1. ジョブ型人材マネジメントとは?|いま注目される背景と基本の考え方
近年、企業の人材マネジメントの在り方が大きく変わりつつあります。その中で注目を集めているのが、「ジョブ型人材マネジメント」です。ジョブ型とは、一言でいえば“人”に仕事を割り当てるのではなく、“仕事(職務)”に適した人をあてがうという考え方です。
従来の日本型雇用では、社員は「ゼネラリスト」として幅広い業務を担い、部署異動や昇進も会社主導で行われてきました。これは「メンバーシップ型」と呼ばれ、長期雇用と社内ローテーションを前提とした仕組みです。
一方、ジョブ型は海外ではスタンダードなマネジメント手法で、あらかじめ職務内容や責任範囲を明確に定義し、その要件に最も合うスキル・経験を持つ人を登用します。職務記述書(ジョブディスクリプション)に基づき、採用・評価・報酬が決まるのが特徴です。
このジョブ型が日本でも注目され始めた背景には、以下のような要因があります。
・組織の専門性/生産性の向上が求められている
・リモートワークや副業解禁による“働き方の多様化”
・年功序列/終身雇用制度の限界が顕在化している
・DX推進により、スキルや役割に基づいた人材配置が急務になっている
特に、大手企業を中心に、業務の見える化と人材の適所配置を目指してジョブ型を導入する動きが広がっています。2023年に経団連が発表した調査によれば、「ジョブ型雇用を導入済み、または導入を検討している企業」は全体の約6割に達しているというデータもあります(※出典:経団連「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果2023」)。
これからの人材マネジメントにおいて、「誰に、どんな仕事を任せるか」を明確にするジョブ型の考え方は、企業の競争力を左右する重要な視点となってきています。
2. メンバーシップ型との違いとは?企業文化に与えるインパクト
ジョブ型人材マネジメントを正しく理解するためには、従来の「メンバーシップ型」との違いを明確にすることが重要です。両者の違いは、単なる雇用形態や評価制度にとどまらず、企業文化そのものにも大きな影響を与えるからです。
メンバーシップ型の特徴
日本で長年根付いてきた「メンバーシップ型」は、以下のような特徴を持っています。
・人を基準にした雇用(どんな仕事を任せるかは後で決定)
・新卒一括採用、年功序列、終身雇用が前提
・職務の境界が曖昧で、部署異動や配置転換も柔軟
・「一緒に頑張る仲間」としてのチーム意識が強い
この仕組みは、高度経済成長期のような右肩上がりの時代には、長期育成・忠誠心の醸成に効果的でしたが、変化のスピードが速い現代においては、非効率やミスマッチの温床となることがあります。
ジョブ型の特徴
一方で、ジョブ型人材マネジメントは以下のような構造です。
・仕事(職務)を基準にした雇用
・採用/評価/昇給すべてがジョブディスクリプションに基づく
・専門性や成果に応じた処遇が明確
・人材の流動性が高まり、プロフェッショナル意識が重視される
職務が明確化されることで、従業員は自分の役割に集中しやすくなり、成果主義との相性も良くなります。また、組織全体が「何を達成するべきか」を軸に動くようになり、戦略的人材配置が可能になります。
企業文化に与える影響
この転換により、企業文化にも以下のような変化が現れます。
・個人のキャリア自律意識が高まる
・成果やスキルを重視する公平性のある評価
・年齢や勤続年数にとらわれない柔軟な登用・再配置
・無駄な人員配置や「何をしているか分からない部署」が減る
ジョブ型の導入は、単なる制度改革ではなく、「組織の在り方そのものを問い直す」契機とも言えるのです。
3. シニア人材が活きる理由|経験と専門性が“職務ベース”にフィットする
ジョブ型人材マネジメントが注目される中で、シニア人材との相性の良さが見直されています。年齢や在籍年数ではなく、「その人が持つスキルや経験」が評価の中心になるジョブ型は、まさに経験豊富なシニア層が活躍しやすい土壌を作り出す仕組みだからです。
シニア人材の強みは“経験知”
高齢者の多くは、長年にわたり特定の業務や業界に従事してきた中で、豊富な実務経験・判断力・問題解決能力を蓄積しています。これは一朝一夕では得られない「経験知」であり、定型業務から応用的な対応まで幅広くこなせる人材が多いのが特徴です。
ジョブ型では、こうした「経験を活かせるポジション」を明確に設定できるため、シニア人材の採用・配置がしやすくなります。例えば以下のような職種では、ジョブ型による効果が出やすい傾向があります。
・技術顧問や品質管理などの専門職
・後進育成やOJTを担うメンター職
・事業開発/営業戦略などの企画系職務
これまでのメンバーシップ型では、「若い総合職に幅広く経験を積ませる」ことが優先され、シニア人材の力が埋もれてしまう場面も少なくありませんでした。ジョブ型ではその逆で、職務内容が明文化されているため、「この仕事にはこの経験が必要」と言える基準が明確になります。
年齢ではなく“できること”で評価される
また、ジョブ型は「成果」「スキル」「役割」に基づいて評価が行われるため、年齢や上下関係にとらわれることが少なくなります。たとえば、60代の社員が30代の上司に報告するという関係も、職務上当然のこととして受け入れられやすくなります。
このように、シニア人材が「年齢」や「定年前提の役割」ではなく、「実力」で評価される仕組みは、本人のモチベーション維持にもつながります。実際に、ジョブ型を導入した企業では、定年後の再雇用人材の意欲向上や、継続雇用制度の柔軟化が進んでいるケースもあります。
企業にとってのメリットも大きい
シニア人材の活用は、単に人手不足を埋めるためではなく、組織のナレッジ蓄積と若手育成にも効果を発揮します。経験に裏打ちされた助言やトラブル対応力は、マニュアルだけでは補えない貴重な経営資源です。
4. 実際の導入ステップ|移行時に必要な制度設計と注意点
ジョブ型人材マネジメントを導入する際、単に評価制度や職務定義を変更するだけでは十分ではありません。組織の在り方や人事制度全体を見直す必要があり、段階的な導入と社内理解の醸成が不可欠です。ここでは、導入までのステップと、その際に注意すべきポイントを紹介します。
【STEP1】職務の洗い出しとジョブディスクリプションの作成
導入の第一歩は、「どの仕事をジョブ型で管理するか」を明確にすることです。すべての業務を一斉に職務定義化するのではなく、まずは専門性が高い職種や、役割が明確な業務から始めるのが現実的です。
そしてそれぞれの業務に対して、ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成します。内容としては、以下の要素を含めるのが一般的です。
・具体的な業務内容
・必要なスキル/経験/資格
・責任の範囲
・所属部署/上司との関係
・成果の評価基準
【STEP2】評価制度と報酬制度の見直し
ジョブ型を効果的に機能させるためには、職務に応じた評価制度と処遇の仕組みが不可欠です。これにより、「年齢」や「社歴」ではなく、「成果」と「職務の難易度」で報酬を決定できるようになります。
特にシニア人材の活用を見据える場合、「役職を外れても専門性で高評価される仕組み」や、「定年後も実力に応じて報酬が設定される再雇用制度」の設計がポイントになります。
【STEP3】マネジメント層と従業員への説明・理解の促進
制度の変更は、現場にとっては大きな混乱を招きかねません。そのため、丁寧な説明会やフィードバック機会の設計が求められます。
特に、長年メンバーシップ型で育ってきたマネジメント層には、ジョブ型のメリットだけでなく「自分たちの役割の変化」も伝えることが大切です。納得感がないまま制度だけが進むと、形骸化しやすくなります。
【STEP4】運用後の改善と柔軟な見直し
制度導入後は、定期的に見直し・改善を行う仕組みを設けることが重要です。ジョブディスクリプションの内容が実態と合っているか、評価が偏っていないかなど、PDCAサイクルを回しながら育てていく視点が求められます。
また、シニア人材の登用に関しても、実際に成果を出している職務や配置パターンを検証し、他部門への展開などを検討すると効果が広がります。
5. シニア活躍のカギは“職務の見える化”|役割を明確にすることの重要性
ジョブ型人材マネジメントにおいて最も重要な要素の一つが、「職務の見える化」です。これは単に業務内容を整理するだけでなく、「誰が、どこで、何の責任を持って働いているのか」を組織全体に共有するプロセスでもあります。
この“見える化”は特にシニア人材の活躍促進において大きな効果を発揮します。
なぜ「見える化」が必要なのか?
これまでの日本型雇用(メンバーシップ型)では、職務や責任があいまいなまま、状況に応じて人を動かすことが一般的でした。そのため、シニア層がどのような経験やスキルを持っていても、それを活かす場所や機会がうまく用意されないという問題がありました。
ジョブ型における職務の見える化は、それらの機会損失をなくすための基盤になります。
たとえば、
・専門性を活かせるポストを新設する
・後進育成など、役割を限定した職務設計を行う
・体力負担の少ない業務を明確に分離する
といったアプローチにより、年齢や体力に応じた貢献の形を設計しやすくなります。
職務の見える化がもたらすメリット
1.ミスマッチの解消
→ 本人の適性に合った職務にアサインできるため、定着率・満足度が向上。
2.役割分担の明確化による効率化
→ 「誰が何をやっているかわからない」を防ぎ、属人化のリスクを回避。
3.再雇用後の活用にも効果的
→ 定年後の再雇用においても、具体的な職務に沿った契約が可能となり、雇用契約が曖昧にならない。
4.周囲の理解と納得感
→ シニア人材に与えられた役割が明確になることで、周囲も協力しやすくなる。
導入のポイント
職務の見える化は一朝一夕で進むものではありません。シニア層に限らず、全社員の業務内容を丁寧に棚卸しし、対話を重ねながら構築していくことが大切です。職場によっては「書かれていないが重要な仕事」が埋もれていることも多く、形式的な職務記述書では不十分な場合もあります。
特にシニア人材の職務設計には、柔軟性と尊重の視点が求められます。年齢に配慮しながらも「戦力」として見える形で役割を提示することで、当事者のモチベーションと組織内の信頼が高まります。
6. 評価制度はどう変わる?年齢ではなく成果で評価する時代へ
ジョブ型人材マネジメントの導入において、最も大きく変わるのが評価制度です。従来の「年功序列」や「一律の評価基準」ではなく、“職務の成果”をベースにした客観的かつ個別最適な評価が求められるようになります。
これは特にシニア人材にとって、大きな転換点になります。
従来の評価制度の限界
これまでのメンバーシップ型人事制度では、以下のような課題がありました。
・年齢や勤続年数が評価・報酬に大きく影響
・管理職にならないと給与が上がらない「役職一本線」型のキャリアパス
・定年後は単純業務やアシスタント的業務が中心となり、正当な評価が得にくい
この仕組みでは、シニア人材の多様なスキルや実績が見えにくく、「やる気があっても評価されない」状態が生まれやすくなります。
ジョブ型評価の考え方
ジョブ型では、各職務に対して「何を達成すべきか(KPIやKGI)」が明確に定義され、それに対する成果や貢献度で評価されます。評価項目には、以下のような視点が含まれることが多いです。
・職務記述書に沿った達成度
・専門知識や技能の活用度
・問題解決力やリーダーシップの発揮状況
・チームや後進への影響/支援貢献
このように、年齢や過去のポジションにとらわれず、現在の職務における「価値提供」が評価軸になるため、シニア人材にとっては再び活躍の場が開かれることになります。
再雇用や副業でも応用できる評価設計
ジョブ型評価制度は、再雇用社員や副業・業務委託といった多様な働き方にも適応できます。
たとえば、60代で再雇用された技術者に対して「若手の技術支援」というジョブディスクリプションを設けた場合、成果の評価基準を以下のように設計できます。
・技術的な問い合わせ対応件数
・後進からのフィードバック評価
・トラブル発生時の初動対応実績
このように、役割に応じたオリジナルの評価指標を作れるのがジョブ型の強みです。
評価制度改革で得られる組織的メリット
・モチベーション向上:年齢に関係なく成果で評価されることで、意欲的に働き続けられる。
・人材の流動性向上:柔軟なキャリア設計が可能となり、組織に新しい風が入る。
・管理職以外の貢献も可視化:プレイヤーとしての専門性を持った人材も正当に評価される。
ジョブ型への移行は単なる評価制度の変更にとどまらず、企業が「どんな価値を社員に求めるのか」を再定義するプロセスです。その中でシニア人材の再評価が進み、年齢に関係なく力を発揮できる社会へとつながっていきます。
7. まとめ|ジョブ型は年齢に縛られない“実力主義”を後押しする仕組み
ジョブ型人材マネジメントは、単なる「制度のトレンド」にとどまらず、企業と働く人の関係を根本から見直す“働き方の再設計”です。
職務に基づいた明確な人材配置、成果に応じた評価、そしてスキルと経験を重視する登用――これらの考え方は、年齢や社歴といった曖昧な指標ではなく、“できること・やってきたこと”を公正に評価する文化を育てていきます。
この変化の中で、豊富な経験と知見を持つシニア人材は確かな戦力として再評価されつつあります。従来の「定年退職=終わり」という発想から、「職務に応じて年齢を超えて活躍する」フェーズへと、企業も社会もシフトしています。
ジョブ型導入で得られる企業の未来像
・組織全体のパフォーマンス向上:適材適所が進み、専門性が活きる配置が可能に
・多様な人材の活躍推進:年齢・性別・雇用形態に関係なく、それぞれの強みが発揮できる
・柔軟で持続可能な人材戦略の実現:流動性と安定性のバランスがとれた人材運用が可能に
これからの企業にとって、「年齢を重ねた人材をどう活かすか」は避けて通れない課題です。ジョブ型人材マネジメントは、その答えを与えてくれる有効な選択肢の一つです。
年齢に関係なく、“実力”で働ける環境づくり――それは、企業にとっても、シニアにとっても、社会にとっても価値ある取り組みとなるでしょう。
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