1.はじめに:高齢者の住まい選びが変わってきた
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行しています。総務省の「令和5年版高齢社会白書」によると、65歳以上の人口はおよそ3,600万人を超え、総人口の約29%を占めています。また、同白書では、一人暮らしの高齢者(特に女性)の割合が年々増加していることも明らかになっており、2040年には65歳以上の女性の4割近くが単身世帯になると予測されています(※1)。
こうした現状を背景に、従来の「自宅での一人暮らし」や「子ども世帯との同居」、あるいは「老人ホーム入所」といった選択肢だけでは、すべての高齢者のニーズに応えきれない時代に突入しています。
特に、以下のような悩みを持つ高齢者が増えています。
・年金だけでは生活が厳しい
・一人で暮らすのは不安、でも施設に入るにはまだ早い
・人と関わりながらも、自分のペースで生活したい
・老後の住まい選びに「安心」と「自由」の両方を求めたい
こうした中で近年注目されているのが、「高齢者シェアハウス」という新しい住まい方です。
高齢者同士が一つ屋根の下でゆるやかに暮らしながら、お互いを見守り合い、安心感と人とのつながりを保てる環境が整っているのが特徴です。老人ホームのような制度化された場所ではなく、自分の生活リズムを保ちながら、必要なときには助け合える——そんな暮らし方が可能になります。
本記事では、そんな「高齢者シェアハウス」にスポットを当て、その基本的な仕組みや選ばれる理由、探し方、注意点、そして今後の可能性まで詳しく解説していきます。老後の住まいに迷っている方や、将来に備えて情報を集めておきたい方は、ぜひ参考にしてください。
※1 出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」
2.高齢者シェアハウスとは?基本的な仕組みと特徴
高齢者シェアハウスとは、60歳以上のシニア世代が複数人で1つの住居を共有して暮らす、新しいタイプの住まいです。基本的には、「個室+共用スペース」という形式が多く、プライベートを守りながら、他の入居者と自然な形で交流できる環境が整っています。
■ 基本的な生活スタイル
入居者には一人一部屋の「個室」が提供され、トイレや浴室、リビング、ダイニング、キッチンなどは共用です。掃除や洗濯などは個人で行う場合もあれば、家事支援サービスがついている施設もあります。
多くのシェアハウスでは、定期的に交流イベント(誕生日会、季節の食事会、体操など)が行われており、自然と会話や笑顔が生まれる工夫がされています。あくまで「自立した生活」を維持しながらも、孤独にならない設計になっている点が、老人ホームとは大きく異なるポイントです。
■ 一般的な賃貸住宅・老人ホームとの違い
項目 | 一般賃貸住宅 | 老人ホーム | 高齢者シェアハウス |
---|---|---|---|
生活スタイル | 完全な一人暮らし | 食事・介護付きの集団生活 | 自立+適度な交流 |
月額費用の目安 | 6~10万円前後(地域差) | 15~25万円(介護度により異なる) | 5~10万円前後(サービス別) |
介護サービス | 基本なし | 常駐または連携あり | 外部サービスと連携 |
交流の有無 | ほぼなし | 多人数での共同生活 | ゆるやかなつながりあり |
生活の自由度 | 高い | 制限が多い | 自由度が高く、選択可能 |
■ 多様なスタイルが登場中
最近では、より多様なニーズに応えるために、以下のようなバリエーション豊富なシェアハウスも登場しています。
・介護予防型シェアハウス:運動や健康プログラムが充実しており、元気なうちから予防に取り組む。
・共生型シェアハウス:若者や障害者、シングルマザーなどと共同生活するタイプ。世代を越えた交流が魅力。
・女性専用、男性専用タイプ:プライバシーへの配慮や安心感を重視した設計。
高齢者シェアハウスは、「ただ住むだけの場所」ではなく、「暮らしの質(QOL)」を大切にした住まいです。孤独にならず、誰かとゆるやかにつながりながら、安心・安全な環境で老後を過ごす——そんな希望を叶える新しい選択肢として、今後ますます注目されるでしょう。
3.なぜ今「シェアハウス」という選択肢が注目されているのか
近年、60代後半〜70代の高齢者の間で「高齢者シェアハウス」という住まい方が静かに注目を集めています。
その背景には、経済的な事情だけではなく、社会的なつながりの希薄化や、心の健康を守りたいというニーズが大きく関係しています。
■ 理由①:経済的負担を抑えられるから
年金収入やパート収入だけで生活するシニアにとって、家賃・光熱費・食費といった日常的な固定費は大きな負担です。高齢者シェアハウスでは、これらの費用を入居者同士で「シェア」することで、一般的な単身暮らしよりもコストを抑えられるというメリットがあります。
例えば、都内の単身向け賃貸住宅の家賃相場が月7〜9万円であるのに対し、高齢者シェアハウスでは5〜7万円前後(光熱費・管理費込)で生活できる物件も多く、生活費に余裕が生まれやすいのです。
■ 理由②:「孤独」を避け、精神的な安定につながるから
高齢者にとって、孤独は命にかかわる大きなリスクです。厚生労働省が行った「孤独・孤立対策に関する調査」(※2)では、高齢者のうち約3割が「日常的に孤独を感じている」と回答しており、孤立によるうつ病や認知症のリスクも指摘されています。
高齢者シェアハウスでは、毎日顔を合わせる仲間がいるという安心感や、「誰かが近くにいる」という心の支えが、精神面の安定や生活への活力につながります。
何気ない会話や共同での食事、イベント参加などを通して生まれる「ゆるやかなつながり」は、干渉しすぎず、それでいて孤独にもならないという、高齢者にちょうどよい人間関係の距離感を生み出してくれます。
■ 理由③:健康維持や認知機能へのよい影響も期待されている
人との交流がある生活は、身体機能や認知機能の低下を抑える効果があることも、近年の研究で明らかになっています。
例えば、会話や軽い運動、レクリエーションに定期的に参加している高齢者は、要介護リスクが大幅に低下するというデータもあり(JAGES調査より)、シェアハウスでの生活が「健康寿命の延伸」にもつながると期待されています。
このように、「安くて便利だから」だけでなく、「心身の健康を守りながら、自立した暮らしを続けられる」点が、シニア世代から高い評価を受けているのです。
老後の住まいに不安を抱えている方にとって、高齢者シェアハウスは現実的かつ前向きな選択肢といえるでしょう。
※2 出典:厚生労働省「孤独・孤立対策に関する国民意識調査(2023年)」
4.高齢者シェアハウスの探し方|自分に合った物件を見つけるコツ
高齢者シェアハウスに関心を持っても、「どこに問い合わせればいいのか分からない」「インターネットで調べても情報が少ない」といった声は少なくありません。
高齢者向けのシェアハウスは、一般的な賃貸物件よりも数が限られており、情報も散在しているため、探し方にちょっとしたコツが必要です。
■ ポイント①:まずは“条件の優先順位”を明確にする
探し始める前に、自分がどのような住まいを求めているのかを整理しておくと、選びやすくなります。例えば以下のような項目が重要です。
・予算(月額費用):家賃、共益費、食費込みでいくらまで出せるか
・立地:自宅や子ども世帯に近い、通院のしやすさ、交通の便
・サービス内容:見守りや食事提供の有無、バリアフリー対応など
・住人の層:同性のみ/男女混合、年齢層、共生型(若者や障害者との同居)など
優先順位を決めておくことで、選択肢が絞られ、見学や相談の際にも的確な質問ができるようになります。
■ ポイント②:相談先を上手に活用する
探し方として、以下のような相談窓口・サービスを活用するのが効果的です。
相談先 | 特徴・活用方法 |
---|---|
地域包括支援センター | 高齢者福祉に特化した公的相談窓口。地域のシェアハウス情報や支援制度を把握していることが多い。 |
LIFULL介護、みんなの介護などの専門サイト | 条件を絞って検索でき、介護サービス付きや共生型物件も掲載されている。写真や費用も明示的。 |
不動産会社(高齢者住宅対応) | 地域に根ざした情報を持っており、シェアハウス型物件の取り扱いがある場合も。試住の相談も可能。 |
NPO法人や自治体のシニア支援事業 | 地域で独自に運営している高齢者住宅の紹介やマッチング支援が受けられる。 |
特に地域包括支援センターは、「入居前に確認すべきこと」や「補助制度の活用方法」など、実務的なアドバイスをもらえる心強い存在です。
■ ポイント③:内覧・試住をして“空気感”を確かめる
どれだけ条件がよくても、「実際に暮らしてみたら自分には合わなかった…」というケースは珍しくありません。そのため、可能な限り内覧や体験入居をして、実際の雰囲気を確認することが重要です。
チェックすべきポイントは以下の通りです。
・共用部分(キッチン、浴室、リビング)の清掃状態
・入居者同士の距離感や雰囲気(過干渉でないか、孤立していないか)
・スタッフや運営者の対応(説明が丁寧か、緊急時の体制が整っているか)
・設備の使いやすさ(バリアフリー、トイレや浴室の配置)
また、「入居者同士の相性」も大きな要素なので、可能であれば数回訪問したり、イベントに参加してみるのもおすすめです。
■ ポイント④:複数比較して納得のいく選択を
見学は1件だけでなく、必ず複数の物件を比較検討することが大切です。パンフレットや写真では分からない違いが、現場に行くことで見えてきます。
費用・雰囲気・立地・サービス内容のバランスを見ながら、自分にとって「無理なく、心地よく続けられるかどうか」を判断基準にするのがコツです。
高齢者シェアハウスは数が限られている分、「いいな」と思った物件はすぐに満室になることもあります。早めの情報収集と行動が、理想の住まい探しの第一歩になります。
5.高齢者シェアハウスの注意点と選ぶ際のチェックポイント
魅力的に見えるシェアハウスにも、事前に確認しておくべき注意点があります。
1. 人間関係のストレス
共同生活である以上、他の入居者との相性は重要です。生活リズムや価値観の違いによるストレスを避けるためにも、事前に見学し、雰囲気を肌で感じることが大切です。
2. 契約内容と費用の透明性
家賃だけでなく、水道光熱費、食事代、管理費などの総額がどうなっているかは要チェックです。また、退去時のルールや更新条件なども明確にしておきましょう。
3. 運営者の信頼性
運営元がしっかりした法人かどうかは非常に重要です。過去の運営実績や、利用者からの評判を必ず確認しましょう。
4. トラブル時の対応体制
「体調が悪くなったとき誰に連絡するのか」「設備の不具合が起きた場合の対応は?」といった、いざという時の体制が整っているかも事前に確認すべきポイントです。
安心して長く暮らすためにも、「価格」や「間取り」だけでなく、“人”と“運営体制”を見る目を持つことが大切です。
6.自分らしく暮らすための新しい選択肢として
高齢者シェアハウスは「住まい」であると同時に、「生活の質」や「心のつながり」を再構築する場でもあります。
特に、人生の後半を迎えて“今後どう暮らすか”を考えるとき、「人とつながること」をあきらめない住まい選びは、精神的な充足感をもたらします。
「家族と同居は難しい」「一人で住むのは不安だけど、施設にはまだ早い」と感じる人にとって、シェアハウスはその中間にある現実的な選択肢です。
今後は自治体主導の高齢者向けシェアハウスや、共生型(若者や障害者と暮らすタイプ)など、バリエーションも増えると予想されており、さらなる発展が期待されています。
7.まとめ:シェアハウスという“人とつながる住まい”の魅力
高齢者シェアハウスは、経済的な負担を軽くするだけでなく、心の健康を保つ「人とのつながり」がある住まいです。年齢を重ねると、誰しもが抱える不安——孤独、健康、お金のこと——を少しずつやわらげてくれるのが、この“ゆるやかな共同生活”なのです。
「家族とは別に暮らしている」「日中ほとんど人と話さない」「緊急時に頼れる人がいない」といった状況は、精神面だけでなく身体面にも影響を及ぼすことがわかっています。そうした孤立感を防ぎ、自然な交流が生まれる環境を提供してくれるのが、シェアハウスの大きな魅力です。
また、住人同士のコミュニケーションからは、新たな気づきや刺激、笑顔が生まれます。ときには一緒に食卓を囲み、ときにはそっと距離を置く。そうした「ちょうどいい距離感」があるからこそ、自分らしい生活を長く続けられるのです。
老後の暮らしに「豊かさ」や「生きがい」を求めるならば、ぜひ一度、シェアハウスという選択肢を視野に入れてみてください。「住む場所を変える」ことが、「人生を前向きに変える」大きなきっかけになるかもしれません。
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