1.はじめに|なぜ今、ハローワーク活用がシニア採用のカギになるのか
近年、日本では少子高齢化による労働力不足が深刻化しています。厚生労働省の「労働経済白書(2024年版)」によると、65歳以上の就業者数は約950万人を超え、過去最高を更新しました。これは、定年後も働く意欲を持つ高齢者が増えていることを示す一方で、企業側がその力を十分に活かしきれていない現状も浮き彫りにしています。
その中で注目されているのが「ハローワーク(公共職業安定所)」の活用です。ハローワークは全国に約540カ所あり、求人・求職のマッチングだけでなく、高年齢者雇用支援コーナーや生涯現役支援窓口など、シニア採用に特化したサービスも展開しています。これらを上手に活用することで、採用コストをかけずに経験豊富な人材と出会うことが可能になります。
また、ハローワーク経由の求人は求職者の約4割が50歳以上(厚生労働省「職業安定業務統計」2023年)とされており、シニア層へのリーチ力は民間求人媒体よりも圧倒的です。特に地域密着型の人材確保を目指す中小企業にとっては、無料で利用できる「採用の強力なパートナー」と言えるでしょう。
企業が抱える「若手の定着難」や「ベテラン不足」といった課題を補ううえでも、ハローワークの仕組みを理解し、積極的に連携を図ることが重要です。本記事では、シニア人材を採用したい企業担当者が知っておくべきハローワークの活用法を、具体的なステップと事例を交えて紹介していきます。
2.ハローワークの基本をおさらい|企業が無料でできることとは?
ハローワークは、全国の企業と求職者をつなぐ国の公的な就職支援機関です。企業側にとって最大のメリットは、すべてのサービスが無料で利用できるという点にあります。求人票の掲載はもちろん、採用活動の相談や面接会の実施、助成金の申請サポートまで、幅広い支援を受けることができます。
まず基本として押さえたいのは、「ハローワークインターネットサービス」の存在です。企業がハローワークに求人を登録すると、同時にこの全国ネットの求人サイトにも掲載され、求職者はインターネット経由でも検索・応募が可能になります。これにより、地域のシニア層だけでなく全国から応募を集めることも可能です。
また、シニア採用を検討する企業には、「生涯現役支援コーナー」や「高齢者・若者・女性・障害者トータルサポーター」など、対象層に応じた専門窓口が用意されています。特にシニア向けでは、再就職支援に長けた職業相談員が担当につき、求職者の特性や希望条件を細かく把握して紹介してくれる点が強みです。
企業が無料でできる主なこととしては、以下のようなものがあります。
無料でできる主なサービス | 内容 |
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求人票の登録・公開 | 全国のハローワーク窓口・Webサイトで求人掲載 |
求職者の紹介 | 登録者情報をもとに候補者を紹介してもらえる |
面接会・説明会の開催 | 施設を利用した採用イベントを実施可能 |
助成金・雇用制度の相談 | 各種助成金や法対応に関するアドバイスを受けられる |
このように、ハローワークは単なる求人掲示板ではなく、採用戦略の一部として活用できる総合的なサポート機関です。特に費用をかけずにシニア層へアプローチできる点は、民間媒体にない大きな強みといえるでしょう。
3.ハローワークを活用したシニア採用の流れ(登録~採用まで)
ハローワークを活用した採用活動は、シンプルな流れで進みますが、各ステップに「シニア採用ならではのポイント」があります。ここでは、求人登録から採用までの流れを整理しつつ、効果を上げるコツを紹介します。
STEP1:求人票の作成・登録
まずは、最寄りのハローワーク窓口または「ハローワークインターネットサービス」上で求人票を作成します。登録は無料で、職種・仕事内容・賃金・勤務時間などの基本情報を入力します。
ここで重要なのは、シニア層が安心して応募できる表現を意識することです。たとえば「経験を活かせる」「ブランクOK」「週3日から勤務可」といった柔らかい表現を加えることで、応募率が上がります。
STEP2:職員による内容確認と公開
登録した求人票は、ハローワーク職員による確認を経て公開されます。内容に不備があれば修正を求められることもありますが、逆にここで相談すれば文言改善や採用戦略のアドバイスをもらえる場合もあります。職員は地域の求職者層を熟知しており、「どんな言葉が響くか」「どの勤務条件が人気か」といったリアルな情報を提供してくれます。
STEP3:求職者紹介・面接設定
公開後、条件に合致する求職者をハローワーク職員が紹介してくれます。企業が求めるスキルや勤務形態を伝えておくことで、ミスマッチの少ないマッチングが期待できます。
また、希望があればハローワーク内での面接会や企業説明会も無料で実施可能です。特に地域のシニア層に直接PRできる貴重な機会となります。
STEP4:採用決定・フォローアップ
採用後も、ハローワークは「高年齢者雇用安定法」に基づく雇用環境改善や助成金の案内など、継続的な支援を行います。「高年齢者雇用開発特別奨励金」を利用すれば、ハローワークを通じて65歳以上の方を新たに雇用した場合、1人あたり最大90万円(短時間労働者は60万円)の助成を受けられます(※雇用条件により異なる)。
このように、ハローワークの活用は「登録して終わり」ではなく、職員との連携によって採用活動をブラッシュアップしていく仕組みです。人事担当者がその特性を理解して動けば、費用をかけずに優秀なシニア人材を確保することができます。
4.効果を上げる求人票の書き方|シニアが応募したくなるポイントとは?
ハローワークに求人を掲載しても、「応募が来ない」「ミスマッチが多い」と悩む企業は少なくありません。その原因の多くは、求人票の書き方にシニア層への配慮が足りていないことにあります。ここでは、経験豊富なシニア人材に響く求人票づくりのコツを紹介します。
① わかりやすく・誠実に伝える
シニア層の多くはスマートフォンよりもPCや紙媒体を利用する傾向があり、文字情報を丁寧に読む傾向があります。そのため、専門用語や略語を避け、「仕事内容」「勤務時間」「休憩」「通勤方法」などを具体的に書くことが重要です。
例:「施設管理業務(建物の清掃・簡単な修繕・見回り)」のように、業務の範囲を明確にするだけで安心感が増します。
② 年齢や体力への配慮を明示する
「高齢者歓迎」「60代以上も活躍中」「軽作業中心」「1日4時間からOK」といった記載をすることで、応募ハードルが一気に下がります。
実際、厚生労働省「職業安定業務統計(2023年)」によると、60歳以上の求職者の約7割が「体力に無理のない仕事」を最重視して応募先を選んでいます。
③ 働きがい・役割を明確にする
シニア人材は「社会とのつながり」「後進育成」「経験の活用」に価値を見出す傾向があります。したがって、「経験を活かして若手をサポート」「地域貢献につながる仕事」など、やりがいや役割を感じられる一文を入れると、応募率が高まります。
④ 写真・PR欄を有効活用する
求人票には、会社の雰囲気や職場の人間関係を伝えるためのPR欄があります。ここに「定年後に再雇用した社員も多数」「穏やかな職場環境」などの文言を加えると、シニア層に安心感を与えられます。
また、写真や企業イメージ画像を掲載できるのは「ハローワークインターネットサービス」版のみです。窓口掲示用の紙求人票には画像スペースがないため、Web版での登録もおすすめします。職場や社員の写真を1枚添えるだけでも、応募者が職場を具体的にイメージしやすくなり、応募率向上につながります。
もし可能であれば、ハローワーク職員を通じて求人票の文面や写真構成を添削してもらうのも効果的です。職員は地域で成功している事例を多数知っており、表現や見せ方の改善ポイントを具体的にアドバイスしてくれます。
このように、シニア層の「安心・理解・やりがい」の3点を意識した求人票づくりを行うことで、応募数と定着率の両方を向上させることができます。求人票は単なる募集文ではなく、企業の姿勢や文化を伝える“最初の接点”。ここを丁寧に設計することで、ハローワーク経由の採用効果が大きく変わります。
5.採用担当者が押さえるべき助成金・支援制度まとめ
ハローワークを通じたシニア採用を成功させるうえで、国の助成金制度を活用することは非常に重要です。厚生労働省では、高齢者の雇用を促進するためにさまざまな支援策を設けています。これらをうまく組み合わせることで、採用コストを抑えつつ継続的な雇用を実現できます。
① 高年齢者雇用開発特別奨励金
65歳以上の高年齢者をハローワーク等の紹介により新たに雇い入れ、一定の雇用条件を満たした場合に支給される助成金です。
支給額は、最大90万円/1人あたりが上限となります(出典:厚生労働省「高年齢者雇用開発特別奨励金」)。
この制度は、「定年後再就職」や「未経験分野への挑戦」を支援する仕組みとして人気が高く、シニア採用の入り口として最も利用されています。
② 65歳超雇用推進助成金
自社の制度を見直し、定年延長や継続雇用制度の導入など、高齢者が長く働ける環境を整備した企業に支給される制度です。
たとえば、定年を70歳まで延長した場合や、定年制を廃止した場合に助成が受けられます。
支給額は最大160万円(制度導入内容による)で、制度整備にかかるコンサルティング費や手続きの一部を補助する形となっています(出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「65歳超雇用推進助成金」)。
③ 生涯現役企業支援コース
ハローワークと連携して、高齢者の活躍を推進するための企業体制を整える企業を支援する制度です。
採用・教育・配置転換などを組み合わせた計画を策定すると、1事業所あたり最大100万円の支援を受けられる場合があります。
このコースは、ハローワークの職業相談員と企業が共同で取組計画を作成する点が特徴で、「地域ぐるみの高齢者雇用促進」を目的としています。
④ 助成金活用のポイント
助成金は「採用前の申請」「雇用契約内容の明記」「雇用期間の継続」など、条件や期限の管理が非常に重要です。
とくにハローワーク経由での採用は、職員が制度の説明から申請サポートまで対応してくれるため、専門知識がなくても安心して利用できます。
採用担当者は、求人登録の際に「助成金の対象になるか」を早めに確認しておくと、後の申請手続きがスムーズに進みます。
こうした支援策を積極的に活用すれば、企業側の負担を減らしつつ、シニアの雇用を安定的に拡大できます。ハローワークは、単なる求人窓口ではなく、「国の助成金窓口」としての機能も担っているのです。
6.企業とハローワークが連携するメリット|職業相談員の活用術
ハローワークの最大の強みは、「職業相談員」という地域と企業の橋渡し役が存在することです。求人票を出すだけでは得られない、リアルな採用支援を受けられる点が大きなメリットとなります。ここでは、企業が相談員と上手に連携することで得られる実践的な効果を紹介します。
① “応募が来ない”を防ぐ、情報共有の徹底
ハローワーク職員は、地域の求職動向や応募者の傾向を熟知しています。
たとえば「この地域では60代男性の応募が多い」「軽作業よりも警備職の希望者が多い」といった現場感のある情報を持っており、求人票の改善提案をしてくれることもあります。
定期的に職員と打ち合わせを行い、応募状況を共有することで、応募ゼロを防ぎ、求人票をタイムリーに最適化できます。
② “人柄重視”のマッチングが可能
民間求人サイトではスキルや条件マッチが中心ですが、ハローワークでは職員が求職者の人柄・姿勢を把握しているため、企業文化に合った人材の紹介が受けられます。
特にシニア層の場合、面接だけでは分かりにくい「真面目さ」「協調性」「勤務継続への意欲」など、ソフトスキルを見極めて推薦してもらえることがあります。これにより、採用後のミスマッチや早期離職のリスクを大幅に減らせます。
③ 採用イベント・合同面接会の共催
ハローワークでは、地域ごとに「高齢者就職面接会」や「ミドル・シニア向け合同企業説明会」などを開催しています。企業は無料で参加でき、ブース出展を通じて直接求職者と話すことができます。
こうしたイベントは、求人票だけでは伝わらない社風・雰囲気を伝える場として効果的であり、職員が応募フォローを行うため参加後の採用率も高まります。
④ 採用後の定着支援
採用が決まった後も、ハローワークでは「定着支援」や「職場適応支援」を実施しています。
たとえば入社後に勤務時間の調整や職場コミュニケーションの課題が生じた場合でも、職員が間に入り、双方が納得できる働き方の調整を行ってくれるケースがあります。これは特に、初めてシニア人材を受け入れる企業にとって大きな安心材料です。
ハローワークを“求人を出す場所”としてではなく、“採用パートナー”として活用することで、企業の採用活動は格段にスムーズになります。
職業相談員との定期的な連携こそが、地域密着型で安定したシニア採用を実現するカギといえるでしょう。
7.成功事例に学ぶ!ハローワークを活用した高齢者採用の実践例
実際に、ハローワークを活用してシニア人材を採用・定着させている企業は全国に多数あります。ここでは、代表的な事例を3つ取り上げ、成功のポイントを具体的に見ていきましょう。
事例①:製造業A社(従業員80名)―技術継承に成功
中小規模の金属加工会社A社では、若手社員の育成と技術継承が課題でした。そこで、ハローワークの「生涯現役支援窓口」を通じて、定年後も働きたい元職人を採用。週3日勤務・時間調整可能な勤務体系を整えることで、若手への技能伝承と品質安定を同時に実現しました。
結果として、離職率が低下し、社内研修の質も向上。ハローワーク職員が定期的にフォローを行い、雇用助成金の申請もスムーズに進んだそうです。
事例②:介護事業B社(従業員40名)―人手不足を解消
慢性的な人材不足に悩んでいた介護施設では、ハローワークの職業相談員と協力し、シニア層をターゲットにした求人を作成しました。
「週2〜3日勤務」「資格がなくても応募OK」といった条件を明確にした結果、60代後半の応募者が10名以上集まり、3名の採用に成功。
採用後もハローワークの定着支援により、体力面や勤務時間の調整を継続。結果的に離職率が改善し、利用者とのコミュニケーション力の高さからサービス品質も向上しました。
事例③:小売業C社(従業員30名)―地域密着の再雇用モデル
C社は、地域密着のスーパーマーケットを運営する企業。地元での信頼を高めるため、「地域の顔」として働けるシニアスタッフをハローワーク経由で募集しました。
「地元で長年暮らしてきた方歓迎」「お客様との会話を楽しめる方」という温かみのある求人文を工夫したことで、50〜70代の応募が殺到。現在は、レジ・品出し・見回り担当など、シニアが職場の中心的存在となっています。
これらの事例に共通しているのは、次の3つです。
成功の共通ポイント | 解説 |
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求人票をシニア目線で作成 | 「無理なく続けられる」「経験を活かせる」表現を重視 |
ハローワーク職員と定期連携 | 応募状況の改善・面接会活用・助成金情報の共有 |
採用後のフォロー体制 | 勤務時間・体調面など柔軟に対応し、定着を促進 |
これらの企業は、ハローワークを単なる“求人窓口”としてではなく、“採用・育成・定着を支える総合支援パートナー”として活用しています。
人事担当者がこの視点を持つことで、シニア採用の成果は大きく変わります。
8.まとめ|ハローワーク活用で実現する“経験を活かす採用戦略”
ハローワークは、単なる「無料で求人を出せる場所」ではありません。国の機関として、高齢者の雇用促進と企業の人材確保を同時に支援する総合的な採用インフラです。特に、経験豊富で責任感のあるシニア層を採用したい企業にとって、これほど効果的なツールはありません。
本記事で紹介したように、ハローワークを上手に活用するには、以下の3つの視点が重要です。
視点 | 内容 |
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1. 求人票の質を高める | シニア層の視点に立ち、「わかりやすく」「安心できる」表現を使うことで応募率が上がる。 |
2. 職業相談員との連携 | 採用担当者が定期的に職員と情報交換することで、地域の応募動向や支援制度を活用できる。 |
3. 助成金制度の活用 | 高年齢者雇用開発特別奨励金などを利用すれば、採用・定着コストを抑えて長期雇用を実現できる。 |
また、成功している企業は、採用後の定着支援や働き方の柔軟化にも力を入れている点が共通しています。シニア人材が活き活きと働ける環境を整えることこそ、結果的に若手育成や職場の安定化にもつながるのです。
ハローワークは全国にあり、地域密着で企業と人材を結びつける「最も身近な採用支援機関」です。
人事担当者がその可能性を十分に理解し、継続的に活用していくことで、経験を活かす採用戦略=持続可能な人材確保が実現します。
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