1. はじめに|なぜ「人事任せの採用」からの脱却が必要なのか
採用活動はこれまで多くの企業で「人事部の仕事」と位置づけられてきました。求人票の作成、面接調整、内定通知など、確かに人事部が中心となって進める業務は数多く存在します。しかし近年、労働力不足が深刻化し、とりわけシニア人材の活用が注目される中で、「人事任せ」だけでは十分な成果を上げられないケースが増えてきています。
その理由のひとつが ミスマッチの拡大 です。人事部だけで候補者を評価すると、実際の現場ニーズとずれが生じやすく、「採用したが活躍できない」「すぐに離職してしまう」といった問題が起きやすくなります。特にシニア層は、経験やスキルが幅広い一方で、職場ごとの相性や役割設計が重要となるため、現場の声を反映しない採用では成功しにくいのです。
また、企業全体の採用力という観点でも、経営層や現場が関与しない状態はリスクがあります。経営戦略と採用戦略が連動しなければ、「どの人材が必要か」という根本的な問いに対して正しい答えを導けません。人事だけで解決できるのはオペレーションの部分に限られ、長期的な組織の成長を見据えるなら、採用は経営課題として位置づける必要があります。
さらに、日本の労働市場の変化も背景にあります。総務省の「労働力調査(2024年)」によれば、65歳以上で就業している高齢者は約924万人と過去最多を更新しました。少子化によって若年層が減る一方、シニア層は「まだ働ける」「社会に貢献したい」という意欲を持つ人が増えており、採用対象として無視できない存在になっています。こうした変化に柔軟に対応するには、経営と現場が一体となった新しい採用体制が欠かせません。
つまり、「人事任せの採用からの脱却」とは、単なる分担変更ではなく 組織全体で人材を迎え入れる仕組みづくり を意味します。その第一歩として、経営層や現場の意識を変え、採用を全社的なプロジェクトとして捉えることが重要なのです。
2. 人事任せにすることで起きる採用課題とは?
採用を人事部だけに任せてしまうと、企業にとって大きな課題がいくつも生じます。特にシニア層を採用する際には、現場との温度差が鮮明になりやすいため注意が必要です。
① 現場ニーズとのミスマッチ
人事部は職務要件や経歴などの「表面的な条件」で候補者を判断しがちです。しかし、現場が求めているのは「即戦力として活躍できるスキル」や「チーム内での協調性」といった、より具体的で実践的な能力です。ここにずれが生じると、採用後に「想定と違った」「仕事を任せにくい」という声が出て、早期離職につながるリスクが高まります。
② 採用スピードの遅延
人事部が中心となる場合、求人票作成から面接調整までのプロセスが「人事都合」で動きがちです。結果として、現場の人材不足をすぐに解消したいのに、採用決定までに時間がかかり、機会損失を招くことがあります。特にシニア層は「すぐに働きたい」というニーズを持つ人も多いため、スピード感の欠如は致命的です。
③ 定着率の低下
人事が中心の採用では、入社後のフォローも形式的になりやすい傾向があります。現場が採用プロセスに関与していないと、新人シニア社員を受け入れる準備が整わず、「孤立」や「役割不明確」といった問題が発生しやすくなります。厚生労働省「高齢者雇用状況等報告(2023年)」でも、職場環境への適応が定着率に大きく影響していることが示されており、現場の理解と協力が不可欠であることが分かります。
④ 経営戦略との乖離
人事任せの採用は、短期的な欠員補充には対応できても、中長期の経営戦略と結びつきにくい傾向があります。たとえば「シニアを戦力として活かし、若手教育に貢献してほしい」といった経営の意図があっても、現場や人事がその目的を共有していなければ、単なる人員補充に終わってしまいます。
このように、「人事任せの採用」には構造的な課題が潜んでいます。特にシニア層の活用においては、経営と現場を巻き込んだ体制づくりが不可欠であり、従来型の採用フローを見直す必要があるのです。
3. 現場を巻き込むことで採用はどう変わるのか
採用に現場を巻き込むことは、単に人事部の負担を軽減するためではありません。組織にとって大きなメリットをもたらし、特にシニア人材の活用においては成果が顕著に表れます。
① 採用精度の向上
現場の担当者は、日々の業務を通じて「どんな人が本当に必要か」を最も理解しています。その視点を選考に取り入れることで、応募者のスキルや経験が実際の業務にどの程度マッチしているかを正確に見極められます。シニア人材の場合、履歴書に表れにくい「実務の勘」や「チームとの相性」を現場が判断できるのは大きな強みです。
② 採用スピードの加速
現場が採用プロセスに関与することで、候補者への対応が迅速になります。例えば面接日程を現場が柔軟に調整することで、選考全体のスピードが上がり、優秀な人材を他社に取られるリスクを減らすことができます。シニア層は「早く働きたい」というニーズを持つケースが多いため、このスピード感は大きな競争優位性になります。
③ 入社後の定着率向上
採用段階から現場が関わることで、受け入れ体制がスムーズに整います。面接時にすでに現場社員と顔を合わせていることで、新人シニア社員は安心して職場に溶け込みやすくなります。加えて、現場側も「自分たちで選んだ仲間」という意識が芽生え、指導やサポートにも前向きになります。これにより、入社後の孤立を防ぎ、定着率の向上につながります。
④ 組織文化の強化
現場が採用に主体的に関与することで、採用は「人事部だけの仕事」から「組織全体のプロジェクト」へと変わります。経営・人事・現場が同じ方向を向いて取り組むことで、企業文化が一層強固になり、多様な人材を受け入れる柔軟性が生まれます。とくにシニア採用では、経験豊富な人材を迎え入れることが若手育成やナレッジ共有にも直結し、企業全体の成長に寄与します。
このように、現場の巻き込みは「採用の質」と「採用後の定着」の両面に効果をもたらします。結果として、単なる人員補充ではなく、企業の未来を担う人材戦略としての採用が実現できるのです。
4. シニア採用を成功させる“現場×人事”の連携ポイント
シニア採用を成功させるためには、人事部と現場が対等に協力し、役割分担を明確にすることが重要です。単に「現場にも面接に出てもらう」という形式的な関与ではなく、採用プロセスの最初から最後まで両者が一体となることが成果につながります。ここでは、その具体的な連携ポイントを整理します。
① 採用要件のすり合わせ
最初の段階で、人事と現場が「どのようなスキル・経験が必須か」「どの業務を任せたいのか」を徹底的に話し合うことが欠かせません。特にシニア人材は経歴が多様であるため、要件が曖昧だと応募者とのミスマッチが起こりやすくなります。現場のニーズを人事が正確に翻訳し、求人票に反映することで、無駄な応募を減らし、採用効率を高めることができます。
② 面接での役割分担
面接は「人事が企業理念や雇用条件を説明し、現場がスキルや適性を見極める」という二段構えにすると効果的です。こうすることで、応募者に対して企業の魅力と実務のリアルな情報を両方伝えられ、安心感を与えることができます。特にシニア層は、仕事内容や勤務体制の詳細を重視する傾向があるため、現場の担当者が直接説明することが信頼につながります。
③ 入社後のフォロー体制
採用の成否は「入社後」に決まるといっても過言ではありません。厚生労働省の調査(2023年「高齢者雇用状況等報告」)でも、フォロー体制が整っている企業ほどシニアの定着率が高いと報告されています。人事は制度面(勤務時間、研修、相談窓口など)を整備し、現場は日常業務でのOJTやメンター制度を担う、といった役割分担を明確にすることが大切です。
④ 情報共有の仕組みづくり
採用活動は一度きりではなく継続的に行われるものです。そのため、人事と現場が採用状況や応募者の傾向、入社後の定着度を共有できる仕組みを持つことが重要です。定例ミーティングやデータベースの活用によって「次の採用に活かす」体制を整えることで、採用力が着実に積み上がっていきます。
このように、“現場×人事”の連携は、シニア採用の成功に直結します。採用要件の明確化から面接、入社後のフォローまでを一貫して協力することで、シニア人材の経験を最大限に活かし、組織の成長へと結びつけることができるのです。
5. 採用活動を強化するための具体的な施策
「人事任せの採用からの脱却」を実現するには、単に現場を巻き込むだけでなく、仕組みとして採用活動を強化する施策が必要です。特にシニア採用においては、候補者の特性やニーズを踏まえた工夫が成果につながります。以下では、具体的な施策を整理します。
① 採用チャネルの多様化
従来の求人媒体だけに頼るのではなく、シニア層に特化した求人サイトや、地域のハローワーク、シルバー人材センターなどを積極的に活用することが有効です。総務省「高齢者の就業状況(2024年)」によれば、60歳以上の再就業者の多くは「ハローワーク」や「地域のネットワーク」を通じて仕事を見つけており、チャネルの選択が成果に直結します。
② 採用プロセスの透明化
応募から内定までの流れをシンプルにし、応募者が不安を抱かないようにすることも重要です。シニア層は特に「手続きの煩雑さ」や「選考の長期化」にストレスを感じやすいため、応募から結果通知までの期間を短縮したり、面接回数を必要最小限にすることが効果的です。
③ 柔軟な雇用条件の設定
「フルタイムでの勤務は難しいが、週3日なら働ける」といった希望を持つシニア層は少なくありません。超短時間雇用やパート勤務など柔軟な雇用条件を整備することで、採用の間口を広げることができます。実際、厚生労働省の「就業構造基本調査」でも、シニア層の就業継続には「柔軟な勤務形態」が大きく影響することが示されています。
④ 採用広報の強化
「この会社で働きたい」と思ってもらうには、求人票だけでなく企業の姿勢を伝える広報が不可欠です。特にシニア層に対しては「経験を評価する文化」や「無理なく働ける制度」をアピールすることが効果的です。社内で実際に活躍するシニア社員のインタビューを公開するなど、リアルな声を伝える施策が信頼を高めます。
⑤ 組織全体での採用文化醸成
採用活動を経営・人事・現場の共通課題として位置づけ、「自分たちの仲間は自分たちで迎える」という文化を浸透させることが長期的には最も効果的です。単発の取り組みではなく、評価制度や教育体制と連動させることで、採用が企業成長の一部として定着します。
このように、具体的な施策を組み合わせることで、採用活動は「人事任せ」から「全社で取り組む戦略」へと進化します。シニア人材を効果的に迎え入れる環境が整えば、組織は経験と多様性を兼ね備えた強いチームへと変わっていくのです。
6. まとめ|人事任せの採用から脱却し、現場と共に成長する組織へ
これまでの採用は「人事部の業務」として切り分けられがちでした。しかし、労働力不足が深刻化する現在、そしてシニア層の活用が企業成長のカギとなる時代において、採用はもはや人事だけの仕事ではありません。
「人事任せの採用からの脱却」とは、経営・人事・現場の三位一体で採用を進めることを意味します。現場を巻き込むことでミスマッチを防ぎ、採用スピードを上げ、入社後の定着率を高めることが可能になります。また、経営が関与することで採用は単なる人員補充ではなく、企業戦略と直結した重要な活動として機能するようになります。
特にシニア採用においては、経験豊富な人材を迎え入れることが、若手の育成や組織全体の知見共有につながります。柔軟な雇用条件の整備や採用広報の工夫によって、多様な人材を受け入れる文化を醸成することも欠かせません。
総務省「労働力調査(2024年)」が示すように、65歳以上で就業する高齢者は過去最多を更新し続けています。この現実は、シニア層が「働き手」としてますます重要になっていることを物語っています。だからこそ、従来の「人事任せ」の枠組みを超え、組織全体で採用に取り組む体制が不可欠です。
最終的に、採用を全社で担う文化が根付いた企業は、外部環境の変化に柔軟に対応できる強さを持ちます。そしてシニア層の力を活かしながら、組織全体のパフォーマンスを底上げし、持続的な成長を実現できるのです。
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