1.はじめに|「働きがい」と「成長実感」を両立する組織とは
近年、多くの企業で「働きがい」と「成長実感」をどう両立させるかが、人事戦略の大きなテーマとなっています。特に、定年延長や再雇用などでシニア人材の活躍が進む中、「モチベーションを維持しながら成果を上げてもらう」ことは、企業にとっても本人にとっても重要な課題です。
働きがいとは、単に給与や待遇の満足度ではなく、「自分の仕事が誰かの役に立っている」「組織の一員として貢献できている」と実感できることを指します。一方、成長実感とは、「自分の能力や知識が日々高まっている」「まだ成長できる」と感じられる感覚です。年齢を重ねてもこの2つを実感できる環境があれば、人材の定着率や生産性は確実に高まります。
多くの調査や研究で、働きがいを感じている人ほど、離職を考えにくく、長期的に職場に定着しやすい傾向があることが示されています。これは、働きがいが単なる感情的な満足ではなく、組織の持続性を高める重要な経営資源であることを意味しています。
では、どのようにすれば「働きがい」と「成長実感」を同時に実現できるのでしょうか?
本記事では、評価・配置・育成という3つの観点から、シニア人材を中心とした“多様な世代がともに成長できる職場づくり”の実践ポイントを解説していきます。
2.働きがいを生む仕組み|役割・貢献を“見える化”する評価設計
働きがいを感じるために最も重要なのは、「自分の仕事がどう価値を生み出しているか」が明確にわかることです。特にシニア世代は、若手の育成や現場の安定運営など、定量化しにくい貢献を担うことが多いため、その努力が正当に評価されないとモチベーションの低下につながります。
近年注目されているのが、“役割ベース”の評価設計です。これは年齢や勤続年数ではなく、「担っている役割」と「その成果・影響範囲」で評価する方法です。たとえば、ベテラン社員が「新人教育」や「チームの安定運営」といった役割を担っている場合、売上などの数字だけでなく、後進の育成度やチームの離職率改善といった定性的な成果も評価に含めることで、公正な評価が実現します。
また、評価の「見える化」も欠かせません。上司と部下の一対一面談で目標と進捗を共有し、どのような行動が組織貢献につながっているかを明確にすることで、本人が“存在意義”を感じやすくなります。近年では、OKR(目標と成果の明確化)やピアボーナス(仲間同士の評価)などの仕組みを取り入れる企業も増えています。
さらに、評価の基準を一方的に決めず、本人参加型で設計することもポイントです。自らが設定した目標に対して努力できる環境は、「やらされている」感をなくし、自律的な働きがいを育てます。
こうした評価制度の整備は、単に人事制度の改善にとどまらず、組織文化の再構築にもつながります。年齢や立場に関係なく、全員が「自分の仕事の意味」を理解し、互いを認め合える環境こそが、真の働きがいを支える基盤となるのです。
3.成長実感を支える仕掛け|挑戦できる配置とスキル共有の場づくり
働きがいと並んで重要なのが、「自分はまだ成長できる」という感覚です。特にシニア世代にとって、経験を活かしながらも新しい挑戦ができる環境は、仕事への意欲を維持するうえで欠かせません。
そのために有効なのが、“経験を活かした再配置”と“学び合いの場づくり”です。
まず、再配置では「慣れた業務の延長」ではなく、本人の強みを活かせる新しい役割を設けることが鍵となります。たとえば、現場経験の豊富な社員を「新人トレーナー」や「安全管理アドバイザー」として配置することで、本人は新しい挑戦を楽しみながら、自分の経験が組織に役立っていると実感できます。
次に、成長実感を継続させるには学びの“循環”を仕組み化することが重要です。社内勉強会やスキル共有ミーティング、OJTなどの機会を設け、シニアが若手に教える一方で、若手からも最新のツールや知識を学べる関係性を築くことで、「教える=学ぶ」状態をつくり出せます。
また、最近ではeラーニングやオンライン講座を活用し、シニア社員でも手軽にスキルアップできる環境を整える企業も増えています。特に「デジタルスキル」「業務改善ツール」「コミュニケーション研修」などは年齢を問わず需要が高く、成長実感を後押しする分野です。
こうした環境が整うことで、社員は「年齢に関係なく成長できる」という自信を持ち、企業に対しても前向きなエンゲージメントを示すようになります。つまり、挑戦できる配置と、学び合える文化が、働きがいと成長実感の両輪なのです。
4.シニア人材の経験を活かす育成法|“教える”から“共に学ぶ”へ
シニア人材の育成と聞くと、「経験があるのに今さら学ぶのか」と思われがちですが、実はこの世代ほど“学び直し”の効果が大きい層はありません。これまでの豊富な経験を基盤に、新しい知識や価値観を吸収することで、仕事への意欲や視野が広がり、チーム全体の活性化にもつながるからです。
その際のポイントは、“教える側”としての役割に留めず、“共に学ぶ”関係性を育てることです。たとえば、若手社員とペアを組み、シニアは現場経験を伝え、若手はデジタルツールや新しい手法を共有する――そうした双方向の学びの場を設けると、世代を超えた相互尊重の文化が生まれます。
また、育成を制度的に支える仕組みも有効です。定期的な1on1面談やメンター制度を導入し、「どんな学びを得たいか」「どの分野で後進に貢献したいか」を話し合うことで、本人のモチベーションと組織のニーズを一致させることができます。これは単なるOJTではなく、“キャリアオーナーシップ”を育むアプローチです。
さらに、シニア層に限定した研修ではなく、世代を横断したリカレント教育を推進することで、学びを通じたつながりが強化されます。多様なバックグラウンドを持つ社員同士が刺激し合う環境は、「自分もまだ成長できる」「仲間と一緒に変化していける」という成長実感を支えます。
このように、“教える”から“共に学ぶ”への転換は、シニアの知見を一方的に活かすだけでなく、組織全体に新しい価値をもたらします。年齢を重ねても、互いに学び合う文化がある職場――それこそが、真に働きがいのある組織の姿といえるでしょう。
5.働きがいと成長実感を両立させるための実践ステップ
「働きがい」と「成長実感」は、どちらか一方を高めるだけでは持続しません。日々の仕事の中で、両者を自然に感じられるようにするには、企業として明確なステップを踏むことが重要です。ここでは、現場で実行しやすい3つのステップを紹介します。
STEP1:個人の“強み”を再定義する
まず取り組むべきは、シニア社員一人ひとりの「強み」を再確認することです。これまでの経験を棚卸しし、「どの業務で成果を出してきたか」「どんな場面で周囲に貢献してきたか」を言語化することで、本人の自己効力感を高められます。これをチーム内で共有すれば、自然と“この人に相談しよう”という信頼の輪が広がり、役割の明確化にもつながります。
STEP2:貢献と成長の“見える場”を設ける
次に、貢献や学びを可視化する仕組みをつくります。たとえば、月1回の共有会で「できるようになったこと」「周囲から感謝されたこと」を発表する時間を設けるだけでも効果的です。社内SNSや掲示板で称賛コメントを共有する「ありがとう投稿制度」なども、働きがいの醸成に寄与します。こうした場があることで、社員は「成長を認められている」「自分の存在が価値になっている」と実感できます。
STEP3:世代を超えた“協働プロジェクト”を推進する
最後に、世代を超えたチームづくりを推進しましょう。若手がアイデアを出し、シニアが実行支援やリスク管理を担う――そんな補完的な関係は、双方にとって学びと挑戦の場になります。結果として、年齢に関係なく成長実感を得られる文化が根づき、組織のエンゲージメントが高まります。
これらのステップを継続的に実践することで、「自分の仕事に意味がある」「まだ成長できる」というポジティブな意識が浸透します。働きがいと成長実感は、制度で与えるものではなく、日々の関わりと仕組みの積み重ねから生まれる文化なのです。
6.まとめ|働きがい×成長実感で組織は持続的に強くなる
「働きがい」と「成長実感」は、企業にとって単なる“従業員満足度”ではなく、組織の持続的成長を支える二本柱です。どちらか一方に偏ると、長期的なモチベーションの維持は難しくなります。たとえば、働きがいはあっても学びの機会がなければ停滞感が生まれ、逆に成長の場があっても貢献が見えなければ自己価値を感じにくくなります。
そのため企業は、制度や仕組みを超えて「社員一人ひとりが自分の成長を実感し、仲間と価値を生み出す」文化をつくる必要があります。その核となるのが、公正な評価・挑戦できる配置・共に学ぶ育成という3つの仕掛けです。これらが揃えば、シニア世代も若手も区別なく、「自分の経験が活かせる」「まだ成長できる」と感じられる組織に変わります。
そして何より大切なのは、経営層や人事が“心理的安全性”を意識することです。意見を言いやすく、互いを尊重し合える職場では、世代を問わず新しい挑戦が自然と生まれます。結果として、企業全体のイノベーション力や定着率、エンゲージメントが高まり、長期的な競争優位を築くことができます。
働きがいと成長実感の両立は、一朝一夕では実現できません。しかし、小さな改善を積み重ねることで、組織の空気は確実に変わります。シニアの経験と若手の感性が融合し、誰もが“今この瞬間も成長している”と感じられる職場――それこそが、これからの時代に求められる「強い組織」の姿です。
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