1.脱孤食とは?|一人で食べないことがもたらす効果
「孤食」とは、家族や友人と一緒ではなく、一人で食事をすることを指します。特に高齢者の間では、配偶者との死別や子どもの独立をきっかけに孤食が増えやすくなります。一見「気楽でよい」と思われるかもしれませんが、実は健康や生活に大きな影響を与えることがわかっています。
農林水産省の調査(2022年「食育白書」)によると、孤食が続くと栄養バランスが偏りやすくなり、生活習慣病のリスクも高まると報告されています。また、孤食は「会話が減る」「楽しみが減る」といった心理的な影響を及ぼし、うつ症状や社会的孤立につながるケースもあります。
その一方で、「脱孤食」、つまり一人で食べない取り組みは、栄養改善やメンタルの安定、さらには地域交流のきっかけとなるなど、多くのメリットがあります。たとえば、地域の食堂やコミュニティ食事会に参加すると、自然に人との会話が生まれ、食事そのものが「楽しみ」や「生活のハリ」になるのです。
脱孤食は決して大げさな取り組みではなく、「誰かと一緒に食べる」ことを意識するだけで始められます。毎日の小さな積み重ねが、健康寿命をのばす大きな一歩になるのです。
2.栄養バランスを守るために必要な“共食”の力
一人で食事をすると、どうしても「簡単に済ませられるもの」「好きなものだけ」に偏りがちです。例えば、インスタント食品やパン、麺類など手軽な食事ばかりになり、野菜やたんぱく質が不足してしまうケースが多く見られます。結果として栄養バランスが崩れ、体力の低下や生活習慣病のリスクを高めてしまいます。
これに対して「共食(きょうしょく)」、つまり誰かと一緒に食べる習慣は、栄養バランスを整えるうえで大きな効果を発揮します。厚生労働省「国民健康・栄養調査(2021年)」でも、共食をしている人ほど野菜や魚、肉など複数の食品を組み合わせたバランスのよい食事をとっている割合が高いと示されています。
さらに、共食は「見られている意識」が働くため、自然と栄養に配慮した食事を選ぶ傾向も強まります。例えば「自分だけなら卵かけご飯で終わるけど、友人となら野菜炒めも作ろう」といった意識の変化が生まれやすいのです。
地域の食堂やシニアサロンで提供される食事は、栄養士が監修しているケースも多く、安心して栄養バランスのとれた食事を楽しめます。こうした仕組みを利用すれば、孤食による食生活の偏りを防ぎ、健康的な生活を維持することができます。
3.孤食が心に与える影響と脱孤食によるメンタル改善
食事は「栄養をとるため」だけでなく、「人との交流」や「心の満足感」を得るための大切な時間です。しかし、孤食が続くと、こうした心の健康に悪影響を及ぼすことが指摘されています。
東京都健康長寿医療センター研究所の研究成果(2018年)では、一人で食事をする高齢者は、誰かと一緒に食事をする人に比べて抑うつ傾向が強くなるリスクが約1.5倍高いと報告されています。孤食は「孤独感」や「疎外感」を強め、生活への意欲を低下させる要因となるのです。
一方で「脱孤食」に取り組むと、心の状態が前向きに変化します。例えば、近所の友人や地域の仲間と一緒に食卓を囲むことで、会話が増え、「今日も楽しかった」という満足感を得やすくなります。こうした小さな楽しみが、うつ症状の予防やストレス軽減に役立つとされています。
また、誰かと一緒に食べることで「社会の一員である」という実感を持ちやすくなり、自己肯定感の向上にもつながります。食事を通じて得られる心理的な効果は、シニア世代にとって心の健康を支える大きな柱になるのです。
4.外食・地域食堂・イベント参加で広がる食のつながり
脱孤食を実践するためには、「誰かと一緒に食べる場」を生活の中に取り入れることが大切です。その方法の一つが、外食や地域での共食の場を活用することです。
近年は、シニア向けの「地域食堂」や「ふれあいサロン」が全国各地に広がっています。例えば、子ども食堂を兼ねた地域食堂では、世代を超えて交流しながら食事を楽しむことができ、高齢者がボランティアとして参加するケースも増えています。厚生労働省の政策『地域共生社会』の取り組みにおいても、こうした共食の場は社会的孤立の解消に有効とされています。
また、地域の自治体やNPOが開催する「健康教室」や「料理イベント」も、脱孤食を後押しする絶好の機会です。料理を一緒に作ったり、試食を通じて自然な会話が生まれることで、食べる楽しみと人とのつながりを同時に感じることができます。
外食についても、孤食を防ぐ工夫が可能です。たとえば同じ趣味を持つ仲間とのランチ会や、定期的に友人と食事に出かける習慣を持つことで、生活に「外で人と食べる」時間を組み込むことができます。こうした小さな積み重ねが、社会参加の第一歩となり、日々の生活に彩りを与えてくれるのです。
5.働くことも“脱孤食”につながる|職場・ボランティアでの食の交流
「脱孤食」というと家庭や地域での食事を思い浮かべがちですが、実は“働くこと”も孤食を防ぐ大切な手段の一つです。職場やボランティア先では、同僚や仲間と昼食を共にする機会が自然と生まれ、規則正しい食習慣や会話の時間を持ちやすくなります。
内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(2015年)」によると、日本の高齢者は「働くことで社会とつながりたい」と考える割合が高く、その中でも「人との交流が健康維持につながる」と感じている人が多いと示されています。特に再就職や地域活動に参加しているシニアは、孤立感が少なく、食事の機会も豊かになりやすいのです。
実際、短時間のパートや地域ボランティアに参加すると、休憩時間に一緒に食事をとる習慣ができたり、仕事仲間と「今度は外でランチに行こう」といった交流が広がるケースが多く見られます。こうした習慣は、孤食防止だけでなく、新しい人間関係の構築や自己肯定感の向上にもつながります。
「食べること」と「働くこと」は一見別のテーマのようでいて、実は深く関わっています。社会とつながり、誰かと食事をする機会を持つことこそが、シニア世代の心身の健康を支える大きな力になるのです。
6.脱孤食が家計にもプラス?節約と安心を両立する工夫
「誰かと一緒に食べる」と聞くと、外食やイベント参加で出費が増えるのでは…と心配する方もいるかもしれません。しかし、実際には脱孤食は家計面でもメリットが大きい取り組みです。
例えば、地域の「共食サービス」や「ふれあい食堂」では、材料費を抑えつつ栄養バランスのとれた食事が数百円程度で提供されるケースが多く見られます。農林水産省「食育白書(2022年)」によれば、こうした取り組みは高齢者の食費負担を軽減しつつ、栄養改善や孤立防止に役立つとされています。
また、友人や近所の人と「持ち寄り食事会」を行えば、料理を分担できるため一人で全てを用意するよりも安上がりになります。結果的に、食費だけでなく調理の手間や光熱費の節約にもつながるのです。
さらに、安全面でも「誰かと食べる」ことにはメリットがあります。万が一、体調不良で食欲がないときも、仲間と予定を決めていれば「少しでも食べよう」と意識が働き、食事抜きや栄養不足を防ぐことができます。これは、健康維持に加え、医療費の抑制にもつながる効果的な工夫といえるでしょう。
脱孤食は、「お金がかかる」どころか「節約と安心」を両立できる生活習慣です。無理のない範囲で、地域の仕組みや仲間との協力を上手に活用していきましょう。
7.まとめ|食を通じて健康も人間関係も豊かにする“脱孤食”のすすめ
孤食は、高齢者の健康や心に静かに影響を与える課題です。栄養バランスの乱れや孤独感の増加は、生活習慣病やうつなどのリスクを高める可能性があります。しかし「脱孤食」に取り組むことで、これらのリスクを和らげ、心身ともに豊かな生活を実現することができます。
今回紹介したように、共食には栄養面でのメリットがあり、会話や交流によってメンタルも安定します。また、地域食堂やイベント、職場やボランティアでの食事など、さまざまな場面で「誰かと食べる機会」を作ることができます。さらに、食費の節約や安心感という家計面での利点も見逃せません。
脱孤食は、特別な取り組みではなく、日常の中で少しの工夫を積み重ねるだけで始められます。例えば「月に1度は友人と外食する」「地域の共食イベントに参加してみる」といった小さな一歩が、心と体の健康を大きく支えてくれるでしょう。
食べることは、生きることそのものです。だからこそ「一人で食べない工夫」を生活に取り入れ、食を通じて社会とのつながりを持ち続けることが、これからのシニア世代にとっての新しい健康習慣になるのです。
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