老老介護を乗り越えるヒント!シニア世代が知っておきたい備えと支援策

生活

1.老老介護・認認介護とは何か?

老老介護の定義と現状

「老老介護」とは、65歳以上の高齢者が、同じく高齢の配偶者や家族を介護している状態を指します。日本では高齢化の進展に伴い、この老老介護が当たり前の風景になりつつあります。

厚生労働省の「国民生活基礎調査(2022年)」によれば、在宅介護を担う人のうち約7割が60歳以上、そのうち65歳以上が約30%にのぼっています。つまり、介護を「する側」も「される側」も高齢者という構図が、日本の介護の現場で日常化しているのです。

特に注目されるのが、夫婦による老老介護です。例えば夫が脳梗塞で倒れ、妻が介護にまわるケース。妻もまた70代・80代と高齢であるため、自身の体力や健康にも限界があります。それでも「夫の面倒は自分が見なければ」という思いから、介護を一手に抱えてしまい、結果として共倒れに至ることも少なくありません。

一見、夫婦の絆や家族愛のように見える老老介護ですが、実際は支援を受けられない・頼れないという現実が背後にあります。「子どもには迷惑をかけたくない」「外部に知られるのが恥ずかしい」といった思いが、孤立を深める要因になっているのです。


認認介護というさらに深刻なケース

さらに課題を複雑にしているのが、「認認介護(にんにんかいご)」と呼ばれるケースです。これは、認知症の高齢者同士が互いに介護し合う状態で、認知症の夫を認知症の妻が介護している、あるいは高齢のきょうだい同士で暮らしながら介護をしているといった事例が該当します。

この状況の深刻さは、介護者も介護される側もともに判断能力や記憶力に課題を抱えている点にあります。たとえば、薬の飲み忘れ、火の消し忘れ、転倒・けがの放置など、命に関わるリスクが日常に潜んでいます。

認認介護が社会問題化している背景には、次のような要因があります。

認知症患者の増加:厚生労働省の「認知症施策推進大綱(2019)」では、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人(約730万人)が認知症になると予測されています。

単身世帯、老夫婦のみの世帯の増加:高齢者のいる世帯のうち、夫婦のみまたは単身の世帯は全体の約6割に達し(総務省「令和2年国勢調査」)、家族の支援が得られない状況が広がっています。

介護サービスの人手不足:訪問介護やデイサービスなどの利用ニーズが増える一方で、介護人材の不足により支援が届かないケースも増加中です。

つまり、認認介護とは「制度があっても、使えない・届けられない・選べない」人々が生み出されている現象でもあるのです。

このような状態を放置すれば、高齢者の孤独死や虐待、心中といった痛ましい事件につながるリスクも高まります。社会全体で問題を直視し、備えと支援の仕組みを見直すことが求められています。


2.なぜ老老介護が増えているのか?社会背景を解説

高齢化社会と平均寿命の延び

老老介護が急増している背景にある最大の要因は、言うまでもなく日本の急速な高齢化です。

総務省の「令和5年版 高齢社会白書」によれば、2023年時点で日本の総人口に占める65歳以上の割合は29.1%。世界で最も高い水準にあり、まさに「超高齢社会」と呼ばれる状況です。また、75歳以上の人口だけでも総人口の15%以上に達しており、「後期高齢者による介護」も日常の一部になっています。

加えて、平均寿命の延伸も重要な要因です。厚生労働省のデータによると、2022年の平均寿命は、男性が81.05歳、女性が87.09歳。寿命が延びること自体は喜ばしいことですが、健康寿命(介護を必要とせず自立した生活ができる期間)との差は依然として大きく、平均で約10年の介護期間が存在するとされています。

この「長寿=介護期間の長期化」が、老老介護のリスクを大きくしているのです。


介護施設や人手不足の影響

もうひとつの要因は、介護サービスを取り巻く供給体制の限界です。

まず、特別養護老人ホームなどの公的施設は需要に対して供給が追いついておらず、入所待ちの高齢者が全国で約30万人にのぼると言われています。軽度の要介護者や認知症高齢者は優先順位が低く、結果として自宅での介護を選ばざるを得ない状況が生まれています。

また、在宅介護を支える訪問介護やデイサービスも、深刻な人材不足に悩まされています。令和3年度の介護労働実態調査によれば、全体の約6割の事業所が「人手不足」と回答し、訪問系サービスではその割合が7割を超える結果となっています。

さらに、家族構成の変化も見逃せません。かつては三世代同居が主流でしたが、現在は夫婦のみ世帯や単身世帯が増加しており、身近に頼れる家族がいないというケースが増えています。2020年の国勢調査では、高齢者世帯のうち「単身」が約4割、「夫婦のみ」が約3割という結果で、約7割が“自分たちだけ”で日々を支え合っている状況にあるのです。


老老介護が増える背景には、単に高齢者が増えたというだけでなく、支える仕組み・支えられる環境が追いついていないという現実があります。
この構造的な問題に対して、制度・地域・個人それぞれのレベルで対応が求められています。


3.実際に介護をしているシニアの声

70代女性のケース:夫を介護しながら働く日々

Aさん(70代・東京都在住)は、5年前に夫が脳梗塞で倒れて以来、日常の介護を担っています。夫は軽度の片麻痺と認知症を併発しており、会話はできるものの、食事・排泄・入浴などの多くに介助が必要な状態です。

Aさん自身も高血圧と膝の痛みに悩みながらの介護生活。それでも「自分がやらなくては」という一心で、介護サービスや家事をこなす日々が続いています。月に数回、近所のデイサービスを利用してはいるものの、それ以外は常にAさんが一人で夫を見守っています。

そんなAさんが語るのは「介護が孤独だったら、きっと続かなかった」という言葉です。Aさんは、週に2日、地域のスーパーでレジのパートを続けています。介護の合間に短時間でも外で働くことは、収入の補填だけでなく、「社会とのつながりを感じられる貴重な時間」と言います。

「職場では“おつかれさま”って言ってもらえるんです。それだけで救われる気持ちになりますね」

Aさんのように、介護と仕事を両立することで、精神的なバランスを保っているシニア世代は多く存在します。体力的な負担が大きい分、心の拠り所が必要なのです。


「誰かに頼ることの大切さ」に気づいた体験

別のケースとして紹介したいのは、認認介護に直面したBさん(80歳・神奈川県)。Bさんは軽度の認知症を患いながら、同じく認知症の妻(78歳)と二人暮らしをしていました。ある日、ガスの消し忘れに気づかず、小規模ながら火災事故を起こしてしまい、近所の通報で事なきを得ました。

それを機にBさん夫婦は、地域包括支援センターに相談。介護認定と併せて、訪問介護サービスや見守り支援、家族との連携支援を受けるようになりました。現在では娘夫婦のサポートも加わり、事故もなく安定した生活を送れています。

Bさんは振り返ります。

「ずっと“自分でなんとかしなきゃ”と思っていたけど、支えてくれる人がいた。もっと早く相談していればよかった」

この言葉からわかるように、老老介護や認認介護の苦しさは、“孤立”によって増幅するのです。そして、多くの高齢者が「誰にも頼れない」「頼りたくない」と思い込んでいる現実もあります。


こうした実体験は、他人事ではありません。特に70代以降のシニア世代にとって、自分が介護する側にも、される側にもなる可能性があることを示唆しています。
だからこそ、「誰かとつながる」「支援にアクセスする」姿勢が、老老介護の負担を軽減する第一歩になるのです。


4.老老介護に備えるためにできること

介護保険制度や地域包括支援センターの活用

老老介護や認認介護は、ある日突然始まることもあります。だからこそ、事前の備えが何よりも大切です。そしてその第一歩は、「公的制度を知り、使いこなすこと」です。

特に活用したいのが、介護保険制度です。要介護・要支援認定を受けると、訪問介護(ヘルパー派遣)やデイサービス(通所介護)、ショートステイ(短期入所)、福祉用具のレンタルなど、さまざまな支援を1割~3割の自己負担で利用できます。

要介護認定を申請するには、お住まいの市区町村役所または地域包括支援センターに相談しましょう。地域包括支援センターは、介護・福祉・医療・保健などに関する総合的な相談窓口で、高齢者の「暮らしの守り手」です。支援が必要な高齢者を地域全体で支える体制づくりを行っており、介護認定だけでなく、家族の介護相談、サービス事業者の紹介、ケアマネジャーとのマッチングまで、幅広い支援を提供しています。

【参考リンク】厚生労働省|地域包括支援センターについて
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001401860.pdf

特に介護に慣れていない人や、認知症への不安がある人は、制度の専門家の力を借りることが不可欠です。


身近な人との情報共有と支え合い

制度だけでは解決できないのが、日常の精神的な孤独実務的な負担の多さです。そのために必要なのが、家族や地域との「つながり」です。

たとえば、子ども世帯が遠方にいる場合でも、定期的に電話やオンラインで状況を共有するだけで、心の支えになります。「今こんな状態」「こういう不安がある」と伝えることで、見守りのきっかけにもなります。

また、ご近所や自治会、サークル活動などの地域コミュニティに顔を出すことも重要です。ちょっとした雑談の中から「介護が大変なら、○○センターに相談してみたら?」とアドバイスをもらえることもあります。

さらに、「介護者同士の集まり(介護カフェや家族会)」も全国に広がっています。自分だけがつらいわけではない、同じ悩みを持つ人がいる――その事実だけでも、大きな励ましとなるのです。


介護は「ひとりで背負うもの」ではありません。
制度の利用と周囲とのつながりという両輪を意識することで、老老介護の不安は必ず軽減できます。


5.仕事を通じて社会とつながり続けるという選択肢

介護と両立しやすい働き方とは?

老老介護の現場では、介護者である高齢者自身も体調に不安を抱えていたり、年金収入だけでは生活が成り立たなかったりと、経済的・精神的な負担が重なっています。そんな中で注目されているのが、無理のない範囲で働きながら介護と両立するという選択です。

たとえば、以下のような働き方は介護との相性がよく、多くのシニアが実践しています。

短時間勤務、週2〜3日のパート勤務
早朝や午前中だけの仕事(午後は介護に充てられる)
職場が自宅近くにある、通勤負担が少ない仕事
勤務日やシフトの相談がしやすい柔軟な職場

介護にかかる時間は一律ではなく、家族の状態や使える支援制度によっても変わります。そのため「○時間しか働けないから無理」ではなく、働く側の事情に寄り添ってくれる職場選びが鍵になります。

近年では、シニア向けの求人を専門に扱う求人サイトや人材紹介サービスも増えており、「介護中であることを前提に応募OK」と明記されている求人もあります。そうした職場は、介護休暇や急な対応にも柔軟で、安心して働き続けられる環境が整っていることが多いです。


仕事が心の健康につながる理由

働くことで得られるものは、収入だけではありません。とくに老老介護のように、日々の介護で「社会との接点」を失いやすい環境にいる高齢者にとって、仕事は貴重な社会参加の機会となります。

実際に介護中のシニアたちからは、以下のような声が多く聞かれます。

・「職場で“ありがとう”と言われると、自分にも役割があると感じられる」
・「毎日介護だけだと気が滅入る。仕事が気分転換になっている」
・「仕事のことを考えている時間があると、視野が広がる」

このように、仕事には自己肯定感の回復ストレスの緩和という側面もあります。さらに、職場の人と話すことで情報交換ができたり、同じ立場の人と出会えたりと、孤立を防ぐ効果も高いのです。

とくに70代以降の女性にとっては、「家族のために」「誰かの役に立ちたい」という気持ちが働く動機になることが多く、介護経験を活かして介護補助や見守りスタッフとして働く人も増えています。


介護と仕事の両立は、簡単ではありません。しかし、うまく生活に組み込むことができれば、それは経済的な支えだけでなく、心の健康を保つ大切な柱になります。


まとめ:今こそ「ひとりで抱え込まない」準備を

老老介護、そして認認介護――これらは、いまや一部の特別なケースではなく、多くのシニアにとって明日にも起こりうる身近な問題です。高齢者が高齢者を介護する時代において、最も大切なのは「抱え込まない勇気」ではないでしょうか。

介護は、誰か一人の努力で完結できるものではありません。行政の制度、地域の支援、家族の理解、そして自分自身の工夫。情報・人・制度の三本柱が揃って初めて、安心して介護と向き合う環境が整います。

介護の現実に早く気づき、備えることは、自分のためでもあり、パートナーや家族の未来を守ることにもつながります。そして、介護が始まってからも「働く」という選択肢があることを知っておけば、精神的にも経済的にも余裕を持った暮らし方ができるでしょう。

また、仕事を通じて社会とつながり続けることで、「自分にも役割がある」「まだできることがある」と実感でき、人生の後半を前向きに過ごす原動力になります。

たった一人で抱える必要はありません。
あなたのまわりには、助けてくれる制度や人が、必ずいます。
そして、あなた自身にも、まだまだ社会で輝ける場がきっとあるはずです。

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