1. そもそも「睡眠障害難民」とは?社会で問題視される理由
「睡眠障害難民」とは、明確な治療や改善策が見つからないまま、慢性的な不眠や睡眠トラブルに悩み続けている人々を指します。病院に行っても解決せず、処方薬や市販薬、サプリメントを試しても効果が感じられず、結果として「どこに頼ればよいかわからない」という状況に陥るのです。
この言葉が広く使われるようになった背景には、以下のような社会的な変化があります。
・高齢化による睡眠問題の増加
・精神的ストレスや孤独感の増加
・医療機関での対応の限界
・インターネット上の情報過多による混乱
厚生労働省の「国民健康・栄養調査(令和元年)」によれば、20歳以上の日本人のうち、約21.7%が「睡眠で休養がとれていない」と感じており、特に60代以降でその傾向は顕著です。これにより「眠れない高齢者」が増加し、社会的な問題として浮上しています。
高齢者の場合、単に「歳だから」と見過ごされることも多く、適切な支援が届きにくい構造が「睡眠障害難民」という問題を深刻にしています。
2. なぜ高齢者に睡眠障害が増えているのか?加齢と環境の影響
高齢になると、誰しもある程度の睡眠の変化を経験します。しかし近年、その変化が「障害」と呼べるほどの深刻な状態になる人が増えています。背景には、加齢による生理的変化と、生活・環境要因の複合的な影響があります。
【加齢による身体の変化】
1.睡眠の質が低下する
加齢とともに深いノンレム睡眠(熟睡の状態)が減り、浅い眠りが増加します。これにより、「眠った気がしない」「夜中に何度も目が覚める」といった症状が現れやすくなります。
2.体内時計のズレ
高齢者は早寝早起きになりやすく、夕方に眠気を感じ、朝方には自然と目覚めてしまう「高齢者型のサーカディアンリズム(体内時計)」が一般的です。これが社会の活動時間帯とずれることで、生活リズムの不調を招くことも。
3.排尿回数の増加
夜間頻尿などにより睡眠が中断されやすく、これも睡眠の質を著しく下げる要因の一つです。
【環境・心理的な影響】
・退職による生活リズムの変化
働かなくなると日中の活動量が減り、疲労が足りずに眠れなくなるケースがあります。
・孤独感や不安感
配偶者の喪失、社会とのつながりの希薄化などが精神的ストレスとなり、入眠を妨げます。
・コロナ禍以降の外出控え
日光を浴びる機会が減ったことで、体内時計が狂い、睡眠リズムが乱れるケースも増加しました。
このように、高齢者の睡眠障害は、単なる「老化現象」では済まされない深刻な問題です。放置してしまうと、生活全体の質の低下、さらにはうつ病や認知症のリスクにもつながるため、早期の理解と対処が求められます。
3. 眠れないことで生活にどんな支障が出るのか?シニア世代のリアルな声
「夜眠れないだけ」と軽く考えがちな睡眠障害ですが、実は日常生活のあらゆる場面に影響を及ぼします。特に高齢者にとっては、睡眠の質が健康と生活の質に直結するため、見逃せない問題です。
【睡眠不足による主な影響】
・日中の強い眠気と集中力の低下
睡眠が十分でないと、日中にぼんやりする時間が増え、家事や趣味、運転などに集中できなくなります。実際、高齢者の交通事故原因に「睡眠不足」が関係しているケースもあります。
・転倒や事故のリスク増加
足元がふらついたり、反応が遅れるなどの身体的なリスクも高まります。特に夜間トイレに起きた際の転倒は、骨折や要介護状態を招く深刻な事態につながりかねません。
・免疫力の低下や体調不良
睡眠中に回復すべき身体機能が働かず、慢性的な疲労感や風邪をひきやすくなるなどの症状も報告されています。
【リアルな声:シニア世代の体験】
ある70代男性のAさん(元製造業勤務)はこう話します。
「定年後、働かなくなったら急に眠れなくなって。夜は目が冴えるのに、朝は早く目が覚めてしまう。日中はぼーっとしてしまって、地域の活動にも参加しづらくなりました」
また、別の女性(主婦・73歳)は、
「夜中に何度も目が覚めて、寝た気がしない。体もだるくて、料理も掃除も前ほどできなくなった。病院に行っても『年齢のせい』と言われて、それ以上どうしていいかわからなかった」
このような「どこに相談すればいいのか分からない」状態こそ、睡眠障害難民が陥りやすい現状です。睡眠トラブルは精神的な孤立も招き、社会参加の機会を減らす悪循環に陥ることも少なくありません。
4. 薬に頼らない!睡眠障害を和らげる生活習慣とセルフケア法
睡眠障害の対処法というと、まず思い浮かぶのが「睡眠薬」かもしれません。しかし、高齢者にとって薬の副作用は無視できないリスクです。依存やふらつき、認知機能の低下といった副作用の懸念から、できる限り非薬物的な改善法を試すことが重要です。
以下は、シニア世代でも取り組みやすいセルフケア法と生活改善のポイントです。
【1. 起床時間を毎日同じにする】
毎朝同じ時間に起きることで、体内時計が安定しやすくなります。たとえ前夜に眠れなくても、起床時間は固定し、昼寝は30分以内に抑えるのがコツです。
【2. 朝日を浴びる】
朝に太陽の光をしっかり浴びると、体内の「メラトニン(睡眠ホルモン)」の分泌リズムが整います。散歩やガーデニングなど、軽い屋外活動を習慣にすると効果的です。
【3. 日中に体を動かす】
運動不足は睡眠の質を悪化させます。激しい運動は不要で、ウォーキングや足踏み体操、掃除などでも十分です。「疲れたら眠れる」という自然な眠気を促すには、日中の活動量がカギとなります。
【4. 寝る前のスマホやテレビを控える】
ブルーライトは覚醒作用があり、眠気を妨げます。就寝前1時間は画面から離れ、読書や深呼吸、軽いストレッチなどで心身をリラックスさせましょう。
【5. 眠れないときは無理に寝床にいない】
ベッドの上で「眠れない」と悩む時間が長いと、かえって脳が「寝室=緊張する場所」と覚えてしまいます。眠くなるまで別室で静かに過ごし、再び自然に眠気がくるのを待つのが理想です。
【補足:カフェインやアルコールも注意】
午後以降のコーヒー、緑茶などカフェインの摂取は控えましょう。また、寝酒も一時的に眠気を誘っても、睡眠の質は浅くなりがちです。
こうしたセルフケアは、毎日少しずつの積み重ねが大切です。効果が出るまで時間がかかることもありますが、長期的には薬に頼るよりも安定した睡眠のリズムが身につきます。
5. 働くことで改善する?日中活動がもたらす健康への好影響
「眠れないなら、日中の過ごし方を変えてみる」。これは睡眠障害に悩む高齢者にとって、非常に効果的なアプローチです。特に注目されているのが「再就労」や「地域活動」といった社会参加。実は、適度な仕事や役割を持つことが、睡眠リズムの安定と心身の健康に良い影響を与えることがわかってきています。
【働くことが睡眠に与える3つのメリット】
1.生活リズムが整う
仕事をすることで、起床時間や食事の時間が規則正しくなります。これにより、体内時計が安定し、夜になると自然に眠気が訪れるようになります。
2.適度な疲労が眠りを誘う
体を使って働いたり、頭を使って人と関わることで、心地よい疲労感が得られます。これが、眠気のスイッチとなり、スムーズな入眠につながります。
3.社会とのつながりで安心感が得られる
人と話す、感謝される、自分の存在が役立っていると感じられる――これらは精神的な充足感につながり、ストレスや孤独感の軽減にも効果的です。結果として、睡眠障害の根本的な要因を和らげてくれます。
【実際に再就労をした70代男性の声】
「最初は体もキツいし、働けるか不安でした。でも週2回、短時間の清掃の仕事を始めてから、朝は自然に起きられるし、夜はぐっすり眠れるようになりました。生活にメリハリができて、気持ちも前向きになりました。」
高齢者の再就労は、収入の確保だけでなく、健康維持や生活の質向上にもつながる“副次的効果”があります。実際、厚生労働省の「高齢者の就業状況に関する調査」でも、「働くことで気分が明るくなった」「体調がよくなった」と回答した人は7割以上にのぼっています。
もちろん、無理は禁物ですが、「働く=体と心を整える手段」と考えると、新しい可能性が広がってくるかもしれません。
6. まとめ:睡眠の悩みは孤立せず、社会参加と生活リズムで改善へ
「夜眠れない」「何度も目が覚める」――そんな悩みを抱えている高齢者は決して少なくありません。しかし、それを「歳だから仕方ない」と放置してしまうのは危険です。放っておくことで、体力や気力が低下し、やがては生活そのものの質が損なわれてしまいます。
本記事で紹介したように、高齢者の睡眠障害は、加齢だけでなく生活環境や社会とのつながりの希薄さも関係しています。そのため、根本的な改善には「薬に頼る」だけでなく、生活のリズムを整えること、日中の活動量を増やすこと、社会とのつながりを持つことが大切です。
特に「働くこと」は、経済的な安心感を得られるだけでなく、「人の役に立てている」という実感が自信につながり、睡眠リズムの安定にもつながります。
睡眠障害は、単なる身体の不調ではなく、生活の歯車が少しだけずれているサインでもあります。「寝つきが悪いな」「日中眠いな」と感じたら、ぜひ一度、ご自身の生活リズムや社会参加の状況を見直してみてください。
そして一人で悩まず、地域活動や仕事などを通じて、誰かとつながることを意識してみてください。それが、睡眠の悩みを抜け出す大きな第一歩となるはずです。
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