.人事担当者が実践すべき「社内制度・研修」への落とし込み方

1. 管理職向け・一般社員向け「アドラー心理学研修」の設計

アドラー心理学の考え方を組織全体に浸透させるためには、共通言語を作ることが重要です。まずは、階層別の研修として導入することをおすすめします。

管理職向けには「原因論から目的論への転換」や「勇気づけのマネジメント手法」に特化し、部下の主体性を引き出すスキルを習得してもらいます。一方、一般社員向けには「課題の分離」や「自己決定性」を中心に、自律的に働くためのマインドセットを学ぶ内容が効果的です。座学だけでなく、実際の職場のケーススタディを用いたロールプレイングを取り入れることで、翌日から現場で実践できるスキルとして定着しやすくなります。


2. 「勇気づけ」や「目的論」を取り入れた1on1・評価フィードバック制度

人事制度の中で最もアドラー心理学を活かしやすいのが、1on1ミーティングや人事評価のフィードバック面談です。制度の運用マニュアルや面談シートの項目を見直し、アドラー流のアプローチを組み込みましょう。

例えば、目標未達だった際の原因追及(なぜできなかったのか?)に終始するのではなく、「次に向けてどう改善していくか?」「そのために会社や上司はどんなサポートができるか?」という目的論に基づいた未来志向の質問項目を設定します。また、結果だけでなくプロセスにおける「貢献」にフォーカスし、感謝を伝える(勇気づけ)時間を意図的に設けることで、社員のモチベーションを高く保つことができます。


3. お互いの貢献を認め合うピアボーナスや表彰制度の導入

「ヨコの関係」や「勇気づけ」の文化を仕組みとして定着させるために、ピアボーナス(従業員同士で少額のインセンティブを送り合う制度)や、サンクスカード(感謝のメッセージカード)の導入も効果的です。

これらは、上司から部下への一方的な評価ではなく、同僚同士や部署間を越えたフラットな関係性の中で「ありがとう」を可視化する仕組みです。「誰かの役に立っている」という共同体感覚(組織への所属感や貢献感)を日常的に味わうことができるため、職場の雰囲気はポジティブになり、離職防止やエンゲージメントの向上に直結します。


6.まとめ:アドラー心理学を導入して組織全体のパフォーマンスを高めよう

アドラー心理学は、単に個人の悩みを解決するだけでなく、組織のあり方を根本から良くするための実践的な哲学です。「目的論」による未来志向の思考、「課題の分離」による人間関係の改善、そして「勇気づけ」による主体性の育成は、変化の激しいビジネス環境において非常に強力な武器となります。

年齢や価値観の異なる多様な人材が協力し合う今の時代こそ、上下関係ではなく「ヨコの関係」を築くアドラー心理学の考え方が求められています。ぜひ、マネジメントの日常的なコミュニケーションや社内制度に取り入れ、一人ひとりが生き生きと活躍し、パフォーマンスを最大化できる組織づくりを目指してみてください。

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