1.70歳雇用時代が到来する背景と企業への影響
日本では少子高齢化が急速に進み、労働力人口の減少が深刻な課題となっています。総務省の「労働力調査」によれば、2024年時点で15〜64歳の生産年齢人口は約7,450万人と、ピーク時(1995年の8,716万人)から1,200万人以上減少しています。一方で、65歳以上の高齢者人口は3,600万人を超え、総人口の約3割を占めています。
こうした中、政府は2021年に施行された「高年齢者雇用安定法」の改正により、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務としました。これは、定年延長や再雇用制度の拡充に加え、フリーランス契約や社会貢献活動への参加支援など、多様な働き方を含めた雇用機会の提供を企業に促すものです。
企業にとって、この流れは二つの側面を持ちます。
・リスク:人件費増加や、健康面/業務適性への配慮が求められる
・チャンス:経験豊富な人材を確保でき、若手社員の教育や顧客対応の質向上につながる
特に人材不足が顕著な業種(介護、物流、建設、サービス業)では、高齢者の活用は事業継続の生命線とも言えます。単なる「延長雇用」ではなく、70歳までの雇用を前提にした組織設計や評価制度の見直しが、今後の企業競争力に直結する時代が到来しているのです。
※引用元:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2024年」
2.高齢者雇用のメリット|経験・スキル・人脈の活用価値
70歳までの雇用を前提に考えるとき、企業にとって高齢者雇用の最大の魅力は「即戦力性」と「組織文化の安定」です。若手にはない経験・スキル・人脈は、企業の持続的な成長を支える重要な資源となります。
1. 豊富な経験と業務知識
長年の業務経験で培われた知識や判断力は、特にトラブル対応や非定型業務で真価を発揮します。新人や中堅社員では対応が難しい場面でも、高齢社員は過去の事例や業界知識を活かし、的確な判断を下すことができます。
2. 高い顧客対応力
高齢社員は人当たりの良さや落ち着きが強みとなり、顧客や取引先からの信頼を得やすい傾向があります。特にBtoBビジネスや地域密着型サービスでは、長年培った人間関係が受注や契約維持に直結するケースも少なくありません。
3. 若手育成への貢献
高齢社員は「現場の知恵」を伝える役割を担えます。OJT(On-the-Job Training)やロールモデルとしての存在感は、若手社員の離職防止にも効果的です。特に技能職や現場作業では、口伝や実地指導が品質確保のカギになります。
4. ネットワーク・人脈の活用
長年の勤務で築いた業界内外のネットワークは、営業活動や新規事業の立ち上げで有効です。人脈を通じた情報収集や商談機会の獲得は、企業の競争力強化に直結します。
実際、独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2023年)では、60歳以上の雇用継続者を活用する企業の約7割が「若手社員の育成にプラスの影響があった」と回答しています。
※引用元:厚生労働省『高年齢者雇用状況等報告(2023年集計結果)』
3.70歳雇用に対応するための制度・法律のポイント
70歳雇用時代に備えるうえで、人事担当者がまず理解すべきは「法制度の枠組み」です。2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法は、従来の「65歳までの雇用確保義務」に加え、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務としています。
1. 70歳就業機会確保の選択肢
企業は、以下のいずれかの方法で就業機会を確保できます。
・定年の廃止
・定年延長(例:65歳→70歳)
・継続雇用制度(再雇用・勤務延長)
・定年後に業務委託やフリーランス契約として継続
・社会貢献事業、地域活動への就業支援
このうち「定年廃止」や「70歳までの定年延長」は制度改定のインパクトが大きく、評価・賃金制度や労働時間管理の見直しが必要となります。
2. 健康管理・安全配慮義務
労働安全衛生法に基づき、年齢に応じた健康診断や作業負荷の軽減が求められます。特に長時間労働や夜勤業務は健康リスクが高まるため、配置転換や労働時間の短縮などの工夫が重要です。
3. 公的助成金制度の活用
厚生労働省は高齢者雇用を促進する企業向けに、以下のような助成金を用意しています。
・65歳超雇用推進助成金(定年延長・廃止や継続雇用制度の導入時)
・高年齢労働者安全衛生対策助成金(安全衛生設備の導入費用補助)
これらを活用することで、制度改定や設備投資の負担を軽減できます。
4. 就業規則・契約書の改定
70歳までの雇用を制度化する場合、就業規則や労働契約書の改定が必要です。契約形態の多様化に伴い、職務内容や成果評価の明確化が欠かせません。
※引用元:厚生労働省「高年齢者雇用安定法(改正)概要」、厚生労働省「65歳超雇用推進助成金」案内
4.人材不足を補う!70歳雇用時代の実践ステップ
70歳雇用を効果的に実現するためには、単に制度を整えるだけでなく、採用から配置・定着までを一貫して設計する必要があります。以下は、企業が取るべき実践的なステップです。
1. 現状分析と採用ターゲットの明確化
まず、自社の人材不足の状況と業務内容を整理します。どの部署・業務で高齢者の経験やスキルが活かせるのかを見極め、採用ターゲットを明確に設定します。例えば、顧客対応が多い部署なら接客経験者、製造ラインなら熟練技能者が有効です。
2. 採用チャネルの最適化
ハローワークやシニア向け求人サイト(例:シルバー人材センター、民間シニア求人媒体)を活用し、求人情報を年齢不問・経験重視で発信します。また、既存社員や退職者への声かけによるリファラル採用も効果的です。
3. 勤務条件・職務内容の柔軟設計
フルタイム勤務だけでなく、短時間勤務や週数日の勤務も選択できるようにします。さらに、業務負荷や移動距離を考慮し、体力面に配慮した職務設計を行うことが重要です。
4. 受け入れ体制の整備
高齢社員が働きやすい職場環境づくりには、安全設備や休憩スペースの確保、マニュアルの見直しが欠かせません。さらに、健康診断や面談を通じたフォローアップ体制を整えることで、定着率が向上します。
5. 評価制度とモチベーション管理
年齢ではなく成果や貢献度を正当に評価する仕組みを導入します。また、役割に応じた称号付与(シニアアドバイザーなど)や、若手指導へのインセンティブ付与も有効です。
これらのステップを段階的に導入することで、70歳雇用は「負担」ではなく「組織力強化の処方」へと変わります。重要なのは、制度と現場の両面からアプローチし、長く活躍できる基盤をつくることです。
5.社内での活躍を最大化するための配置・育成の工夫
70歳雇用を成功させるためには、採用後の「配置」と「育成」がカギとなります。適切なポジションに配置し、持っている経験を最大限に活かせるよう育成を行うことで、高齢社員のモチベーション維持と企業の生産性向上が両立します。
1. 適材適所の配置
高齢社員の強みは、長年の経験に裏付けられた判断力や専門スキルです。これらが最大限発揮できる業務に配置することが重要です。例えば、直接的な体力負担が少ない品質管理、教育指導、顧客対応、社内監査などの業務が適しています。
2. OJTとメンター制度の活用
高齢社員を若手社員のOJT担当やメンターとして配置することで、経験の伝承と組織内コミュニケーションの活性化が進みます。この「知識のバトンリレー」は、企業文化や業務品質の維持にも大きな効果をもたらします。
3. スキルアップの機会提供
ICTの活用や新しい業務手法への対応力を高めるために、定期的な研修や外部セミナー参加を支援します。特にデジタルスキル研修は、業務効率化や他部署との連携促進に直結します。
4. モチベーションを高める評価制度
成果や貢献度を正当に評価し、年齢による待遇差を最小限にすることが大切です。役職や称号を付与するほか、功績を社内広報や表彰制度で可視化することで、本人の誇りとやる気が維持されます。
5. 健康維持と働きやすさの両立
定期的な健康診断、産業医との面談、柔軟な勤務時間設定など、健康と働きやすさを両立する環境づくりも欠かせません。
こうした配置・育成の工夫は、70歳雇用を単なる延長ではなく「企業の成長戦略の一部」に変える力を持ちます。特に人材不足が続く中、高齢社員の持つ経験と知恵は、組織の競争力強化に直結します。
6.まとめ|70歳雇用時代を企業成長のチャンスに変えるために
70歳雇用時代は、単なる法制度への対応ではなく、企業の成長戦略に直結する大きな転換点です。少子高齢化による人材不足は避けられない一方で、高齢者の持つ経験・スキル・人脈は、組織力強化のための重要な資産となります。
これまで見てきたように、70歳雇用を成功させるためには以下のポイントが欠かせません。
・背景理解と制度対応:高年齢者雇用安定法の改正ポイントを理解し、就業規則や評価制度を整備する
・採用から定着までの実践ステップ:ターゲット設定、採用チャネルの最適化、柔軟な勤務設計を組み合わせる
・活躍を最大化する配置、育成:適材適所とスキルアップ支援により、長期的な貢献を引き出す
この流れを戦略的に組み立てれば、70歳雇用は「コスト増」ではなく「企業成長の処方箋」に変わります。むしろ、人口構造の変化に順応し、年齢に縛られない実力主義を実現することこそが、これからの競争優位を築く鍵です。
最後に強調したいのは、70歳雇用を「義務」ではなく「企業価値向上のチャンス」と捉える姿勢です。経験豊富な人材と若手が協働する環境は、組織の知識資産を増やし、イノベーションの土壌を育てます。今こそ、高齢者雇用を未来志向で設計し、自社の持続的成長へとつなげる時です。
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