はじめに|「定年まで働くか」「シニア転職か」で迷う人が増えている理由
「このまま定年まで働いたほうがいいのか」「思い切って新しい仕事に挑戦したほうがいいのか」――
定年前後の人が抱えるこの悩みは、今やごく当たり前のものになりました。かつては“60歳で退職して余生を過ごす”というライフスタイルが一般的でしたが、人生100年時代を迎えた今、働く年齢の常識が大きく変わっています。
背景には、まず経済的な要因があります。年金だけでは生活が苦しく、働くことで収入を補いたいと考える人が増加しています。特に単身世帯や非正規勤務経験のある人では、老後資金への不安が強く、再雇用や再就職を前向きに考える傾向があります。
一方で、「まだ体も元気だから」「社会と関わっていたい」という心理的・健康的な理由で働く人も増えています。働くことが日々の張り合いになり、生活リズムや人との交流を維持するきっかけにもなっているのです。
また、最近は企業側でも多様な雇用制度が広がっています。定年延長制度や再雇用制度の導入、週3日勤務・短時間勤務・在宅勤務など、従来より柔軟な働き方が選べるようになりました。
その一方で、選択肢が増えた分、「どれを選ぶのが自分にとって最適なのか」が分からず、迷う人も増えています。
つまり、いま多くの人が抱えるのは「働きたいけれど、どう働くか」という課題です。
この記事では、「定年まで働く」ことと「シニア転職する」こと、それぞれのメリット・デメリットをお金・健康・やりがいの3つの視点から整理し、自分に合った選択を見つけるための考え方を紹介します。
どちらが正しいというよりも、「どちらが今の自分に合っているか」を見極めるための材料として、ぜひ参考にしてください。
比較① お金の面で見る|定年延長とシニア転職、どちらが安定する?
定年後の働き方を考えるうえで、最初に気になるのはやはり「収入の安定」です。
生活費や医療費、趣味・交際費などを考えると、年金だけでは足りないと感じる人は少なくありません。
実際、内閣府「高齢社会白書(令和6年版)」によれば、60歳以上の就業者の約7割が「生活費のために働いている」と回答しています。
ここでは、「定年延長(再雇用)」と「シニア転職」の両面から、お金の観点で比較してみましょう。
定年延長・再雇用のメリットと注意点
定年延長や再雇用制度を利用する最大の利点は、経済的な安定と安心感です。
同じ会社で継続して働けるため、仕事の内容や人間関係、勤務環境が変わらず、収入の見通しも立てやすいのが特徴です。
厚生年金や健康保険などの社会保険も継続できるケースが多く、老後の生活基盤を安定させやすい働き方といえます。
ただし、再雇用後の給与水準には注意が必要です。
多くの企業では、定年前と比べて5〜7割ほどに減る傾向があり、「同じ業務でも手取りが少ない」と感じる人もいます。
とはいえ、「今の生活を大きく変えずに、安心して働きたい」という人にとっては、継続雇用の安心感が大きなメリットになります。
シニア転職のメリットとリスク
一方のシニア転職は、働き方の自由度が高いのが特徴です。
勤務日数や時間を自分で選べるため、年金とのバランスを取りながら働くことができます。
また、これまでの経験を活かして別の業種に挑戦したり、「家の近くで短時間だけ働く」など、ライフスタイルに合わせた選択も可能です。
ただし、転職先によっては社会保険の加入条件を満たさない場合もあり、将来的な年金額に影響する可能性があります。
また、業務内容や人間関係が一からスタートになるため、慣れるまでに時間がかかることも。
安定性よりも、自分らしい働き方を優先したい人に向いている選択といえるでしょう。
バランスを取る考え方
「お金のために働く」ことが目的なら、収入の見通しが立つ定年延長が有利。
一方で、「生活リズムを整えながら、無理なく働きたい」人には、シニア転職が向いています。
どちらが正しいというより、重視する価値観(安定か、自由か)によって選ぶべき働き方が変わるのです。
また最近では、再雇用で働きながら、週末だけ別の仕事をする“ダブルワーク型シニア”も増えています。
一方を収入の柱に、もう一方を生きがいの場にする――そんな「組み合わせ型の働き方」も、今後の選択肢のひとつとして注目されています。
比較② 健康・働きやすさの面で見る|無理なく続けられる働き方とは
定年後の働き方を考えるうえで、もう一つ欠かせない視点が「健康」と「働きやすさ」です。
どんなに収入があっても、体調を崩してしまっては元も子もありません。
この年代にとって、“無理なく続けられる働き方”を選ぶことが、長く幸せに働くための前提条件です。
定年延長・再雇用の安心感と課題
定年延長や再雇用を選ぶと、慣れた職場で、これまで築いてきた人間関係をそのまま維持できます。
仕事内容や勤務時間の流れも把握しているため、精神的なストレスが少なく、安心して働き続けられるのが大きなメリットです。
職場に自分の居場所があることは、心理的な安定にもつながります。
一方で、業務内容や勤務形態がほとんど変わらない場合、体力的な負担を感じやすくなる傾向があります。
「若い頃と同じ働き方を続けるのは難しい」と感じる人も少なくありません。
特に立ち仕事や重労働が多い職種では、腰痛や膝の痛みなど、身体への負担が蓄積しやすくなる点に注意が必要です。
最近では、企業側もこうした事情を踏まえ、再雇用社員の業務を軽減したり、週3~4日勤務にするなど、柔軟な対応を進める例も増えています。
シニア転職の自由度と適応の難しさ
一方のシニア転職は、自分の体調や生活リズムに合わせて働き方を選びやすいのが特徴です。
「午前中だけ働く」「週2~3日勤務にする」「自宅から近い職場を選ぶ」など、柔軟に調整できる点は、健康を維持するうえで大きな利点です。
特に事務職・受付・軽作業・介護補助など、体力を過度に使わない仕事が増えており、70代でも現役で活躍する人が珍しくなくなっています。
ただし、転職先では新しい環境に慣れるまで時間がかかることもあります。
新しい職場文化や人間関係に適応するためには、体だけでなく“気持ちの柔軟さ”も必要です。
また、仕事内容が変わることで覚えることが増え、最初のうちは疲れを感じる人もいます。
しかし、慣れてくると「新しい刺激が健康につながる」「生活にハリが出る」と感じる人も多いのが実情です。
健康を軸に選ぶなら「自分のペース」が最優先
健康面では、どちらの選択にも一長一短があります。
定年延長は安定的で安心感があり、長年の経験を生かして働ける一方、職務内容が変わらないことで体への負担が残る場合もあります。
シニア転職は自由度が高く、自分の体調に合わせやすい反面、新しい環境に適応するエネルギーが求められます。
結論として大切なのは、「自分のペースで無理なく働けるかどうか」という視点です。
1日8時間勤務が難しいと感じるなら、週3日勤務や短時間勤務など、働くリズムを見直すことも選択肢に入れましょう。
働き続けること自体が、筋力維持や認知機能の低下防止につながるという研究結果もあります。
つまり、“無理せず続ける”ことこそが、健康と生きがいを両立させるカギなのです。
比較③ やりがい・人間関係の面で見る|自分らしく働ける選択肢は?
定年後も働く理由は、必ずしも「お金」だけではありません。
むしろ、「社会とのつながりを持ちたい」「誰かの役に立ちたい」「生きがいを感じたい」など、やりがいを重視する人が増えているのが近年の傾向です。
同じ“働く”でも、何を目的にするかによって、定年延長とシニア転職の意味合いは大きく異なってきます。
定年延長・再雇用の魅力:慣れた環境で安心して貢献できる
定年延長の最大の強みは、これまで培ってきた経験をそのまま活かせることです。
長年働いてきた職場で、業務内容や人間関係が変わらない安心感があります。
「会社の流れを理解している」「周囲との信頼関係がある」――そうした蓄積は、新人や若手では持てない大きな財産です。
特に、後輩の育成や指導に携わることで、「自分の経験が次の世代の役に立っている」というやりがいを感じやすくなります。
ただし、再雇用では役職がなくなったり、裁量権が減るケースも多く、
「責任が軽くなった分、仕事への張り合いが減った」と感じる人もいます。
同じ環境に長くいることで、新しい刺激が少なくなり、モチベーションを保ちづらいという声も聞かれます。
この点では、「安定感と安心を取るか、変化と挑戦を取るか」という選択が問われる場面と言えるでしょう。
シニア転職の魅力:新しい出会いと“再スタート”のやりがい
一方のシニア転職は、新しい環境に身を置くことで生まれる刺激や成長が魅力です。
「これまでとは違う職場で、もう一度自分の力を試したい」「地域に貢献できる仕事をしたい」など、
第二の人生を自分で設計し直すような前向きな気持ちで挑戦する人が多いのが特徴です。
特に、接客や販売、介護、教育など“人と関わる仕事”では、
お客様や利用者からの「ありがとう」の言葉が何よりのやりがいになります。
また、転職先で若い世代と一緒に働くことで、価値観の違いに刺激を受けたり、
自分の経験を伝えることで感謝されるなど、世代間の交流が生きがいになるケースもあります。
ただし、新しい職場では、慣れないルールや人間関係に戸惑うことも。
これまでのキャリアや常識をいったんリセットし、柔軟に対応する姿勢が求められます。
最初の数カ月は緊張もありますが、「自分がまだ社会の一員として必要とされている」と感じる瞬間が、転職のモチベーションを支えてくれます。
自分に合う“やりがいの形”を見極める
やりがいという言葉の中身は、人によってまったく違います。
「信頼できる仲間と穏やかに働きたい」という人もいれば、
「新しい人との出会いや挑戦が生きがいになる」という人もいます。
定年延長は、安心と信頼をベースにした“安定のやりがい”を感じやすく、
シニア転職は、変化や発見を通じた“挑戦のやりがい”を得やすい働き方と言えるでしょう。
どちらを選ぶにせよ、自分にとって「働くことで得たい満足感は何か」を明確にすることが大切です。
その答え次第で、最適な選択肢は自然と見えてきます。
後悔しないためのチェックリスト|転職を決める前に考える3つのポイント
定年後の働き方は人生の大きな分岐点です。
「もっと収入を得たい」「気持ちに張り合いがほしい」など、きっかけは人それぞれですが、焦って決めると「思っていた仕事と違った」「体がついていかない」と後悔するケースも少なくありません。
そこで、働き方を選ぶ前に整理しておきたい3つのチェックポイントを紹介します。
このステップを踏むだけで、後悔のリスクをぐっと減らせます。
①「なぜ働くのか」を明確にする
まずは、自分が何のために働きたいのかを言葉にしてみましょう。
目的が「生活費のため」なのか、「健康維持のため」なのか、「人との関わりを持ちたい」のかによって、選ぶべき仕事はまったく異なります。
お金を重視するなら定年延長のように安定した収入源を確保するのが現実的です。
一方、やりがいや社会参加を重視するなら、地域密着型の仕事やパート勤務などのシニア転職も魅力的です。
「誰かの役に立ちたい」「得意なことを活かしたい」など、自分の“働く理由”を明確にしておくことで、求人を見るときにも迷いが少なくなります。
特に60代後半以降では、「体調を保ちながら長く働けるか」という観点も大切です。目的がはっきりしていれば、無理のない判断ができます。
②「体力・生活リズム」に合っているか
次に確認したいのが、自分の体力と生活スタイルに合うかどうかです。
これまでフルタイムで働いてきた人も、年齢を重ねると疲れやすくなったり、家事や家族のケアに時間を割きたいと感じることがあります。
「通勤が遠くないか」「勤務時間が長すぎないか」「休憩はきちんと取れるか」など、実際の生活リズムに照らして考えることが大切です。
定年延長の場合は、勤務時間や業務内容が変わらないことが多いため、安定した生活リズムを保てますが、体への負担が増える可能性もあります。
一方、シニア転職では、週3勤務や短時間勤務、在宅ワークなど、自分のペースに合わせやすい働き方が選べます。
ただし、あまりにペースを落としすぎると、逆に生活に張り合いがなくなることもあるため、「少し頑張れる範囲」を意識するのがポイントです。
③「人間関係」と「職場環境」を見極める
職場の雰囲気や人との関わり方は、仕事の満足度に直結します。
特にシニア転職では、年下の上司や若い同僚と働くことも多く、価値観の違いを感じる場面もあります。
面接や職場見学の際には、社員同士の会話の様子や、年齢層のバランスを観察してみましょう。
「意見が言いやすい」「お互いを尊重し合っている」と感じられる職場なら、年齢に関係なく働きやすいはずです。
また、定年延長で同じ職場に残る場合も、部署の変更や役割の変化によって人間関係が一新されることがあります。
その際は、「今の自分の立場でどのように貢献できるか」を意識すると、円滑な関係が築けます。
最終的には、“自分が心地よく働ける環境かどうか”が一番の判断基準です。
感情ではなく“冷静な判断”を
働き方を決めるとき、つい感情的に「もう辞めたい」「新しい環境でやり直したい」と考えがちですが、冷静に整理することで後悔を防げます。
自分の目的・体力・人間関係――この3つを紙に書き出してみるだけでも、驚くほど判断が明確になります。
焦らず、自分のペースで考えることが、定年後の幸せな働き方を見つける第一歩です。
まとめ|定年後の働き方は“どちらが正解”ではなく“どう生きたいか”で決まる
定年後の働き方には、「定年延長(再雇用)」と「シニア転職」という二つの大きな選択肢があります。
どちらにもメリットとデメリットがあり、“どちらが正解か”ではなく、“自分がどんな人生を送りたいか”で決めるものです。
定年延長・再雇用の価値
定年延長は、何よりも安心と安定を得られる働き方です。
慣れた環境で人間関係や職場文化を保ちながら、これまで培ってきた経験を活かして働けます。
組織の一員として貢献し続けることができ、周囲の信頼や社会的な立場を維持できるのも大きな魅力です。
一方で、給与が下がったり、仕事内容が変わらないことで「刺激が少なくなった」と感じる人もいます。
それでも、毎日のリズムを崩さずに働けること、安定した収入があることは、心の落ち着きを保つ意味でも大きな価値があります。
シニア転職の価値
シニア転職は、新しい出会いや挑戦を通じて、自分らしい働き方を再構築できる選択肢です。
「やりたいことに挑戦したい」「地域や人の役に立ちたい」「自分の経験を違う形で活かしたい」――
そんな前向きな気持ちを実現できるのが、転職の醍醐味です。
もちろん、新しい環境に馴染むまでの不安や体力的な負担はあります。
しかし、違う世界に一歩踏み出すことで得られる学びや刺激は、何歳になっても人生を豊かにしてくれます。
「まだ社会に必要とされている」「自分の存在が誰かの支えになっている」と感じられることが、何よりのやりがいになるでしょう。
“幸せな働き方”を見つけるために
結局のところ、どちらを選ぶにしても重要なのは、「自分の軸」を持つことです。
お金、健康、やりがい――どれを最も大切にしたいのかを整理し、優先順位をつけてみましょう。
周囲の意見や一般論に左右されず、「自分にとって心地よい働き方とは何か」を考えることが、後悔のない選択につながります。
働くことは、単なる収入源ではなく、「社会とのつながり」「自己肯定感」「生きがい」をもたらす大切な要素です。
そしてその形は、人によっても、年代によっても、少しずつ変化していくものです。
定年まで働くのも、シニア転職を選ぶのも、どちらも立派な選択。
大切なのは、「今の自分にとってどんな働き方が幸せか」を見つけ、前向きに歩み出すことです。
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